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第12話:友達

 俺には友達がいない。

 いや、唐突に何をとかいわないでほしい。

 ただの、独白だ。


 別に目の前のそれは、何かを言っているわけではない。

 俺の顔を覗き込んで、頬をぺろぺろと舐めてくれる。

 兄が連れ帰ってきた、シルバーウルフ。

 銀色の毛並みを持つオオカミだ。

 子狼だが。


 親を殺したのも兄だが、この子を救ったのも兄だ。

 魔物を王都に連れ込むというのは、問題行動じゃないのかな?

 かなりダメなことらしく、A級冒険者の権限と王族とのコネでなんとか認めてもらったらしい。

 4頭とも。

 そう、俺の周りにはいま4頭の子狼がいる。

 ゆくゆくはこの屋敷の番犬になるのだろうが、今は可愛いさかりだ。

 ついつい、甘やかしてしまう。


 大きさ順にカーラ、キール、クーラ、ケールと名付けた。

 末尾がラは雌、ルは雄だ。

 皆、可愛い。

 従魔契約とか、使役とかってのは結んでない。

 魔獣使いじゃないからな。

 魔法で結ぼうと思えば結べるが、可愛い間は純粋にそういったものなしでなついて欲しいと思って。


「友達ってどうやったらできるんだろう」

「クーン」


 そんなことを言いながらカーラの顎を撫でてやる。

 少し不思議そうな顔をして、首を傾げている。

 だめだ、可愛すぎて考えがまとまらない。

 僕たちもなでてとばかりに、俺の手を舐めたり、軽く噛んで引っ張る他の3匹。

 うん、いまはめいっぱいこいつらを可愛がろう。


 4匹が遊び疲れて眠ったので、再度考える。

 友達はいる。

 ジャストールに戻れば。

 兄の友人たちとも仲がいい。

 ただ、同級生の友達は……エルサが友達といえなくもないが。

 同性の友達は皆無だ。

 さっきのは間違いだな。


「貴族の男友達ってどうやったらできるんだ?」


 俺の呟きにカーラが反応して、耳を起こしてこっちを見る。

 ただの独り言だ。

 それが分かったのか、また耳をペタリと寝かせて前足に顎を乗せて目を閉じた。

 その頭を優しくなでてやる。


 アルトに聞くのが早いかな?

 どういうわけか、いろんな人と懇意にしているようだし。

 まあ、嫡男で次期当主だからという部分が大きいかもしれないが。

 そうだとしたら、俺には救いがない。

 週末もアルトと、その友達と遊ぶくらいで。

 同級生からのお呼ばれとかもない。


 そして、俺には時間もない。

 リカルドとバルザックが戻ってきたら、きっと今以上に厳しい状況になる。

 そして、彼らが戻ってくるのは来週だ。

 少しはましになっていると信じたいが、あまり当てにはできんな。


「ジャスパーくらいしか、声を掛けてくれる奴がいない。しかも、奴は口を開けば決闘を申し込んでくる。ほかに、話しかけるネタはないのか」


 一人ごちるように漏らすと、部屋に気配を感じる。

 何が、ジャストールの俺の部屋以外には、出ないだ。

 この背後神が。


「悩んでおるな」

「うるさい、黙れ」

「お……弟が反抗期」


 いやいや、役に立たないくせに声を掛けてくるからだ。

 アマラに相談したところで、建設的な答えが返ってくるとは思わない。

 

「今世ではわりとうまく立ち回ってるつもりなのに、周囲から向けられる視線はあまり好意的なものがないのはどういうことだ?」

「それは我に言っておるのか?」

「お前が相談してほしいそうだから、聞いてやってるんだが?」

「普通頼み事や、何かを訊ねるときはもう少し下手にでるものではないか?」


 アマラの言葉に、思わずため息が漏れた。

 

「だったら、そうしろ。お願いですから、我に相談してくださいと言えば良いだろう」

「お主、我にだけひどくないか? この世界の兄であるアルトのことは、あんなに頼りにしておるのに」

「なるべく良い子でいようと思ったらストレスが溜まるんだ。お前くらいしか、八つ当たりできるほどに甘えられる相手がおらん……悪いな」

「ふ……ふふん。そういうことなら、寛容な我だ。その態度も、許してやらんことはないぞ」


 チョロい奴だ。

 だが、最も付き合いが長く、もっとも俺のことを分かっているのはこいつだからな。

 本音でもある。

 出会いがあれだから、どうしても神として尊敬はできないが。

 ただ俺にとっては友であり、兄であり、ある意味親でもあるか。


「気持ち悪い顔しとらんで、本気で考えてもらいたいのじゃが」

「いや、そこまで素に戻らんでも」

「冗談だ。今更、爺むさい言葉遣いになんか戻らんよ。日本の若者言葉を使う気にもならんが、普通に常識的な年相応の言葉遣いが、染み着いてきたからな。それに感情の動きや、考え方も最近は若返ってる気がする」

「身体に心が引っ張られておるのじゃな。お主の特性は変化と同調じゃからな」

「増えた」


 俺の特性は変化だけじゃなかったのかよ。

 まあ、良いか。

 その変化すらもいまいち、使い方が分かってないからな。


「確かにお主に向けられる周囲の視線に関しては、我も不可思議に感じておる。それに、光の女神の動きもな……まるで、お主が魔王であったことを知っておるかのような動きじゃ」

「でも、時を戻した時に、その光の女神も戻されたんだろう?」

「そのはずなのじゃが……考えすぎかのう? もしかしたら、ただ単にお主の存在を知らなかったことで、他のものに英雄の卵を押し付けたのかもしれん」

「それで、なんで俺が目の敵にされんだ?」

「そこが、分からんのじゃ」


 結局、役に立たないじゃないか。

 相談して、損したわ。

 俺でも、考えつくわ。


「光の女神を信仰する教会は、お主を魔王と認めておるぞ」

「知ってる……隣国の宰相がそう言ってたらしいからな。ダイカーン侯爵だったかな」

「人の名なぞどうでもいいが、その辺りがわしにもよく分からんのじゃ……フォルスも調べておるようじゃが」


 事象の矯正力が、正しい未来に戻そうと頑張っている可能性があるか……

 この世界は、どうあっても俺を魔王にしたいみたいだな。

 そんなことすれば、またアマラが暴走して世界が滅びるぞ。


 いや……もしくは、ありえないことじゃないか。

 アマラやアリス以外の、上位の存在が干渉している可能性も0ではないだろう。

 でもなあ……そうなれば、誰かが気付きそうなものだが。


「とりあえず、このまま王子達が戻ってきたら、ろくなことにならない予感がする」

「それはもう予感じゃなくて、予知じゃな。あ奴らは、輪をかけておかしい。最初の世界の頃に近い……いや、もっと悪いかもしれん」


 あまり脅すなよ。

 この世界でも、俺はリカルドと争わないといけないのか?

 まあ、終盤は仲良くした記憶もないし、別になんとも思わないけど。

 そして、メインヒロイン不在の状況で、リカルドは誰を好きになるんだろうな。

 光の巫女は誰だ?


 どうでもいい。

 友達ってどうやったらできるかなって考えてただけなのに、飛躍し過ぎだろう。

 やはり、アマラなんかに頼るんじゃなかった。

 大げさすぎる。


「まあ、お主の身に危険が及ぶことは無かろう。最悪、わしも手伝うし」

「アマラの手伝うって、消すか殺すか、壊すかじゃないのか?」

「そうじゃが、何か問題あるか? たかが、人が数人死んだところで何かあるとは思えんが」


 こういうところだ。

 人の命をなんとも思ってないというか。


「王族を殺したら、面倒だろう。国政にも影響が出る」

「王族? そんなもの、人間共が勝手に言っておるだけじゃ。虫のように、王に身体的特徴があるわけでもなし……何か秀でたものでもあるのか? それとも女王蟻や蜂のように、王しか子をなせぬとかなら分かるが。別に人なぞ個体で見てもほとんど変わらぬのじゃから、王が死ねば適当に似たようなやつを王にすればよかろう」


 本当につくづく神様だよなこいつ。

 そんなんだから、邪神とかって呼ばれるんだ。


「我は、竜には多少肩入れするが、人は別にどうでもよい」

「そういうものか?」

「そうじゃな、光の女神が人に執着するのも、あれは元々が人の王族の出であったからよ。ちなみに姉は可愛いものの味方じゃ……フォルスなら闇の住人に甘いのではないかな? まあ、元の種族にこそ多少の思い入れはあれど、それ以外は全て同じようなものにしか見えんな」


 そういうことか。

 じゃあ、万が一俺が神に至れば、人間びいきになりそうだな。

 なるかな?

 このまま、微妙に人から悪意を向けられ続けたら、逆に人にとっての祟り神になりそうだな。


「嫌な笑みを浮かべる」

「ああ、くだらんことを考えた。まあ、頑張ってみるわ」

「むう……我じゃ役に立たんかったか」

「そんなことはない。やる気は出た」


 本音だ。

 世界が、光の女神がそれを望むなら全力で抗ってやる。

 手っ取り早く、闇の勇者ってのも悪くない。

 フォルスに頼めば、簡単になれそうだ。

 闇だから悪ってわけでもないしな。


***

 なんてことを考えていたが、翌日にはそんな悩みは吹っ飛んだ。

 リーチェの町に頼んでいたものがついに完成して、手元に届いたからだ。

 といっても馬車なんだがな。

 ただの馬車じゃない。

 凄く快適な馬車だ。


 独立懸架式のサスペンション付きの馬車を開発していたが。

 ダンパーの存在も忘れていない。

 バネの中にダンパーを入れて、慣性による周期振動の減衰にも気を配った。 

 ショックアブソーバーともいわれるが、これがないとサスペンションの寿命を縮めるばかりか、周辺部品の変形による破損にもつながる。

 筒にピストンとオイルを入れたものだが、複筒式とよばれる二重になった筒の形状のものを使っている。

 内側の筒のオイルが外側の筒に押し出される形状のものだ。


 ただ素材の強度の問題や、オイルの質の問題もあり満足のいくものはできていなかった。

 不具合も多く、この辺りは職人達の努力に任せている。

 相当に時間と金を費やして、ようやく実用化がされたが。

 それでも、耐久性や品質において、俺は納得していなかった。


 ただ、この世界には魔法の道具がある。

 エアボードに代表されるような。

 そう……車体に浮力を持たせることで、このサスペンションの手助けをと考えたのだ。


 無論推進力は、車輪に頼ったものだが。

 車体をある程度浮かせることで、上下の動きはサスペンションの可動の範囲でほぼ完全に納めることができるのではないかと考えたのだ。


 ただの荷馬車のような荷台で実験を重ね、物を乗せた状態と空荷の状態の差や、車高を安定させることへの改良を頑張ってもらった。

 車体が軽いから、サスペンションに押されて上下運動をしたら、意味がない。

 いや、普通に悪路の影響で突き上げられるよりはましだが、今度は船酔いに似たような症状を引き起こす可能性がある。


 浮力を持たせながら、中心に重心が来るように錘を付けたりと。

 まるでちぐはぐなことをやってみたりもしたが、それなりに効果もあった。

 その集大成が、ついに届いたのだ。

 なにより、この馬車の凄いところは、驚きの軽さだ。

 もしかしたら、人が一人で引くことも可能かもしれない。

 蓄魔石だけで500万エンラはくだらないが、それだけの価値はある。

 ちなみに、エアボードに使われている蓄魔石は拳大のものが2つで20万エンラだから、どれほど大きなものなのだろう。

 シートをはぐって、見てみたい気もする。

 魔力増幅用の魔石も搭載しているので、少ない魔力で充填もできる。

 当然リアルタイムで魔力を注いで、浮力を持たせることもできるハイブリッド仕様だ。

 魔石だけでの実質稼働時間は4時間ほどといっていたな。

 魔力が切れたら少し振動が増えるのと、引くのが大変になるくらいだ。

 だから、間違っても馬1頭で引かせるなんてことは、してはいけないと言われた。

 万が一の時は、4頭立てで引くくらいの重量になるらしい。

 それでも十分だ。

 だいぶ軽量化されたらしい。

 最初の何もほどこしてない、サスペンション搭載型の馬車試作機は6頭立てだったからな。

 

 早速乗ってみたいのだが、残念ながら平日だったため学校に行かなくてはいけない。

 くっ……流石に、馬車のために学業を疎かにできない。

 待ってろ。


「今日は、やけに機嫌がいいな」

「ん? そんなことないですよ。あっ、今日はまっすぐ早く家に帰らないといけないから、手合わせは無理ですよ」

「そ……そうか。残念だが、その顔を見れば引き留めることはできんな」


 ジャスパーが声を掛けてきた。

 そんなに分かりやすい表情をしてたかな?

 ただ、今日は手合わせなしで帰らせてくれるらしい。

 基本週一での手合わせだが、暇なら付き合うことになってしまったからな。

 よし。

 障害が一つ減った。


「ルークさん、楽しそうですね」

「そう? そんなに顔に出てるかな?」


 エルサも女の子数人と声を掛けに来た。

 そんなに、顔に出てるのか?

 まあ、嬉しいし楽しみだからな。

 王都に来るだけで、結構馬車の旅って辛いなって感じてたから。

 早いとこ、結果を試したい。


「ルーク、何かいいことでもあったのかな?」


 帰ろうと思って、校舎を飛び出したらリック殿下に呼び止められた。

 いつものメンバーだけど、今日はやけに和やかに声を掛けられる日だ。


「ええ、待っていたものが届いたので。早く試してみたくて」

「ほう? 新型のボードとかかな?」

「あー、似たようなものですけど、ボードとは違いますよ。楽しむためのものじゃないですし」

「凄く興味深いね。私も、それを見に行ってもいいかな」

 

 殿下が興味を持ってしまった。

 でも、全然かまわない。

 もし、俺のイメージ通りのものに仕上がっているなら、是非ともいろんな人に体験してもらいたい。

 というか、自慢したい。


「ええ、構いませんよ」

「じゃあ、あとで家に寄らせてもらうよ」


 えっ?

 今日?

 普通、こういうのって日を改めるものじゃないのかな?

 しかし、殿下の目がキラキラしているのを見たら、断れそうもない。


「分かりました。一足先に屋敷に戻って、物の出来を確認しておきます。まだ、私も試したわけじゃないので」

「そうなのかい? まあ、君が考えた物なら間違いないと思うし……送られてきたってことは、向こうも自信があるってことだろうから、大丈夫じゃないかな?」

 

 うん、俺もそう思う。

 そう思うが、俺の思うハードルと職人のハードルが一致してるかという点に関しては、あまり自信がもてないからな。

 とりあえず、早くその辺りを確認したいのだ。


「そうだと良いのですが。というわけなので、失礼いたします」

「ああ、また後で」

「はい、お待ちしております」


 そして、足取り軽く屋敷へと急いで帰る。


「主!」


 あっ、迎えに来てたフォルスを置いて帰るところだった。

 

「ごめん、気が逸った。よし、フォルス! 家まで競争しよう」

「ええ?」

「いいからいいから」

「今日のルーク様は、いつもと違って年相応のように見えますね」

「そうかな? そうかもね。いいから、急ぐよ」

 

 俺の言葉にフォルスが不承不承頷いて、一緒に走ってくれる。

 俺の前に出ようとすることはないが、なんかフォルスも嬉しそうだな。

 カーラ達みたいだと思ったのは内緒だ。

 よーし、本気で走るぞ。

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