【第13話】武道会の裏で
「タダシが失敗した」
その報せを聞いたとき、ライゾウはほくそ笑んだ。
自分の力を示し、邪魔者であるタダシを追い落とす。今こそ、その好機だ。
ターゲットは二人。
トトラド草の操作実験、それと合わせての実戦投入。殺せればなお良い。
殺さずとも、ボンズに誘導できればそれでいい。
頭首ヒイラギ・シュゼンからの命は、そういうものだった。
「簡単な仕事だ……」
ライゾウは、トトラド草で洗脳した村民と、数名の部下を引き連れ、裏道を進む二人を狙う。
まるで「狙ってください」と言わんばかりの道を選んで歩いているのは、レイとノーランだった。
「さっきからつけてきているのは、貴様の知り合いか?」
「知らないねえ……ねえ君たち、僕司祭なんだけど?」
「問答無用!」
「多少は目くらましになるんじゃなかったのか」
「おっかしいなあ」
刃を抜き、敵を斬り伏せるレイ。その動きに、ためらいはない。
「こいつら、妙な服を着ているが──中身は村人か?」
「なら……」
ノーランが鞭を一閃。音を立てて空を裂き、敵の手元を正確にはたく。
握っていた短剣が弾き飛び、村人はその場で膝をついた。
「グ……ギギ……ッ!」
突如、村人の口元から黒い液体が溢れる。
唇をかすかに震わせたまま、泡を吐き、喉を鳴らしながら崩れ落ちた。
「……毒か。最初から仕込まれてたな」
ノーランが顔をしかめる。
「無力化されたら始末するってか。随分と徹底してるじゃないか……」
そのとき、横手から苦無が一閃。
「僕も似たようなものを使えるよ」
ノーランが懐から小ぶりの投げナイフを取り出し、軽く放つ。
鋭い軌道で飛んだ刃は、ライゾウの部下と思しき男の手首をかすめて武器を落とさせた。
「……何故今まで使わなかった?」
「基本使い捨てだからね。お金の問題がね……」
「貴様、この前のやつとは別か?」
ノーランの問いかけに返答することもなく、ライゾウは目を血走らせて突進してくる。
レイが迎え撃ち、鋭く斬り込むも──ライゾウは止まらない。
「こいつ……何かおかしい……」
力任せに襲いかかる姿には、もはや理性すら感じられなかった。
「トトラド草を何とかしたければ、我が国へ来るがいい! 魔王教は、貴様らを狙い続ける!」
ライゾウは一方的に言い放ち、姿を消した。
「国ということは……」
「この大陸だと、おそらく“ぼんず”だね。あの妙な格好、前に見たことがある」
「罠だな」
「……分かっていても、行くしかないかもね」