それは突然だった
ピロンという音と共にスマホにメッセージが届いた。
“ごめ、今日行けなくなった”
ピロン
“マイの誕生日忘れてて”
ピロン
“今マイん家向かってるとこ”
ピロン
最後に汗をかきながら走っているスタンプが届いてスマホが鳴り止んだ。
“了解”
“埋め合わせ、焼肉な”
“もちろん隼人の奢りで”
すぐさま送った返信に既読は付かず、舌打ちをしてスマホをテーブルの上に置いた。
夕方のファミレスで一人、ドリンクバーだけで15分も粘っていたのは時間の無駄だったらしい。
このまま帰るのも癪だったからタッチパネルでハンバーグのセットを注文した。
ドリンクバーを取りに行く時、入店したばかりの女子高生二人組とすれ違った。
彼女達が着ているのは俺の母校の制服だった。
コーラを注いで席に戻ると、先ほどの女子高生は空席だらけの店内で何故か俺のすぐ隣の席に座っていた。
不躾にジロジロと見られて苛立ち、少し睨むと女子高生は視線を逸らした。
「ほら、やっぱりこの人だよ」
「たしかに似てるかも」
「髭がなかったら同じ顔じゃない?」
テーブルの上に置いた紙を見ながらヒソヒソと小声で言い合っている。
小声でも静かな店内で隣の席だと丸聞こえだ。
「見かけたら連絡してって言ってたよね?」
そう言いながら一人がスマホを鞄から出す。
「連絡って電話?メール?」
ロボットが運んできたハンバーグやライスを下ろすために椅子から腰を浮かした時、彼女達のテーブルの上にある紙を盗み見ると、時々電柱や店先に貼ってあるような人探しのチラシに見えた。
「どっちにしても私の連絡先バレるね。
知らない人なのに何か面倒いな」
「電話だったら、184って打ってから電話番号入れると番号非通知になるよ」
「知らなかった!」
そう言いながらスマホの発信画面に入力したのだろう、「こう?」と画面を見せて確認している。
「うん」
「電話してくる!」
そう言って一人が店外に出た。
ナイフとフォークを置いて座ったまま、残されたもう一人に声をかける。
「ねえ、そのチラシちょっと見せてくれる?」
女子高生も座ったまま、俺が差し出した手に恐る恐るチラシを差し出した。
探しています、という大きな文字と共に載っていたのは俺の卒業アルバムの写真。
高木慎司と俺のフルネームまで書かれている。
「これ、どこで手に入れた?」
「さっき公園で、おにいさんの友達?みたいな人が配ってました」
学校から駅に向かう途中にある公園を思い出す。
公園の周りを歩くより中を突っ切った方が早いため、皆登下校の時は通る公園だった。
店外に行っていた女子高生が電話を終えて戻ってきたため、一先ずチラシを返した。
「電話出たよ。すぐこっち来るって」
弾んだ声で報告する女子高生に対して、席に残っていた方は「良かったね」と言いながらメニューを差し出していた。
連絡先に記載されていた杉崎という苗字に心当たりは無いが、わざわざチラシを配るほど俺に会いたがっているらしい。
未だ公園近辺にいるなら、女子高生の電話を受けてからここに来るまで時間はかからないだろう。
残りのハンバーグを食べながら“杉崎”が現れるのを待った。
しかし、食べ終わってさらに食後のコーヒーを飲み終わっても尚、“杉崎”は現れなかった。
先ほど隼人を15分も待っていたのだ、手持ち無沙汰で記憶に無い相手を待つ気にはなれず、会計をして店を出た。
「高木慎司さんですね」
人気が無い路地裏に入った途端、後ろから声をかけられて振り向いた。
「杉崎か?」
先ほど見た苗字を口にすると、背が低く華奢な少年が(体型だけで確信した、俺にこんな友人はいない)意外そうに眉を上げる。
「私をご存知でしたか」
「チラシ配ってたの、お前だろ?」
少年──杉崎は納得したように微笑んで俺に近づいてきた。
近すぎるほど近づいてきたのに反応が遅れたのは、もしかしたら杉崎の整った顔に一瞬見とれていたのかもしれない。
太ももに電気が走って倒れた俺に杉崎は目隠しをした。
大股で歩く足音が近づいてきて杉崎とは違う人の気配を近くに感じた瞬間、地面に倒れていたはずの身体が宙に浮いた。
大男に担がれて運ばれるのを全身で感じながら意識を失った。
「お目覚めですか?」
ぼんやりとした視界で杉崎を認識する(目隠しが無くなっていると気づいたのは、もう少し意識がはっきりした後だった)。
軋む身体を伸ばそうとしたが、椅子に縛られている手首が動かしたことによって締め付けられただけだった。
「では改めて、杉崎という名字に心当たりはありませんか?」
過去出会った人達を思い返す。
高校の通学路でチラシを配っていたのだ、高校の同級生かもしれない。
「少なくとも、あんたの顔に見覚えはないな」
杉崎は一枚の写真を俺に見せた。
「では、この顔に見覚えはありますか?」
卒業アルバムを切り出して拡大したような写真には、鼻先まで伸ばした前髪で目元まで隠した男が写っていた。
地面に倒れているアイツと徐々に広がっていく血溜まりが脳裏に蘇る。
「……杉崎柊」
「思い出してくれて良かったです」
目の前にいる杉崎はニンマリと口角を上げ、写真をポケットにしまった。
どうやらコイツは俺に復讐しに来たらしい。
「あんた誰?」
質問に答えず微笑む杉崎を見ながら、俺は古い記憶を呼び起こす。
たしか、アイツには姉がいた。
いつも過度に怯えているアイツと正反対の、違う学年でもちょっとした噂になるくらい人気者の姉だった。
目の前にいるのは、男にしては小柄な少年。
しかし、中性的な顔を観察すると異なる可能性が浮かんでくる。
「杉崎の姉ちゃん?」
「正解です。
私の弟が大変お世話になりました」
彼女が手に持っているのはガムテープ。
「俺を殺すのか?」
「最終的には。
ただ、簡単には死なせませんよ」
椅子に拘束されている身動きが取れない俺が逃げようともがいている間に、彼女はガムテープで俺の口を塞いだ。




