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第7話:ジャストール兄弟本気を出す

 やっぱり、どう考えても足りないと思う。

 聖剣に対して、少し心もとない。

 武器がナマクラではないが、普通の剣。

 この剣で、あれに対抗できるのか?

 

 兄も同じ考えのようだ。

 自分の剣を見て、少し考え込んでいる。

 

 どちらもジャストールの名工が打った、名剣ではあるが。

 別にドワーフ謹製の、魔法剣とかではない。


 周囲には剣がたくさんある……

 倒された自軍や敵軍の持っていた物。

 

 なんとかなるか。


「なっ!」


 地面に落ちていた剣が10本ほど浮かび上がり、俺の周りを垂直に立って回り始める。

 便利だな魔法。


 兄は……巨大な岩を引っこ抜いてた。

 いや、おかしいだろ。

 どう考えても、人が持てるレベルじゃないんだけど?

 直径が2mはありそうな、大岩。


「ああ、ルークは私の本気の身体強化スキルは、初めてだったね」


 強化されすぎだろう。

 魔法じゃなくて、スキルというのも気になる。


「アレス様の加護のお陰だよ」


 流石、力と戦の神。

 力の振れ幅が、半端ない。


「聖剣というくらいだから、このくらい斬れるかな?」


 そう言って、大岩を投げつけるアルト。

 これで剣士だから、どうしようもない。


「馬鹿を言うな! いくら剣の斬れ味がよくとも剣身より長い岩を、両断できるわけがないだろう!」


 ジェファードが横っ飛びでそれを躱したので、そこに向けて10本の剣を全て魔法で射出する。

 地面を転がって全ての攻撃をかわした彼に対して、上空からアルトが踏み付ける勢いで振ってくる。

 

「くそっ! 出鱈目だろう! うぐっ!」


 地面に手をついて弾みで体勢を整えようとするのが見えたため、地面に接している手のひらめがけてアースニードルを放つ。

 地面から突き出た岩の針が、ジェファードの手の平を貫く。

 

「ぐあっ!」


 さらに、そこに兄の踏み付けまで炸裂して、鈍い音が聞こえてくる。

 胸骨が折れたのだろう。

 

「うぐぁっ!」

「ジェファード様!」


 そのまま兄が脇腹を蹴り飛ばしたため、縫い付けられた手の平が裂けておびただしい血の跡を残しながら、滑るように吹き飛ばされていった。


 右手が使えず、左手一本で剣を持つジェファードが慌てて起き上がる。

 と同時に、地面が爆発。

 発動待機状態の、ファイアーランスを10発ほど見舞ったわけだが。

 

「いや、魔法の連射速度えぐすぎないか? お主の息子」

「私の子供たちが、異常すぎる……」


 アイゼン辺境伯と父ゴートの会話が聞こえてくるが、無視して次から次へと魔法を放つ。

 隙を見せれば、兄は大岩を投げ飛ばしているし。

 いや、剣で斬り合ったら、確実にこっちが不利だし。

 なんせ剣を合わせると、折られる危険性もある。

 折れた刃先の飛んで行った先が自分の顔をとかなら、どうしても躱すために隙もできるし。


 持てる力を出し惜しみせずに使って、全力で速攻で片をつける。

 相手が隠し玉をもっていそうなだけに、それを出させる前に終わらせる。


 そう思ったんだけどな。


「消えた……」

「ですね」


 地面に出来た黒い影に、ジェファードが吸い込まれてしまった。

 死んだわけでも、何かされたわけでもなさそうだが。

 

「そこだ!」

「気配の消し方が、甘いですね!」


 上空に現れる気配を感じたので、またも剣を10本ほど向かわせる。

 ただ、なぜか俺の放った剣よりも、兄が投げた岩の方が先にジェファードに到達していた。

 アレス様……自重って言葉、知らないのかな?


「本当に強すぎますよ、貴方たちは」


 だが岩も剣も全て、ジェファードを包み込む半透明の黒い球体に防がれてしまった。

 地面に落ちてきた岩や剣を、周囲の騎士たちがわーわー言いながら避けている。

 緊張感が無い。


「へえ、闇属性」

「光の勇者なのに?」


 そして、彼の周囲に黒い魔法の槍が、無数に生成されていく。

 いつの間にか怪我も治っていたようで、右手に剣を持ち換えていた。

 凄いな……

 闇の中で幻想的に光り輝く剣に、少し恐ろしいものを感じる。


「あれ? 私は勇者だと言いましたが、光のとは言ったつもりはありませんけど?」


 光の勇者じゃないのか?

 でも、闇の勇者はありえないよな。

 フォルスは俺の従者だし。


「光と闇を司りし女神に加護を授けてもらった、勇者ですよ……さしずめ、光と闇の勇者でしょうか?」


 そう言いながら剣を振ると、一斉に魔法の槍がこちらに向かってくる。

 しかしなぁ……


 片手を前に出して、おれはその槍を全て吸収する。

 闇属性は、俺には通用しないんだよな。


「やはり、暗黒神の加護は別格ですか……それとも、魔王だから成せる技でしょうか?」


 ジェファードが嬉しそうに笑みを浮かべる。

 なにかやら心酔しているような怪しい視線をこちらに向けて、手を叩いて頷いている。


「素晴らしい! それでこそ、ルーク様ですよ」


 ルーク様?

 何を言ってるんだ、こいつは?

 アルトの方を向くと、少し小首を傾げている程度。

 いやいや、確かに俺が褒められたけど。

 だからって、反応に困らなくても。

 少しだけ、本当に少しだけジェファードに兄が好意的になったのを感じて、思わず頭を振ってしまった。


「私はね……あなたに嫉妬していたんですよ。そして、それ以上に憧れていたんですよ!」


 いやいや、意味が分からない。

 ほぼほぼ初対面だし、俺の何が分かるんだ?

 それともあれか?

 領地運営や開発のことを言っているのだろうか?


「魔法も使えないのに戦場で先陣を切って、もっとも多くの敵を殺す英雄! 表情を変えることなく命乞いに一切聞く耳を持たずに、淡々と作業のように兵を切り刻むその姿。戦場の死神と恐れられ、懸賞金まで掛けられたにもかかわらず、全ての刺客を両手両足を切り落として、殺さずに晒す無慈悲さ……ああ、思い出すだけで身体が震えます」


 本当に、何を言ってるんだこいつは。

 俺は戦場に出たことも無ければ、そんな残忍なことをしたことはない。


「そして、魔王に至った後のその姿。黒を纏い、闇を放つ巨大で雄々しい出で立ち。そして、吸い込まれそうな深い闇を体現しているかのような、そんな立ち居振る舞いに私は……世界の理を感じ取ったのです! 私こそが、魔王様の側近に相応しいと……ベゼル帝国を手土産に、貴方の元に。思い出されませんか?」


 ああ、なんかゲームにいたな。

 そんなキャラ。

 すでに怒りと絶望以外の感情を失っていたルークにとっては、どうでも良い存在だったのだろうが。

 魔王の側近として、黒い全身鎧を着た人間。

 途中でリカルドによって倒されたが、それなりに強かった気がする。


「思い出すわけないですよね……あなたは、あのお方とは違うのですし。まあ、私が思い出したのも最近の話ですけどね。偽物とは言いませんが、貴方では魔王様のようにはなれないことは、悲しいですが理解しました。ならば、私の神に頂いた力で、私が貴方の代わりを務めましょう!」


 そういうと、ジェファードの胸の辺りから闇の波動があふれ出る。

 おいおいおい……


『フォルス!』


 闇ならとフォルスを呼ぼうとするが、返事が無い。


「無駄ですよ……暗黒神は、影神と私の神を相手に、手一杯でしょうし」


 ちっ!

 

「兄上!」

「ああ、あれはまずい!」


 とりあえず気休め程度だが少しでも時間を稼ぐため、ジェファードにスロウの魔法を掛ける。

 そして、自分と兄にクイックの魔法を。

 二人で顔を見合わせて頷くと、一気に地面を蹴って空中のジェファードの元に。


「行くよ!」


 アルトがジェファードの張った闇の結界を、殴って叩き割る。

 本当になんでもありだな、この人。

 そんなことを思いながら、俺は両足の裏で風の魔法によって空気を破裂させ、空中で加速する。

 ヤバイ。

 目に見えない重力結界か……ジェファードに近づくにつれて、俺の速度が一気に落ちていく。

 

「おっと、危ないですね」


 後ろから火球がいくつも飛んでくる。

 兄が放ったものだろう。

 俺も、光の矢や氷の矢、石の礫など効果がありそうな魔法を次々と放つ。

 それらが、全てジェファードに直撃した。


「無駄ですよ……もう終わりました」


 魔法の着弾による煙が晴れた後に浮かんでいたのは、魔族のような見た目になったジェファードだった。


「英雄の卵……魔王の核……表裏一体だったようですね。さて、これで私がこの世界の魔王となりました……ふふふ、勇者で魔王。素敵だと思いませんか? 光の聖剣を装備できる魔王なんて」


 うわあ、禍々しい見た目で神々しい剣とか。

 ミスマッチにもほどがあるというか、強者感が凄いというか。


「てっきりリカルドをあっさりと殺すかと思ったのですが……やはり、別人のようですね? あれだけのことをされて、許せるなんて」

 

 こいつに勇者の加護と、英雄の卵を植え付けたやつに心当たりが出てきた。

 やはり、光の女神か……


 ああ、直接仕返しができるとは。

 しかし、時間逆行の影響を受けて、記憶を維持できるなんてな。

 何が原因か分からないが、どうりで俺たちの前に姿を現さなかったわけだ。

 まさか、今度も魔王を生み出すとは。

 本当に、ろくでもない神だ。


 しかし光の女神と影の神2人掛かりだと、フォルスの方が気がかりだ。

 目の前の魔王となったジェファードを見る。

 いかに早く、こいつを倒すかだな。

 幸いにも、兄もいることだし。


 本気ではなく、なりふり構わない全力でいかせてもらうか。

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