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創世のファンタジア  作者: 冴村 彰
7/7

第六話 「獣人種とルーン人種」

翌朝の篠崎家は早朝から慌ただしかった。

勇児は起きて居間に向かったが誰もいなかったので、すぐに居間を出て台所に向かうと、お幸とさやかとレイラが慌ただしく走り回っていた。

台所にはいくつもの鍋が火にかかり、鍋からは白い煙が立ち上っているが、それでもまだ土間には、たくさんの食材が溢れている。

一体何品の料理を作るつもりだろうか?



「おはよう勇ちゃん。」

食器を出しながら、さやかが勇児に挨拶をした。

「おはよう。」

「おはよう勇ちゃ~ん!」

レイラは勇児に飛びつくと、ほっぺたにキスをした。

「あー!チューした!また勇ちゃんにチューした!」

わなわなと震えながらレイラを指さすさやか。

「あらごめんなさ~い。ついランドールでの癖が出ちゃって~。」 

レインボーはニヤリと笑いながら言った。

『レイラが誰かにキスしてるとこなんか、見たことねぇよ…。』

勇児はそう思ったが黙ったままだ。



獣人種の女性は性に奔放で有名であり、女性の同性愛者が多い事でも有名なのだが、レイラはランドール王国でも身持ちが固い事で有名で、お尻を触ろうとしてぶっ飛ばされた男は星の数ほどいる。

こう書くと世の中の男共は大喜びと思うかも知れないが、そうは問屋が卸さないのが世の常である。

獣人種の女性からモテモテになるには、とんでもなく高いハードルがあるのだ。


獣人種の女性は強い男にしか興味を持たない傾向が強く、弱い男など視界にも入れないし相手にしないのである。

逆に強ければ同性であっても好意を持つし、ベッドを共にする事にさえ抵抗がない。

その理由として挙げられるのは、獣人種は獣としての本能が強く、基本的に肉食動物の獣人種が多いからではないかと言われている。

なにしろ獣人種の80%近くが肉食動物の獣人種であり、残りの獣人種は雑食や草食動物の獣人種なのだが、ここで面白い事が起こる。

例えばライオンとトラの獣人種の子供だからといって、ライオンかトラの獣人種が生まれるとは限らないのだ。

中にはあまり見かけない貴重な獣人種が生まれてきたりするので、驚かされる事もある。



これを獣人種達は「神のいたずら」と呼んでおり、未だに原因は解明されていない。

しかも獣人種同士の出生率は非常に低くて、獣人種と人間種との出生率の方が高く、生まれてくる子供は100%獣人種である。

出生率が低いので獣人種はなかなか人口が増えず、現在の獣人種の人口は300万人程度しかいない。

なので獣人種と人間種の結婚はかなり多いのだが、事情により結婚が出来ない場合は獣人種の女性が人間種の子供を身篭もると、ランドール王国に戻りシングルマザーとして子供を育てる場合も多い。

中にはシングルマザー同士がカップリングして同居し、互いの子供を育てるパターンも少なくはないのだ。



獣人種は人間種よりも遙かに優れた身体能力を持っており、戦力的には獣人種1人に対して人間5人が妥当と言われている。

これは昔、ランドール王国の近辺にあった人間種の軍隊が軍事教本の中に書き記されており、獣人種との1対1の戦闘は勝ち目がないので、絶対に戦闘は避けるようにとまで書かれていた。


ここまで書けば、獣人種はさぞかし好戦的で野蛮な人種だと思われるかもしれないが、獣人種はランドール王国建国以来、責められた事はあっても、自分達から戦争を仕掛けた事は一度もない。

獣人種は人間種やルーン人種達を快く自国に受け入れるし、紛争中の友好国にランドール王国の兵を派遣する事もある。

これには大きな理由があるのだが、それは物語が進むうちに明らかになっていくので待っていてもらいたい。



獣人種は見た目こそ普通の人間だが、ライカンスロープと呼ばれる狼男のように、獣のような姿になる事が出来る。

これは獣化と呼ばれており、どうやらいくつかの段階があるらしい。

獣人種の男性は人前でも平気で獣化をするが、女性は人前での獣化を嫌っており、よほどの事がないと人前では獣化はしない。

ちなみに犬のような姿の獣人種は狼に分類されており、犬とは呼ばれない。

もちろん、トイプードルやチワワのような姿の獣人種がいれば話は別だろうが、そんな獣人種は今まで生まれた記録はない。



獣人種は獣化により、身体能力を一気に跳ね上げる事が出来るが、残念な事にメリットだけではない。

それなりのデメリットがあるのだ。

一つは獣化すると異常なほどの空腹に襲われ、かなりの栄養をとらなければならなくなる。

これは獣化により、活発になった体細胞の消費するエネルギー量が跳ね上がる事によって起こる現象だと言われている。


もう一つのデメリットはストレスである。

獣化するとなせか過度のストレスが溜まり、獣化し続ける事が困難になるのだ。

歴然の猛者と呼ばれる獣人種ですら、一日中獣化している事は困難なのだそうだから、かなりのストレスがかかっているのだろう。



ついでに説明をしておくと、ルーン大陸に住むルーン人種は、人間種や獣人種とは全く違った生態系を持った人種である。

ルーン人種は見た目から違い、成人でも身長は140㎝程度しかなく、頭の後方には大きな耳がまえに向かってついており、瞳が大きく可愛らしい容姿をしている。

子供の頃はふっくらとしていて頭の大きな三頭身で、ものすごく可愛らしいのだが、成人になるとすらっとした体型になり、かわいいから美しいに変わる。



ルーン人種の一番大きな違いは、人間種や獣人種とは生殖器官が違うため、他種族との交配が不可能なところである。

またルーン人種には年に2回の繁殖期があり、誕生日が二つの時期に集中しているのも特筆すべきところであろう。


ルーン人種は舌と鼻と耳が非常に発達しており、名コックを多数輩出している事でも有名で、さまざまな王国のコック長をしており、ルーン人種のコック長がいる王国は、周辺国家に自慢しているほどである。


ルーン人種は小柄なので戦闘に不向きに思われがちだが、確かにルーン人種の武人で名を馳せた人物は数少ないとはいえ、ゲリラ戦においては無類の強さを発揮する。

以前、獣人種との模擬戦でもゲリラ戦では圧勝したのだから、ルーン人種のゲリラ戦の強さは十分に伝わるだろう。

そうそう、一つ書くのを忘れていた。

ルーン人種は大食らいでも有名である。



「2回だからね!私も2回勇ちゃんにチューするからね!」

鬼のような剣幕でたたみかけるさやか。

「文化の違いじゃな~い。細かい事を言わないでよ~。」

そう言って笑うレイラ。

「勇ちゃんに挨拶するたびにチューしてやる。」

さやかはおかしな決意を固めた。

「おはよう勇ちゃん。」

お幸は糸のように細い目を垂らしながら、勇児に挨拶をした。

「おはようございます。」

勇児も挨拶を返す。

「申し訳ないけど、朝ごはんはもう少し待ってくれるかしら?お昼の準備でバタバタしちゃってるのよ。」

お幸は申し訳なさそうに言ったが、まだ朝の6時である。

朝ごはんには少し早い気がする。


「気にしないでください。今から一汗かいてきますから。」

勇児はそう言って笑った。

「それじゃあお腹を空かせて待っていてね。今朝はちょっと豪勢な朝ごはんにするから。」

お幸がそう言うと勇児は嬉しそうに言った。

「それは楽しみです。」

勇児は嬉しそうに笑った。



勇児は篠崎家の庭に出ると隣の家の庭に入った。

この家が剣崎家の本宅なのだが、今は誰も住んではいない。

篠崎家の半分ほどしかない家だが、家の大半を先祖代々の品で埋め尽くされているので、家と言うより物置と言った方がいいだろう。

剣崎家は母屋に蔵が二つと、小さな道場があるくらいである。



『そろそろ虫干しの時期だな…。』

蔵の前を通りながら勇児はため息をついた。

あの膨大な量の遺物をと考えるだけでゾッとするが、これも頭首の仕事である。

せめて門下生でもいれば楽なのだが、いもしない人間を望むだけムダである。

結局、さやかを買収して手伝ってもらうしかないが、報酬は一日デートだろう。

買い物に付き合わされ、お昼は玉泉で親子丼を食べてからまた買い物へ行き、そしておやつはいつもの店のあんみつに決まっている。



蔵を抜け道場に着いた勇児は、中に入ると着物を脱いでパンツ一丁になった。

パンツの紐を締め直した勇児は、ストレッチでゆっくりと体をほぐしていく。

たっぷりと1時間ほどかけてストレッチをすると、全身から珠のような汗が浮かび上がってきた。


勇児は手ぬぐいをひっかけ道場を出ると、道場の前の井戸に行き井戸から水を汲みはじめた。

勇児は汲みあげた水をザッパザッパと体にかけ始めた。

よく冷た井戸水はかなり冷たいが、毎日のようにやっていれば慣れてくるものだ。

充分過ぎるほど暖まった体が、ほどよくヒートダウンしていく。

勇児が最後に桶に手を突っ込んで顔を洗っていると

「はい。」

突然顔の前に手ぬぐいが差し出された。

勇児が顔をあげると、そこには笑顔のレイラがいた。

「ありがとう。」

勇児はそう言って手ぬぐいを受け取ると顔を拭き始めた。

「朝ごはんの用意が出来たから呼びに来たよ。」

「ありがとう。ずいぶんと早いな。」

「だってお幸おばさまが作ってるんだもん。」

「そりゃそうか。」

勇児は体を拭きながら笑った。


「明日はヒマなのか?今日は無理だが、明日ヒマなら3人でどこかに行くか?」

勇児がそう言うとレイラが残念そうな顔をした。

「残念だけど、明日は大和王宮で新人の試験監督をしなくちゃならないのよね~。」

「新人?遺跡調査の新人か?」

「そうなのよ。女の子だから私が呼ばれたの。」

「女の子ねぇ。」

「アストレイアの子でね。まだ18才なんだけど、戦乙女隊(ヴァルキュリア)なんだって。」

「18で戦乙女隊(ヴァルキュリア)か。たいした経歴だな。わざわざレイラが呼ばれるわけだ。」

勇児は驚いているようだ。


戦乙女隊(ヴァルキュリア)とは、アストレイア王国の女性だけで編成された部隊で、王室の女性の警護等を仕事としているが、アストレイア中の猛者達が集まっている事でも有名だ。

戦乙女隊(ヴァルキュリア)は隊員の年齢は問わないが、18才はかなり若い方である。


「そうか。しばらくこっちにいるなら、違う日にしようか。」

「そうしてくれると助かるわ。それよりみんな待っているから早く行きましょう。」

「そうだな。それじゃあさっさと着替えるか。」

勇児はそう言って道場に戻っていった。

次回予告


「やつらが大和にやってくる!」

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