秘密10 改心
(……………ここは…………)
目が覚めるとそこは基地の医療室だった。いつの間にか運ばれていたようだ。
「師匠! 鈴ちゃん先輩起きましたよ!」
「大丈夫ですか? 鈴先輩?」
「……蓮介………あたし………」
「覚えてません? びっくりしたんですよ、恭也が血だらけになった鈴先輩運んできたんです。しかも隣に変なミニドラゴン飛んでるし……まぁ1番驚いてたの笠原さんなんだけど………………鈴先輩?」
ベットに横になっていた鈴蘭は蓮介たちに背を向け手で顔を隠していた。ちらりと見える耳は真っ赤だった。
(あたしあいつに………おおおおおお姫様抱っこされたんだ! しかもあいつに助けられて!)
翔太は気づいてないが何かを察した蓮介が鈴蘭をいじり始める。
「なぁ翔太、恭也かっこよかったよなー、鈴先輩をお姫様抱っこで運んできて説明は後でするから先輩を助けてください! って医療室に入ってきたよな、あれは絶対惚れる。医療隊員数名惚れたと思う」
察した翔太が悪ノリする。
「恭先輩王子様みたいでしたね! ドラゴンを従えてオレ的には勇者に見えました!」
「「ねー!」」
2人がニヤニヤしながら鈴蘭を見つめる。
「うるさい! あたし気絶してたから覚えてないし!」
「嘘つかなくていいんですよー」
「嘘なんてついてないんだからね! ほんとにほんとよ! ところで渥美恭也はどこにいるのよ」
「恭也は外で笠原さんと話してるよ、あのミニドラゴンについて」
「初めまして、ボクはタムだよ」
「…………初めまして」
半悪物でも笠原を悩ませていたのに笠原を更に悩ますミニドラゴンが現れてしまった。外にあるソファに腰掛ける笠原は完全に考える像そのものだった。
「……タムくん……君が渥美くんに取り憑いてた悪物で当たっているかい?」
「うん! 当たってるよ! 恭也がボクを解き放ってくれたんだ!」
タムが恭也のまわりをすいすい飛ぶ。
「話の意味がさっぱりわからん……」
「あはは………」
(……正直俺もよくわかんないんだよな………解き放ったって何?)
「……タムくん………君はどこから来た……」
(来た?)
「ボクは暗いところから抜け出して来たんだ! いつもは誰かがボクを見張っているんだ、けどその日はいなかったんだ! だから檻を壊したんだ!」
「……やっぱりそうなのか……」
「笠原さんどういうことですか? 来たって……」
笠原が難しい顔をして話し出す。
「JACKである君に教える訳にはいかないが……特例だ、わかっているところまですべて話そう……一般では悪物は地中や海、山から現れると言われている……しかし中には突然現れ、人間を襲う……今日現れた悪物がひとつの例だ……恐らくそれらの悪物は誰が意図的に放っている……」
「そうなのか? ……タム……」
「そうだよ! ボクは創られたんだ! ボクにはもっとたくさんの兄弟がいるよ! でも恭也、今は君が兄弟兼相棒だよ!」
(なんだそれ……)
「とりあえず……この件は1度会長に報告する……タムくん……君は人がいるところでは人形のフリをするように……」
「うん! 恭也のためにそうするよ!」
人形のフリをするよう話していたところ、ドタドタと足音がしタムが星弥の腕の中に戻り人形のフリをする。
「渥美恭也! 見つけたわよ!」
扉を思いっきり開けた犯人は鈴蘭だった。何となく察したのか笠原は静かに退室していた。鈴蘭が恭也の向かいの席に座る。
「……あの……傷、大丈夫でしたか?」
「あんたが助けてくれたおかげで傷ひとつ残ってないわ…………その………ありがとう…………あたし……あんたに半悪物だからって酷いこと言ったのになんで助けてくれたの? Aだったあたしが敵わない相手だったのに……」
「特にこれと言った理由はありませんよ」
「そんな訳ないじゃない! 死ぬかもしれなかったのよ!」
「確かに死ぬ可能性もありました。けど特別な力を持つならその力を人助けのために使いたいんです。俺は自分が憧れるルースに……目標のためにそうしただけです。とにかく無事でよかったです」
恭也がにこっと微笑むと鈴蘭の顔は真っ赤になってしまった。そして慌てて出ていってしまった。
(……なんだったんだ…………)
「恭也やるな」
鈴蘭が開けっ放しにした戸から蓮介が入ってきた。
「翔太は?」
「鈴先輩を追いかけたよ、元気そうだけどまだ治療中だから戻ってもらわないといけないからな…………ところで目標ってなんだ?」
(こいつ! 話聞いてやがったな! 最悪だ……)
「俺に教えてよ」
蓮介がイタズラな笑みを浮かべ待ち続けている。蓮介の圧に折れた恭也が話始める。
「……蓮と………肩を並べて戦いたい……お互いに背中を預けて……信頼できる親友と戦いたい…………………お前みたいに強くなりたい!」
「………じゃあもっと強くなってよ、悪物の力に頼らず刀と銃だけで……………俺を護れるぐらい……強く」
一瞬、蓮介はどこか悲しそうだった。恭也はその理由がまだ分からなかった。
「……なってやるよ! お前がピンチになった時、ヒーローのように現れて颯爽と助けてやる!」
「……気長に待ってるな」
背を向け蓮介は去っていった。
(……絶対強くなってやる! もう誰からも否定されないぐらい)
恭也に抱き抱えられたタムが恭也の腕をつんつんと突く。
「恭也、休息室に戻らないの?」
「そっか……戻るか」
医療室の外にあるソファから腰を上げ、休息室へと向かった。
「タムいいか? これからはできるだけ人形のふりするんだぞ、タム専用鞄を見つけるまで耐えてくれ」
「うん! 恭也のためにそうするよ!」
人気のない通路でタムが空中をすいすいと飛ぶ。タムの大きさは約50cmぐらいなので上手く言えば人形にしか見えないだろう。大食堂の近くに差し掛かったのでタムはまた人形のふりをした。大食堂を通り過ぎチームSの休息室の戸を開けた。
「すみません……遅く……」
「渥美くん!」
「あつみん!」
「渥美!」
「恭也さ~ん」
「「「無事?!」」」
花梨以外の3人に一斉に詰め寄られタムのことがバレないか一瞬不安になる。しかし3人は恭也しか目に映っていないようだ。
「……うん…………無事だよ……」
3人が安堵のため息をした。
「A+の悪物出て、しかもあつみんが近くに残ってるって聞いたときまじビビったんだからね! まじ無事でよかった!」
「心配かけてすみません」
「本当だ! 次から単独行動はするな!」
(拓斗さん厳しい……)
「こんなこと言ってるけど1番心配してたのたくあんだから、警察呼ぼうとしてたから」
真実を言われ拓斗の顔が真っ赤になる。
「余計なことを言うな!」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃん!
たくあんはこう見えて仲間思いのお坊っちゃんだからねー」
楓が拓斗の頭を撫でる。拓斗は図星を突かれ大人しく頭を撫でられている。
「花梨は恭也さんなら大丈夫って信じてたよ~」
「自分も6割は信じていたぞ! でも! チームメイトとして、友として心配だから今度からは連絡の1つは欲しいな!」
「……了解……」
(6割は信用されてるんだ……)
謎の事件は終結しないまま俺たちは5月を迎えた。
「あのー……何か御用でしょうか?」
なぜ恭也が気まずそうに困っているのかと言うと………10分前、大食堂で休憩していた恭也の目の前に鈴蘭が腰掛けたのだ。沈黙のまま10分が過ぎている。
(……全然喋らないんですけど?! なんで相席したの?!)
気まずさのあまり離れようした瞬間、鈴蘭が口を開いた。
「……あ、あのさ! この前の御礼したいんだけど! 今週の土日空いてる? もちろん来週でもいつでもいいんだけど!」
(御礼?……………あっ! あの時の……)
「今週空いてますよ」
「ほんと?! じゃあ土曜の10時に新宿駅に来て! ぜっっったい忘れないでよ!」
用が済んだのか鈴蘭は駆け足で去ってしまった。
(なんだったんだろう……)
鈴蘭専用の休息室で、ソファに横になった鈴蘭は真っ赤な顔を手で覆っていた。
(さ、さ、さ………誘っちゃったー! 不自然じゃなかったかな? 一応御礼も兼ねてるし大丈夫よ、大丈夫……でも……こ、こ、こ、これって………実質デートなんじゃ………ど、ど、ど、ど、どうしよう?!)
鞄からスマホを取り出し慌てて電話を掛ける。
「もしもし杏! 今度出かけるんだけど服どうしようかなって…………別にデートじゃないわよ! 御礼を兼ねて食事に行くだけだから! …………好きじゃないわよ! …………違う! もういい! 自分で決める!」
電話を終わらせ溜息をつく。
(……服……どうしよう……)
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
次回の更新は8月を予定しています。
ルースの隊服は予備が10着以上あるため汚したり、破れたりしても大丈夫です。
タム
恭也に取り憑いた悪物が力を恭也の中に残し、分裂した姿。ミニドラゴンのような見た目をしている。力は恭也の中に置いてきたためない。謎の多い悪物。