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第9話:リーチェの町

「しかし、こうしてみるとお前の作った町は凄いな」

「いえ、私ではありませんよ。村の方々が頑張った結果です」

「村……か」


 公園のベンチで父母に挟まれ、ヘンリーとサリアが遊ぶ様子を見ながらとりとめのない会話をする。

 久しぶりすぎて、ポツポツとしか話が出来ていないが。

 父も母も、少し言葉に詰まっている様子だ。


 ヘンリーたちは他に公園で遊んでいる子たちと、早速仲良くなったようで楽しそうに追いかけっこをしている。

 フォルスが遊具の下で待機しているから、危ないことはまずないだろう。

 仮に落下しそうになったとしても、地面を柔らかくして終わりそうだしな。


「ここをいまだに村と呼ぶのはお前くらいのもんだな」


 そうだな。

 すでに新しい地図には、リーチェの町として登録してあるし。

 人口規模からしても、疑いようのないことだ。


「なんというか、不思議な感じですね。牧歌的な雰囲気の農業地帯というイメージが、どうしても抜けきらないというか」


 町の外円はいまだに、農場や牧草になっているが。

 町が大きく広がったことで、その規模も凄いことになっている。

 さらに、その外周には立派な外壁まで作られていた。

 現在進行形で成長する経済基盤を持つ町の、都市開発の凄まじさをまざまざと見せつけられているようで。

 カメラがあれば、ぜひ沿革を記録したいくらいだ。

 流石に住宅区と、商業区、工業区はきっちりと分けられている。 

 工業区は少し離れた場所に位置しているが、ここからでも煙突の煙がモクモクと上っているのがよく見える。


「マルコスが頑張ってくれているようで、何よりです」


 最初に俺の補佐についたとき、俺が失敗しないように自分が頑張らないととやけに力が入っていたのを思い出す。

 村人たちも、困ったような表情で俺を見てたっけ?

 懐かしくなってつい、笑ってしまった。


「どうかしたの?」


 母が、不思議そうにこっちを覗き込んできたので、軽く頷いて返す。

 

「いえ、懐かしいなと思って。最初は誰も私に期待なんてしていないようでしたし」

「あら、私たちはきちんと期待してましたよ」

「ああ、私もお前ならきっと、やり遂げると信じていたさ」


 俺の言葉に対して、今度は2人そろって不思議そうな表情で首を傾げていた。

 親の贔屓目もあっただろうが、家では真面目に勉強もしていたつもりだからな。

 

「それに、ビレッジ商会ともコネを持っていたからな。お前はあるものを上手に使うのが、本当に巧かった記憶しかない」

「まあ、必死でしたからね。使えるものはなんでも使って行かないといけないくらいには」


 あっ、ヘンリーとサリアが滑り台の滑る順番で揉めてる。

 ヘンリーが譲る形になったか。

 レディファースト大事だぞ。

 フォルスが耳打ちしていたから、そんなようなことを言われたのかもしれないな。


「どうした?」

「いや、あの子たちもちゃんと成長してるんだなと思って」


 話の途中で、ぼーっと子供たちを見ていたからか、父が問いかけてきた。

 それから、同じようにヘンリーたちに視線を向けている。


「それは、私たちがお前に対して思っていることと、一緒だな。まあ、お前は早熟な子だったと記憶しているが」

「置いて行かれないように、これでも親として必死だったのですよ?」


 親に面倒掛けまいと頑張った結果、心配と心労は掛けていたようだ。

 もう少し、労わるようにしよう。


「あとで、町役場にも顔を出しておくように。きっとマルコス代官補佐と、町長もお前に会いたいだろうしな」


 マルコスと村長か。

 もう村長じゃないんだな。

 少し寂しいな。

 村長だと、なんとなく気のいいおじいさんを想像するけど、町長になるとなんというかきっちりした中年や、胡散臭い政治家をイメージしてしまうのはなんでだろうかな。

 物語で確かに悪い村長も少しは見ることがあるが、町長の方が悪役にされることが多いからかな。

 現代物の漫画でも、町長には腹に一物抱えてるキャラが少なくない気がするし。

 偏見はすてよう。

 この村の町長は、あの人のいいおじいさんのままだろうし。

 現実問題、俺よりは年下なのだが。


「もう、マルコス代官補佐じゃなくて、マルコスをこの町の代官にしても良いんじゃないですか?」


 実質、実務も管理業務もいまの俺にはできないわけだし。

 俺が、この町を将来的に欲しがっていて、村からここまで発展させたとはいえ。

 実際に実務の殆どをこなしてきたのは、マルコスだ。

 町民からの信頼も彼の方が高いだろうし。


「私もそれは言ったのだがな、本人がどうしても首を縦にふらんのだ」

「マルコスも、ルークのことが大好きですからね」


 いやいや、昇進を断るって馬鹿なのかマルコスは。

 いや、分かってるけどさ。

 俺のことを考えてのことだってのは。

 真面目すぎるくらいに、真面目だってことも知ってるし。

 しかしだ、少しは報われてもいいんじゃないか?


「自分が代官になると、お前が帰ってこなくなると言ってたぞ? マルコスは将来的にアルトじゃなくて、お前に仕えたいらしい」


 本当に、馬鹿だな。

 大馬鹿野郎だ。

 未来の領主じゃなくて、領主の弟に仕えたいだなんて。

 

「アルトを手伝ってやって欲しいとも言ったんだがな。領主の補佐よりも、領主の弟の補佐の方が彼にとっては天職らしいぞ? 実際はどう考えても、お前と一緒に働きたいのが見え見えだったが」


 ここまで慕われると、なんか嬉しい気持ちしか湧き出てこないな。

 そうか……ジャストール領の領民たちは、みんな俺のイメージに近い人たちだったんだな。

 同調を切った状態でも、さらなる発展を目指して日夜頑張っているのもマルコスの報告から聞いたし。

 重たいけど……心地よい負荷だな。


「だから、お前がいつ帰ってきてもいいように、あくまで代官補佐でお願いしますと言われてしまったよ」

「ゴートのいう通りですよ。あなたからの手紙を、心待ちにしているようですし。手紙が届いたら、すぐに報告に来るんですよ。本当に嬉しそうに」


 ああ、マルコスに早く会いたくなってきたな。

 色々とこの町のことを案内してもらいたい。

 きっと、彼も俺に話したいことや見せたいものがいっぱいあるだろうし。

 

「はあ……志高く、私からこの町の代官の役職を奪うくらいの野心は持ってもらいたいものですが」


 つい、照れ隠しで思ってもないことを言ってしまった。


「そんな嬉しそうな顔で言われてもなあ」

「相変わらず、分かりやすい子ですね。説得力が、まるでないですよ」


 同調切ってるはずなんだけどさ。

 親には、隠しようがないか。


「まあ、私からすればこの町の代官よりも、お前の側近や懐刀になることの方がよほどに志が高いと思うぞ?」

「そうですね、障害は大きく、ライバルは多いんですよ? あなたの横に立つのは、十分な目標だと思います」


 2人がフォルスの方をジッと見ながらそんなことを言ってきた。

 うん、俺のさっきの言葉よりも、よほどに説得力がある。

 確かに、フォルスを差し置いて、俺の側近になるのは普通のひとじゃあ無理だろうな。

 ハードルどころの騒ぎじゃない。


「少し、ヘンリーたちとも遊んできます」

「あらあら」

「ふふ、ちょっと言い過ぎたか?」


 少し居心地が悪くなってきたので子供たちの方へと向かおうとしたら、後ろからそんな声が聞こえてきた。

 親ばかだなとは思っていても、こうも褒められるとこそばゆくてつい逃げ出してしまうのは仕方ないと思う。

 


  


 

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