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第9話:衝突

「ルーク! どういう状況だ? あれは魔王だろう! あれが、黒幕だったのか?」


 いや、最初の世界の黒幕はお前とお前の親父と光の女神だろう!

 思わず怒鳴り付けたくなる。

 喉まで出かかった言葉を飲み込み、存在自体を無視してジェファードを見る。


 魔王となった、隣国の皇子。

 しかしながら、あれは最初の世界の俺の元部下だったという。

 魔王であることは間違いないが。

 人としては珍しい、ルークの仲間か……


 あまり、悪いようにしたくないな。


 そのジェファードは、リカルドを睨みつけている。

 心底憎んでいることが、その視線からありありと伝わってくる。


「白々しいことを言いますね。ルーク様を陥れ、最愛の人を奪うためにあれこれと画策した張本人が! それに、私のことを忘れたとは言わせませんよ!」


 ジェフードが苛立った様子で、吐き捨てる。

 いや、まあ確かに彼の言ってることは正しい。

 リカルドとしては聖女の光に触れて、自分を取り戻したつもりなのだろう。

 違うからな?

 今のお前の方が、紛い物っぽいからな?

 本質は、色々と残念な王子様だというのは、間違いないとアマラも言っていたし。

 今世のお前を見てても、よく分かる。


 リーナの放った光属性の魔法で、精神に勇者らしい感情が伴うよう働きかけられでもしたのかな?

 原理は分からないが、勇者とはこうあるべきという精神構造に近くなっている。 

 独善的過ぎる思考そのままで、反吐が出そうになる完成度だが。 

 

 そう……勇者となったころのリカルドは、光の女神による洗脳に近い状態。

 俺を親友だったと、心から思い込んでいる状態。

 確かにそうなりえた過去はあったが、それを自ら壊したのはこいつだ。


 思い返してみても、昔からルークに同情し優しくすることで自己満足を得て、悦に入ってただけのただの偽善者だし。

 そんなものにすがらないといけないほど、ルークは追い詰められていたようだ。

 ただ、そういったリカルドの負の部分を増長させていたのも、当時無意識にルークが放っていた同調と変化の特性のせいだから。

 どの程度、酷かったのかまでは分からない。

 根が良い奴ではないことは、確かだ。


「貴様は、暗黒騎士ジェファード! 死んだはずじゃ!」

「ええ、貴方に殺されましたね。そう、貴方如きに……いま思い出しても、情けない」


 しかし、ジェファードは随分とのんびりだな。

 時間を稼いでいるように感じる。

 何かを待っているのか?

 だとすれば、これは面白くない状況だな。

 リカルドが、本当に邪魔くさい。

 

「どういう状況なんだい?」

「話せば長くなりますが、おそらく何かお互いに勘違いでもしてるんじゃないでしょうか?」


 兄が何か言いたげな表情で、俺に確認してきたが。

 説明が面倒くさいので、適当に胡麻化してみる。

 今更、前世のことを持ち出して、最初から全部説明とか。


「言いたくないなら良いけど……この機を逃す手はないよね?」

「そうですね、兄上」


 通じなかったけど流してくれる兄の優しに感謝しつつ、剣を手に取る。

 やはり、心もとない。

 もう少し、良い剣があればよかったのだが。


「この際、切れ味に贅沢は言わないから、ただただ頑丈な剣が欲しい」


 兄も、同じ気持ちのようだ。

 横で、そんなことを呟く兄に、激しく同意する。

 それはそうと。


「傷の方はどうなんですか?」

「ん? もう、塞がっているよ」


 ……言ってる意味が分からない。

 そんなにすぐに、血が止まるような浅い傷ではなかったと思うが。

 自分の胸をドンと叩いて無事をアピールする兄が、本当に脳筋に見えてしかたない。

 これで、座学もトップ5に常に入ってるのだから、恐ろしいものがある。

 

「持続回復系統の魔法しか使えないから時間は掛かるけど、その時間なら十分にもらえたからね」


 見ると胸だけじゃなく、脛の方の傷も塞がっているようだ。

 血がすでに乾いている。

 知らない人が見たら、ばかげた回復力に見えるかもしれない。

 化物だな。


「何か、酷いことを考えていないかい? 兄は、悲しいよ」


 ふざけている場合では、ないんだけどね。

 とりあえず、話に夢中になっているうちに。

 敏捷強化。

 瞬発力強化。

 未来視発動。

 クイック付与。

 魔法クイック付与。 

 思考加速付与。

 視力強化。

 動体視力強化。

 聖属性付与。 

 

 掛けられるだけのバフを掛ける。

 もう四の五の言ってられる状況じゃない。

 加護もフル活用しての自己強化。

 100%中の100%だとか、フルパワー状態。


 横を見たら兄の身体も断続的に、様々な光を放っていた。

 同じように強化を、色々と施したのだろう。

 体つきが一回り大きくなっている。

 筋力強化系が多いんだろうなと、見ただけで分かった。

 てか、見た目まで変わる強化とか。

 こっちの方が、100%中の100%という言葉が似合う強化だ。

 20%でもいけたと思うのですが、臆病なものでねとか言い出しそう。

 しかし、弟じゃなくて兄なのが残念。


 盛り上がってる2人を見る。

 リカルドが唾を飛ばしながら自分語りしてるのが、笑えるほど腹が立つ。

 その昔は悪かった、今は反省してますアピールがクソうざい。


「まあ、リカルドがいたおかげで、あのルーク様が生まれたわけですが」

「確かにあの頃の俺は、クズだった。だが、今は違う!」

「何が違うのですか? 根底は同じでしょう!」


 聞くに堪えない。

 あと、ジェファードに全面的に同意だ。

 今も大して違わないから、少し黙ってくれないかな?

 とりあえず、ジェファードを無力化しないと。

 これだけたっぷりと時間をくれたおかげで、普段の戦闘中なら間違いなく無理なレベルの強化が出来た。

 戦闘中にこれだけの強化を重ねようと思ったら隙がでかすぎて、下手したら殺されてたかもしれないな。

 よし、とりあえず……飛び込もうと思ったら、俺の頭の上を大きすぎる影が通過してった。


「無駄話はそのくらいにしたらどうだい?」


 アルトがまたも巨大な岩を投擲したようだ。

 さっきよりでかいし、さっきより速い。

 小さめの隕石かな?

 引力に逆らってるけど。


「もはや、その程度の石ころでどうこうできると思わないでもらいたいですねっなっ!?」


 ジェファードが手を翳して、岩を弾こうとして目を見開く。

 それよりも先に岩の影に隠れるようにして飛び上がっていたアルトが、拳で大岩を砕いたから。

 いきなり目の前で弾くつもりの岩が破裂したら、誰だって驚くか。

 石の破片がジェファードにいくつもぶつかり、リカルドの上にも降ってきている。

 

「目くらましのつもりですか!」

「そんな訳ないだろう!」


 アルトは砕けた破片の中でもいくつかの大きなものに火を纏わせて、手に持った剣でジェファードに打ち飛ばす。

 その速度はもはや常識を超えたもので、剣に岩の破片が当たった音が聞こえた瞬間にはジェファードに襲い掛かっていた。

 同時に2つや3つ弾き飛ばすものだから、ジェファードの防御が間に合っていない。


「鬱陶しい!」

 

 ジェファードが転移する兆しが見える、そして転移先がイメージされる。

 コンマ秒差で、こちらも転移をセットする。

 ようやく、俺にも出番が回ってきた。

 クイックと思考加速と未来視のお陰で、相手の行動が手に取るように分かる。

 いや、アルトとの打ち合いは、速すぎて未来視が追い付いてなかったけど。

 さらに魔法にもクイックを付与しているから、相手より後に魔法を使っても同時に発動する。

 便利すぎる、時空魔法。 


「これで、なっ!」


 アルトの横、少し離れた場所に転移したジェファードが、直後に目の前に現れた俺に驚きを隠せていない。

 その表情が見れただけでも、嬉しい。

 

「遅いね?」


 即座に、脇腹めがけて蹴りを放つ。

 避けきれず直撃したが、振りぬく前に転移で逃げられる。

 だが、それも視えている。


 そこに向けてクイック付与により速度が遥かに増した、ファイアーランスを20発ほど打ち込む。

 

「ぐぅぅっ! ありえないでしょう! なんですか、その魔法の速度と威力は! 大体、魔王の核も持たずに絶望も知らず、温い人生を送ってきた割に強すぎじゃないですか? あの悲惨な過去が、貴方を強くしたのでは無かったのですか?」

「そう? そんなこと、無かったみたいだね?」


 両手を交差させてファイアーランスを受けつつ後退するジェファードに対し、一気に詰め寄って剣を放つ。

 俺が剣を使ったことで、ジェファードも後退しつつ剣を合わせてくる。


「アルト殿と同じ目に合いたいみたいですね?」


 そう言いながら、ジェファードが全力で光の剣を振るう。

 剣同士が衝突するが、俺の剣は折れない。 

 動体視力も強化されてるからね。

 正面から受けずに、力の流れを逃がすように剣を動かす。

 

「なに?」


 振り下ろされた剣に対して、負荷がかからないように絶妙な角度で当てつつ、力の向きを上手く誘導ししてやる。

 それだけで、ジェファードの身体が泳いで俺の目の前に背中を晒すことに。

 隙だらけだ。

 クイックで加速した動きに、魔王となったジェファードですら反応できていない。

 そのまま肩口に斬り付ける。


「ぐぅぅぅ……どうやってそれほどの強さを……」

「元からじゃないかな? 別に絶望や、魔王の核なんかなくとも強かったんだよ。たぶん、俺は」


 俺の言葉に、ジェファードが悔しそうな表情を浮かべる。

 しかし、それでも諦めたわけじゃないようだ。


「それを受け入れるわけにはいかない! であれば、魔王様の……ルーク様の生涯はなんだったというのですか! 魔王でなくとも最強であったなら……救われる道は他にもあったでしょう!」


 ジェファードが光の剣を握りなおし、俺に向かって斬りかかってくる。

 八つ当たりかな?

 それでも、ここまで最初の世界の俺のこと思っていてくれたのか。

 リカルドなんかよりも、よほどにいい仲間じゃないか……

 ルーク……お前にも、こんな優しい味方がいたんじゃないか。


 なら、俺の手で自ら、引導を渡すべきか。

 だが、ジェファードの剣を俺が受けることは出来なかった。

 頼りになりすぎる、兄のお陰で。

 

「なぜ! なぜ、貴方が受け止められる!」

「なぜかな?」


 そう、破れかぶれになって振るわれた、ジェファードの剣を止めたのはアルトだった。

 そして、真正面からぶつかって、なおアルトの剣は折れる様子が無い。

 本当に、兄も兄で規格外だな。


「まったく手応えがない……何をした!」

「言うわけないだろう……」


 種を聞いてきたジェファードに、アルトが少し呆れた様子だ。

 いや、俺も聞きたかったんだけど?

 種明かし。


「ルークだけじゃなく、アルト殿まで……何が……」


 リカルドが、絶賛混乱中だ。


 俺一人でもどうにかなりそうだったけど、中身までは分からないが複数のバフが掛かった兄でも対処できるのか。

 少し、魔王ということで、慎重になりすぎていたのかもしれな。


 ただ、こちらの火力不足も、問題だったりする。

 無論、消し飛ばすほどの攻撃手段はないことはない。

 なんなら、対魔王特化の特攻魔法なんかも、いくつか使えるし。

 だからこの場合の火力不足と言うのは、上手く相手を抑え込む良い塩梅の火力の攻撃手段が不足しているという意味だ。

 命を奪わず無力化して、なおかつ大人しくさせる手段が無いということ。

 

 被害者の一人だと思うと、虫を殺すように殺すことはできないし。

 リカルドよりかは、どうにかしてあげたいと思えてしまうほどにまともだしな。

 それ以上に、ルークをあれほどまでに思ってくれていた相手だ。

 なんとかして、こっち側に引き込みたい。

 もっと早くに存在を思い出して、出会っていれば……

 俺やアルト、リック殿下やビンセントと、楽しく観光したりエアボードを楽しむことが出来たかもしれない。


「ぐぅお」

 

 考え事をしている間に、思いっきりアルトのボディブローがジェファードの腹にめりこんでいた。

 ジェファードが口から、胃液を吐き出している。

 せっかくの感傷が台無しだよ、お兄様。

 まあ、兄からすれば、ただの魔王でしかないか。


 いやいや……そもそも、魔王にボディブローって効くの?


「ガハッ」


 さらに、顔面にジャブからのストレート。

 思いっきり、首を持ってかれている。

 お手本のようなワン・ツー。

 ただ、ジャブが恐ろしく早かった。

 動体視力強化とクイックを掛けた俺じゃなかったら、見えてなかっただろう。

 てか、ジャブと一緒に波状系の衝撃波も発生してたみたいだし。

 髪やら襟やら拳が当たってないところにまで、影響が出ていた。

 

 兄の方は良い塩梅の火力の攻撃手段があったのか。

 それが素手という、嘗めプに近いのはどうなのだろうか?

 アレス様は……確かに、肉弾戦はかなりお上手だと聞いたし。

 判断が難し。

 

 あっ……


 そして綺麗な半円の軌道を描いた、速すぎる右ハイキックを側頭部に叩き込んで、ジェファードを地面に叩きつけていた。

 容赦がない。

 本当に……


 身体の構造は人間と一緒だから、あの猛攻を受けたら立ち上がれないかもしれないな。

 しかし、魔王を縛れるようなものが、想像できない。

 ジャストールに戻ったら、いろいろな素材のワイヤーやら、紐があるにはあるが。


 地面に寝転んで、ピクリとも動かないジェファードを見て、少し考え込んでしまった。



連続投稿を、少しお休みさせていただきます。

まあ、上司が倒れて……現在10連勤目突入です。

10日で110時間くらい働いているので、そろそろ身体がきつくなってきました……

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[一言] 小説投稿しなくていいから寝て!?
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