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マッドセガール工業幼稚園  作者: ポテろんぐ
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渡辺と中古車ディーラー

「第四問!」


 司会ぶりも板に着き、あの着こなしの難しい星条旗柄のスーツを、ギャラリーが違和感を感じない程に着こなし、胡散臭いオーラを身に纏いつつある竜二であった。並みの胡散臭さでは着こなせない為、数分で中古車ディーラーのレベルにまで上り詰めた竜二の短期間でのこの進歩は脅威である。


だが、そんなの勝負とは何にも関係ないのだ。クイズとクイズ、誰も中古車ディーラーっぽさなど求めていないのである。


 ここまで全問、川島にとられている渡辺率いる味噌色チーム。答えを字にすればいいのだが、肝心の漢字が書けない感じな為、答えが読めない竜二に想いを伝えられない八方ふさがりであった。


 味方のはずなのに。


 恋という名のテキサスがある。


 恋は言葉にしないと伝わらないと言われているが、この竜二くんには言葉にしては伝わらないのだ。


 恋の真逆を行く戦い。それがウンコクイズ対決なのである。言いたい事があるなら黙って字に書け!


「問題! えーっと……パスタで、なんとかんなかに なんとかしなんとかをなんとかす なんとかでなんとかをなんというでしょうか?(パスタで、真ん中に少し芯を残す茹で方をなんというでしょうか?)」


 ぴんぽん!


「はい蓬田さん!」

「アルデンテ!」

「正解!」

「よっしゃ!」


蓬田、初正解でガッツポーズ! 十問目にして初めての正解だ。



「ちょっと、何とかしか言ってないじゃない! 何で解るのよ!」

「うるせぇ、正解は正解だろ!」


ガタガタ抜かすな!

 答えがカタカナで竜二が解答を読めるという奇跡が起きた。


「では、蓬田さん、何番!」

「右下隅の三六番を!」


 最後の最後で渡辺・蓬田チームは、川島が既に三つ押さえていた四隅の一つを獲得する事に成功した。


 希望を残し、渡辺に繋いだ蓬田。



 その頃、渡辺もテントでその報告を聞いた。ここまで九問全部をエリザベスちゃんに取られ、エリザベスちゃんのリードを持ってあげる優しさを見せた渡辺。

 ただの散歩してる全裸の男であった。しかもウンコを片付けないマナーの悪い。

 しかし、十問目にしてやっと自分がウンコをする番になったのだ。



「渡辺さん、蓬田さんが正解しました!」

 斎藤の連絡に渡辺は「うむ」と頷いて、立ち上がり、そして、壺を片手に電柱に味噌を塗りに向かうため、四つんばの体勢になった。



 一方、公園では。

 蓬田は十問目でなんとか一問正解できて、一息ついた。まだまだルールはアタック25と同じだから逆転の余地はある。


「蓬田さん」


 と、そこに園児の一人が深刻な顔でやって来た。


「なんだ、どうしたその顔?」

「……なんか、渡辺さんの方が揉めてるらしいです」


 あん?


 竜二と顔を見合わせる。


「なんか、渡辺さん、泣いて怒ってるらしいです」


 泣いて怒ってる? 

 渡辺に何があった!


 渡辺が泣いて怒っていると言う事でクイズは一旦中断し、蓬田と竜二は渡辺とエリザベスちゃんが待機しているテントに向かった。

 そこには泣きながら地面に寝転んで駄々をこねている、全裸の幼稚園の先生の姿。その幼稚園の先生に顔面を殴られて失神したらしい園児数名が大の字になっている姿。

 テントの隅で体育座りで泣いている手下の齋藤。

 ボールと戯れている姿が可愛い、エリザベスちゃん。


 たった十畳程度のテントの下は、あらゆる情報で溢れて収集がつかない状況であった。


「何があったんだよ!」

「蓬田さぁぁぁん!」


 隅で泣いていた斎藤が蓬田を発見するや、走って泣きついて来た。が、斎藤は寝転んでいた、諸悪の根元に足を掴まれ、そのまま地獄へと引き摺り込まれた。


「蓬田は俺が抱きつくんだ!」


 そう言った渡辺は、泣きながら蓬田に抱きついた。それを見て斎藤がまた「わああああん!」と泣き出した。


 マジで何があった。


「だってだって」


 蓬田と竜二は泣いている渡辺から事情を聞こうとした。「じゃあ、背中をさすれ」と泣いてるくせに偉そうな男は、蓬田を脅迫し背中を摩らせた。さすらないと言わないぞ。


 背中をさすられて渡辺は落ち着いた。


「だって、俺が味噌を塗ろうとしても、誰もリードを持ってくれないんだもん」


 渡辺はエリザベスちゃんがウンコをするとき、ちゃんとリードを持ってあげて電柱までついて行ってあげた。敵なのに律儀な奴だ。

 

が、十問目、渡辺が答えたらどうだろう?


 エリザベスちゃんはボールで遊んでるし、渡辺の手下は誰もリードを持とうとしない。渡辺は4つん場で誰からも相手にされず、一人で犬のフリをして電柱まで犬の姿で向かったなのだ。


 まるで、渡辺が頭がおかしいピエロみたいではないか。


 電柱までの道中で渡辺は「俺は一人で何をやってるんだ」という惨めさに涙を流し、壺を地面に投げつけ「うわあああああ!」とテントにUターンし、そこにいた渡辺に辱めを味合わせた手下たちを殴ってしまったのだ。

 そして、地面で暴れて駄々をこね、斎藤は何が起きたのか分からず、ショックで泣いてしまった。


「悪かった、渡辺」


 蓬田は謝った。なんか知らんけど謝った。


「ツボを割ってしまった」

「なら、予備があるぜ」


 と、竜二が渡辺の予備の味噌が入ったツボを渡した。


「おお! 弟がいたのか!」


 渡辺は竜二が用意したスペアのツボに頬擦りをした。新しい壺とも、すっかり仲良しである。

 結局、斎藤が渡辺のリードを持ってやると言う事で話はついて、蓬田と竜二はクイズの方に戻ることにした。


「もうちょっと答えてくれると嬉しいかな」


 渡辺にそう言われた蓬田。


「蓬田、もっと頑張るぜ!」


 と、竜二に背中を叩かれた。誰のせいで苦労してると思っているのか。


 二人が帰った後。

 斎藤にリードを持ってもらい。犬になりきった渡辺。素っ裸の男が、真剣な表情で電柱に味噌を塗っている。

それを離れて見ていた園児達は「この人は大真面目に何をしているのだろう?」と味噌を塗る男を軽く軽蔑した。

 渡辺は「よぉぉし!」と味噌を塗った電柱に指を刺し、満足してテントに戻って来た。「何が『よし!』なんだ?」と斉藤は思った。ボロ負けしてるくせに。

 エリザベスちゃんは、地面でボールとじゃれて遊んでいる。ストーブの音だけがする、基本的に会話が無く居心地の悪い現場であった。


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