秘密6 初任務
「お! まだ全員揃っていたか! よかったよかった!」
研究室に行ったはずの文治が大きな袋を下げて休息室に帰ってきた。
「ついに完成したから渡すぞ!」
そう言って文治が袋から取り出したのはブレザージャケットと腕章だった。腕章にはJACK
t.Sと書かれている。
(これって……まさか……)
「みんな待たせたな! これで正式に討伐隊として活動できるぞ! これから基地にいる時は隊服の上にこのジャケットを羽織ってくれ! これで一人前の隊員として認められる! 腕章はいつ悪物が現れても対応できるよう常に持ち歩いてくれ! ブレスレットと仮面、イヤホンマイクもだ!」
(わぁぁぁぁ! まじかよ?! ついに憧れの隊服完成だ! これで悪物出たら戦える! ……その前に俺の中にいる悪物なんとかしないと……まず制御できるようにならないといけないとかムズ過ぎでは?)
ジャケットを握ったまま難しい顔をして考え込んでいる恭也を文治が心配そうに見つめる。
「渥美くん? 大丈夫かい?」
「え? あっ?! ごめん! 考え事してた!」
「そうか! 大丈夫そうだな! ではこれよりチームS活動開始だ!」
「「「おー!」」」
花梨以外が元気に返事をする。花梨は気持ちよさそうに寝ていた。
(やっぱり休日しか勝たん)
基本討伐隊員は何時でも出動できるように用事のない休日は基地で隊服に着替え待機していることが多い。待機と言っても悪物が出てこないと暇なことが多いので体育館で訓練、休息室または大食堂で勉強などして時間を潰している。特に恭也たちJACKはまだ半人前なので余計に暇なのだ。現に恭也は休息室でスマホゲームをして時間を潰していた。
「あーー! 全然わかんない! テスト勉強したくなーい! まじ意味不! あつみん勉強しなくていいの?」
「テストは教科書読めばなんとかなりますから」
「は? 死んでほしい。たくあーん! 楓さんに数学教えてくれー!」
涙目になった楓が拓斗の腕に縋り付く。
「わかったから! くっつくな!」
仕方なく拓斗が数学を教えている横では花梨が勉強を投げ出し熟睡していた。また文治は何やら難しい顔をして本を読んでいた。どのような内容か気になり声をかける。
「何読んでんの?」
「これか?! これはルースの規則本だ! なかなか規則多くてな! 覚えるのに苦労しているところだ!」
(こんなぶ厚いの覚えんの?! やば……文治ルース好きすぎでは?)
「第一条! ルースに所属していることを隊員以外に話してはいけない! 第二条! 討伐隊は武器を人に向けてはいけない! こんな感じのがたくさん書いてあるぞ! 特に気になるのはこれだな! 第四十八条! 組織の秘密を漏らしたものはいかなる理由があろうと重大な処罰を受ける! これはなんだろうな!」
(こんな規則があるってことは誰か秘密漏らしたとか、持ち去ったのか? ……怖い怖い……考えないようにしよ……)
ルースに少し恐怖の感情を覚えスマホゲームに戻るとポケットに入っている組織専用のスマホが音を立てた。取り出すと緊急招集と書いてあり、下には悪物が出現した住所が書いてあった。
「まじ?! これ討伐しろってこと?! ちょー待ってた!」
「よし! チームS行くぞ!」
「「「おー!」」」
「…………お~……むにゃむにゃ……」
(おー! って行ったけどどうやって向かうの?)
4人の後ろを着いていくと休息室の奥にある扉に着いた。文治がスマホをかざすと扉が開き全員で乗り込む。広いエスカレーターのような場所だが1つ違うのは上下だけでなく左右にも動いているというところだ。
(これで目的地まで向かうのか……結構速い……ルースはこうやって移動していたのか……)
乗っていたエスカレーターのような物が止まり目的地に着いたらしい。恭也以外が持っていた仮面とイヤホンマイクを装着する。それを見て慌てて恭也も装着する。扉が開くと目的地まで全速力で向かう。振り返ると出てきた扉は自販機だった。恭也は4人の後ろを追いかける。
(……あれ? ……俺こんな早く走れたっけ? まぁいいっか……それにしてもルース自販機好きすぎでは? )
『こちら司令隊、現在新宿駅周辺にて10匹の悪物を観測。階級D。避難難航中。市民の安全を優先に討伐を依頼。初の討伐お気をつけください』
イヤホンマイクから司令隊の女性らしき声が聞こえる。どうやらこのイヤホンマイクはチーム同士の意思疎通だけでなく司令隊から悪物の細かい詳細や指示も聞ける優れ物らしい。広い道に出ると多くの市民が駅とは逆方向に走って逃げていた。
(……この人だかり……逃げ遅れた人絶対いるな……)
「駅構内に逃げ遅れた人がいるぞ! 多分!」
((((多分………なんだ………))))
「手分けしよう! 渥美くんと和谷くんは駅構内で逃げ遅れた人を探してくれ! 自分と羽山くんと林城寺くんは悪物の討伐だ!」
「「「了解!」」」
「りょ〜かいで~す」
駅に着くと別れ、恭也と花梨は駅構内で逃げ遅れた人を探す。
「いませんね~、もう皆さん逃げたのでは~?」
「いや……まだいる……」
(半悪物になったせいか嗅覚と聴覚が悪物並になってるんだよなー……言えないけど……)
泣く子供の声が聞こえ声のする方へと行くと瓦礫の近くでボロボロになっている少年がいた。
「ほんとにいた~、恭也さん動物みたいだね~」
(やべぇ…………気をつけよ……)
恭也と花梨が少年へと近づく。
「大丈夫? 立てる?」
「………うん……」
泣き止んだ少年が恭也の手を掴み立ち上がる。かすり傷が多いが大きな怪我はないようだ。恐怖のあまり恭也の袖を掴んで離さない。
「とりあえず、この子避難させましょうか~、ここ崩れそうですよ~」
(……匂いと音的に駅構内に人はいないし……この子を連れて外に出た方が安心だな)
「そうしよう」
少年を抱っこし出口へと向かう。ぐちゃぐちゃと音がしなんだろうと思っていると出口を塞ぐように人の死骸を食べている悪物がいた。見た目はライオンのようで恭也を襲ったドロドロとした悪物とはまったく違った。曲がり角で悪物の様子を伺う。
「お食事中ですね~、どうします~?」
「どうしますってこの子の安全第一優先だろ」
「そうですよね~、恭也さんはその子連れて別の出口探してくださ~い、こいつは……」
花梨がブレスレットの水晶に触れると刀と銃に変化する。悪物の前に立ち、銃を腰のホルダーに片付け刀を構える。
「花梨が倒しま~す」
悪物が花梨の存在に気づき突進してくる。花梨は軽々と避け刀で傷をつける。怒ったライオン悪物が爪を使い花梨を攻撃する。花梨は刀を使って全て避ける。
(すげぇ! 軽々と戦ってる! ……じゃなくて!この子を連れて逃げないと!)
少年を連れ急いで別の出口へと向かう。花梨が悪物と戦う影響で駅構内が揺れ瓦礫が落ちてくる。なんとか避け駅から出ると8匹のライオン悪物と文治、楓、拓斗、駆けつけた別の討伐隊が戦っていた。
(これって本当に階級Dなのか?! めっちゃ強そうだけど……ライオン悪物が1、2、3…………あれ花梨の戦ってたのも含めて9匹しかいない?!)
きょろきょろと周りを見渡すと自分が大きな影に入っていることに気づき上を見上げると翼の生えたライオン悪物が飛んでいた。恭也を目掛け降りてくるのに気づき慌てて逃げる。地面に着地した悪物は先程遭遇した悪物と違い2m越えの悪物だった。悪物が雄叫びをあげる。規制線の張られた後ろで一般人が珍しい悪物に動画を撮っている。
(一か八か!)
男の子を下ろしブレスレットを武器に変える。銃を悪物に向かって発砲する。しかしダメージはなく悪物を挑発しただけだった。悪物が恭也と少年を追いかけてくる。
(くそっ! こんな雑魚の攻撃じゃ効かないのかよ!)
『通達。再測定によりライオン悪物、階級Aと判定。JACK、QUEENは戦線を離脱しよ』
(A?! 確か3番目ぐらいに強くなかったっけ?!)
追いかけてくる悪物に銃で反撃するがまったく効果はない。少年を抱えており片手しか使用できない。
(このままだと死ぬ! この子だけでもなんとかしないと!)
「邪魔よ」
逃げている恭也の横を誰かが走って通りすがる。振り向くと緑の柄の入った狐仮面をした少女が大きなハンマーを振りかざし悪物の頭をぺちゃんこにしていた。
「見ろ! ハンマーだ!」
規制線の後ろで多くの人が騒いでいる。ハンマーと呼ばれる狐仮面の少女は次々とライオン悪物を倒していく。一切無駄のない動きに追い詰められていた討伐隊員たちも見惚れている。彼女はあっという間にすべて倒してしまった。
「恭也さ~ん、無事でしたか~」
花梨が恭也へと近寄る。どうやら花梨が戦っていた悪物も彼女が倒してしまったらしい。
「俺もこの子も無事だよ」
「直人!」
「ママ!」
母親が少年に駆け寄る。安心したのか少年は泣き出してしまった。
「ルース隊員さん、直人を護ってくださり本当にありがとうございました」
「……ありがとうお兄ちゃん! バイバイ!」
少年の母親は深々とお辞儀をして現場から去っていった。
(ありがとうか……俺の攻撃は全然通用しなかった……もっと強くなって人を助けたい! またありがとうって言ってもらいたい、そして蓮と肩を並べられるくらい強く……)
『整備隊が到着するまで現場の監視を続けてください。今日倒した悪物の詳細は後日お伝えします。観測が正しく行えず申し訳ありませでした』
(そういえば最初の観測はDだったのになんで急にAになったんだ?……また同じこと起こったら怖いな……)
倒した悪物を間近で見ていると悪物の上に乗っている少女が話しかけてきた。
「あんたたち最近結成したばっかりの新人チームよね?」
ハンマーを肩に担いだ少女が悪物から降り恭也と花梨に近寄る。
「……そうです……」
「災難だったわね、あたしが近くにいてよかったわね」
そう言うと彼女は現場から去ってしまった。
「………花梨……あの子誰?」
「恭也さんって憧れてるって言ってたのに討伐隊員について詳しくないんですよね~」
(うっ……その通りです……)
「彼女は若尾鈴蘭、東京部隊、討伐隊Aのハンマー使いです」
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
当初花梨は和谷璃音、楓は羽山郁にする予定でしたが色々あって変更しました。しかしこの6話を書いていた時2人は前の名前のままなので間違っていたら教えてください。改稿します。
豆知識
ルース隊員は首後ろに小さなチップが埋め込まれており運動神経が普段の数倍になる。しかし武器を持っている時のみ発動するので日常生活に支障はない。恭也は半悪物なので悪物の力で運動神経が数十倍になっている。




