1話 死にそうな美少女勇者パーティ拾いました
「何が起きてるんだよ。どういうこと?」
泉に日課の水汲みに行こうとした俺は扉を開けたのだが、そこに広がっていた光景に目を奪われる。
「何で勇者パーティが血塗れで俺の家の前で倒れてるんだよ」
ニュースで聞いた。
勇者パーティが魔王討伐に向かった。
それが昨日のニュースで
「何で血塗れで俺の家の前に倒れてる訳?」
話が繋がらない。
「はぁ……面倒ごとは嫌なんだがな」
よっこいしょ。
腰を下ろして俺はまず勇者を抱えて自宅のベッドに連れていくことにした。
それから聖女、盗賊の2人を抱えてベッドに寝かせる。
俺のこのボロ小屋は治療室兼自宅だからベッドなんて複数台用意してある。
だから数が足りなくなるなんてことはない。
「ん?」
俺は自宅の扉を鳥が叩いてるのを見た。
「使い魔か何かか?」
そう思いながら俺が扉を開けてやるとその鳥は勇者の近くに飛んでいって止まった。
「さて、あいつら金持ってんのかね」
俺のこの行動は損得勘定の結果だ。
家の前であいつらが倒れていて無視した時死んでしまったら王様から何か言われるかもしれない。
だから引き取った。
「はぁ……金払ってくれるといいけどなぁ」
まずは泉で水を汲んでから家に戻る。
その時先程の使い魔らしき鳥が飛んできた。
「おい、お前」
そいつが話しかけてきた。
「うおっ!話せるのかお前」
「当然だ。さっさと働け」
「へいへい」
「何だ、その気だるげな返事は!うちの勇者パーティのメンバーが全員危険な状態にあるんだぞ?!」
そう怒鳴ってくるクソ鳥を睨む。
「黙ってくれるかなぁ?クソ鳥、誰の許可を得て喋ってるの?君」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!!」
「次偉そうに急かしやがったらその細い首へし折るからね?」
人間様の方が上だとクソ鳥に叩き込んでおく。
「し、しかし急いでもらわねば危険な状態ですよ。彼女達は魔王に敗れ最後の力を振り絞ってここに転移してきたのです」
ふーん。そういうことでこんなところにいたのか。
なるほどね。
「大丈夫。あと3日は持つよ」
俺はそう答える。
「3日?」
「怪我の状態で何となく分かるよ。後どれくらい彼女達が生き続けるのか。まだ余裕がある。猶予がなければもっと急いでるさ」
「ま、まさか!か、鑑識眼をお持ちなのか?!、しかもEXランクの?!」
その鑑識眼とかEXというのは分かんないけど俺は一目見てだいたいどの程度の状態なのかは把握出来る。
なんというかその人が後どれくらい生きられるか、症状がどの程度で進むのか、それがハッキリと数字で認識できる。
驚く鳥はそのまま飛ぶのをやめて俺の肩に止まり頭を下げてきた。
「ご無礼をお許しください。お、お願いします!あの子達を助けてください!」
「だから初めからそうしようとしてるだろ?」
答えて俺は家に入るとそのまま治療を始める。
「それにしても怪我の状態だけから残りの猶予を読み取るなんて……あ、あなたは一体、何者?」
無視してまずは1番損傷の激しい盗賊から治療を始める。
「よく頑張ったなこの子」
「ち、治癒士殿」
声をかけてくる鳥に答える。
「名前はワイト。そう呼んでくれ」
「ワイト殿。勇者のサーシャから治しては貰えないんでしょうか?彼女が1番怪我が酷い」
見ると1番派手に血が流れているのは確かにサーシャと呼ばれる女の子だしこっちの子は血なんて殆ど出ていない。
でも実際は違う。
「1番酷いのはこの子だよ」
俺は黒髪ショートの盗賊の子の装備をペロッと捲る。
腰の辺りだ。
「ここ、感染が始まってる。この子だけは猶予はそう長くない」
魔王の放つ攻撃には他の種族を魔族にする効果が含まれている。
当たって一定時間経てば当てられた方は感染が進み魔族になる。
そうなれば人間の敵になる。
だから感染した者にはトドメを刺す。それが常識だ。
白い肌を黒いものが蠢いている。
これが感染の証。
「盗賊のルゼルが感染していただって……?1度始まった感染は止まらない」
鳥がそう口を開いた時ルゼルと呼ばれ少女が目を開けた。
げほっ!げほっ!と咳き込んで血を吐きながら。
「や、やめて……お願い……殺さないで……まだ死にたくない……」
「ルゼル嬢。仕方ないのです感染が始まってしまえば止められない。覚悟はしていたでしょう?」
鳥はそう言っているが彼女は血塗れの腕で俺の腕を掴んで頼んでくる。
「ど、どうにかして……お願い……何でもするから……」
「ワイト殿。トドメをお願いできませんか?人間であるうちに」
鳥の言葉を聞いてルゼルの顔は絶望に染った。
けど、俺は鳥の言葉を鼻で笑う。
「何を言ってんだ?絶望するのまだ早い」
俺は壁沿いに置いた棚に向かい1つの薬草を取って戻ってくる。
薬草の入った瓶には薬草名がラベル付けされてる。
そのラベルに文字が表示される。
【ウチケシソウを1つ取り出しました。元の所持数99。現在の所持数98】
「え、Sランク薬草のウチケシソウ?な、何故、こ、こんなところに?それは王城にしかないはず。し、しかも個人で所有するのは……違法ですぞ?!!!!!!」
鳥が呟く。
その目は泳いでいた。
「使うかどうかは任せるよ」
「ほ、本当にウチケシソウだ……な、何で……違法行為だよ……これ……は、犯罪なんだよ?」
ルゼルと呼ばれた少女の手に薬草を握らせる。
犯罪かどうか気になるなら使うかどうかは任せる。
「後は君の判断で宜しく。1つで足りなければ言って。足すから」
見守ることにすると彼女は薬草を飲み込んだ。
すると
「く、黒い模様が消えていく……」
感染が薬草の効果で打ち消されていく。
それを見てツーっとルゼルの瞳から涙が流れた。
「あ、ありがとう。こ、こんな高級な薬草をくれて……私の命じゃ払えない額だよね……」
そう言って抱き着いてくるルゼル。
それを見た鳥が口を開く。
「な、こ、これは立派な違法行為ですぞ、ワイト殿……そ、そもそも違法云々より流通量も少なく年に数個しか取れずそれも全て王家に流れるのに……な、何故そんなアイテムがこんなところに……」
そう呟いてから鳥は俺を見た。
やがて飛ぶのをやめてその小さな体を震わせる。
「あ、あなたは一体……な、何者なんだ……ワイトなんてSランク冒険者聞いたことない!!!!!」
Sランク?何を勘違いしてるのか知らないけど。
俺はEランクすら危うくて追放されて冒険者を諦めた男さ。