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ヒロインの攻略対象のメイドに転生。ヒロインが私を攻略しようとしてくるんですけどどうしたら良いですか?

作者: ソラ・ルナ

 『恋に恋する宝石姫』という乙女ゲーム。

 大人気と呼ばれる程ではなかったけれど、グッズが出る程度の人気はあった、私が転生前にやり込んでいたゲーム内に私は転生した。

 原因は分からない。けれど、ベッドで目が覚めた時に、色々と思い出した。


 自分が王太子の専属メイドを務めるゲームではただのモブでグラフィックすら用意されていないようなキャラで。

 今から半年後には新しい専属メイドに入れ替わる脇役である事も。


『ど、どうしよう。私個人は、なんとでもなる。でも実家に仕送りできなくなったら弟達が……』


 私の実家は超ド貧乏の男爵家だ。私がメイドで出稼ぎして、なんとか保たせている。

 まだ幼い弟達を飢えさせない為にも、私が実家にお金を送らないと……。

 お父さんもお母さんも、超がつくくらいお人好しで、貴族らしからぬ貴族で。

 住民達もそんな両親を慕ってくれているけれど、私達の領地は土地が死んでいて農作物も育たない。

 儲け話を持ち掛けられ(それも私が居ない時を狙って話をし、すぐに契約を締結してしまっていた。両親には説教をして二度と私を通さない話は受けないようにさせた)その時の借金がかなりある。


 今私が仕事を失えば、我が男爵家は没落する。

 そうなれば、自領の人達はどうなる。

 なんの得もない我が領地など、平地にされてしまうかもしれない。

 大切な領民達が、住む家を失い、路頭に迷うかもしれない。

 そんな事、させるものですか……!


 その為には、私は半年後にメイドを辞めさせられる事を防がなければならない。

 王太子のメイドという超高給取りの仕事を、辞めるわけにはいかないのだ……!


 チリンチリン


『!!』


 これは王太子がメイドを呼ぶ時に鳴る音だ。

 私は猛ダッシュで王太子の部屋の前に辿り着く。

 そして息を整えて、扉をノックする。


 コンコン


「ルーカス様、アリアでございます」

「おう、入れ」

「失礼致します」


 しずしずと部屋の中へと入り、頭を下げる。

 この王太子は所謂(いわゆる)俺様系王子である。

 自分に絶対の自信を持っていて、権力もある為誰も逆らわない。

 そんな環境も合わさって、天狗になっているガキである。


「今から街へ遊びに行く。支度をしろ」

「畏まりました。どのようなスタイルが宜しいでしょうか?」

「そうだな、今の俺はさっぱりした気分だ。そんな感じでやれ」

「--畏まりました」


 どんな感じだよ。心には思うが、口には出さない。

 メイドには多くの種類がある。それは役割が異なるからである。

 レディースメイドはレディの一切の身の回りの世話をするし、チェインバーメイドは主に寝室や客室など、部屋の整備を担当する。

 他にもパーラーメイドは給仕と来客の取次ぎ接客をするし、ランドリーメイドは洗濯担当だ。


 そんな中で、多くの人が知っているのがハウスメイド。専門担当を持たず、文字通り、家中の仕事をひととおりこなす、最も一般的な種類のメイドだ。

 上級貴族でもなければ、大体がハウスメイドで済ませるのだが、王家ともなればそれぞれ担当専用のメイドを雇う。

 ただ、例外もある。


 メイド・オブ・オール・ワーク


 すべての役割を1人でこなすメイド。あまり裕福でない家では複数のメイドを雇うのは難しく、ゆえに1人で家中のすべての仕事をこなす必要があった。

 私はこれに該当する。

 貧乏男爵家にメイドを雇うお金など無い。だから私は、男爵家の令嬢でありながらメイドをしていたのだ。

 それはもう本気で頑張って、パーティに出席する時は他のメイドの手際をずっと観察し、良い所は取り入れ悪い所はやらないようにと自身を研鑽していった。

 そのお陰もあり、私は最初二つ上の階級である伯爵家のメイドとして働く事になった。

 そこでまた侯爵家の方の目に留まり、賃金が良かったのでそちらに移り(伯爵家の方にはかなり惜しまれたけど、お金優先だったので)、そこから公爵家のメイドと、あれよあれよと上に登れた。

 シンデレラストーリーじゃあるまいし……と思ったが、思えば男性に声を掛けられる事は不思議となかったので、そういう事なのだろう。

 私のメイドになってと言ってくれたのは、全員奥様だったからね。


 最初に私をメイドに指名してくれた伯爵家の奥様とは、今も懇意にさせて頂いている。

 いつでも戻ってきてねと言われているので、仮に王太子のメイドを解かれても私は生活に困らないが、給金は流石に減る。借金の返済がそれだけ遅れる事になってしまう。

 私は私の領地をなんとか復活させて、大きくしたい野望がある。

 その為にも、今は何が何でも稼がなければならない。

 まだ14歳の私では、他の仕事では対して稼げないのだから。


「終わりました」

「ああ、ご苦労。下がって良い」

「畏まりました。ご帰宅はどのくらいでしょうか?」

「俺が帰ろうと思った時間だ」

「--畏まりました。それでは、楽しんでらしてください」

「ああ。……お前はいちいち俺に小言を言わないし、俺の言葉を素直に受け入れる。良いメイドだ、これからも励めよ」

「--はい、ありがとうございますルーカス様」


 そうニカッと綺麗な歯茎を見せて笑う王太子に、内心ゲンナリしながらも、表には笑顔で対応する。

 攻略対象なだけあって、美しい金髪に長いまつげ、整った輪郭にもうイケメンって誰が見ても言う男だが、私は嫌いだ。

 俺様系男子って、苦手なんだよ。

 私は私の話を、ただうんうんと聞いてくれるような優しい男性が良い。

 それなら見た目が悪くたって構わない。

 っと、思考が脇道に逸れてしまった。


 私は王太子の専属メイドなので、基本的に王太子のやる事のサポート以外に日中のする事がない。

 今のように着替えを手伝ったり、王太子専用の食事を作ったりする事も私の仕事だ。

 上級使用人の一種で、厨房の責任者であるコックも城には当然居るのだが、王太子は私の食事以外食べないのだ。


 なんだか餌付けしているみたいだが、こればかりは仕方がない。


「あ! アリアさん! お疲れ様です!」

「あら、ミルさん。お疲れ様です。それ、洗濯物ですよね。半分持ちましょう」


 顔の高さまで積まれたシーツを、半分無理やり奪いとる。


「あ、ちょっ! もうアリアさん、いっつも私達を甘やかすんですから!」

「甘やかしてはいません。効率の問題です。さ、行きましょう」

「相変わらず早い!? ま、待ってくださいよー!」


 いつもの事。私は大体暇なので、見かけたメイド達の手伝いをする事にしてる。


「わ、アリアさんだ! 昨日はありがとうございました。お陰ですっごく早く終わって、メイド長に褒められました!」

「それは良かったです。でも、それはいつも丁寧な仕事をするマリアさんの普段があってこそですよ」

「うう、アリアさんが14歳とか嘘ですよね? 私17歳なのに、お姉ちゃんな気がするぅ」

「誰がお姉ちゃんですか。ぶんなぐりますよ」

「「「あはははっ」」」


 とまぁ、メイド達と和気あいあいと毎日を過ごしている。

 ってこのままじゃいつもと変わらないから!

 半年後にクビにならない為にも、行動しなければ!

 理由は分からないが、あの王太子の気に入らない事を私がしでかした可能性が高い。

 城のメイド達との仲は良好。

 メイド長もとても優しい方だ。

 いつも、親身になって接してくれる私の数少ない尊敬する方の一人。

 あの方に実は私の事が最初から目障りだったんだよー! とか言われる展開になったら、私はきっと立ち直れない。


 となれば、原因はきっと外。

 もしくは何かを私がやらかす。

 この乙女ゲームは何週もクリアしたが、流石にこんなモブのストーリーなど覚えているわけもない。

 大体、乙女ゲームはヒロイン視点なんだよ。

 攻略対象の事以外覚えてないわ。


 さらに言えば、嫌いな俺様系王子のルーカスなんて、好きなゲームを全部クリアしないなどありえないという意志に従って嫌々ながら一周クリアしただけだ。

 しかも攻略サイトで最適な選択肢を見ながら。

 どの選択肢を選べば好感度が上がるかを見ながらプレイしたので、ほとんど中身を覚えていない。


 それくらいどうでも良いキャラのメイドになっていた事実に眩暈を覚えるが、なってたものは仕方ない。

 それよりも、これからどうするか。

 期間はおよそ半年。

 クビになる前に、なんとか原因を突き止めて、クビにさせないようにしなければ。私と、家族と、領民達の為に。


 幸いにも今は私の事は嫌っていない、と思う。

 今日も良いメイドだって言ってくれたし。

 

 王太子のルートは一度しかクリアしていないから、あんまり覚えていないけれど……確か、ヒロインであるオーロラとは街で出会ったのがきっかけだったはず。

 その時に少しだけ出てきた専属メイドアリアの言葉。

 一言だけだった気がするけど、そこで名前が出たから、次の展開で専属メイドが変わった事が発覚したはずだ。

 ……あれ。それって、今日だったりするのかな?

 いやいや、そんな事あるわけ……ないとも言いきれない。

 王太子とオーロラが出会うのは、街の寂れた一角。

 オーロラが男達に言い寄られていた所を、王太子が助けるのだ。


 王太子的にはきまぐれの行動。

 だけど、オーロラ的には自分を救ってくれた王子様。

 そこで恋心が芽生える。それはまだ種の状態なんだけど、それから学園へ行く事で芽が出て、育つかは選択肢次第って所なんだけれど。


 とにかく、オーロラが王太子と出会うなら、その場に私が居なければ本編とつじつまが合わなくなる。

 まぁぶっちゃけ本編がどうなろうがどうでも……良くないんだよねぇ!

 王太子はヒロインを通じてまともな感性を身につけていく為、このまま育てば隣国と戦争になってしまうのだ。


 王太子ルートであれば良い国王になるのだけど、その他のルートに行く場合、この国は隣国と戦争状態になり、その境にある我が領は真っ先に滅ぶ。

 そんな事許されていいのか!?

 なので、是非ともオーロラには王太子と結ばれてほしい。

 むしろそれ以外のルートに行くと私の家族が、領民達が死んでしまう。


 なので、私は全力で! 王太子とオーロラの仲を取り持つキューピッドになりつつ、王太子のメイドを続けなければならないのだ!

 その為にも、本編で出会った私が何かを言うたった一言を伝える為にも、その場に居なければならない。


『ふぅ、覚悟をして行きますか』


 今日じゃないかもしれないけれど、今日かもしれない可能性を潰すわけにはいかない。

 メイド長に連絡し、街へと出る許可を貰った。


「分かりました。アリアなら大丈夫だと思うけれど、人の少ない所には行かないようにね。貴女はとても奇麗で可愛いのだから」

「は、はい。メイド長程じゃないと思いますけどね」

「あらあら、この子はおべっかまで上手なんだから」


 そう言って頭を撫でてくるメイド長は、お母さんみたいだなってちょっと思った。

 以前ポロっと言っちゃって、背筋が凍るような凄まじい目で見られたので、禁句に指定してからは一度も言っていないけれど。


 それから街を見回る。

 メイド服である私は、とても目立つ。

 歩けばチラチラと私を見てくるが、慣れた物だ。

 メイド服はとても可愛いから仕方ないと思っている。


 町娘がこの恰好をして歩いているだけだと、すぐに声が掛かる事だろう。

 ところがどっこい、私は右肩に王室ご用達メイドのマークが刺繍されている。


 このマークが入ったメイドは王家に守られており、手出しをすれば王家に歯向かった事となり処罰の対象となるのだ。

 なので、余程の事がなければ他の人に絡まれる事は無い。

 まぁ何事にも例外はあるので、メイド長は気を付けるように言ってくれたのだけど。


「なぁ綺麗な嬢ちゃん、そう言わずに付き合ってくれよ。ちょっとで良いからさぁ」

「い、嫌だって言ってるじゃないですか……!」


 声を聞いて物陰に咄嗟に隠れながら覗き見る。

 いつのまにか人通りの少ない通りまで歩いていたようで、事件に合ったかと思ったんだが……あの風貌、何度も見た。

 攻略対象達と一緒に映る美しいスチルで、夢中になって集めたから。


 ヒロイン、オーロラだ。

 オーロラが、ガラの悪い男達四人に囲まれている。

 確かこの場面は、オーロラが母に頼まれた物を買い物に行き、その中身を運悪く猫に奪われて追いかけた先の出来事だったはず。

 ここにルーカスが居合わせて助けるはずなのだが……見ていても一向に助けに行く気配が無い。

 ゲームならすぐに出てきたじゃないか!


「さぁ、俺達と一緒に行こうぜぇ! 大丈夫、お嬢ちゃんも気持ちよくなれるからさぁ!」

「い、いやぁっ!」


 手首を掴まれ、連れて行かれそうになるオーロラ。

 もう我慢できるかっ!


「その手を放せオッサンッ!」

「なんがふぅっ!?」

「「「「!?」」」」


 オーロラを連れて行こうとしたオッサンの頭を蹴り飛ばす。

 考えなしだったので、オーロラも一緒に飛ばされたら危なかったけれど、ちゃんと手を放していた偉い偉い。


「あ、あの……」

「話は後で」

「て、テメェ! ゴハッ!?」


 手にナイフを持った男の手を右足で蹴り飛ばし、返す足で顔を蹴った。

 私の靴はブーツなので、とても痛い事だろう。

 更に表には鉄板入ってますので。はい、トレーニング用の重りです。


「な、なんなんだテメェは……!?」


 残った二人が私を見てブルブルと震えている。


「私ですか? 王室ご用達メイドの一人、アリアと申します。貴方達には子女誘拐の現行犯として事情聴取にご協力頂きたいのですが?」

「「王室ご用達っ……!?」」


 そう叫んだ二人は、一目散に逃げようとして……


「逃がすかよ」

「「ガハッ!?」」


 建物の上からジャンプしてきた王太子に、踏まれた。

 成程、そんな所から見ていたのか。

 それなら早く助けにいけよ俺様王子め。


「ククッ……お前は本当に優秀だなアリア」

「お褒めに預かりまして。では、私はこれで失礼致します。この者達の処遇は警備に連絡しておきますので。城下町の散策、引き続きお楽しみいただきますよう」


 三十六計逃げるに如かず。王太子とオーロラの出会いを邪魔するわけにはいかない。

 そう思って退散しようとしたら、裾を引っ張られたのでそちらを向く。


「あ、あの。私、オーロラと申します。良ければお名前を、貴女の口からお聞きしたいです……」


 その顔は、よく見た顔で。

 いつもスチルに映っていた、攻略対象を見ていた顔で。


「……ルーカス様に仕える専属メイド、アリアと申します。ご無事で良かったです。それでは……」


 そう言ってそそくさとその場を離れた。とても、嫌な予感がしたので。


「アリア、様……」

「ククッ……面白いメイドだろう?」

「はい……とても、カッコイイです……」


 そんな会話があったなどつゆしらず。

 私はその日もつつがなく終えた。イベントはなんとか達成しただろう。内容はちょっと変わったけど、王太子とオーロラは出会えたんだし。

 明日からまた、普通の日常が訪れるだろうと安心していたのに。


 翌日、メイド長にオーロラがメイドとして紹介された。


「ルーカス様の推薦があり、特例で一人メイドを追加する事となりました。皆、仲良くしてあげてくださいね」

「ご紹介に預かりました、オーロラと申します。実は先日、アリア様に暴漢から救って頂けて……アリア様に惚れましたっ! 私、アリア様を目指して頑張りますねっ!」

「「「「「キャーーー!!」」」」」


 メイド達の黄色い声が飛ぶ。

 どうしてこうなった。


「アリア様、お慕いしておりますっ!」


 ヒロインが私を攻略しようとしてくるんですけどどうしたら良いですか?


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[一言] 続き!不定期で構いませんので続編に期待したい。短編で終わらせるのは勿体無い
[一言] 今後! 今後に期待ですっ!(なお短編
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