秘密20 容受
「鈴ちゃん先輩!」
翔太が鈴蘭を引っ張ったことで2人は無傷だ。しかし鈴蘭たちの近くにいた討伐隊員は何名か負傷しているようだ。
「無事ですか?!」
「ええ……なんでここに……それに……どういうこと?」
「わかんないです……けど……とてつもなくやばい状況ってことは理解できます……」
コンクリートの欠片を持った恭也がこちらを向き、思いっきり欠片を投げる。それを鈴蘭がハンマーを野球バットのようにして飛ばす。
「おー! かっこいい!」
「どーも! くるわよ!」
次の攻撃に備えるも恭也はコンクリートの欠片を投げてくることはなく鈴蘭と翔太に飛びかかって来た。しかし、鈴蘭と翔太の上を飛び越え後ろの悪物を攻撃した。
「「………え?」」
「もしかしてさっきのコンクリートもこいつを倒そうと……」
「恭先輩、自我失ってないんですよ! やったー!」
手を挙げ喜ぶ翔太の後ろから恭也が襲いかかる。鈴蘭が翔太を抱えて避ける。
「……ありがとうこざいます………自我なかったですね……」
「……そうね……とりあえず目に見える生命体を殺そうしてくる感じね…………あたしたちで相手するわよ……」
「まじで言ってますか?!」
「まじよ! ここにこいつの相手できるのはあたしたちしかいないでしょ!」
「どうやって戻すんです?!」
「知らない! あいつが倒れるまで相手するしかわからない!」
「…………………本気ですか?!」
「本気よ! あたしは1人でもやるから!」
「……………………もう! わかりましたよ! オレも手伝いますから! 期待しないでくださいよ!」
襲いかかってくる恭也に翔太が先制攻撃をする。両手に持った斧で手を攻撃する。しかしドラゴンの鱗で覆われているのか傷ひとつつかない。
「かっった! 刃が通りません!」
「半悪物化してないとこに傷をつけなさい! あたしの武器じゃあいつ殺しちゃうから!」
恭也を翔太の方に誘導するようにハンマーで殴り掛かる。恭也は鈴蘭へと威嚇のような雄叫びをあげた。
「なんか拒否されてるみたいでムカつく……」
「こんなとこで撃ち合いしてていいんすかっ!
そろそろ弾切れっすよね! 街にいる悪物討伐手伝った方がよくないっすか!」
「……そーんなこと言われても逃げないから! アタシは尚人からあんたを連れてくるように頼まれてるの! 舐めないでよね!」
「俺が簡単に着いて行くと思ってるんすか!」
「思ってない……だから……殺す」
「国の英雄が人殺しに……これじゃルースも終わりっすね」
「終わりなのはあんただよ」
エスカレーターの陰に隠れた杏の口元がにやりと笑っていた。
「はぁ………はぁ…………全然倒れない……」
「むしろオレたちの方が倒れそうですね……」
あれから何分たったのだろう。暴れる恭也を相手していたが恭也に体力の限界が訪れる様子はなさそうだ。
「……鈴ちゃん先輩………ごめんなさい……」
泣きそうな顔でそう告げた翔太は恭也へと向かった。恭也の攻撃をひらひらと躱していく。
「翔太! 待って!」
(あぁ……あいつが殺される……まだ………まだ……伝えてないのに……)
「ダメ!」
翔太が斧を首目掛けて振りかざす。しかしギリギリのところで斧を止めてしまった。
「……たった数ヶ月一緒にいただけなのに……なんで………こんなにも……………」
言いかけた途中、翔太は半悪物化した恭也の手によって叩き飛ばされた。背中を強く打ち付けた翔太は動く気配がない。口からは血が垂れている。
「……しょう……た……? …………うそ……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ぺたりと座り込む鈴蘭など気にせず恭也は街を破壊していく。
(……どうしたらいいの……もう…………あたしだけじゃ………)
「……ううっ………鈴蘭……」
声と同時に足に誰かが触れた感触があった。声の主はボロボロになったタムだった。
「タム?! どうしたのよ!」
「……鈴蘭………ボク……恭也を止められなかった……お願い……恭也を止めて………お願い……」
「………………………わかった! だから死ぬんじゃないわよ!」
「……えへへ……ありがとう」
気絶したタムを抱え壁際へと移動させた。ハンマーを力強く握り恭也の前に立った。恭也の方へ走り出す。
(……もう……あたしにはこれぐらいしか! 杏や蓮介ならもっと何かあったかもしれない……けどあたしはあいつらみたいに天才で器用じゃない……)
恭也の近くまできた鈴蘭はハンマーをヘアゴムの飾りへともどした。
「……もう! どうにでもなれ!」
鈴蘭は後ろを向いていた恭也へと抱きついた。当然恭也が暴れ出すが、死にものぐるいでくらいつく。
「あんた! なにビビってんのよ! あんたの過去? そんなものあたしは知らないわよ! 他人が考えていることなんてわかんない! けど! あたしは! あんたが好き! 好きなの恭也! あの日! あんたに助けられて好きになっちゃったの! あたしは! あんたを知りたい! どんな過去でも未来でも! だから、戻って教えてよ………あんたの秘密………あたしを………あたしたちを信じて……」
(………聞こえる………鈴蘭先輩の声が………こんな俺が………あの人の手をとってもいいのだろうか………怖い…………また突き放されるのが怖い……このまま諦めて死んだ方が楽になれるかもしれない………それなら……………)
討伐作戦前、恭也は射撃室で杏から銃の指導を受けていた。
『……銃は刃物系武器に比べて瞬殺することは難しい、それに大型悪物には効きにくい。じゃあどうすればいいと思う?』
『……四肢を狙う?』
『うん、正解。あとは悪物の頭部。つまり脳みそを貫く』
『脳みそを……それ難しいですよ……』
『にゃはは! わかってるから。悪物は脳みそを潰す、貫く、切る。首を切断する。この方法しか倒すことはできない。銃はこの手段の中で貫くしかできない』
『……あの……なんでルースは銃型武器を造ったんでしょうか? 今の説明だとあまり役に立たないような……』
『そうだねー、でも悪物から距離をとれる銃は安全性に長けてる。銃を造ってから隊員の被害はかなり減ったんだよ』
『なるほど……』
『でも銃は命中率低いんだよねー、それでこの射撃室でみんな鍛えてるんだよ…………恭くん……アタシもこの射撃術も何回も訓練をしてここまで成長した………人との関わりも一緒……何度も話して、遊んで、そして信頼は生まれる……だから諦めちゃダメだよ……』
(…………俺がもし鈴蘭先輩の手をとったら……彼女は俺との関わりを後悔しないだろうか…………………)
『どんなこと言われても嫌いになったり離れたりしないから!』
(………………もう一度! 誰かを信じたい! 心から誰かを! 本当の親友になりたい!)
暗闇に沈む恭也が光へと手を伸ばした。
「……鈴蘭先輩……ありがとうこざいます……こんなにボロボロにさせてごめんなさい」
「………遅いのよ……ばか」
ボロボロになった鈴蘭を恭也が抱きしめる。
(……え……え、え、え、えーーー! ななななんで! あたし抱きしめられて! あ、いい匂いする……じゃなくて! ………待って……もももももしかして! 好きって言ったの覚えてるんじゃ! やばいやばい! どうしよう! バレちゃった!)
「……鈴蘭先輩…」
「……はひ?! な、なに?!」
真っ赤な顔の鈴蘭の肩を恭也がガシッと掴み、耳元でボソッと呟いた。
「……待っていてください……」
「………は………ひ……」
その後キャパオーバーし、気絶した鈴蘭をまたもやお姫様抱っこしたことを鈴蘭は知らない。
「弾切れっすか?」
エスカレーターの陰に隠れた杏が懐をぎゅっと握りしめた。
(……完全な球切れ……ここに応援は来ない………来ないってことは誰も人がいない………それなら……もう………)
「撃ってこないならこっちから行くっすよ!」
腰のナイフホルダーからナイフを取り出し、杏へと攻撃してくる。ナイフをアサルトライフルで受け止める。
「…………銃は接近戦に弱いっすね、それに弾切れじゃもう死ぬしかないっすね!」
ナイフを振りかざしアサルトライフルを真っ二つにする。
「これでお前は終わりっす!」
急所を目掛けてナイフで切りかかろうとする。しかし、いつの間にか杏は姿を消していた。そして気づけば地面に自分の右腕が落ちていた。
「………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
(痛い!痛い!痛い! 何が起こった! なんで俺の腕が!)
「その顔何が起こっているかわかってないみたいだね」
歩み寄ってきた杏はあるはずのない血の着いた小刀を持っていた。
「……なんで……お前……小刀を……」
「アタシね、アサルトライフルの他に小刀も武器セットされてるの。普段は懐に隠してあるから気づかなかったでしょ?」
「……………お前のその目……人殺しをなんとも思ってないやつの目………何度も見てきたその目っす………あんたいったい……」
「冥土の土産として教えてあげる…………………我が名は西一族現当主西宮三郎が娘、西宮杏。お前を殺す女の秘密の名だ」
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
東山杏は本名西宮杏です。東山は偽名です。杏の秘密は次の話で登場します。
恭也の待っていてくださいは何を待っていてくださいなのかは皆さんのお好きなように解釈してください。




