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マッドセガール工業幼稚園  作者: ポテろんぐ
39/82

渡辺とすれ違う愛

 小林は謝りながら竜二の猿ぐつわと手を縛っていた紐をほどいた。


「何してるぜ! 俺が寝てる間に!」

「すいません、襲われるのが恐くて」

「お前が帰らせなかったんだぜ!」

「お前ら昨日は、何にも無かったのか?」


 蓬田がいやらしい質問をするもんだから。


「この野郎ぉ」


 渡辺と家長が、まんざらじゃない蓬田の腰あたりを小突くが、蓬田は無視を決めた。


「はい……竜二さんの、渡辺さんへの愛は本物だと思いました」

「で? それが何で、こんな事に」

「あの後、僕と竜二さんは、熱い愛談義に花を咲かせたんです」

「本当だぜ、結構、盛り上がったんだぜ!」


 竜二も満足げに言った。


「でも、途中から、どうも竜二さんの愛と僕の愛は微妙に違うのだと分かりました」

「……どう違ったんだ?」


 蓬田は首をかしげた。またややこしくなりそうだ。


「要するに、一方通行の道と二車線の道とでは、用途が違ったと言うわけです。竜二さんの愛はただの片思いです」

「それはそうだぜ。でもだぜ、小林よ。俺は昨日も言ったぜ、愛と言うのはお互いなんかいらねぇんだぜ! 俺が愛している事が大事なんだぜ」

「だから、それは違いますよ。愛は報われてこその愛ですよ」

「ちげぇぜ。俺なんか朝起きて『あれ? 俺、渡辺の事、思い出しても、うおぉぉ! ってならねぇぞ』って不安になるときがあるぜ。で、ちょっとしたら、『うおぉぉ!』ってなって安心するんだぜ。別に渡辺なんかどうでも良いんだぜ」

「お前。どうでも、良いのかよ」


蓬田はその言葉は腑に落ちなかった。渡辺も少しシュンとした。


「要するに、竜二さんの渡辺さんへの愛はノルマなんですよね」

「ノルマじゃねぇぜ! 昨日も言ったぜ! 慎重なんだぜ!」


 二人の愛の哲学は、割と深くて、他の三人は入り込めなかった。

 で、その後。

愛論の違う小林と竜二の二人はよなか口論になった。すると、大家さんがやって来て「愛の形は人それぞれよ!」と言って去って行ったのだという。


「あれは貫録ある言葉だったぜ!」


竜二と小林は「ねぇー」と顔を見合った。何かムカつく渡辺だった。


「小林は竜二の事をどう思ってるんだ、結局?」

「渡辺さんへの愛は尊敬しています」


 蓬田は「おっ!」と思った。これで竜二という男に興味を持ち、友人にでもなれれば、少しは前進するのでは?


「でも、それ以外は全部嫌いです」

「全否定かよ」


蓬田は、ため息が出た。


「竜二は?」

「ふつう」

「友人としてとか。愛を語った仲だろ」

「別に。何もかもが普通だぜ」


 駄目だこりゃ。


「俺は渡辺という男に惚れてるぜ。これは男として惚れてんだぜ。俺はいつか渡辺を越える男になるって決めて、日々生きているんだ! それだけだぜ!」

「よっ! 竜ちゃん、素敵!」


 小林が、竜二の為に音頭を取った。よく解らない深い絆で結ばれた二人が、ここに誕生したのは確かだった。

 渡辺と家長は、何の興味も無いらしく、昨日見つけた同人誌を後ろで読んでいた。


「でも……」


 と、ここで突然、小林が沈んだ声を出した。


「最近、この街の警察に僕は狙われていて。自分でもこのままではマズイんじゃないかとは思っているんです」

「確かに、最近のマッドセガール市警の圧力は強くなっているって言うな。うちの園長もお前の事を心配してんだよ。だから、俺達はこうやっている訳だし」

「自分でも、変わらないとマズイとは思っているんですけど。でも、好きってどうする事も出来ないじゃないですか」


 小林はそう言って、グスンと泣き出した。


「お前のワルに罪は無い」


 声の主は渡辺だった。突然、真顔に戻っていた。


「小林。お前のワルを知って、俺は震えた。ちゃんと地球に優しいワルもしている。芸術に近いワルだ。それを逮捕するとは、俺はマッドセガール市警を許さん」


 渡辺は立ち上がった。


「俺は、二度とお前を警察に捕まえさせない。お前が捕まる事は、俺達ワルの敗北を意味する。だから、絶対にお前を警察には渡さん」

「でも、どうすれば?」

「自分以外の人間を愛すれば、良いんじゃないのか?」


 蓬田が言った。


「でも、僕は……」

「やってみようぜ! 渡辺が協力してくれるし、駄目だったら、また考えてやるぜ! なっ!」

「竜ちゃん。ありがとう」

「よし、そうと決まれば、さっそく行動だ」


 渡辺の一言で五人は部屋を飛び出した。目的がある男達は輝くのだ。

 しかし、そんな五人を後ろから見ている警官がいた。


「渡辺。小林の家を出ました」


 渡辺逮捕祭りはすでに動いていたのであった。


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