【第15話】もうひとつの決勝戦
「ぼんずに向かうぞ」
レイの短い言葉に、一同が振り返る。
「急ねえ……」
リズが肩をすくめる。
「あの子との試合はいいのか?」
カイルの問いにも、レイは振り返らずに答えた。
「知るか」
一行は足早に、街の出口へと向かう。
そして──その前に、待ち構えていた影があった。
「ようやく来たな。待っていたぞ、レイ殿」
姿を現したのは、黒髪の武人──ミユキだった。
「……リズ」
「何よ?」
「教えたのはお前だな?」
「知らないわよ」
ミユキはひとことだけ言い放つ。
「いざ尋常に、勝負!」
ミユキが構えると同時に、レイも剣を抜いた。
二人はにらみ合い、互いの間合いを見極める。
最初は様子を探るような軽い打ち合い。だが、ミユキの一撃一撃は重く、長物の利を活かした動きは鋭い。
対してレイは、自分からは攻撃を仕掛けず、相手の攻撃を薄ら笑いで避け続ける。
「おっ、何だ喧嘩か?」
「片方は武道会に出てた嬢ちゃんじゃねえか。昨日の優勝者だぞ」
街の入り口に近いこともあり、聴衆が集まる。
「始まったよ……早く決めちまえっての」
カイルが口を開く。
「悪い癖よね。最初に手を抜いて、調子に乗ってるうちにピンチになるの」
リズがため息をつく。
「そうなんです?」
ユイが首をかしげる。
「ああ、最初に手を抜く癖があるんだよな、あいつ。相手の力量を測るためでもあるけどさ。もし最初から全力出してりゃ、あのクソ魔王──魔王教もイチコロだったかもな!」
カイルが、まるで自分のことのように得意げに語る。
「へー……」
ユイが白い目になる。
レイが攻撃を始め、徐々に速度を上げていく。手加減の範囲を超えないまでも、その剣筋は鋭さを増していた。
そして、接近戦に持ち込んだ瞬間──
レイの手から、眩い光が放たれた。
「っ!」
目を閉じたミユキがわずかに動揺した隙に、レイの剣が彼女の首元へとぴたりと止まる。
「……卑怯な」
「実際の戦闘で、そんなこと言えるか。身体能力の高さは認めてやる」
レイは剣を引き、背を向ける。
「首を持っていけ」
「いらん。寝覚めが悪い」
「なら、勝つまでついていく」
「しつこい。俺たちはぼんずに行く。お前の知り合いとも戦うかもしれんぞ」
「構わん」
「勝手にしろ」
「モテる男はつらいねえ」
ノーランが口元を緩める。
「ほんとにね、うらやましいぜ」
カイルが笑って続けた。
「おい、兄ちゃんすげえな! 武道会優勝者を軽くのしちまうなんてよ!」
「いいもん見れたぜ!」
聴衆の歓声を耳にしながら、一行はキーリカを後にした。