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第13話:破壊と終焉の神アマラと時の女神アリスと創造神アシン

「しかし、あの子の将来は末恐ろしいものがあるわね」

「すでに、過去改編の効果は出始めておるからな」


 姉上が、手の甲の上に顎を乗せて楽しそうに、首を左右に揺らしている。

 こういう時の姉上は碌なことを考えていない。


「相変わらず、仲が良いのう」

「あっ、お父様」

「ぬ、父か」


 2人で神界にある自宅で話をしていたら、養父ともいえる神アシン様が部屋を覗いてきた。

 創造を司る神であり、神に至った我らの父となられた方だ。

 さらには神になったときに名前を授けてくださった方だが……兄弟はアから始まる3文字の名前ばかりだ。

 創造を司るというわりには、名前の創造は得意な方ではなさそうじゃなと思ったのは秘密だ。


「例の子の話か?」

「ええ、すでに過去が変わり始めております」

「恐ろしいのう……確定した過去を、根本から覆すか。事象の強制力を簡単に無視しておるようじゃな」

「まあ、あの子自体が特異点のようなものですからね」


 ルークの持つ力は変化。

 人間どもが固有スキルなどといっているものとは、まったくの別次元の能力。

 いまは無意識に、漏れ出た能力の影響力で様々な変化を周りにもたらしているが。

 本当に恐ろしいと感じる力だ。


「もし、神に至ったなら……最高神か」

「完全に目覚めたら私ですら、手に負えない自信があるわ」


 姉上が手に負えないとなると、わしではどうにもならんな。

 確かに、変化の力というのは恐ろしい。

 本来あるべき世界の流れでも、ルークの能力で周囲がかなり振り回されておったからな。

 光のやつも、ルークが負の感情に振れていくにつれて、歪んでいきおった。

 周りもまたそうじゃ。

 あの勇者となった王子も、本来であればルークの親友たりえん男じゃった。

 ルークが好きになった女もまた、振り回されたな。

 ルークが好意を寄せるのをまじかで見ていた王子もまた、彼女に対して好意を向けるようになった。

 その原因は……彼女の方ではなく、ルークに引っ張られたからじゃ。

 周りの家族も、いやルークに関わったものは、すべてルークに引っ張られて負の方へと向かっていった。

 その結果があれか……


 もともと光の女神の性格からすれば、ルークが暗くなったところで見捨てたりはしなかっただろう。

 神の性格にすら影響を及ぼすか。

 最高神である姉であればそのような心配はないと思いたいが。

 恐ろしいのは本人に自覚がないところじゃな。

 上級神以上が司る事象に属する力ではあるし、中級神ごときではどうにもできまい。

 

「お前も、あの子に引っ張られて世界を滅ぼしたではないか」

「父よ、子の心を読むのはいただけませんな」


 うーむ……自己嫌悪じゃ。

 自分でも、あれはやり過ぎじゃと分かっておる。

 そして、それがルークの影響じゃということも。

 だから、姉上にお願いして違う未来を創ろうと思ったのじゃ。

 姉が、確定した未来を変えるのには、大きな力がいるといっておった。

 わしが手助けしてなお、その未来が変えられるかどうかは五分五分と。

 じゃから、姉も手伝ってくれることになったのじゃが。

 現状、姉が手助けしてくれるような事態にはなっていない。

 確定した未来すら簡単に変化させてしまうルークに、そら恐ろしいものを感じる。


 すでに彼の家族や使用人たちは、当初のようにルークに辛く当たることも、邪険にすることもない。

 むしろ、全員から好かれているのがよくわかる。

 魔法が使えるだけではない。

 間で寄り道をして、先に精神だけでも成熟させておいた価値はあった。


「まあ死産だった予定の子供に魂を送り込んだけど……まさか、無事に生まれるとはね」


 そうなのだ。

 魂がないということは、器に致命的な問題があって魂が定着しなかっただけだ。

 本来宿るべきだった魂も、彼の弟として地球で生を受けることもできた。

 器の致命的な問題がありながら、生まれないを生まれるに変化させた。

 もともと、地球での彼の親は、最初の死産が理由でその後、子を宿すことはなかったが。

 ルークのおかげで、3人の子宝に恵まれた。

 ゆえに行き場を失った魂も、次の器に入ることができた。

 あるだけで、周囲に変化を及ぼす。

 それも、ルーク本人の意思に関係なくとも、ルーク自身に引っ張られるように。


「変化か……まあ、他の変化の神にもあったことはあるが、あれはヤバいな。気が付けば仲良くなっておったよ」

「人見知りならぬ、神見知りの父がですか?」

「本当に、流れるようにな。いや、流されたのか? 気が付けば、肩を組んで一緒に酒を飲んでおったわ」


 変化の神ってのは、本当にヤバいのじゃな。

 まあ、英雄の卵を魔王の核に変えてしまったり、とにかくあの世界はルークと光の女神に振り回された、不幸な世界じゃった。 

 あやつ自身は自覚がないかもしれぬが、ルークもかなり変化している。

 カイであったころのじじ臭さは鳴りを潜めてきているし、年相応の口調を自然と……年相応ではないが、だいぶ年齢に言葉だけは追いつてきておる。

 思考までは、変わらぬが。

 性格的な部分も、子供らしい一面を覗かせることもあるしのう。

 あやつが、清く正しく生きたとき……この世界はどうなるのか楽しみで仕方がない。


***

 娘と息子が楽しそうに、新たに迎え入れる予定の子の話をしておる。

 本当に、仲のよいことだ。

 神に至り、数万年。

 飽きもせず、よくもまあ人の世界を覗いておる。


 娘の方は少し、ヤンチャが過ぎるがな。

 下の息子の方が物騒な事象を司っておるというのに。

 あの子には、神の力のせいでいろいろと不憫な思いをさせておる。

 ましてや姉があれだ……苦労は絶えまい。

 人として生きて神と至ったアリスと、竜として長き時を生きたのちに神に至ったアマラ。

 精神年齢もアマラの方が上なのだが……

 他にも何柱も兄弟がおるというに、あの2人は特に仲がよいな。

 常に一緒におる……主に、アマラが振りまわされておるが。

 アリスが、アマラに構っているのか、構ってもらっているのか。


 神に至った経緯も、申し訳なかった。

 たかだかあと10万年が待てずに、殺してしまうとはのう。

 神として生きておるから、殺してはおらぬとはあの娘の言だが。

 言い訳として苦しかろう。


 破壊と終焉の神。

 どうしても必要な神だ。

 その能力ゆえ、知恵ある生物からは忌避されることが多いが。

 物が壊れない世界というものを想像できないのであろうか?

 食べ物を噛み砕くことも、物を加工することもできなくなる。

 なにより、生殖行為にも大きな支障をきたす。

 まず卵が割れぬのだ。

 産まれてくるはずがない。

 それ以前に、受精すらままならない。

 それでも、どうにかなるように進化するのだろうか?

 恐ろしくて試す気にもならぬ。

 何よりも、星の誕生からして成り立たぬ。


 終焉も同じだ。

 死が訪れねば、ありとあらゆるものが溢れかえってしまう。

 何も終わらないのだ。

 その影響力たるや、如何ほどのものか。

 失われぬ命に、生を楽しむことなどできまいに。


 我の司る創造の力を十全に発揮するためにも、あの子は必要なのだ。


 それでも、息子は嫌われる。

 本当に憐れであるが、本人はまったく気にしておらぬのがせめてもの救いじゃな。


 ……それにしても、問題はあの子よのう。

 変化の特性だけなら、よかったのだが。

 それでも十分に取り扱いに注意が必要な事象ではある。

 ただ……もう一つ、弱弱しくも顕現している特性がある。

 もともとあったものではあるが、それだけなら地味な能力なのだ。

 しかし、その影響は彼本人にも出ておる。

 気づかぬうちに、年相応に振舞うことに齟齬(そご)がなくなってきておる。

 体に宿った同調の特性に魂が引っ張られているのか、魂が持つ同調の力が作用しているのかは分からぬが。

 その程度なら、彼の今後に役立つものであるから気にするほどではないが。

 問題は、併せ持つ変化の特性よな……


 変化と同調の組み合わせがどういう結果を生むのか。

 アリスも、アマラも変化にばかり目がいって、気付いていないようだが。

 

 ……しかし、同調とはな。

 厄介な能力よ。 

 もし、神に至り我が子となれば……おねだりされたら断れなくなる自信がある。

 コントロールできるようになってもらいたいが、悪用されると困るな。

 特に、アリスにそそのかされてくだらぬことに、使われでもしたら……

 ただでさえ、アリスも自重を知らぬのだ。

 上級神以下、すべての神を巻き添えにしての時間逆行を使うとは。

 おかげで、他の最高神たちよりクレームが来ておる。

 いくら我が最高神筆頭で我ら一族が最大派閥といえども、これだけのことをしでかしてしまえば他の最高神たちも黙っていない。


 であるのに我が父である全知全能の神も、あの子にはなぜか甘い。

 なぜ、我だけが叱られて、事後処理をしないといけないのか。


 まあ、愛娘のためだ。

 頑張るしかあるまい。

 しかし同調か……くどいようだが、胸騒ぎがしてならぬ。

 同調と変化の組み合わせよりも、同調とアリスの組み合わせを考えると特に……

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