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第3話:王都3日目

「さて、今日は町を見て回ろう」

「はい」

 

 ようやく、王都ヒュマノを満喫できるらしい。

 王城では、あのあとオーウェン陛下までやってきて、本当にどうしてこうなった状態だったが。

 兄が、陛下とも懇意にしているのは、良いのだか悪いのだか。

 ただ、最初の人生の時のような腹黒さは、全く見えなかった。

 思慮深い、温かみのある男性だと感じたが。


 ただ、同級生にもなるリカルド殿下を紹介してもらえないのは、ちょっと不思議だったな。

 どこかに出かけてるのかと思いきや、王城にいるとは教えてもらったけど。

 会わなくていいって……

 まあ、別にいいが。


 そんな兄と、今日は王都散策だ。

 昼は馴染みの料理屋を予約しているとのことで、適当にお勧めのお店を歩いて回るとのこと。

 あー……ビレッジ商会も確認しておかないと。

 商会長のバンガードとは何度か会ったことはあるが、本店に行くのは初めてだしな。


「えっと、なぜ、最初が冒険者ギルドなのでしょうか?」

「ん? 食事を美味しくいただくために、小腹を空かせようと思ってね」


 言ってる意味が分からない。

 俺の入学準備の買い物も兼ねての散策だったはずだが。

 ここで、買うものなんて何もないのだが?

 もしかして魔物素材とかって、学校でも使うことがあるのか?

 だとしたら、小腹を空かせようという言葉の意味が分からない。


 そして、入ったらあちこちに傷を負った、強面の冒険者たちに囲まれた。

 うーん、お約束を消化しないといけないのかな?


「おっ、来たなアルト」

「今日も鍛錬か?」

「その子は?」


 あー、アルトに話しかけに来たのか。

 てか、普通に顔なじみか。

 ちょっと、不安になってきた。

 兄は、ちゃんと学校に通っているのだろうか?

 でも、エアボード研究会みたいなのに所属してるらしいから、そこは間違いないと思うが。


「もしかして!」


 もしかしてってなんだ?

 冒険者の1人が目を輝かせているが。


「ああ、私の自慢の弟だよ」

「やはりか! なるほど、なかなかいい目をしている」

「うむ、俺らに囲まれても怯まぬだけの胆力も持ち合わせているみたいだしな」

「これは、将来有望な逸材がまた一人、弟さんにも2年後にぜひここで登録してもらいたいな」


 おい、最後のおっさん。

 聞き捨てならない言葉が聞こえたが。


「弟さんにも?」

「あー、アルトは弟さんには言ってなかったのか?」


 俺が疑問をそのまま口にしたら、スキンヘッドのおっさんが困ったように頭を撫でる。

 自分の……

 

「お前さんのお兄さんは、いまや王都を代表する凄腕ハンターだぞ?」

「……お兄さま?」

「ルーク、待て! ちゃんと勉強もしているぞ?」


 いやまあ、そこは疑ってないけど。

 何を危ないことを……嫡男としての自覚が足りてないんじゃないか?

 少し、呆れてしまう。


「お……弟が呆れたような表情をしている。やはり、早かったかな?」


 遅い、早いの問題じゃないんだけどさ。

 まあ、しっかりと勉強して、将来領地に戻ってくるなら多少の羽目は外してもいいけど。

 流石に冒険者ギルドを代表する凄腕ハンターとなると……


「まあ聞け! お前のお兄さんはな? 2年前にここで登録して、そこから僅か2年でAランクまで上り詰めた、最年少ランカーなんだぞ! 凄いだろ」

「へー、凄いですねー……冒険者ギルドのAランクライセンス所持者ですか……ちなみに、お兄さま?」

「な……なんだ?」

「学校での成績は、何位くらいにいらっしゃるので?」

「う……うむ、大体は5位以内にはいるのだけれど……確かに最近は、そっちは少し疎かになっていたかもしれないね。前回も2位止まりで、結果3回連続で首位を落としているし」


 ……文句の付け所がなかった。


「そうだね、お前が来るのだから学業でも首位を取っておくべきだったね……つい、驚かせようと思って」


 とりあえず、俺をここに連れてきたのは冒険者との顔つなぎもかねてのことだった。

 依頼等でお世話になる際に、少しでもいい対応を期待してとのこと。


「あとは、ルークも鍛錬はここで依頼をして、誰かに付いてもらった方がいいと思うよ」


 空気を変えるように、ここに来た目的を話し始めたアルト。

 いや、別に2位凄いよ?

 本当に凄いと思うよ?

 そんな、気にすることではないと思うんだけど。


「どういうことですか?」

「どういうことだ?」


 俺と、冒険者の人の質問がかぶった。

 いや、まあ言ってる意味が分からないというか。

 思わず、その冒険者の人と顔を見合わせて首を傾げてしまった。


「もしかして、弟さんもか?」

「ええ、この子の鍛錬の相手になるような生徒は、学園にはいないですよ」

「やはり、ますます2年後はうちで登録してもらわないとな」


 あー、本気で学校に俺より強いのはアルトだけなのだろうか?

 となると、冒険者ギルドを紹介してもらえたのは色々とありがたい。


「私と違って、魔法の腕は相当ですよ?」

「そ、そうなのか? そうなると、魔法系の連中が喜ぶな。アルトは体術特化だからな」

「まあ、まずは実力を見てみないことには……魔法の鍛錬の方がいいか?」

「最初は、剣でいいですよ」


 なぜ、兄が代わりに応えているのだろうか?

 俺に、決定権は何一つないのだろうか?


***

「騙したな! 魔法が得意ってやつの動きじゃないぞ!」

「私の弟ですから」


 油断しまくりのファイターの人の脇腹に、思いっきりいいのが入ってしまった。

 結果、それでスイッチを入れてしまったみたいで、かなり追い込まれた。

 小腹どころか、今食べたらリバースするよ。


「魔法使いってことは、その状態で身体強化もそれなりなんだろ? 確かに技術はまだまだだが、強化使われたら今みたいにはいかないぜ? 俺じゃ手に余るわ」


 確かに技術では教わることは多そうだ。

 それに、筋トレとかなんかは、補助してもらった方がいいかもしれないし。

 神の加護があるから楽勝だとは思うけど、逆にいえば素の状態だと相当な実力の開きがあるのが分かった。

 まあ、ベースを鍛えたら、色々と魔法を使った時の効果もあがるだろうし。

 確かに、定期的にギルドで鍛えてもらうのは悪くないな。


***

「騙しましたね! 魔法が得意とかってレベルじゃないですよ! 教えることなんてないじゃないですか!」


 その後、魔法の方も見てもらったが。

 教える気満々だった、魔法使いっぽい恰好のお姉さんが本気で切れて、ファイターの人に食って掛かってた。

 アルトを肉体派冒険者が独占してるから、俺が魔法が得意ということで魔導士系の人たちが盛り上がってたらしい。

 蓋を開ければ、魔法が得意なんてレベルではなく。

 全属性の魔法をそれなり以上に扱う俺を見て、周りのテンションが下がっていくのを感じた。

 で、肉体派と頭脳派が揉めているけど。

 えっ? 俺のせい?


 とりあえず、アルトに連れられて逃げるように、料理屋に。


***

「ははは、流石は我が弟だな」

「言ってる意味がわかりません」

「ただの、弟自慢に付き合ってもらっただけだよ。私の用事は終わったから、あとはルークの買い物だね」


 鍛錬とはただの口実で、本当は俺を見せびらかしたかったのか。

 なんというか……まあ、良い兄といえば良い兄か。


 それから、食事を済ませ、学校で必要なものの買い出しに。

 食事は王都料理とのことだったけど、なぜかジャストール領の調味料が置いてあった。

 ビレッジ商会、なかなか頑張ってるじゃないか。


「何を買うんですか?」

「特にないね。本当に必要なものは、キュロスがすでに手配しているらしいし」


 そうだよね。

 なんだかんだで、お坊ちゃんだから自分で買い物なんかしないか。

 じゃあ、何しに来たのさと言いたいが。


「学校に行くのに身に着けるものを、買いに来たんだよ」

「制服じゃないんですか?」

「まあ、制服なんだけど、少しは個性を出したいと思わないか?」


 そう言って、少し高そうな被服店の扉をあけるアルト。

 なるほど、そこにはこれから通う王立高等学園の制服が並んでいる。

 微妙に、手が加えられた。

 普通は白地に濃紺のシンプルなラインの縁取りがされてるブレザーだが、ここにあるものは、ちょっと凝った金糸の刺繍による縁取りがされたもの、火をイメージしたような赤い糸で縁取りがされたもの。

 さらには、ワンポイントで家紋っぽい刺繍がされたものなどが並べられていた。

 

「制服って改造してもいいのですか?」

「いいんじゃないかな? 私も少しこだわっているし」


 無駄遣いじゃ……

 別に、制服なんか個性出す必要も感じないし。


「私は、シンプルなのでいいですよ?」

「シンプルな制服の子なんて、あまりいないよ?」

「じゃあ、返ってそれが個性になりますね?」

「ふむ、口ではかなわないから、兄として勝手に選ばせてもらおうかな?」


 どれだけ楽しみにしてたんだ。

 まあ、1着くらい付き合ってもいいけど、流石にこれは無駄遣いだからなー。

 税金で払うのも気が引けるし……しかし、兄は払う気満々だし。


「ははは、気にしなくていいよ。これは、私が冒険者ギルドの依頼で稼いだお金だから、家のお金じゃないよ」

「それは、少し安心しました」

「うん、だからここは、兄にかっこつけさせてくれるかな?」


 まあ、税金じゃないならいいや。

 アルトも楽しみにしてたみたいだし、ここは着せ替え人形に甘んじるとしよう。


 しかし大体が、ボタンを宝石に付け替えたり、襟にアクセントになるような小さな宝石をあしらったバッジのようなものを付けたりってのが多いな。

 流石にそこまでは冒険しないか。

 ズボンの裾を広げたりなんて、意味が見いだせないだろうし。


 裏ボタンに、裏刺繍なんかいいかもしれない。

 俺は着ないけど、好きそうな子はいそうだし。

 ……ビレッジ商会に、声を掛けてみよう。


***

「ルーク君っていうんだ。緊張してるのかな?」

「アルト様、そっくり! すごく可愛らしいお顔をされてますね」

「ははは、ありがとう。でも、ルークの方が将来有望だよ? ほら、私よりも目が大きいだろう?」


 ……色々と、頭が痛いというか。

 キラキラとしたオーラを放つ巻き髪集団に囲まれて、アルトが嬉しそうに俺のことを話している。

 ちなみに、俺はそのなかでも取り分け質の良い服を着た御令嬢に挟まれている。

  

 こんなことは言いたくないが、匂いがきつい。

 それぞれは良い匂いなのかもしれないけど、混ざるとちょっと。

 あと、単純に付け過ぎというのもあるかもしれない。

 ちょっと、色々と気を遣いだした年齢かもしれないけど、若干気分が悪くなってきた。

 誤魔化すかのように、ひたすら果汁を絞ったジュースを頂いているけど。

 これも、あまり美味しく感じられない。

 さっそく、ホームシックだ。


「大人しいのね。可愛い」


 今俺を誉めてくれているのは、公爵家のご令嬢でジェニファという名前の綺麗な女性。

 前王弟殿下の孫娘だから、ロナウド殿下達の又従妹になる。

 16歳とは思えない、大人びた雰囲気だ。


「ジュースが好きなのかな?」


 そして、ひたすら飲み物に逃げている俺に質問しているのは、侯爵家の娘さんと。

 他にも伯爵家の子女や、子爵家の子女の集団だ。

 恐ろしいのは全員が、辺境の男爵家の嫡男にしか過ぎないアルトにキラキラとした視線を送っていることだ。

 うちの兄は、モテモテだな。


「おっ、殿下の覚え目出度いアルト殿ではないか」

「奇麗な花に囲まれて、さぞやご満悦ってところか?」


 そして、これまたいかにもな貴族の坊ちゃんが通りすがりに声を掛けてくる。

 嫌味かな?

 まあ、これだけ女性に囲まれていたら、やっかみも受けるだろうし。

 何より、リック殿下とたかだか男爵家の嫡男が懇意にしてるとか、他の貴族の子からしたら面白くないだろう。

 そうだな、殿下と仲がいいならこれだけ女性にモテるのも、さもありなんか。


「やあ、デビッド、ブライアン。君たちも買い物かい? よかったら、一緒に喉を潤わさないか?」

「ははは、悪いけど女子を敵に回したくないから遠慮しとくよ。今度また誘ってくれ」

「学校が始まったら、最初の週末にビンセントの家で、エアボードの練習をする約束をしてるから、アルトも来るといい。このあいだお前がやってた、バックフリップだっけ? どうしても上手くいかなくて」


 ああ、ただ単に仲のいい友達がからかい半分に声を掛けただけか。

 ビンセントの家って、あのでっかいお城みたいなところだよね。

 だって、アイゼン辺境伯の息子さんだもんね。

 あそこの庭なら、確かに自由に飛び回れるだけのスペースはあるし。

 

「だったら、この子も連れて行っていいかな? 私よりも、よっぽど上手に乗りこなしているし、教える方もなかなかだよ」

「おお、もしかして、アルトご自慢のジャストール始まって以来の麒麟児の弟君かな?」

「ジャストール領で、天才の名をほしいままにしていると噂の」


 ちょっと待て、アルトはどれだけ俺のことで自慢しているのか? 

 流石に、ハードルが上がり過ぎて、やりにくくなるんだけど。


「男子だけズルいですわよ! 私も、アルト様とルーク君にエアボードを教わりたいです」

「だったら、ジェニファ達も一緒に来たらいい。リック殿下も来るらしいから」

「リックもですか? ミレーユも連れてきてくれないかしら」


 ジェニファが、目を輝かせている。

 又従姉妹同士で、ミレーユ殿下と仲が良いのかな?


「ルーク君も、もちろん来ますよね?」

「あっ、はい」


 これ、断る方法が分からないし。

 でもまあ、エアボードを楽しむのは、個人的にはありだな。


「まっ、あまり女子たちの邪魔しても悪いから、俺たちはもう行くよ」

「じゃあ、また来週」

「ああ、楽しみにしてるよ」


 それから、2人がアルトに手を振って、俺にウィンクして頑張れよと口パクでエールを送ってから去っていった。

 普通にいい人たちだったわ。


「確かに、落ち着いた雰囲気もあって、アルト様がご自慢されたくなるのも分かりますね」


 2人を見送ったあとで、女子の視線が俺に集中する。

 みんなが好奇のこもった目で見てくるので、つい俯いてしまう。

 流石に、これは圧が。


「あまり、楽しくないですか?」


 しまった、気を遣わせてしまった。

 せっかく、楽しそうな雰囲気で談笑してたのに。

 というか、誰かフォローくらいしてくれ。

 女性陣全員が、さらにジッとこっちを見てくるから、かなり罰が悪い。

 はあ……ため息がでる。

 

「いえ、こんなに奇麗なお姉さま方に囲まれることも、母以外の女性にこんなにジッと見つめられた経験もないので……照れてしまいます」


 兄のためにも、多少のおべっかは使っておこう。

 女子に嫌われたら、後々大変だし。

 うわっ、いきなりジェニファに抱きしめられてしまった。


「何この子……可愛すぎない? アルト様、ちょうだい?」

「ははは、いくらジェニファ嬢のお願いといっても、それは受け入れられないかな?」

「ルーク君、年上の女性は嫌かしら?」


 あー……しまった。

 もう少しソフトな感じでか、フランクに答えるべきだったか。

 恥じらいは、年上女性にはアウトか……


「まさか! いまはお姉さまよりも小さいかもしれませんが、男子の成長はあっという間ですよ? 私のようなものが僭越ですが、すぐに、隣に立てるくらいにはなれるかと……」

「……アルト様?」

「あげないよ?」


 しかしながら、若干の本音だったり。

 個人的には、容姿はドストライクだったりする。

 この公爵令嬢のジェニファさんは。


「ふふふ、あと5年は王都にいるわけですし、ゆっくりと仲良くなりましょうね?」

「はい、私も兄以外に親しい知り合いがいないので、とても心強いです!」

「ジェニファ様だけズルいです! 私たちも、仲良くなりたいです」


 怖いよ。

 いや、凛とした表情も奇麗だけど。

 口を挟んできた令嬢を、ちらっと睨むとか。

 

「みんなで仲良くするのはいいことですが……一番は譲りませんよ?」


 あー、他の御令嬢方が、ちょっと困ってる。

 

「ジェニファ、あまり皆をからかわないの」

 

 侯爵令嬢のマリアが、たしなめている。

 なんだ、からかわれただけか。


「私は本気ですよ?」

「まあ!」


 本気?

 え?

 どっち?

 そこまで含めてからかわれてるのかな?

 ただ、周囲の女性陣がさっきの、少し困った様子からなんか盛り上がった感じになってる。

 ちょっと、楽しそうだし。


「ごほん」


 と思ったら、アルトが咳払い一つで、その声を全てかき消す。


「一番は私だよ?」


 ……


「これは、強敵ですわね。いつか、義兄様とお呼びしてみせますわ」

「ふふふ……それも、楽しみだね」


 ……

 もう、好きにしてください。


「それに私は二女ですから、嫁ぐこともやぶさかではありません」


 あっ、これ逃げられないやつかも。

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