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第27話:計画

「いや……本当にね。弟が申し訳ない」


 翌日早朝、リック殿下が祖父の屋敷に来てアルトと俺に頭を下げていた。

 いやいや……

 やはり耳が早い。

 どの段階で、彼の耳に届いたかは分からないが。 

 あちこちに、草を潜ませているのかもしれない。


「流石にもうね……これはどうしようもない」


 言葉と表情が嚙み合っていない。

 真摯に謝意を述べているのだが、どこか嫌な笑みを浮かべている。


「他国の王族と手を組んで、その国の軍を引き入れる手引きをしたんだ……出来ることなら、私の手で引導を渡そうと思う」


 あっ……これマジだ。

 一緒にいると飄々としつつも、いろいろなことに興味を持つ普通の青年なのだが。

 それでもやはり本質は王族か……

 覚悟が見て取れる。

 場合によっては家族でも殺せるだけの。


 俺からすれば、とんでもない話だ。

 未成年の兄弟が殺し合うとか。

 いくら、必要だとはいえ、それは認められない。

 貴族としてどれだけ甘いと思われようとも。

 この辺りは、日本で一生を過ごした弊害ともいえるが。

 俺は、弊害だとは思いたくない。

 どのようなことがあっても、兄弟や親子で殺し合うのは許しがたい。


「そういえば、地球の農耕狩猟兄弟も、漁業狩猟兄弟も神でありながら殺し合っていたな」


 俺の考えが伝わったのか、アマラがそんなことを呟いているが。

 いやいやちょっとまて。

 海の幸は確かに山の幸を殺すつもりで襲ったのかもしれないが、誰も死んでない。

 それにもともと、山の幸が兄の釣り針を無くしたのが悪いのに……お兄ちゃん踏んだり蹴ったりと思った記憶が。


 どうでもいい。

 真面目な話をしてるから、少し黙ってくれ。


(人間同士の兄弟げんかなどどうでもいいのだが?)

 

 じゃあ、どっか行ってろ。


(ぬぅ……弟が冷たい)


 とりあえず、アマラを無視して話を続ける。


「兄弟で殺し合うことはありませんよ。それに当事者の私がそこまで腹を立ててませんので」


 俺の言葉に、リックが変な顔をする。


「ルーク……君が優しいことは知っているが、これはアイゼン辺境伯の問題だ。最初に通るのは彼の領地だからね? それに他国の軍が、我が国に侵攻してくるんだ。これを内々に済ませることはできない。国の面子に関わってくる」


 知ってるさ、それくらい。

 流石に領地を侵したら、それなりに大事になるだろう。

 だからね……国境を超えさせなければいい。

 悪いけど、もうこっちの準備は整っている。


 深夜にジャストールからの援軍が、すでにここミラーニャを通過していった。

 ランスロットがここに寄って、俺に報告しにきてくれたから正確な情報が入ってきている。


「団長はすでに、アイゼン辺境伯領の国境都市に到着しております」


 あー……団長ね。

 ランスロットが基本矢面に立ってるから、影が薄いけど。

 剣以外の全てにおいて、ランスロットの上をいく化物。

 俺とアルトを除けばという前提条件がつくけど。

 ……ヘンリーとサリアも加護込みですでに末恐ろしい素質だけは秘めているけど。

 現状、ジャストール領では、三番目に強い男だ。

 と思っていたのだが、どうやらそれは違うらしい。

 彼よりも強い人物が、うちの領地にはいたらしい。

 外に出ている者も含めたら、2人も。


 この団長、火と風の精霊の加護2つ持ち。

 これ以上にエアボードに乗るための才能を持つものが、他にがいるだろうか?

 燃料を燃やしてタービンを回して噴流をつくりだし、一気に加速する装置が団長専用機にはつけてある。

 さらには風を操ることで抵抗をなくすこともできるところか、後ろから追い風を起こしてさらに加速を手助けることも。

 それに空気を大量に加速装置内に送り込むことも。

 

 長時間は無理でも短時間の瞬間加速においては、領内最速を誇っている。

 俺とアルトの、速度特化の専用機の方が早いけど。

 あれは、本当に速度だけ。

 曲がるのがすごく大変だから、超高高度を真っすぐ飛ぶ専用。


 あと、ランスロットから聞き捨てならない言葉も。


「指揮は御館様です」


 何をやってるんだ、我らの親父殿は。

 というか……


「ええ、こっそりとエアボードの練習はなされておりました。本来であれば、ジャストールの本邸でお坊ちゃまに披露して、一緒に楽しむつもりであったようですが……それを台無しにされた御館様の怒り様はすさまじく」


 年甲斐もないことはないが、いくらなんでも先陣を切っていくのはどうなのだろうか? 


 そして続々と国境の町にジャストール軍が。

 アイゼン辺境伯の正規軍を追い抜いて。

 それはそれでどうなのだろうか?


 ちなみに、対外用のエアボード部隊は40人編成だ。

 領軍にしては、かなり多いと思う。

 基本常駐の軍は男爵領なら100人に満たない。

 50人を切ることも珍しくない。

 それ以外は民兵や、傭兵を徴収して集めるからな。


 だがジャストール男爵領の領軍には、常に正規の軍人が600人ほど登用されている。

 なぜかって?

 お金があるからだよ。

 

 お金が貯まる一方だから、兵を大量に雇い入れることができる。

 傭兵稼業のものたちも、いまとなっては正規軍として常駐するようになるものが多い。

 基本は鍛錬と、交代での治安維持が任務だ。

 他には領主一族や来客、来賓の護衛など。

 仕事は多岐に渡る。

 

 しかし常に鍛錬を行えることで、兵の練度は相当に高い。

 そのことを知って、腕に覚えのあるものたちもどんどん集まってくる。

 強さにどん欲な者たちも。


 冒険者あがりの兵も多くいる。

 そういった面も含めて、うちと辺境伯領で国家転覆がとかって噂になるんだろうな。


 ちなみに、民兵を徴兵すれば……いや徴兵するまでもなく、戦が起こるとなれば自発的に3000人から集まるだろう。

 好戦的な民衆ってどうなんだ?

 彼らも定期的に軍事演習などを行っているらしく……その報告を受けた時に、意味が分からなさすぎて頭を抱えてしまった。

 徴兵しているわけではないが、15歳から17歳までの男性は戦闘訓練を……なんで?

 2年前から始めたらしいから、いまの17歳は練度2年の兵に匹敵するのか。

 いや、だからなんでだ?

 自分たちのことは自分たちで守れば、アルト様がなんとかしてくれると。

 領主一族が出れば、どんな困難も乗り切れる。

 後顧の憂いは無くすためにも、足手まといにならないためにも戦う力を……

 敢えて何も言わなかったが、この報告をもってきたジェノスを小一時間問い詰めたかった。


 それにしても、領民が好戦的過ぎるというか。

 その矛先がこっちに向くことを想像すると、怖いのだが。


 ということで、すでに辺境伯領の東北の端にある国境都市には軍が配備されているとのこと。

 1日余裕はあるし、ランスロット達がいるなら持ちこたえることも……

 相手方って300人規模だっけ?

 うちからすでに到着している援軍が40人。

 国境警備軍が200人。

 この計240人は職業軍人だから、練度で劣ることはまずない。

 そしてうちから送った40人は加護持ちだらけ。

 加えてアイゼン辺境伯領から、後詰めの兵が進軍中。

 さらには非常時の招集目的の、傭兵兼冒険者が30人近く在籍。

 それどころか、国境都市ならではというか。

 募兵軍人ではなく、兼業軍人なるものが多数いるとか。


 ポルトガフ辺境伯がその300人に対して、手助けしなければ圧倒的だな。

 話にならない気がする。

 相手側には光の女神がついているけども、こっちは闇の神がついている。

 それ以外にも……


 いや、本当にこれでどうにかなると思っているのだろうか?

 あの駄女神は。

 何かしらの勝算があってのことだろうが。


 1日あれば、リック殿下やジェニファ達の避難はなんとかなるか。

 最新の馬車を、馬たちに全速力で引かせるか……

 いや、戦争が起こるかもしれないのに、出し惜しみしても仕方ないか。


 まずは、状況の説明からだけど。

 これはリック殿下が適任だろう。

 流石に俺から、リカルドの行動をどうこう言えるわけもないし。

 リックには見捨てられているかもしれないけど、陛下がどう思っているかは分からない。

 変な風に転んで、リカルドが一応戻ってきた場合。

 あまり、関係をこじらせるような物言いは、控えた方がいいかもしれない。

 気を遣っているわけじゃない。

 少なからず責任を感じているから、なるべく上手くことを運びたい。

 いや、隣国の皇子に関しては、何も思わないけど。

 まあ、巻き込まれた感はあるが、俺の影響を受けたわけでもなし。

 同調の範囲外の出来事だ。

 そこまで、面倒を見る気は全くない。

 ただ、リカルドは違う。

 俺のせいでおかしくなった可能性がある以上は、正常な状態に戻したうえで判断すべきだろう。 

 だから俺の口からこっちサイドの人間に悪い印象を植え付けるのは、彼の社会復帰の妨げにしからならないし。

 

 正常な状態で、救いようがないほどのあほなら放置だな。

 救っても良いと思えるほどの人間性だったら、全力で手助けしよう。

 罪滅ぼしも兼ねて。


 ただ、それをしなくても周囲がキレまくってるからなー……


 うん、後回しだ。

 まずは、ジェニファ達に事情を説明して、避難をしてもらわないと。

 昼まで買い物に時間を使って、全力で買い物をしてもらおう。

 もうこの際、お金は全部俺が出すようにしよう。


「フォルス」

「ビレッジ商会ですね」

「ああ、金貨1000枚ほどもらってきてくれ。それで足りなければ、全部ビレッジ商会につけておこう」

「太っ腹ですね」

「神であるお前なら分かるだろうが、金なんてのは手段に過ぎん。使うべき時に使うものだ」


 無駄遣いかもしれないが、日に三食きっちり食べられるだけの金があれば死ぬことはない。

 それ以上のお金は、別に不要だ。

 そもそも、生活の面倒はまだ親が見てくれてるしな。

 

 ……現状、金貨1000枚なくなったとしても、一ヶ月でそれ以上稼いでいるし。

 全員にお詫びに別荘を買っても、1年で使った分は戻ってくるだろうし。

 とりあえず午前中に買い物を済ませて、お昼ご飯を最終日に予定していた場所で取って。

 その後、俺の手配した馬車で二つとなりのキオニ領まで届けよう。

 そこもコンサルの関係で、伝手はある。

 お金と手紙を渡して、全力で接待してもらって。

 次の日には王都に向かってもらう。


 で、俺は転移で国境都市に向かえば、リカルドが来るまでには余裕で間に合う。

 面倒だが、ここでけりをつけるべきだろう。

 せっかく、女神がノコノコと尻尾を出してリカルドをぶつけてやってきたんだ。

 決着といこうじゃないか

 

 

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