【第17話】招かれた者たち
「その方、何か知っておるのか」
威圧感のある声とともに、町奉行がカイルたちに歩み寄る。リズとノーランが同時に一歩引いた。
「知りません」とレイが素っ気なく返すと、奉行はあごをしゃくって言葉を続けた。
「このおかたはな、大層お強い方だったのだ。部下の信頼も厚く……」
「……あの」
「なぜこのようなことになってしまったのか、その方らは知っておろう」
「知らぬ! 勝手なことを言うな!」
横から鋭く声を割って入ったのは、黒髪の少女──ミユキだった。奉行は片眉を上げ、薄く笑う。
「これはこれは、サクラ殿。丁度よい。お連れの皆様と共に、城までお越しいただこう」
「なっ……」
「ちなみに僕、一応魔王教の司祭でして……」
横からノーランが涼しい顔でとんでもない自己紹介をする。リズが鋭くノーランを睨んだ。
「怪しい者たちだな! 城へついてきてもらおう!」
「悪化させてどうすんのよ……」
城に到着し、カイルたちは一度控え室に通された。
やや緊張が和らいだ空気の中で、ユイがぽつりと声を上げる。
「ねえ、“サクラ”って……ミユキちゃんのことよね?」
ミユキは軽く頷いた。
「左様、私の家のことです」
「有名な方だったのですか?」
ユイが首をかしげると、ミユキはわずかに表情を引き締めた。
「ぼんずの十家のうちの一つといったところでしょうか。武には自信がありますが、それは他家も同じですので……」
そこまで言って、ミユキはふと視線を落とす。
「……名だけが先行する家でもあります。私のような未熟者では、いずれ家の名を汚すことになるやもしれません」
静かな言葉に、場が一瞬静まり返る。
だが、リズの鋭い声がその空気を断ち切った。
「ミユキちゃんのせいじゃないわ。そっちの怪しいやつのせいよ」
リズが白い目を向けた先、ノーランが肩をすくめる。
「いやぁ……魔王教の本拠地かと思ってさ。通じるかと思ったんだよね」
「一人で逃げようとしたんじゃないの?」
「ソンナコトナイヨ」
カタコトでごまかすノーランの様子を見て、ミユキもわずかに口元を緩めた。
「……変な人たちだ」
どこか呆れたようで、けれど少しだけ楽しげな声音だった。
その直後、控え室の扉が開き、兵士が姿を現す。
「王の間にご案内いたします。一同、こちらへ」
王の間。
障子越しに何やら言い争う声が聞こえる。
通されたカイルたちは静かに佇み、そのやり取りに耳を澄ませた。
「なぜ我々の許可もなく、独断でライゾウを処刑したのです!」
「だって弱いんだもーん。というか、わしに切りかかってきたんだぞ、あいつ」
「もうよろしい! この借りは必ず返させていただく!」
鋭い声が響き、障子が勢いよく開かれる。
怒りに満ちた顔で出てきたのは、銀髪の青年──ヒイラギだった。
彼とレイの視線が交差する。
「……あ」
「あなたは、確か……」
ノーランが目を細めてつぶやいた。
ヒイラギはその声に反応するように顔をわずかにしかめ、鼻を鳴らす。
「ふん!」
そのまま無言で一行を素通りし、足早に去っていった。