秘密16 仲間
「……兄ちゃん………帰ってきたの?」
今年中学2年生になった渥美青。彼は渥美恭也の実の弟であり、恭也を家から追い出してしまった理由を作った人物だ。恭也にとっては大嫌いで大好きな弟、しかし青にとっては大好きな兄。そんな兄が5年振りに目の前にいる。
「兄ちゃん! ずっと会いたかった! 帰ってくるのをずっと待ってたんだ! 早く帰ろ!」
楽しそうな青に比べ恭也は顔面蒼白だった。
(……なんで青がここに……最寄り駅じゃないはず………なんで………なんで……なんで!)
焦りからかそれともトラウマからなのか恭也は過呼吸になっていた。
「………兄ちゃん?」
(……なんか……目の前が白く……)
「あっ……ぶな! 恭也! 恭也!」
倒れかけた恭也を受け止めたのは蓮介だった。遅いのを心配して全員戻ってきていた。
「蓮介! 何があったのよ!」
「わからない……心配で見に来たらたらいきなり倒れた……」
気絶した恭也を抱きとめているのが目立っており周りからの目線が集まっている。
「杏先輩、このままだと目立つので周りの人の気を引いてください!」
「れぇくんからの頼みごと……任せなさい! アタシがサングラス外せばいいんでしょ! でもそれだけだとつまらないから……」
何やら悪巧みをしている杏を見守っていると、2人組の男子にわざとぶつかった。
「痛って! 何すんだよ!」
1人の男が大声を挙げたことで杏の方に注目が集まる。
「………ごめんなさい……大丈夫でしたか?」
声を可愛げに、わざとサングラスを取ったことで杏の綺麗な顔が目の前に現れた。目の前にいた男も周りも杏の綺麗な顔に視線を集めた。
「……いや……大丈夫です………お姉さん、めっちゃ美人ですね……」
「初めて言われました……優しいんですね……」
「翔太……杏、あの男の初恋泥棒になったんじゃ………」
「はい……杏ちゃん先輩、罪な女です……」
「翔太、鈴先輩、今のうちに人が少ない所に移動しよう。そこの君も」
「……はい」
恭也をおんぶした蓮介の後に続き、翔太と青の手を引っ張る鈴蘭が続く。離れられたのを確認した杏は男の子たちに急いでいると言ってその場を離れた。
人気のないベンチに恭也を横にさせた。鞄の隙間からタムが心配そうに恭也を見ている。隣のベンチに腰掛けた蓮介と青の前に立つ杏が青と目線を合わせる。
「初めまして、君、名前は?」
「………渥美……青……」
「「「「?!」」」」
「ありゃりゃ……思ったより早く出会っちゃったね」
「……どういうことですか?」
「まぁまぁ、れぇくんそんな怒らないで、3人は恭くんの家の事情知ってる?」
「祖父母と暮らしてることは知ってます……」
「あたしは何も知らないわ」
「オレも……」
「………アタシは恭くんが来るって聞いて調べたからなんとなーくは知ってるけど……詳しくは実の弟くんに聞こうか」
全員の視線が青に集まる。緊張する中、青が口を開いた。
「……あの………あなたたち誰……ですか?」
「アタシたちはお兄さんの友達で……仲間だよ」
「………仲間………兄ちゃんの味方ですか?」
「うん」
「…………兄ちゃんは家を出ていったんじゃなくて追い出されたんです……ボクのせいで……」
「どういうことよ……」
「……それは……」
「待て」
制止の声をかけたのは横になっていた恭也だった。
「あんた無事?!」
「大丈夫です……青、話すな…………これは俺の問題だ…………俺が話せると決断した時に話す……」
「何よそれ!」
「まぁまぁ、落ち着いてらんちゃん。恭くんは話すのが怖いんだよ……決断できるまで待ってあげよ」
「……わかった………ひとつだけ言っとくけど! どんなこと言われても嫌いになったり離れたりしないから……まぁ……安心しときなさい」
「先輩……」
「やだーー! らんちゃん優しいーー!」
「鈴ちゃん先輩かっこいい!」
「鈴先輩ツンデレーー!」
「ちょっと! 蓮介! あんた褒めてないでしょ!」
4人がぎゃあぎゃあと言い合っているうちに恭也が青に話しかける。
「青……俺が家を出ていったのはお前のせいじゃないよ……」
「でも!」
「きっかけを作ったのはお前だ……けど原因はあいつらだから………俺はお前のこと恨んでないよ」
「兄ちゃん……また………前みたいに一緒に暮らせる?」
「………………………それは……できない………俺にはもう新しい仲間がいるから」
「そっか……また……会ってもいい?」
「あぁ……会うのは秘密だぞ?」
「! うん!」
メッセージアプリを交換し、5年ぶりに渥美兄弟は繋がることができた。
「よかったね、恭くん」
名古屋部隊基地に帰る途中杏が話しかけてきた。前では蓮介、鈴蘭、翔太が楽しそうに話している。
「よかったけど……やっぱりまだ怖い?」
「まぁ……」
「わかるなー……アタシもいつか話さないといけないんだけど……拒絶されると思うと怖い……なんで人って些細なことで喧嘩したり、いじめたりするんだろうね……」
「それは……人間はそれぞれ価値観が違うからですよ。俺と杏先輩は仲間みたいなものですけど、価値観は違います。仲間内での喧嘩も有り得るんです。だから……価値観は互いに違うって認識を当たり前に持たないといけないと思います」
「………恭くんって頭いいんだね……」
「俺ですか?! 俺より蓮介の方が頭いいですよ!」
「ううん……そういうことじゃないよ……らんちゃんが好きになった理由わかったかも……」
(好き? なんの話しだ? 隙ってことか?)
「恭くんは無自覚フラグ野郎だ」
「なんですか……その変なあだ名……」
「にゃはは! もうすぐ着くよ! 早く行こ!」
恭也の手を引っ張り、走り出す。2人の横をうさ耳のフードを被った人物とすれ違う。
「……………あれが……渥美恭也…………あーっっ!………楽しみすぎてゾクゾクしてきたっす!」
うさ耳のフードの人物は駅内で有名なグミを配っていた。多くの人が寄ってたかって貰っていく。
「お父さんやお母さん、ご兄弟や友達の分も貰っていいっすよ! 新作食べてくださいっす!」
新作という言葉に疎い人間は気づかないだろう。このグミの開発会社がいつもとは違っていることに。
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。