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マッドセガール工業幼稚園  作者: ポテろんぐ
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渡辺と優しい尻

「こうなれば、仕方がない」


 覚悟を決めた渡辺は全神経を尻に集中させた。


「必殺! 優しい尻!」


 そう言い、尻に込めていた力を全て抜き、渡辺はプルンプルンのおヒップへと変化させた。


 ぱにゅにゅにゅにゅ〜


「ワンワンワン!」


 渡辺の尻を噛んでいた犬の歯は、その渡辺のプルンプルンの弾力に弾き返された。


 渡辺の必殺『優しい尻』

 昔、渡辺がオランダ大使館の庭で昼寝していた時のことだった。花の匂いに誘われて中庭に迷い込んだ一羽のモンシロチョウがいた。その蝶は羽を休めようと花壇のチューリップでは無く、その隣で日焼けをしていた渡辺の優しい尻に止まったという。

そんなデマが幼稚園にはある。それぐらいに渡辺はお尻を優しく柔らかくできるのだ。


(例文)ぷにゃフニャッギュブイフォロおポポポッべもぉ


「お先!」


 渡辺は優しい尻によって犬の牙を掻い潜り、他の二人を押しのけ、電柱を登って行った。そして、一足先に電線を掴み、雲梯の様にテリトリーから脱出しようと進み始めた。が、


「くんじゃねぇよ! 糞犬がよ!」


 その時、気が動転した蓬田は右手に渡辺の首輪に繋がったリードを持っている事を忘れ、グイッとそっちの手で犬達を払いのけようとしてしまったのだ。その瞬間、上の方の何かを「ぐいっ」と引っ張る手応えが手に伝わった。


 それは、甘鯛を釣り上げた時の感触に似ていた。


「しまった!」


思った時すでに遅し。

上から「ぐぼぉぉぉぉ!」と餌付いた声を出した裸の人間が真っ逆さまに犬の沼へと落下して行ったのだ。


やべぇ……


血の気が引いた蓬田は「ドシーン!」と道路に頭から落下した渡辺を見る事が出来なかった。


「うわああああ、渡辺ええええええ」


ちょっと上に行っていた竜二が下を見降ろしながら、青い顔で悲鳴をあげた。

 蓬田の背中に冷や汗が流れた。


「きゃいん! きゃいん!」と犬達も「おい! 洒落になんねぇぞ!」という感じに吠えている。犬の言葉が解らない蓬田にも、その鳴き声のニュアンスは理解できた。


「蓬田! やばいぜ!」

「な、何が……?」

「何がじゃねぇぜ! 渡辺が地面に頭から落下して……おい! 犬がドン引きだぜ!」

「竜二。電線を移動しようぜ、な。俺達だけでも生き残らないとよ」

「それどころじゃねぇぜ、渡辺でも、今のはヤベェぜ!」


 埒があかねぇ、クソやろう!


「渡辺がヤベェのは今に始まった事じゃねぇだろ!」


 蓬田はヤケクソで逆ギレした。

竜二は突然怒られて、ビクッとして怯えてしまった。


「だから、お前は馬鹿なんだよ! 渡辺がヤベェのは常識だろがよ! とっとと登れよ!」


 蓬田が怒鳴ると、下の渡辺は本当にヤバいのに、なぜか竜二は「ゴメンだぜ」と謝ってしまった。

「竜二が馬鹿で助かった」と心でホッとする蓬田であった。


「ほら! 竜二、登れよ! ここから逃げるぞ!」

「よ、蓬田、大変だぜ!」


 まだ言ってやがる。クソ野郎。


「だから、渡辺は……」

「渡辺が、お空にいるぜ!」

「はぁ、何言って……」


 と、蓬田が空を見上げると、透き通るような青空に見覚えのある男の姿が浮かんでいた。


渡辺だ!


 渡辺が満面の笑みで蓬田と竜二を見下ろしている。そして、何かのお線香のC Mみたいに笑顔で蓬田たちをみて「心配いらない」と言いたげに頷いているのだ! なんか、お墓参りにきてありがとうって感じの渡辺だ。


「蓬田……助けて」


 と、空に浮かんだ薄い渡辺は顔こそ笑顔だが、今にも死にそうな口調であった。

 蓬田は恐る恐る下を見た。

下は、蓬田の考えていた25倍の悪夢。

首がちょっと変な角度に曲がって顔と同じぐらいデカいタンコブができた紫色の顔をした渡辺が薄い目で、そしてお馴染みの半笑いでこっちを見ていた。


「ひぃぃぃぃ!」


 ホラーの様な渡辺を見て、蓬田は柄にもない悲鳴を上げた。電柱の周りにあれだけいた犬達が渡辺のおぞましい姿に、全員、二足歩行へと進化を遂げて、さっと後ろに引いて怯えている。


そして、この五十年後にこの犬らの脳は二足歩行によって進化を遂げて、産業革命を起こすこととなるのだ。


「竜二、降りるぞ! 今なら、犬をよけて逃げれる」

「え……よっしゃ! その言葉を待ってたぜ、蓬田!」


 二人は地面に飛び降り、死にそうな渡辺を起き上がらせた。首の曲がっている方向が気持ち悪くて、言葉にできない。


「蓬田、渡辺を早く蘇生させるぜ!」


 竜二は空を見上げた、最初は薄かった渡辺の姿が、見る見るとハッキリ浮かび上がって来ている。そしてお線香のC Mらしく、なんか地味目の色のセーターを着こなし始めていた。


しかも、さっき靴下を食べた犬が、どんどん渡辺の幻影に近寄っている。


「蓬田……早く助けて」


 お線香、笑顔、犬、セーター、幸せに必要なすべてのパーツを手に入れたのに、渡辺の声は今にも消えそうな程に弱っている。


 空の渡辺は笑顔なのに、泣きそうな声で下の二人を見降ろしている。


「蓬田、急ごうぜ!」

「まぁ、待て、竜二。その前に渡辺の足を持て」

「え! 蘇生は?」

「それより、この犬達が怯えている間に脱出するぞ」


 蓬田はそう言い、空の渡辺に「それで良いよな!」と許可をとった。空の渡辺は、満面の笑みで「鬼!」と許可を出した。ペロペロとなめられている渡辺。


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