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第1話:出陣

プロローグ

「すまないね、私に合わせてもらって」

「えっ?」

「ルークだけなら、転移ですぐだったろう」


 エアボードでアルトと並走していたら、不意にそんなことを言われた。

 やっぱり、バレるよね?

 近距離転移は、手合わせの際に何度も見せているし。


「いや、距離制限があるから。アリス……姉さまに許可をもらわないと」

「ふむ、アリス姉さまか……」


 俺の言葉に、アルトが顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。

 しかし、それ以上は何も言ってこなかった。

 藪蛇だと思ったのだろう。

 薮神だけど。


 藪をつついて、神が出てくるってなんか嫌だな。


「以前の呼び捨てよりはマシか。不敬ではあるが……」


 アルトは早々にアリスとアマラが、神であることには気づいていた。

 だから、胡麻化しても仕方がない。

 考えることをやめたアルトが、エアボードの速度を少し落とす。


「そろそろ、見えてきたな」

「流石に、このボードは速いですね」

「その分、操作性は悪いけどね」


 ミラーニャの町を出て、一時間と少しで目的の町が見えてくる。

 っと、流石に近い分だけあって行動が早いな。

 頭の上を素通りするわけにはいかないか。


「兄上!」

「ああ」


 俺が下を指し示すと、アルトが頷く。

 俺たちの眼下には、アイゼン辺境伯が後詰めの軍を率いて国境の町に向かっているところだった。

 といっても侵攻軍より先に現地に着くわけだから、後詰めとはいわないか。


 すぐに滑空姿勢に入って、部隊の前方少し離れた位置を目指す。

 このボードはかなりのじゃじゃ馬だから、着地にはかなりコツがいる。

 そういった理由もあって、俺とアルトしか今のところ乗りこなせていない。

 

 前宙でボードの頭を下から蹴って、着地する。

 そして空中に跳ね上がったボードをキャッチして、脇に挟んで部隊に駆け寄る。

 制止に関しては改良の余地がありあすぎるけど。

 唯一乗れる俺とアルトが、特に不便を感じていないからずっと後回しにしていた。

 障害物の多い街中での着地は、流石に難しそうだな……


 兄上は、なぜかピタリとボードを止めることができるけど。

 一度やり方を聞いて、内緒だと言われた。

 内緒も何も、ありえない挙動なんだけど。


「アイゼン辺境伯」


 片膝を付いて頭を下げると、ざわめきが起こっていた。


「お前達兄弟は……」


 すぐに俺たちに気付いたアイゼン辺境伯が、呆れた様子で馬上から声を掛けてきた。

 溜息を吐いて、(かぶり)を振ると、表情を引き締めて見下ろしてくる。

 

「まあよい、立て」

「はっ」


 アイゼン辺境伯の許しを得て、立ち上がると軽く挨拶を交わす。


「緊急時故、馬上より失礼する。で、お主たちはここで何をしておる?」


 少し厳しい声音で問いかけられ、兄と顔を見合わせる。

 ここは兄が答えるべきだろう。

 俺が頷くと、アルトが一歩前に出る。


「男爵がすでに国境の町、アルガフに入っております。我らもそこに加わろうかと」


 アルトの言葉に、アイゼン辺境伯がこめかみを指で押さえる。

 頭の痛そうな表情だ。


「お主らは、まだ子供であろう? 戦場に立つことなどない」


 当然の言葉だと思う。

 しかし、俺は当事者だしな。

 できれば、ここでリカルドと決着を付けたい。


「今回の戦の原因は私ですから。私が行かなければ、収まらないでしょう」

「付けあがるな! 貴様みたいな小僧が出ずとも、我らだけでどうとでもなる! というかだな……なぜ、ゴート殿の方がわしらより先に現地に入っておるのだ! おかしいであろう」


 怒られてしまった。

 しかしなぁ……

 思わず、また兄と顔を見合わせてしまった。


 アイゼン辺境伯が、困ったような表情になる。


「いや、エアボードの有用性はよく分かっておる。しかし、わしらも知らせを受けてすぐに発ったのだぞ? そのわしらよりも後に知らせを受けとったであろうゴート殿の方が早いなど……お主ら、まだ何か隠しごとをしておるのでは?」


 話の途中で、何やら思い至ったのだろう。

 視線が険しいものになる。


「我が弟の従者は優秀でして……今のところ、それしか言えません」

「ふむ……まあ、それはそれとしてだ。お主らが、そんな危険な場所に行くことなど認められん。わしにそんなことを言う権利はないと思うかもしれぬが、より上の立場の貴族として命ずることはできる」


 確かにそうかもしれないけど。

 いや、俺たちを子ども扱いして、心配してくれるのは嬉しい。

 嬉しいけど、それとこれとは別と言うか。


「分かる! 分かっておる! 自惚れているとは言わん。お主らが、規格外だということは! だがな、人を斬ったこともない……なんじゃ、その微妙な顔は」


 いや、斬ったことも殺したこともあるな。

 特に兄上の場合は、それはもう酷いものだった。

 ミラーニャの町で。

 蹴り殺したというか。

 あとは拷問まがいのときに、一切躊躇せずに耳を斬り飛ばしていたし。

 その後も、ミラーニャの町の粛清で何度か俺自身も、手を汚さざるを得ないこともあったし。

 俺の場合は、殺してまではいないけど。

 

「ふむ……ことが終わったら、お主らの父親と一度じっくりと話し合わんといかんみたいだな」


 ごめん親父殿。

 アイゼン辺境伯が、何やら静かに怒ってるけど。

 その矛先が、俺たちじゃないことに一安心。


「まあ、これも経験か。とりあえず、我が部隊に加わるがよい。馬は……」


 アイゼン辺境伯が、俺たちの小脇に挟まれているボードに目を向ける。

 そして、首を横に振る。


「ちなみに、それを使えばどのくらいでアルガフに着くのだ?」

「10分程度かと」


 兄の代わりに俺が答えると、アイゼン辺境伯が目を閉じて首をプルプルと横に振りだした。

 考えることを放棄したらしい。


「実際のところ、お主らはどれほど強いと自分で思っておる?」


 ゆっくりと目を開けて、あっ……なんか、死んだ魚みたいな目になってるな。

 感情の籠ってない声で、問いかけられたが。

 兄の方をチラリと見る。


「この国で、2番目かと」


 俺が恐る恐る答えると、アルトが少し考え込む。


「いや、お前が2番目なら私は3番目かな?」

「なら、私は4番目になりますが? ああ、兄上は世界で3番目かもという意味でしょうか?」

「そこまで馬鹿ではないだろうお前は」

「兄上は、弟馬鹿ですが」

「間違いない」


 そう言って、2人で笑って見せるが……周りの反応に徐々に笑い声が弱くなってく。

 全然、面白くなかったらしい。

 凄く白けた空気にどうしたものかと、思わず兄の脇腹を肘でつつく。

 兄も困った様子だ。


「なあ……アルトはどんな神の加護を得ておるのだ? 戦場に向かうのだ。教えてくれてもいいだろう?」


 アイゼン辺境伯も、もう何も考えたくない様子だ。

 正直に答えた方が良いだろう。

 兄に目配せする。


「力と戦を司る神、戦神アレス様です」

「アレス様……」

「この世界を超えて、複数の世界を見ておられる上級神です」

「ということは……」


 アイゼン辺境伯も光の女神が中級神だということを知る、数少ない貴族の一人だったっけど。

 王城での会議にも参加してたし。

 

「はあ……前線には出ないこと。無茶をしないこと。怪我をしないこと。これを約束するなら、今すぐ向かうがいい。守れないなら、我が部隊で騎士見習の立場として後方支援での参加となる」

「はっ! 必ず」

「いや、前線に出ても無茶でもなければ、怪我などするわけないと思ってそうだなお前は! 最前線は前線とは違うだとか、相手の中ほどは自陣の前線ではないなどというのはただの屁理屈だぞ?」

「ええ、自信はあります」


 兄が若干、脳筋っぽく見えてしまうが。

 事実を言ってるだけだからなー……


「なんの自信だ、なんの!」」


 言質を取ったので、アイゼン辺境伯の前を辞去してボードに乗る。

 とりあえず、兄とともに最速で国境の町を目指す。

 すぐに着くだろうが。

 完全に、リカルドの先手を取ることはできそうだ。

 あとは、待ち構えてどう対応するかを考えないとな。

 作戦……いるか?

 ごり押しで、どうにかできそうな程度だが。


 万が一に備えて、おかしなことになったときの対処法くらいは相談した方がいいか。

 フォルスから、面白くない報告も入ってきた。

 そうだよな……そうなるよな。

 

 

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