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第8話:ジャストール領

「はぁ……」

「どうしたのですか?」


 実家に向かう馬車の中で深いため息を吐くと、フォルスが心配そうに声を掛けてきた。

 こいつは、俺が同調を切っても態度が変わらないな。

 ということは、元々俺の思ったイメージ通りの性格だったのだろう。

 最初は、少しオラついていたが。


「いや、リカルドがまさか隣国まで行ってると思わなくてさ」


 思い立って探し始めた当初はリカルドの消息が全く分からなくなり、手掛かりも無かった。

 ただ、モルダー神父を筆頭に、新しく立ち上げた神聖教会が手を尽くして調べた結果ベゼル帝国に身を潜めていることが分かった。

 恐らく光の女神の手引きだろうとは思うが、ベゼル帝国もベゼル帝国だ。

 ヒュマノ王国の第3王子を勝手に国内に引き入れ、帝都で預かるなんて。

 しかも、こちら側に連絡も寄越さずに。

 とりあえず、王城にはまだ情報は渡していないが。

 もしかしたら、叔父経由で伝わっているかもしれない。

 その叔父も、今回の帰郷に同行している。

 本人は、バレてないつもりだろうが。

 俺にはバレバレなんだよな。


 どうせ、父達には会う気はないのだろうが。

 俺から離れる気もないらしい。

 

「まあ、必要なら私が行って攫ってきてもいいのですが」

「それはそれで、問題だと思うよ」


 そうこうしているうちに夏休みになり、俺は実家に帰ることに。

 アルトは王都で用事があるらしく、それを終わらせてから帰るということだが。

 凄く恨みがましく、ぐちぐちと言われたな。

 リック殿下が、そのアルトを引きずっていったが。

 殿下絡みの要件……俺じゃなくて、兄というのが少し不安だ。


 途中、リーチェの町に寄ってから、ジャストールの町に戻る予定だったのだが。

 

「お帰り、ルーク」

「ふふ、やはりこっちに先に寄ったのね」

「お兄さま!」


 その町で俺を待ち受けていたのは、父であるゴートと、母キャロライン。

 そして、目に入れても痛くないほど可愛い双子の弟妹のヘンリーとサリアだった。

 行動が、まるっと読まれてる。

 そして、リーチェの町の発展具合がとんでもないことに。

 これ、ジャストールの町よりも発展してるんじゃないかな?


 職人通りは、煙突やらダクトが張り巡らされ、まるでスチームパンクの世界を彷彿させるような科学と中世の街並みが一体化したような混沌とした様相を呈している。

 飲食街にはテラス席なんかも用意され、ミラーニャの町で実施したターフテントを使った軒まで用意されていた。

 服飾関係のお店や、道具屋や家具などの販売店には大きな板ガラスが使われ、まさにウィンドウショッピングを楽しむ婦女子の方々が通りを往来している。


 そうだよな。

 俺のあやふやな記憶から様々なものを実行に移し、また結果も出してきた町だ。

 魔法のせいで、技術や科学なんかが蔑ろにされがちな世界で、結果が出るか分からない子供の戯言を試行錯誤しながら確実に成功させてきた村だったんだ。

 いまじゃ、町だけど。

 人口も増え、技術者が大量に流入した今なら、僅か数カ月でこの発展度合いも頷ける。

 わけがない!

 異常だ。

 異常すぎる。


 いくら資本があって、それらを使ってさらに色々なものを発展、開発して大きな利益をあげているとはいえ。

 速度が速すぎる。

 

 そして、その理由は言わずもがな、同調のスキルの力だろう。

 俺のイメージや、記憶を下手糞な絵や、拙い言葉、うろ覚えの知識で伝えてきたが。

 彼らは常にその情報を元に、俺が満足する物を作り出してきた。

 そりゃそうだ。

 その俺のイメージや記憶が、言葉以外にも直接脳内に伝わっていたんだ。

 俺の言葉や絵で彼らがイメージした完成形は、俺のイメージと一致してるんだ。

 抽象的に俺が作りたいものが、型紙のように彼らの中に最初に埋め込まれ。

 そこに俺が説明を行って、肉付けをする。

 間違っていても、彼らは完成形を具体的かつ正確にイメージできるのだから、俺が知らない技術だとか経験をもとに得た彼ら独自の知識で、足りない部分を穴埋めしながらの作業だ。

 捗るわけだな。


 エアボードにしても、重量有輪犂にしても物を知ってるような状態だったんだもんな。

 当時はなんの疑問も抱かなかったが、農具や工具、道具等の発展が著しいわけだ。

 科学が著しく発展した現代地球の知識を、彼らは無意識に俺から受け取っていたわけだから。

 しかも、紀元前から現代にいたるまでの、進歩の過程もある程度は頭に流れ込んでくるんだ。

 なんか、暮らしにくい古臭い世界に転生したわりには、イージーモードなわけだ。


 ミラーニャの都市開発の話にしても、祖父や町の人が簡単に受け入れたわけだ。

 ある程度の成功の確信はあっただろう。


 そう思うと、あって良かったとも思える能力だったな。


「ちょっと見ない間に、2人とも大きくなったね……そして、この村も」

「もう、村ではないけどな」

「でも、私にとっては初めて運営に携わった村ですからね」


 ヘンリーとサリアの頭を軽く撫でたあとで、リーチェの町を目を細めて眺めているとゴートが俺の頭の上に手を置いた。

 俺が幼い2人の弟妹にしたように父もまた俺の頭を優しく撫でたあと、目を細めて街並みを見ている。


「マルコスもよくやってくれているようですね」

「ああ、彼はお前のよき理解者のようだな。お前が王都から送ってきた手紙の内容だけで、これだけの町を作り上げたのだからな」


 本当に頭が下がるよ。

 上下水道もきっちりと作り上げているからか、町の中心には立派な噴水まで。

 さらには、通りの建物と建物の間には、日本にあるようなちょっと大きめの児童公園まで。

 アスレチックと遊具の中間のような、大きなゴテゴテとした滑り台を中心に、ブランコや鉄棒まである。

 年配の方がストレッチや軽い運動ができるような器具もおいてあり、少し懐かしい気持ちになる。


「こうえんであそんでもいいですか?」


 公園の方をじっくりと見ていたら、ヘンリーが母におねだりしていた。


「今日は、せっかくお兄ちゃんが返ってきたんだから、先に別邸でゆっくりしましょう?」


 母が、少し困った様子でたしなめているが。

 地球で暮らしていた時の子供たちの幼い頃や、孫達の小さな頃を思い出してつい笑顔になってしまう。


「私は構いませんよ。どうせ馬車で揺られていただけで、大して疲れてもいませんし。そうですね、あそこのベンチで飲み物でも頂きながら、町の人たちの様子を少し見てみたいですし」


 ヘンリーだけでなく、サリアも少し寂しそうな表情を浮かべたので助け船をだす。

 そんな俺の言葉を聞いた父と母が、顔を見合わせて困った表情を浮かべる。


「本当は、私たちがお前の話を、ゆっくりと聞きたかったのだがな」


 父が困ったようにぼやくと、ヘンリーとサリアに向かって大きく頷く。

 その動きを見て、2人が華やいだように笑顔を弾けさせる。

 時間はいっぱいあるし、少しくらい寄り道してもいいだろう。


「お話なら、ベンチでも十分できますよ。飲み物を買ってきましょう」

「ルーク様、私が行ってまいります」


 俺が目に付いたコーヒーショップで冷たいものでもと考えたら、護衛でついてきていたランスロットが首を横に振ってそちらに歩き出そうとして止まる。

 すでに店のカウンターの前にはフォルスがいて、コーヒーを3つとジュースを2つ買っていた。

 仕事が早い。


 夏とはいえやや涼しいのだが、父と私にはブラックのアイスコーヒーを、母にはキャラメルとミルクがたっぷり入ったアイスコーヒーを買っていた。

 優秀な執事だことで。


 しかし、コーヒーもよくもここまで流行らせたな。

 通りに、喫茶店を含めて、コーヒーを扱っている店が3店舗もあるなんて。


 うーん、フォルスよ……たぶん、父も母も気付かないが、もう少し普通の運べないかな?

 いや運ぶ姿は普通に歩いているように見えるんだけど、お盆に乗せた飲み物が波一つ立てずに普通は無理なんじゃないかな?

 そして渡されたコーヒーのクオリティーもなかなかのものだった。

 前世で飲んだものと、遜色ない程度には。

 

 コピ・ルアクっぽいパッケージの豆を売ってるお店もあったけど、敢えてスルーしておいた。

 こっちは、現物を飲んだことないからな。

 恐らく、本物に近いものになってるとは思うけど。


 うん、ジャコウネコの糞でできてる超高級コーヒーの話はしたけどさ。

 たぶん、同じような狸っぽい動物に、コーヒーの実を食べさせてるとは思うけど。

 試す度胸はない。

 そんなに売れているようにも見えないけど。

 一袋売れたら、だいぶ利益が出るような価格設定にしてあるから、問題ないんだろう。


 さてと、友達が来るまでに、色々と準備をしておかないと。

 どうせ、アルトがリック殿下を連れてくるだろうし。

 殿下が、うちのボードパークに、ものすごく興味をもたれてたからな。

 父と母とも、その辺りの打ち合わせをしておかないと。

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