第五話 「十五代目」
久しぶりの更新ですが、少しづつでも書いていきますので、よろしくお願いします。
m(_ _)m
「どうぞ。」
小太郎がそう言うと静かに左右の襖が同時に開き、廊下には正座をしたお幸とユウちゃんが正座をして、床に手をついていた。
「おぉ。お幸ちゃんに十五代目。」
小太郎は嬉しそうに言った。
「おひさしぶりでございます。嘉納先生。藤原先生。」
「おひさしぶりです嘉納先生。藤原先生。」
お幸とユウちゃんは頭を下げたまま言った。
「堅苦しいのは無しじゃ。はようこっちへ。」
小太郎はそう言ってユウちゃんを手招きした。
「はい。」
ユウちゃんはそう言って部屋に入ると、小太郎と博道の前で正座をした。
「はよう足を崩さんか。堅苦しいのは無しじゃと言うたであろう。」
「はい。」
ユウちゃんはそう言うと、正座を崩して胡座をかいた。
その間にお幸は、持ってきたお茶と和菓子を3人の前に並べていく。
「元気そうじゃな十五代目。」
小太郎はにっこりと笑いながら言った。
「十五代目は勘弁してください。私には荷が重すぎます。」
ユウちゃんは頭を掻きながら、恥ずかしそうに言った。
「ユウちゃんは立派な十五代目だよ。」
博道も笑いながら言う。
「剣崎流兵法十五代目頭首。剣崎勇児と言えば、大和で知らぬ者はおらんじゃろうに。」
「嘉納一刀流頭首の嘉納先生に比べればお話になりませんよ。同じ頭首でも、全国に門下生がおられる嘉納一刀流と、頭首とは名ばかりで、一人しかいない剣崎流兵法を一緒にされては困ります。」
勇児はそう言って笑った。
「うちも同じだよ。」
博道はそう言ったが勇児は慌てて言った。
「子供達に無償で剣術を教えておられる藤原先生と違い、私には人に教える才能はございません。」
「教えられないのではないよ。教えた事がないだけじゃ。」
小太郎はそう言って笑った。
「そうそう。」
博道もそう言って笑う。
「買いかぶりは困ります。」
勇児もそう言って笑った。
「ところで今回のご来訪は、私にも関係があると聞きましたが…。」
勇児は本題を切り出した。
「そうなんじゃ。お前に八雲が交わした盟約を守って欲しいんじゃよ。」
小太郎がそう言うと勇児は驚いた。
「父上が交わした盟約ですか?」
「そうじゃ。勇児にはルーン王国から来る子供に、剣術を教えてやって欲しいんじゃよ。」
「ルーン王国の子供を弟子にするというのですか?」
「昔、八雲がルーン王国に行った事は覚えておるか?」
小太郎にそう言われて勇児は思い出した。
「はい。覚えております。あれは確か7年ほど前、五家老の皆様方がルーン王国の内戦に出向かれた時の事ですよね?」
「そうじゃ。その時我ら五家老は、ルーン王国と一つの盟約を交わしたのじゃ。」
五家老とは、昔から大和王室に仕える「嘉納家」「上田家」「不動家」「篠崎家」「剣崎家」の五家であり、それぞれが王国の重要なポストに就いている。
その歴史は古く、大和王国の前の国名である、斑鳩王国の頃より仕えているというのだから驚かされる。
嘉納小太郎は嘉納家の前頭首であり、勇児は剣崎家の現頭首なのだ。
「それがルーンから来る子供達を預かるという事なのですか?」
「そうじゃ。我らで一人づつ子供を預かる事になったのじゃ。それでな勇児。今はおらん八雲の代わりに、お前にも子供を一人預かって欲しいんじゃよ。」
小太郎は笑顔で言った。
「子供を預かると言いましても、私自身が篠崎の家でお世話になっている身。そんなことが出来るでしょうか?」
勇児は不安そうに言った。
「預かると言っても、子供達は皆ここに住む事になる。子供達の生活の方はお幸さんに迷惑をかける事になるが…。すまんのぅお幸さん。」
小太郎は申し訳なさそうにお幸に言った。
「迷惑だなんてそんな。前々からお話は伺っておりましたし、私はルーン王国にいた事もございます。私が適任かと。」
お幸はそう言って笑った。
「そう言ってもらえると助かる。すまんなお幸さん。」
「どうかお気になさらず。」
「というわけじゃ。頼まれてくれるかの?」
「父上がお受けしたという事は、剣崎がお受けしたという事になります。ましてや盟約ともなれば、私が断る理由などありません。そのお話謹んでお受けいたしたいと思います。」
勇児はそう言って頭を下げた。
「そうかそうか。それじゃあすまんがよろしく頼むの。」
「畏まりました。」
「それじゃあ頼んだぞ。」
小太郎はそう言うと腰をあげた。
博道も続いて腰をあげる。
「もう戻られるのですか?」
お幸が慌てて小太郎に声をかけた。
「今からヒロさんと千徳寺に行くんじゃよ。今からなら夕方には着けるじゃろ。」
「でしたら少しお時間をいただけませんか?一遍住職へのお土産をお包みいたしますので。」
「いやいやお気遣いは結構。舟の時間もあるし、住職へのお土産も用意しておるしな。」
「それじゃあレイラちゃんひとみちゃんまた。レイラちゃんはいつまで大和にいるのかね?」
「大和には1週間滞在します。」
「そうかい。レイラちゃんが帰るまでに、また顔を見に来るよ。」
博道はそう言うと、小太郎と共に部屋から出て行った。
勇児 「今日はずいぶんと忙しいですね。」
お幸 「本当にねぇ。」
さやか 「小太郎先生は一遍住職とは仲がいいからねぇ。月に一度は必ずお会いに行かれるもの。」
レイラ 「一遍住職って?」
お幸 「一遍住職は、小太郎先生の奥さまの菩提寺の住職をされているのよ。」
さやか 「いつも古い擦り切れた法衣を着ておられるわ。レイラちゃんも何度か見たことあるでしょう?」
レイラ 「あぁ。あのかなり痩せた、人の良さそうなお坊さんね?」
勇児 「一遍住職は鶏肉の入ったおからが大好きでな。大鉢いっぱいでも全部食べちまうんだ。」
さやか 「うそ!」
レイラ 「うそ!」
「前もって言っておいてくだされば、おからをたくさん作っておいたのにねぇ。」
お幸は残念そうに言った。
「ところでレイラちゃん。大和にいる間はうちに泊まるんでしょ?」
さやかがレイラに尋ねた。
「もちろんそのつもりだけど?」
レイラは当然と言わんばかりに答えた。
「あ、それなら勇ちゃんの家に泊まった方がいいな~。泊まってもいい勇ちゃん?一緒にお風呂入る?洗いっこしょっか?」
レイラはニコニコしながら勇児に尋ねた。
「ダメよ!ぬけがけは許さないわ!」
勇児が答える前に、さやかが鬼のような形相で言った。
勇児 「うわっ!」
レイラ 「キャッ!」
あまりの返答の速さに驚いた勇児とレイラは、思い切り体を後ろにのけ反らせた。
「レイラちゃんは私の部屋で寝るの!わかった?」
レイラを睨みつけながらさやかが言った。
「はい。」
レイラはコクンと頷いた。
「相変わらず仲がいいわねぇ。」
お幸はさやかとレイラを見ながら、そう言ってにっこりと笑った。