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第10話:リベンジャー・ジャスパー!

「おい、ジャストール! 勝負だ!」

「ええ? まだ、一か月経ってないですよ?」

 

 あの決闘から2日後……教室に入るやいなや、ジャスパーが突っかかってきた。

 復活早いな。

 相当に打ちのめされたうえに、オラリオに止めを刺されていたからな。

 てっきり、もう少し安穏とした時間が過ごせると思ったのだが。


 ちなみにあのあと、ものすごく先生に怒られた。 

 やりすぎだと。

 せめて剣くらいは使えと。


***

「……いや、剣を使って、怪我でもさせたら親に迷惑が掛からないかなと」

「はあ? 掛かるわけないだろう。それに、木剣にも細工がしてあるからな。思いっきりぶつけても、そんな大怪我を負うわけもなし」


 先生の言葉に対して、力を込めて木剣で地面を叩く。

 地面がえげつなくえぐられて、木剣が砕け散る。

 先生の方をジッと見る。


「で?」

「あー、あー……お前の兄は、本当にお前より強いのか?」

「一度も勝ったことがありません……手加減された状態で」

「そ……そうか、手加減が上手なんだな」


 あっ、先生がどんよりしてる。

 もしかして、自分も手加減して負けたと思ってるのかな?

 たぶん、そうだろうけど。


「先生が間違っていた。いや、できればもう少し手加減というのを、覚えてもらえたら……それは、ダメか。本気で挑んでくる相手に手加減とか。でも剣を使わないのはどうなのだろう」


 先生がなにやら、ぶつくさ言ってるが。

 ジャストールの領軍の兵たちなら、最近は手合わせしても満足できる相手が増えてきている。

 闇の神と、その精霊が力を貸してくれているおかげか。

 精霊の加護持ちがポツポツと現れたからだ。

 それに、アルトの眷族になっている兵も何人かいるし。

 アルトの加護のお裾分けがもらえるらしい。

 アイゼン辺境伯の言葉じゃないけど、うちの領軍って国内でどのくらい強いんだろう。

 辺境伯と手を結んだら、国家転覆狙える気がしてきた。


 ちなみにこの会話は、ジャスパーの耳にも入り彼はなお落ち込んでいたとか。

 いや、素手だけど、代わりに本気で相手したんだけどな。

***

 

 しかし、お陰で剣の授業は免除。

 好きなことをしてもいいが、何かしないといけないらしい。

 他の授業を代わりに受けたりとか。

 図書室の利用も認めてもらえたし、訓練場の使用も。

 いやいや、剣の授業さぼってるのに訓練場行ったら、何の意味もないだろう。

 巻き込まれるのは、目に見えているし。

 暇そうな先生を捕まえて、個人的に何か教えを乞うのもいいらしい。

 授業関係なしに、技術や知識といった部分で。

 

 まあ、図書館一択だな。


 ちなみに昨日は、オラリオが俺にものすごく文句を言ってたな。

 結果として、ジャスパーが教室を飛び出して、戻ってこなくなったが。


***

前日


「ルーク、お前卑怯ではないか!」


 登校直後に、オラリオに詰め寄られて文句言われた。

 というか、こいつもそういえば俺より早く来てたな。

 当初はのんびり登校してたくせに、俺を待ち伏せしてるのか。

 俺より早く来るようにしたのか。


「はあ? おっしゃってる意味がよく分かりませんが?」


 とりあえず、鞄を机に置きながら……手が邪魔だな。

 どけてくれないかな?

 オラリオが机に思いっきり手を叩きつけて、文句言ってきたのだが。

 手はそのまま置いてある……

 そのまま、気付かないふりして手の上に置いたら、どうするかな?


「いって」

 

 置いてみた。

 痛がってる。


「はは、ごめんごめん。手があるの見えなかったよ」

「きさま」


 あっ、つい子供相手にしてるつもりだったけど、同級生だったな。

 しかも、格上の。

 まあ、いいか。


「それよりも、私が卑怯とはどういうことでしょうか?」

「剣の決闘で、蹴りを使うなど! 卑怯以外の何者でもないだろう!」


 ……そうなのか?

 いざ、戦場に立てば、そんなことも言ってられないだろう。

 それに蹴りを使ったんじゃない、剣を使わなかっただけだ。

 とはいえ、そんなことを言い返すわけにもいかんな。

 すぐそばには、ジャスパーも立っている。

 凄く迷惑そうな顔をしているが。

 ちょっと、恥ずかしそうだし気まずそうだ。

 それもそうか。

 剣の決闘で、剣を使わない相手に負けたんだ。

 恥ずかしいだろう。

 だったら、オラリオを止めてくれと思うが。

 

「せめて、剣くらい使え!」

「ほう、面白い話をしているな」


 そして、廊下側の窓から顔を覗かせるガーランド。

 ジャスパーの兄だ。


「ガーランド様」


 オラリオが、驚いている。

 いやいや、廊下側の窓際の席で、そんな大声でわめいていたら外にまで声は届くだろう。


「聞かれてないのですか? 昨日の決闘の件を」

「おい、オラリオやめろ」

「オラリオ様、それ以上は」


 俺と、ジャスパーが止めに入るが、2人を無視してガーランドに話しかけるオラリオ。

 こいつは、天然なのか?

 それとも、ジャスパーが落ち目と見て追い落としに掛かっているのか?

 分からんな。

 馬鹿ではないと思うのだが。


「昨日、ジャスパー様とルークが剣の授業中に決闘をし、ルークはあろうことか剣を使わずに蹴りで意表をついて下すという下劣極まりない真似をしたのです。騎士の決闘に、泥を塗る行為だと思いませんか?」


 オラリオの言葉に、ガーランドが目を丸くしているが。

 俺の横にいるジャスパーは顔を真っ青にしている。

 そりゃそうだよな。


「お前……剣を使って、負けたのか? それも、剣を使われることなく」

「……」

「あっ……」


 ガーランドの雰囲気が、がらりと変わった。

 そして、黙ってうつむくジャスパーと、失言だったかもしれないと口を押えるオラリオ。

 あざといな。

 オラリオの行動に、悪意を感じる。


「いえ、えっと……剣! そうです、剣で受けると見せかけて蹴りを、剣で追撃すると見せかけて蹴りをと、ことごとく騎士にあるまじき戦い方で。しかも、最初は決闘が始まってすぐに降参して逃げるありさま! 騎士が決闘を挑まれて受けたのにですよ? まさに、騎士の風上にも置けぬやつですよ」

「オラリオといったな……それは、ジャスパーのことを言っているのか?」


 加えて言うなら、俺は騎士じゃないと宣言したのに……

 こいつ、絶対わざとだな。

 そうとしか、思えない。


「お前の話を聞くと、ジャスパーが無理やり決闘を挑んで、相手が形だけ受けて花を持たせてくれたにもかかわらず、執拗に勝負に持ち込み……剣を使うまでもなく負けたと聞こえるが?」

「……ええ? あ、いや、そういうつもりでは」


 じゃあ、どういうつもりだと言いたい。 

 お前の言ってることは、そういうことだ。

 いやでも、今世のこいつら割と馬鹿だしな。

 本気か?

 如何しても、そうは思えんが。


「ジャスパー……どうなんだ?」

「……俺は、そういうつもりでは。ただ、そのアルト殿の弟の力が見たくて」

「はあ? ルークはアルトとは別人だ。彼の弟だからといって、剣が得意だとは限らんだろう? その辺りは先に確認したのか?」

「はい」

「得意だといったのか?」

「い……いえ」

「それでも、勝負を挑んだのか?」

「……」


 確認された記憶はないのだが。

 俺が、自ら剣は得意じゃないようなことを言ったが。

 ガーランドの視線と口調が徐々に厳しいものに変わっていく。

 これは、余計な口を挟まない方がいいかな。


「ガーランド様! その質問に対しても、ルークは剣が苦手なふりをして、ジャスパー様の油断を誘ったのです」


 だから、質問すらされてないわ。

 オラリオに、俺も徐々に腹が立ってきた。


「ジャスパー! 貴様、剣が苦手という同級生を無理やり勝負の場に引きずり出して、負けを認めた相手になお執拗に戦わせ、挙句に剣を使わずに負けたと? 最初に聞いた話より、よほどに酷いではないか! このブレード家の……いや、騎士の面汚しが!」


 あっ、切れた。

 

「うっ、うわああああああ」


 そして、ジャスパーが走って教室を飛び出していった。


「ジャスパー様」


 横で、オラリオが不安そうにしているが。

 お前は、追いかけないのか?

 ほとんど、お前のせいで話がこじれたんだが?


***

 ということがあったのに、凄いな。

 昨日の今日で、勝負を挑むほどに元気になるとは。


「頼む、勝負してくれ」

「いや、えっと……なんで?」

 

 しかも、真摯に頼んでくる始末。

 どういうことだろう。


「お前が俺を認めるまで、弟として認めんと兄に言われ……父と祖父からも、情けないと」

「ということは、ジャスパー様が私に勝つまで、挑まれ続けると?」

「あっ、いやそういうわけではない。剣で認められればいいと。兄もアルト殿には勝てないらしいから、そこまでは要求しないと言っていたが」

 

 そうか。

 それならば、簡単だな。

 しかし、まさか今世でも付きまとわれることになるとは。


 もともと、最初からルークが虐められていたわけじゃない。

 魔法の授業が始まって、魔力を使えないルークに対して周りが見下してきたのが発端だな。

 あとは、兄の学園内での弟に対する態度を見たこともだ。

 そもそもが、ルークが頑張り過ぎたのだ。

 魔法がだめだからと、それ以外を愚直に磨き続け……

 座学や剣術、体術で目立ち過ぎた。

 そのせいで、リカルド殿下達と同じ上級貴族のクラスに入ることになったし。

 まあ、下は下で、余計に階級意識の凝り固まった連中が多いから、大変だったかもしれないが。

 本当の友たる人も、現れたかもしれない。


 今回は、まだそのきっかけが起きていない。

 そもそも魔力も操れれば、魔法も使える。

 兄との仲も良好だ。

 きっと、虐められることはないと思っていたが。


 いや、ジャスパーの場合は苛めとはいいがたいが。

 元々も、剣でルークに負けたのが事の発端だったしな。

 座学でも。

 魔法ではジャスパーの方が上だったが。

 それでも、到底許せるものではなかったらしく。

 そのうえ、最初はリカルドもルークを友として認めていた。

 結果、剣で勝てず殿下とも親しいともなれば、妬みの対象ともなっていたのかとしれない。

 その頃から、絡まれ続けることになっていたし。


 最後までぶれずに、剣でルークを倒すことにこだわり続けただけ、他の連中よりはよほどましか。


「剣の腕を認めるということなら、すでに半分は認めてますけどね」

「半分?」

「いえ、剣筋を見る前に、私が搦め手で逃げてしまったので」

「あっ、いやあれは逃げたとはいわん。戦場であれば、砂を使った目潰しや、背後からの攻撃、投擲などなんでもあると祖父も言っていた。身体を使っているだけ、マシだとも……そして、情けないとも」


 語尾は消え入るようだった。

 流石に可哀想だ。


「剣術が優れたものかどうかということなら、わざわざ手合わせしなくとも素振りや、演武を見せてもらえれば」

「なんだろう……それはそれで、少し違うような」

「だから、私は剣より魔法が得意なんですって。だから、剣術でまともに勝負しても、ジャスパー様がやりにくいだけですよ」

「やりにくい?」

「命の取り合いで認めてもらえというならば簡単ですが、剣の腕を手合わせで認めてもらえと言われても……私も痛い思いはしたくないので、全力で抵抗しますよ?」

「ああ……そのうえで」

「だから、私は剣よりも魔法が得意なんです。もちろん魔法も使いますし、なんだったら砂を使った目潰しだってしてみせます。痛いの嫌ですから」

「そうだな」


 ここまでは、分かってくれたようだ。

 馬鹿でも、意地が悪いわけでもないのか。

 安心した。

 なら、最初から突っかかるなとも言いたいが。


「そんな相手に痛い思いをするかもしれない決闘を挑み、しかもジャスパー様は勝てばブレード家の本家筋の血筋としての立場が復活できるかもしれませんが、私は?」

「ルークか……」

「私は何を得るのですか? 対価がないですよね? 私が勝っても得るものはないですし、それともジャスパー様がご父兄の方に認めてもらえたら、私にも何かお礼がもらえるのですか?」

「……」


 黙り込んでしまった。

 一方的な要求だと、気付いたのだろう。

 頭に血が上っていたのと、焦っていただけで考えれば分かったようだ。

 短慮は直してもらいたい。

 貴族の子供なのだ。

 貴族本人ではないといえ、自分の行動が将来的に自身や周りにどのような影響を与えるかは考えてほしい。


「分かった、対価を考えてくる。それまで、待ってくれ」


 諦めてくれないのか。

 でも、これで日が稼げるな。

 よし。


***

「私が勝ったら、そうだな! ブレード家の鍛錬を受けさせてやる! 現役騎士団長手ずから1対1での、指導だぞ! 家族以外では、王族のしかもロナウド殿下とお前の兄のアルト殿しか受けていないのだ。どうだ!」


 いや、どうだと言われても。

 俺は、魔法使いだっつってんだろう!

 それなら、友達のキーファに頼んで、彼のおじいさまに訓練を付けてもらえるよう根回ししてくれ。

 しかも、こいつはそれで俺が、本気で喜ぶと思っているのが困る。


「おじいさまにお伺いを立てたら、おじいさまが提案をしてくれた。まさか、私のためにそこまで協力してくれるとは」


 いや、それたぶん俺が興味を持たれただけだから。

 大体、アルトはなんでそんな人の鍛錬を受けているんだか。

 本当に兄の人間関係が不安でしかない。


「しかし、あまりに魅力的な対価すぎて、お前が手を抜かないかだけが心配だ。本気で戦って勝たないと意味がないからな」

「いや、勝たなくても認めるだけで良いって」

「どうせなら、勝って認めさせたくなったのだ」


 ……くそ、脳筋が。

 悪いけど、本気で相手するさ。

 手抜きなんてするわけない。

 使えるかどうかも分からない剣技に、時間を割くほど無駄なものはない。


 だが仮にもしお前が俺に剣技のみで勝てるなら、その時は流石に習うことが無駄だとは思わないだろうな。

 有難く、現役騎士団長様の手ほどきを喜んで受けよう。

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