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第4話:捕縛

 ベゼル帝国軍が、ついに国境を越えてアルガフの町に侵攻を掛けた。

 侵入前にと思っていたが、聖教会に全てを押し付けるなら敢えて引き込んでもいいと考え直すことにした。

 リカルドの罪も重くなるが、極刑さえ回避できれば挽回のチャンスはある。


「しかし、酷いありさまだな」

「ええ、一般市民まで聖教会の騎士に対して、集団で対応に当たるなんて」

「随分と嫌われているようだ」


 俺を魔王に仕立て上げるために演説していた司祭を取り押さえたあと、国境門へと向かう道すがらあちらこちらで市民に取り押さえられている、白い甲冑に身を包んだ騎士を見て苦笑いする。

 国境に住むような人たちだ、それなりに武術の心得を持つものも多いのだろう。

 市民に混ざって、冒険者達も手を貸しているようだし。


 うちの騎士たちは、すでに最前線へ続々集結しているらしい。

 というよりも……


「リカルド殿下と、ジェファード皇子を捕らえました」


 俺とアルトの姿を見たうちの騎士が、報告に急いでやってきた。

 他にもエアボードに乗った騎士達が飛び交っているところをみるに、向こうもこっちを探していたらしい。

 

「なぜ、私たちがここに来ると?」

「それは、お二方がアルト様とルーク様だからです」


 答えになっていない。

 俺たちがここに来るのは当然だと考えられているということは……

 俺もアルトも、単純だと思われているのだろうか?


 ベゼル帝国とヒュマノ王国の国境門の間には、少しばかり距離がある。

 といっても、100m程度だが。

 その間でうちの騎士たちが2人が馬でこちらに向かってくるのを、取り押さえたらしい。

 いやいや、勇者様……


「いまは、領主様とギルバート様が対応しております」


 いや、アイゼン辺境伯の国境警備隊の代表は?

 そもそも、ここだと俺たちは部外者とは言わないけど、あくまで助っ人というか。

 援軍扱いだと思うんだけど。


「なぜ、父が?」

「現時点で、国境警備隊の指揮は領主様が取り仕切っております。流石にあそこまで張り切っている男爵家当主に、一家臣に過ぎない騎士爵の隊長では強く出られないでしょうし」


 それでいいのだろうか?


「おそらく、アイゼン卿が到着されましたら、指揮は移譲されると思いますが……抗議は受けることとなるでしょう」


 そうだよね?

 他所様の領地で、そこまで勝手なことをしていいわけがない。

 そのくらいは、俺でも分かる。


「とはいえ、我々もそれなり以上の活躍も見せておりますし。本当に抗議程度だと思います。ご安心ください。実際に何かしらの罰則や賠償は発生しないかと」


 楽観的過ぎる。

 アイゼン辺境伯とすれば、自軍の面子を潰された形だというのに。

 それをお小言程度で済ませるとか。

 ありえるのかな?


 思わず、アルトと顔を見合わせてしまった。


「お二方はご存知ないかもしれませんが、アイゼン辺境領とジャストール領ではある程度の取り決めがありまして……アイゼン辺境領内での防衛戦において、我がジャストールの軍勢はある程度の裁量権を与えられております。そういった部分もあって、国境警備隊が領主様の指揮下に入ったのですよ」


 何も安心できないけど、ここではうちは特別扱いだということらしい。

 過去の実績のお陰かな?


 それから、騎士の案内でリカルドたちのところへと連れていかれる。

 これって、前線に向かうってことかな?

 アルトの方に視線を向ける。

 彼も困った様子で、両手の手の平を上に向けて首を振っている。


「現時点での戦場での最高責任者からの指示だ。従わざるを得まい」

「ですね」


 とりあえず、この責任も父に押し付けてしまおう。

 いっぱいアイゼン辺境伯にお小言を言われるかもしれないけど、自業自得と割り切ってもらうしかない。

 とばっちりを受けそうな気が、しないでもないけど。


 国境に向かう途中で、フォルスから報告が入る。

 リーナに付けていた闇の精霊から、彼女を見失ったとの連絡が来たらしい。

 そういうことって、あり得るのか?


 いや、彼女もどこかおかしなところがあった。

 きっかけは、フォルスの報告だったが。

 この町で再会したときに光の魔法の適正だけでなく、闇の魔法の適正も得ていたとのことだ。

 俺はフォルスに恋い焦がれていて、暗黒神に対する信仰の最たるものだからと勝手に自分の中で結論付けていたが。

 フォルスは納得していなかった。

 それで、自分の手の者を付けていたらしいが。

 闇の精霊をまくとか……

 いや、もしくは何かに巻き込まれたか?

 光の女神の仕業かもしれない。


『とりあえず、手分けして探させてみたらどうだ?』

『現在、捜査中です。ただ、気配がどこにもないらしく……』

『範囲を広げて見ろとしか、俺からはアドバイスはできないな。念のため、この町の付近に闇の精霊がいるなら手伝わせてこの周囲も見させてみてくれ』

『はっ』


 フォルストの念話を打ち切って、国境門へと向かう。

 しかし、嫌なタイミングで嫌なことを報告してくる。

 もやもやとしたものを抱えつつ、門を超えてリカルドに会う。


「ルーク! いや、魔王! 姑息な手を使いやがって」


 俺の顔を見たとたんに、リカルドが何やら喚き散らしているけど。

 姑息な手?

 アルトと思わず顔を見合わせてしまった。


「まんまと誘い込まれてしまった! どこで知ったか知らんが、なぜこれほど早くにこの町に戦力を送り込めた! 貴様が、罠を張ったのだろう!」


 何を言ってるんだこいつは。

 というか、こいつは誰に捕らえられたんだ?

 見事に無傷で、ロープに縛られているが。

 その横にもう一人、立派な鎧に身を包んだ美青年がいるが。

 歳はアルトと同じくらいか?

 グレイっぽい髪の毛と、碧眼が特徴の細面の青年。


「リカルド殿下、少し黙ってもらって良いですか? 何が言いたいのかよくわかりませんし、貴方の取り調べは今はゴート男爵が行っているところでしょう」


 こちらにいきなり声を掛けてきたリカルドを一瞥すると、もう一人の青年に視線を向ける。


「あなたが、ジェファード皇子ですね」


 アルトが、その青年に語り掛けていたが。


「いかにも、私がジェファード・フォン・ベゼル。ベゼル帝国皇帝の第二皇子である」


 縛られた状態で偉そうに名乗っているけど、自分の立場分かっているのかな?

 捕虜なんだけど。


「そして、そちらの少年がルーク殿か……魔王と聞いていたのだが、存外普通の少年だな」


 ジェファードがこっちに視線を向けて、ゆっくりと自嘲気味に話し始めたが。

 なにか嫌な視線だ。

 身体を縛られて身動きできないくせに、俺を値踏みするような。

 随分と余裕を感じられる。

 その余裕が不気味で、素直に安心ができない。

 

「それは殿下から言われたのでしょうか? 聖教会が勝手に言ってることですよ」


 アルトが続けて声を掛けているが、ジェファードはそちらに視線を向けることなく俺の方をジッと見つめている。

 顎をあげて、鼻で笑われた。

 

「光の女神からだ……私も勇者でね……」


 知ってる。

 しかし、まさか本物だとは思わなかった。

 リカルドが光の女神から指定された正式な勇者だと思っていたのだが、ジェファードもそうらしい。

 しかし、加護を受けている割には、あっさりと捕まったもんだ。


「ルーク! 俺と勝負しろ!」


 ジェファードと睨み合いを続けていると、横から大きな喚き声が聞こえてくる。

 流石に集中力を切らされたため、そっちに視線を向ける。


「ジェファードではなく、俺が光の勇者として貴様を滅する! そして、世界を手に入れるのだ!」


 いやいや……

 何を言ってるんだ、この男は。


「世界を平和にするために、世界中の国を統一する。貴様のようなものを、生み出さないために!」


 その物言いに、思わずイラっとしてしまった。

 こいつの独善的な考え方に対してか、それとも最初の人生で聞いたようなセリフだったからか。

 

「落ち着いて」


 アルトが俺の肩に手を置いて、優しく語り掛けてくる。

 それだけで、少しだけ気持ちが落ち着くのを感じる。


「ここまでですな」


 それまで黙って成り行きを見守っていた父が、声を掛けてくる。

 父がお膳立てした場であったが、思っていたやり取りとは違っていたようだ。


「殿下が望まれたから息子との対談の場を用意しましたが……無駄な時間でしたね」

「ゴート男爵……貴様、後悔するぞ?」


 リカルドが父を睨みつけているが、鼻で笑われる。

 

「その程度で、光の勇者などと……我が部隊の一般の騎士にも勝てぬくせに、小童(こわっぱ)が思い上がるな!」

 

 大声で怒鳴りつけられたリカルドが、思わずビクッと身体を震わせていたが。

 俺たちにすら怒ったことのない父が、本気で怒ったのをはじめてみた気がする。

 訓練で見せる厳しさとはまた違った、それなりの迫力を感じた。


「それなりの迫力だとか思ってそうだね? 向けられた方は、それなりどころじゃないと思うよ」


 俺の表情を見たアルトが、ため息交じりに首を横に振っていたが。

 うん、結構な迫力だったんだな。

 

 

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