第二話 「 帰路 」
第二話です。
楽しんでいただければ幸いです。
「ユウちゃーん!」
飛びついて来た何者かが、ユウちゃんに抱きつきながら甘い声をあげた。
「レイラ!」
「レイラちゃん!」
ユウちゃんとお幸は驚きの声を上げた。
レイラはお構いなしにユウちゃんを強く抱きしめ、その厚い胸板にすりすりとアタマをこすり付けている。
レイラが犬なら、ちぎれんばかりに尻尾を振っていただろう。
「どうしたんだ?なんで大和にいるんだ?」
ユウちゃんが驚きながら声をかけたのに対し、お幸は
「いらっしゃいレイラちゃん。久しぶりねぇ。」
とまぁ、随分と呑気に声をかけた。
「お久しぶりですおばさま。ユウちゃん会いたかった~!」
レイラは、ユウちゃんから離れようとするどころか、力強くユウちゃんを抱きしめたままだ。
「会いたかったって…。1ヶ月前に会ったばかりじゃないか。」
ユウちゃんが呆れ気味に言うと
「1ヶ月も経ってるじゃない!ユウちゃんは私に会いたくないの?」
レイラはそう言うと、口をへの字に曲げた。
ユウちゃんは黙って目を瞑ると、静かに天を仰いだ。
万事が万事この調子なのである。
ユウちゃんは今まで、レイラとひとみと言い争いをして勝った事がないし、勝てるとは夢にも思っていない。
「いや、急に現れたもんだからびっくりしたんだ。それで、大和にはどうして?」
「ママに頼まれてお使いできたの。ちぃ先生に渡して欲しいものがあるんだって。」
「ちぃ先生に?」
ユウちゃんは首をかしげた。
わざわざランドール王国からレイラを送らなくても、生ものでなければ、郵送すればいいのではないかと思ったからだ。
「中身は知らないの。ちぃ先生に渡せばわかるって。」
「じゃあ、ミリアさんは大和に来てないの?」
お幸は残念そうに言った。
「ママは今、どうしても手が離せなくて。代わりに私が来たんです。」
「あら?それは残念ねぇ。」
「先生の所に行く前に、ユウちゃんとひとみちゃんの顔を見ようと思って。」
「丁度よかったわ。今日、小太郎様と藤原様が家に来られるのよ。」
「ちぃ先生とだるま先生が来られるのですか?ラッキー。」
そう言って、レイラは嬉しそうに笑った。
「それにしてもレイラ…。その格好で来たのか?寒くないのか?」
ユウちゃんはレイラの姿をまじまじと見ながら言った。
「何かおかしい?」
レイラはそう言うと、自分の姿を見てみた。
大きなリュックサックを背負っているとはいえ、春先に毛皮のビキニという、目のやり場に困るが、男からすれば嬉しい格好をしているレイラは、ここに来るまで助平な男達どころか、若い女性の目も奪い続けてきた。
その理由は格好だけではない。
180㎝ある高身長と出るところは出て、引っ込むところ引っ込むという、見事なプロポーションに整った顔と大きな青い瞳。
長くのびたサラサラのストロベリーブロンドの髪とくれば、周囲の目を惹くのは当然である。
ところが美人もここまでになると、男達もおいそれとは声をかけてはこない。
いや、声がかけられなくなるのだ。
下手に声をかければ、周りからの「己を知れ!」「恥を知れ!」「千年早いわ!」という視線が鋭く突き刺さり、それがあまりにも痛すぎるのだ。
ユウちゃんはそれを痛いほど知っているし、レイラもそれはわかっているので、二人が一緒に歩く時、レイラは必ずユウちゃんと腕を組んでべったりとくっついて歩く。
もちろん、ユウちゃんは恥ずかしいのだが、それを我慢しながら黙って腕を組んで歩く。
そうしないと、ユウちゃんを見る周囲の視線が、激しく厳しいものになるのだ。
普通に並んで歩いていると『美人の隣にいる、このパッとしない男は誰だ?』となるが、腕を組んで歩いていると『こんな美人の彼氏なのか。うらやましいなぁ。』となるからだ。
残念な事に、これがレイラの策略の一つだということをユウちゃんは全く知らない。
「いや、いつもの格好だけど、大和じゃ刺激が強すぎる。」
「あらそう?ランドールじゃ問題ないんだけど。」
そう言いながらレイラは、自分の姿をまじまじと見た。
「春先でこの格好なら、夏になったら何を着るつもりだ?」
「どうしましょう?生まれたままの姿は、ユウちゃんにしか見せたくないしなぁ。」
レイラは真顔で悩み始めた。
「とにかく家についたら上に何かを羽織ってくれ。」
ユウちゃんは呆れながら言った。
「ヤキモチ?」
レイラはそう言って嬉しそうに、ユウちゃんの顔を覗き込んだ。
「周りに甚大な被害が出るからだよ。」
「スケベな男は、世の中から減らしたほうがよくない?」
「そんな事をしたら、世の中からルーン人種以外の男は一人もいなくなる。」
ユウちゃんは笑いながら言った。
「それもそうか。」
レイラもそう言って笑っている。
ユウちゃんは1年ほど前に起こった、ある出来事を思い出していた。
それはユウちゃんとレイラが、ある国を訪れた時の事である。
レイラが一人で街を歩いていると、いつものように周囲の視線がレイラに集まった。
その国の恋人達は情熱的で、公共の場でも互いに愛を囁きあい、平気で抱き合ってキスをしたりするのだが、ユウちゃんからすれば、とてもではないが真似の出来ない事である。
レイラが通りかかった公園のベンチには、抱き合って熱いキスを交わす恋人達がたくさんいたのだが、レイラがベンチの前を通ると、決まって彼氏のほうがキスを止めてレイラに見とれてしまった。
それに気付いた彼女のほうが、レイラの顔を見るなり顔を真っ赤にすると、彼氏にビンタをかまして足早に去って行くのだが、男のほうはしばらくの間レイラに見とれたまま、ハッとした顔で慌てて彼女を追いかけた。
レイラがそんな光景を4.5回見たあと、公園を抜けて道を歩いていた時、塀の修繕工事をしている前を通りかかった。
塀の前で作業をしていた若い職人がレイラに気付いた途端、コテを手にしたまま動きを止めたまではよかったのだが、問題なのはその職人の横で、脚立に乗ってレンガを積んでいた、口髭を生やした中年の職人だ。
この職人が脚立の下にいた職人同様、レイラに見とれてしまい、その時に手に持っていたレンガを下に落としてしまった。
それが見事に、脚立の横でレイラに見とれていた職人の脳天にクリティカルヒット!
レンガ爆弾の不意打ちを食らった職人は、そのまま仰向けになって地面の上に倒れた。
それを見て慌てた職人がバランスを崩して脚立から落ち、仰向けに倒れている職人にトドメと言わんばかりに、上空からお手本になるほど綺麗なフライングボディーアタックをぶちかました。
仰向けになった職人は、カウント3どころか全く動かなくなり、それを見ていたレイラは慌てて介護に向かった。
レイラや他の人達の介護のおかげで、仰向けになった職人はなんとか意識を取り戻したが、フライングボディーアタックが決め手となり、1ヶ月の入院を余儀なくされたそうだ。
落ちてきた職人が100㎏の巨漢でなければ、もっと早く退院していたかもしれないが…。
まぁ、トドメがフライングボディーアタックではなく、垂直落下式のドロップキックだった場合、職人はお花畑の真ん中で目覚めていただろう。
そう思えば、まさに不幸中の幸いというやつだ。
この話を帰ってきたレイラから聞いたユウちゃんは、レイラからのお願いを聞き入れ、次の日からレイラが街に出かける時は一緒に出かけ、腕を組んで歩くようになった。
おかげでそう言った悲劇は無くなったのだが、大きな代償として、ユウちゃんは見知らぬ異国の男達から、理不尽な妬みを買う事になった。
「こんな所で立ち話もなんだし、家に帰りましょうか。」
お幸がおっとりとした声で言った。
「そうですね。レイラ、行こうか。」
「うん。あ、そうだ。あとでお土産渡すね。」
「ありがとう。」
それから三人は、篠崎の家へと向かった。
「おばさま。私、みんなで食べようと思って、お熊さんの和菓子を買ってきたんです。」
歩きながらレイラがお幸に話かけた。
「あらあら。気を使わせちゃってごめんなさいね。」
「いえいえ。和菓子は私の大好物ですから、半分は自分の為です。」
レイラはそう言うとニッコリ笑った。
ニキビ面の思春期の少年なら、間違いなくこの笑顔一つでレイラの虜になり、その日からしばらく、レイラが夢に出てくるのは間違いない。
「ミリアおば…。ミリアさんはお元気なのか?」
ユウちゃんの問いかけにレイラが答える。
「元気よ~。ランドールじゃ今頃、何人の訓練生が地面にキスしてるかしら?」
とんでもない事を平然と口にするレイラの言葉を聞いて、ユウちゃんの背中に冷たいものが走った。
「さすがは『白炎の女神』だな…。」
「ママがね。『たまにはランドールに顔を出せ。久しぶりに稽古をつけてやる。』って。」
『ランドールじゃあれを稽古と言うのか…。大和じゃ『しごき』って言うんだけどな…。』
ユウちゃんはそう思ったが、決して口にはしない。
ミリアに稽古をつけて貰うと、間違いなく倒れて動けなくなるまで稽古をつけられる。
さらにランドール王国は高山にあるため空気がかなり薄く、慣れないと少し動いただけで息が切れるので、稽古の後の水浴びをする気力もなくなる。
唯一の楽しみは、稽古後に振る舞われるミリア特製の「鹿肉の赤ワイン煮」を山ほど食べさせて貰える事なのだが、これがまためっぽう旨い。
一口食べるごとに疲れ切った体に染みわたり、心なしか体も大きくなった気がする。
ユウちゃんは、ミリアの作る『鹿肉のワイン煮』は世界一と思っているが、それほどの一品であっても、あの稽古を受けるとなると考えてしまうほど、ミリアのしごき。いや、稽古はきつい。
『ランドールの兵士も大変だな…。俺も何回、地面とキスしたことか…。』
ユウちゃんは、遠い目をしながら、顔も知らないランドールの兵士達に深く同情した。
『まぁ、ミリアさんに鍛えて貰っている分、ランドールの兵士は確実に強くなってるだろうな…。ん?てことは…。』
「ひょっとして、あいつも訓練に参加してるんじゃ…。」
ユウちゃんはおそるおそるレイラに尋ねた。
「してるよ。ママに頼まれて、休みの日はコーチをしてくれてるの。コーチって言っても、訓練生とほとんど変わらないけどね。」
「あんにゃろめ、まだ強くなるつもりなのか?」
「前回の立ち合いが、か、な、り、効いてるみたいよ。『次は勝つ。』って、ぼそっと言ってたなぁ。うかうかしてると次は、負けるかもよ?」
そう言ってレイラはニヤリと笑った。
「あんなのは勝ちとは言わねぇ。引き分けだって言ったのに、あいつは全然、話を聞かねぇんだ。」
「でしょうね。随分とやる気を出しているもの。」
「相変わらず面倒くせぇ奴だなぁ。克己にもほどがある。」
ユウちゃんは呆れたように言った。
「ま、あいつらしいっちゃ、あいつらしいんだがな。」
「それもそうね。」
そう言って、ユウちゃんとレイラは笑いあった。
「あいつ最近、引っ越ししたらしいし、あいつの好きなワインを持って、機嫌をとりにいくかな?仕上がり具合の偵察も兼ねて。」
「通用すると思う?」
「酔わせりゃなんとかなるかも…。」
ユウちゃんは真剣な顔付きで答えた。
「1番小さい樽なら、ものの1分もあれば空けちゃう人を酔わせるの?一体、どれだけ飲ませるつもり?」
レイラは呆れたように言った。
「え!樽のワインを1分で飲んじゃうの?」
歩きながら黙って話を聞いていたお幸は、思わず声を上げた。
1番小さい樽のワインでも、2リットルはある。
「飲むというか…流し込むと言うか…。」
レイラは困惑している。
「よくわからないけど、ワインって味わうものじゃないの?」
全くアルコールが飲めないお幸は、不思議そうにユウちゃんに尋ねた。
「そう言われてみれば…。あいつ、味わって飲んでるのかな…。」
「私が見た感じ、味わってるようには見えませんね。味には結構、うるさいんですけど。」
レイラがそう答えるとユウちゃんがたたみかけた。
「そうなんですよ。口に合わないと思ったら、絶対に食べないんですよ。」
「大和のお酒は口に合わないのかしら?」
お幸の質問を聞いた途端、ユウちゃんは大きく首を左右に振った。
「とんでもない。前に樽酒を持っていった時、一人であらかた飲みましたよ。奮発して持っていった清酒を。」
大和の酒は濁り酒と清酒がある。
文字通り、濁り酒は白く濁っており、清酒は透明で、清酒は濁り酒の倍の値段がする。
一般的には濁り酒が飲まれており、清酒は正月や祝い事の席で振る舞われる事が多い。
「だったら大和に来られた時は、ワインじゃなくても大丈夫ね。覚えておくわ。」
お幸が真剣な顔でそう言ったので、ユウちゃんとレイラは思わず笑ってしまった。
説明くさい文章が続いてすいません。
何しろ一作目なので、どうしても説明くさくなってしまいます。
長~い目で見ながら、お付き合いしていただければ嬉しいです。
二話目にして、キャラ達が暴れたがっています。
なだめるのが大変です。
さらに暴れたがっているキャラが、チームを組んで、今か今かと出番を待っています。
こいつらをなだめる自信がありません…。
もうすぐ登場します。
可愛い奴らなので、気に入って貰えるだろうかが心配です。




