秘密1 秘密
『悪物』
それは人間の恐怖の感情を好み、人間を食い、殺す化け物。数年前突如として現れ人類は悪物を恐れ、嫌い生きてきた。国が破滅へと向かう中、悪物に対抗する者たちが現れた。
国家秘密組織『ルース』
彼らは数ヶ月で悪物を研究し、弱点を見つけた。彼らの功績により国は回復の兆しを見せた。それ以降組織は拡大し、悪物から国を護る通称悪物殲滅組織となった。
2051年
『東京都世田谷区桜丘で悪物による襲撃がありました。警察によりますと被害者は会社員の伊藤健吾42歳、同じく原田心35歳。命に別状はないということです。現場付近では避難警報が発令されたとのことですが、悪物は現在姿を消しており警報は解除されたとのことです』
「ふーん……」
この世界は平和ではない。
数年前現れた悪物という化け物に町は一度壊された。しかし今はまるで壊されたのが嘘のように回復している。それは秘密組織『ルース』のおかげだ。今も尚湧き続ける悪物、こいつらを早急に撃破し、街は壊滅することがほとんどない。街が壊れたとしてもすぐ元通り。国民は安心し、平和ボケしている。
そう僕、渥美恭也もである。
(秘密組織『ルース』……かっこいいけど僕には一生関係ないことだ……国を救った英雄。誰でも憧れるパワーワードだ。でも、こんなちっぽけな高校生には関係のない、雲の上の話。銃とか刀を持って戦うとか……)
「ちょーかっけぇーー!」
いきなり大声を出したことで周りの視線が一斉に恭也に集まる。気まづくなり早歩きで学校へと向かう。
(入隊できないってわかってるけど……オタク心を擽ってるよな……銃とか刀とか、もうゲームじゃん! しかも! 戦闘服もあるし! ほんと最高!)
にやにやしながら歩いていると肩をトントンと叩かれる。
「よっす! 恭也! 今日もにやにやしてるな」
おにぎりを手に持った少年が恭也と肩を並べる。周りの目を気にすることもなくおにぎりを頬張っている。
「おはよう、蓮」
このおにぎりを頬張っている少年は日置蓮介、恭也と同じ高校に通う高校1年生だ。蓮介と恭也は中学からの親友である。
「またルースのこと考えてたのか?」
図星を突かれギクリと肩が揺れる。
「またってなんだよ……いいだろ! オタクはこういうの憧れるものなんだよ!」
「ふーん……なりたいの?」
先程とは変わり真剣な瞳で恭也を見つめる。
「…………は? …………………」
(え? え? え? 冗談だよな……え? 冗談だよね? うん! 蓮の冗談だ!)
「そんな冗談通じないぞ! 憧れてるけど入隊はしたくないからな! あ! 蓮! ヤバイヤバイ! 早く行かないとチャイム鳴るぞ!」
話を逸らし、逃げるかのように学校へと走る。
(今まで 「かっこいいよねー」 としか言わなかったのに急に 「なりたいの?」 とかマジレスされるとビビるじゃん! そんな簡単になれる訳ねぇのに……)
秘密組織『ルース』存在は知られているが入隊方法は誰もわかっていない。試験なのかスカウトなのかそれとも血筋なのか……名前の通り不明な点が多々ある。
「蓮! また昼、屋上集合な!」
「りょーかい」
クラスが違うので恭也の教室前で別れる。
(そろそろチャイム鳴るのに……まったく急いでない……ほんのマイペースだな)
教室の扉から半分顔を出し蓮介を盗み見る。
「渥美、盗み見ですか?」
「友として恥ずかしい……」
振り向くとにやにやと揶揄う口調ではなしてくる友人、海と琥太朗の姿があった。
「盗み見じゃないけど……相変わらずマイペースだなーって」
「蓮介のことか? あいついいよなー、入学してまだ3週間しか経ってないのにもう7人にも告白されたらしいぞ! 羨ましいー!! イケメンずるーーーい!」
(非モテが騒いでる……そんなんだからモテなんいんだよ……)
「おい! 恭也! 今、そんなんだからモテないとか考えてただろ!」
(やば)
恭也と琥太朗が口論になるのを見越して海が2人の間に立つ。
「2人共そろそろ先生が来るよ」
海の言葉に気づかされ3人とも席へと戻る。窓際1番先頭の席の恭也は座ったあと空をじーっと眺めていた。
(……平和だなー………あ、そうだ今日最新刊発売日だ。本屋寄ってくか……特典残ってるかな……)
「やば! 数学の教科書忘れた!」
「おドジ恭也」
「うっせぇ! 蓮から借りてくる!」
蓮介のいる1年F組の教室まで向かう。扉の前で話している女の子たちに声をかける。
「ねぇ、日置蓮介いない?」
「蓮介くんなら早退したよ」
「早退?」
「うん、2限終わったら走って帰っちゃったよ」
(あの蓮が早退?……蓮はマイペースだけど学校を休んだり、サボることはほとんどない……珍しい)
「そっか、蓮介の出席番号わかる?」
「19番だと思う」
「ありがと」
19番のロッカーを開け、数学の教科書を抜きとる。
(あとで借りたって連絡しとけばいいよな)
教科書を手に持ち教室へと戻ると、海と琥太朗が恭也の机の前で待っていた。
「借りれたんだね」
「借りたというか勝手に取ってきた、蓮早退してたからいなかった」
「勝手に取ってよかったのか?」
「あとで連絡するから大丈夫」
(蓮が早退……やっぱりサボりなのか! それなら金はあとから渡すから新刊買ってくれって連絡してぇーー! 僕の特典……)
―放課後―
新刊を買えた恭也が満面の笑みで本屋から出てくる。
(特典買えたー! でも特典のために本屋はしごし過ぎたな……こんな遠い本屋初めて来た……)
「さて、帰るか」
―10分後―
「ここ……どこ?」
先程までの明るかった街からだいぶ離れてしまったのか、今は街灯の明かりしかない暗くて不気味な場所に来てしまったようだ。
(ダメだ……100パーセント迷子だ、特典のために見知らぬ土地に来て迷子……行方不明で市内全員に知られる……公開処刑……)
「絶対やだーー!!」
(でも周りに誰もいないし……僕、方向音痴だからな……地図アプリ役に立たないし……完全に詰みだ)
落ち込んでいると近くから物音が聞こえてくる。人がいると思い走って物音のする方へと向かう。
「あのー! すみま………」
物音がするほうをよく見ると手足の生えた化け物、悪物が人間を食べていた。
(うわぉ………逃げるが……勝ち!)
一目散に大切な新刊が入ったリュックを抱えて走る。
(やばやばやばやば! あいつ今日ニュースでやってた悪物じゃん! とりあえず警察に電話しないと!)
ポケットからスマホを取り出し走りながら電話をかけようとするが手が震えており上手くタップできない。
(怖い怖い怖い怖い! 動け俺の指! 震えてんじゃねぇ!)
スマホに集中して前を見ていなく何かにぶつかる。
「すみませ……」
ぶつかったのは後ろから追いかけてきたはずの悪物だった。
(あれ? なんでこいつ俺の前にいる? 後ろに……)
後ろを向くと逃げた場所からの左側の空き家が全部ぺちゃんこになっていた。いつの間にか抜かされていた。
(スマホに気とられすぎて気づいてなかった……はず……気づけよ……自分)
疲れたのか怖いのかわからず尻もちを着く。
「…………に……ん…げん…………うま………そ…う」
「はっ?! 喋って?!」
(悪物って普通喋らないんじゃなかったっけ?! なんでこいつ喋ってんの?! てかなんで僕の前に特殊個体出てくんの?! 隊員の前に出てこいよ!)
「おれ……かし………こ…い…………しゃべ………れる」
(産まれたての赤子みたいな喋り方だけどね!)
「にん………げん……うまそう……………いた……だ……き………ます……」
悪物が恭也へと襲いかかってくる。すんでのところで躱すがブロック塀に背を向け追い詰められる。
「にげ………ないで……………だい……じょうぶ……だよ」
(逃げるわ! めっちゃ怖いし! 喋るし! まだ死にたくないし!)
悪物の手が恭也へと伸び、恭也を捕まえる。
「つ………かまえ…………た」
(ヤバイ! 死ぬ!)
悪物が大きく口を開き恭也を食べようとする。
「離せ! くそっ! くそっ!」
(こんなところで死ぬのか……まだ高校になったばっかりで……まだ15歳で……………………)
「まだ……………新刊読んでねぇんだよ!」
大声で叫び掴んでいた悪物の腕を思いっきり噛む。痛かったのか悪物は恭也を投げ、痛みに嘆いていた。噛んだ恭也の口周りには悪物の血が付着していた。
「い…………たい……いたい………よ……」
悪物はまるで人間が悲しみ泣いているかのような声を出した。
(痛っ! あいつ投げやがって……兎に角今のうちに逃げ………て……)
身体に力が入らず地面へと気絶するかのように倒れる。
(身体が熱い……なんだ……これ…………身体が言うことを聞かねぇ……意識が……落ち……る)
「よ……くも! ………ぼ……くを!」
悪物が倒れる恭也を掴もうと手を伸ばす。しかし手は届かなかった。片腕が吹き飛んでいた。
「………あ……れ?………ぼく…の……て」
悪物が腕を吹き飛ばした者を見ると。先程まで倒れていた恭也が立っていた。姿は先程とは打って代わりまるで悪物と人間を足して2で割ったかのような姿だった。
「……」
恭也が悪物を目掛けて人間離れした速さで走る。
「……くる…な!」
慌てて攻撃するが恭也の蹴りにより身体に穴が空き、息絶える。倒れると砂へと変わってしまった。
「……」
化け物に変わってしまった恭也は目の前の獲物がいなくなったことで周りの空き家を壊し始める。拳ひとつで一軒が崩壊する。
どこかの建物の屋上で蓮介がたこ焼きを食べている。電話の着信音がし、蓮介が電話に出る。
「はいはい、もしもし」
『もしもしじゃないわよ! あんた今どこよ!』
電話をかけてきたのは声からして女の子だ。その声は怒りを含んでいる。
「今? 渋谷で買ったたこ焼きを食べてるとこ」
『そんなのどうでもいいわよ! 場所を聞いてんの! 渋谷で買ったってことは近くにいるんでしょ?!』
「うん、いるよ」
『じゃあ今から送る指定された場所向かって』
「えーー、今から?! 俺、今日掃除したばっかなんだけど」
『上からの命令! 観測された悪物……階級A+よ』
「あらあら、それは俺が行かないといけないね」
『わかってんならさっさと行け!』
「りょーかい」
『あ! あんたか………』
途中で電話を切り指定された場所へと向かう。建物の上を通り最短の距離で行く。
(A+か……ちょー久しぶりだ、退屈しなさそうだ)
指定された場所の近くの建物の上から悪物を確認する。
(どれどれ……めっちゃ人じゃん、鈴先輩間違えてんじゃない? まぁいいや)
ネックレスに通してある指輪に触れると指輪が大鎌へと姿を変える。
「どんな姿でも悪物はお掃除しないと……ね?」
――――
人は生まれながらにして秘密を抱えている。恥ずかしい秘密、妬んだ秘密、そして嘘をついた秘密。今生きる君は一体誰に何を秘密にしている? その秘密は君を被害者にさせる、そして君を加害者にさせることもできる。秘密とは人類が存在する以上、人を永遠に不幸にさせる。幸せな嘘など存在するのだろうか。
初めましてレイたる日々と申します。読んでくださり本当にありがとうございます。現在小説2本連載中でこっちの連載は遅くなると思われます。楽しみに待っていてくださると嬉しいです。
豆知識
渥美恭也
中園北高校、1年A組に所属する少年。ゲーム、アニメが大好きで勉強はゲームとアニメのために頑張っている。
海、琥太朗
恭也と同じクラスで友達。海は大人しく、琥太朗は喧嘩早い。