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第12話:暗黒神召喚

 11歳になった。

 来年から、学校に通うのだがまずは領内の学校でいいかなと。

 兄のアルトも、王都の学校に編入したし。

 無理に、辺境伯領の学校に通う必要もないかなと。


 アルトの転校にはひと悶着あったが、アイゼン辺境伯と彼の弟の説得もあって半ば強引に認めさせられていた。

 アイゼン辺境伯の弟が学園の学長なのだが、彼の方にも王族からの圧力があったらしい。

 それほどまでに、アルトは学校で目立っていたらしい。

 いや、学園対抗の体育祭で目立ってしまったとのこと。


「お前も王都の学校に通うことになったからな」


 父の言葉を聞いて、耳を疑った。

 

「あのなあ……例のエアボードとやらの開発だけでも目を付けられているのに、他にもいろいろとやらかしているだろう。すまんな、父のようなしがない男爵では王侯貴族の圧力は、跳ねのけられんのだ」


 露骨に嫌そうな顔をした俺に対して、父はもっと嫌そうな顔をしてため息をついていた。

 苦労を掛けている自覚はあるので、仕方なく受け入れるが。

 いやだなー。

 領内の学校で十分なのに。

 生徒数も少ないし。

 貴族は誰も通ってないし。


「市民向けの学校に領主の息子が通うこと自体、嫌がらせでしかないと思うように」

「領民は領主の息子とコネが持てて、喜ぶかもしれませんよ?」

「子供が領主の息子に対して無礼を働いて、家が取り潰しになる心配の方が大きいだろうな」


 なるほど、一理ある。

 

「私は、そんな狭量ではありません」

「それを証明できるのか? 全領民に対して」

「……面倒ですね」


 それでも、周辺のそんなに裕福でもなければ、功績ももってない貴族の子供は辺境伯領の高等学校に通うのだけど。

 まあ、王族の興味を引いてしまったのだ。

 仕方あるまい。

 王族って、たしかあまり良い性格してないんだっけ?


 そういえば、魔王の核ってどうなったんだ?

 俺の魔力を封じる際に、一緒に植え付けられたって話だったけど。


『あれは、まだ光の女神がもっておる。奴は、お主の誕生の感知すらできてなかったからな』


 邪神が問題発言を。

 魔王の核を光の女神が持ってるって、どうなの?

 いいの?


『そもそもあれは魔王の核なんかじゃないぞ? 英雄の卵じゃな』


 あらやだ、素敵。

 そんなものを埋め込まれて、なお俺は闇堕ちしたのか。


『まあ、やつも慌てたじゃろうな。英雄の卵が闇に染まって、魔王の核になってしもうたのじゃから』


 へえ、勇者と魔王は表裏一体ってのは、ない話じゃなかったんだな。


「まあ、あと3か月あるのだから、しっかりと準備するんだぞ」

「えっ? あっ、はい」


 アマラと話していたら、父の話の方がまとまっていた。

 まあ、決定事項ぽかったから、仕方ないか。

 それから、庭へと向かう。

 やはり使い魔くらいは欲しいかなと。

 自分専用のペット的な。

 取りあえず、庭で試してみるか。

 

「ルーク様?」

「ん? ああ、ベックか」


 俺が魔力を使って、魔方陣を作っていたらベックが血相を変えて、こっちに走ってきた。

 何を慌てているんだこいつは。


「ルーク様が、庭で何かをやらかす予感がしたので来てみましたが、何やらやらかすおつもりですね」

「……なんで、やらかす前提なんだ。あと、その予感は少し気持ち悪いぞ」


 失礼なやつだ。

 まるで、俺がいつもやらかしているみたいではないか。

 やらかしてはいないぞ?

 お前らが、勝手に大袈裟にとってるだけだ。

 元から、力を隠してないんだから、このくらいできて当然だと慣れてもらいたい。


「で、何をやらかす予定で?」

「やらかすとかいうな。なーに、実家を離れて遠くで暮らすんだ。使い魔の一体でも使役して、あっちで無聊を慰めようかなと」

「アルト様がいらっしゃるでしょう?」

「まあ、そうなのだが」


 一応、春から俺も王都にある別邸でアルトと一緒に暮らすことになる。 

 使用人がいるのはいるが、あまりあったことのない人たちだし。

 そもそも、アルトにだって自分の交友関係があるだろう。


「しかし、いつも兄上と一緒にいるわけではないからな。よし、できた」

「相変わらず、見事な魔力操作ですね……魔力で魔方陣を作るとか、竜でも召喚するつもりですか?」


 竜か。

 竜を使役出来たら、移動とか楽そうだな。

 アリスが力を貸してくれたら、転移で簡単に帰省できるけど。

 頼んだら、貸してくれるだろう。


 ただ、俺が帰省するときはアルトも一緒に帰るだろうから、そうなると渋るかもしれない。

 でもアルトだって、アリスとアマラの兄の加護を受けてるからなー。

 ちなみに兄の名前はアレスだった。

 流石に、似たような名前ばかりで混乱しそうになったが、まあ兄妹だからな。

 神様の名づけに適当だなと感じたのは秘密だ。

 てか名前からすると、俺より兄のアルトの方が神様の仲間入りできそうだけど。


「じゃあ、召喚するぞ! 竜がいいな」

「そんな、適当な。そもそも、その召喚術は誰に習ったのですか?」

「うーん、まあちょっとした偉い知り合いかな?」


 アマラが教えてくれた、召喚術だ。

 魔方陣もアマラが教えてくれた。

 彼の眷族が呼べるらしい。

 だったら、竜を呼べる可能性もでかいな。


 魔方陣に力を込めて、アマラに習った召喚の呪文を唱える。

 

「……来い、我が眷族よ! 我の手足となって働くがよい!」


 なんか、偉そうだけどこんな強気でいいらしい。

 というか、強気でいけと。

 魔方陣が天に向かって吸い込まれそうな闇の柱を作る。

 あっ、屋敷の方が騒がしくなった。

 町からも、なんか人が騒いでる声が聞こえる。

 この魔法目立つなー……こんなの使ったら、召喚魔法使ったってバレバレじゃん。


「こ……こ……」


 こ?

 ベックが、口をパクパクさせてその光景を眺めている。


「こんな召喚術見たことありませんよ! 天を貫くほどの闇の柱を作り出すだなんて! 何を召喚されるおつもりですか」


 ……思わず、アマラがいるだろう場所を睨んでしまった。

 なんてものを教えるんだと。

 これは、騒ぎになるやつだ。

 

『だから、わしは地下かどこかでこっそりやれと言っただろう』


 確かに言われたけど、そういう意味だとは思わなかった。

 単純に呼び出したものを、見られない方がいいのかな程度の認識。

 この時間なら、庭にいる人も少ないしと……


「ルーク! 何をした」


 父上が息を切らしながら、走ってきた。


「ルーク様! また、何をしでかしたんですか!」


 その後ろを、ランスロットが数人の部下とエアボードに乗って、文字通り飛んできた。

 上司である領主様より、楽してんな―。

 父上は、なぜかエアボードに乗りたがらないから仕方ないけど。

 ちなみにアルトは普通に乗れる。

 ヘンリーとサリアも、ボードに乗って浮かぶだけならできる。

 俺の弟と妹は天才なのだ。

 なんてこと言ってたら、アルトとあまり変わらんか。

 

 ……現実逃避はこれくらいにして、周囲に目をやる。

 顔を真っ赤にして、こっちを睨んでいる父。

 それ以外は、心配そうに少し距離を置いて見守っている。

 あとは使用人や、他の兵士が物陰に隠れたり窓から様子を窺っている状況。

 

 まあ、なるようになるだろう。


「ふむ、人の分際で我を呼び出すものがおろうとはな」


 闇の柱の中から、偉そうな声が聞こえてきた。

 しゃべることができる竜とかかな?

 柱のサイズ的に、そこまで大きくはなさそうだ。

 乗れるかな?


「しかし、我に従えとはいただけんな。気は進まぬが、身の程を教えてやらねばなるまい」

 

 柱の闇が徐々に晴れていき、大柄の男性のシルエットが浮かび上がる。

 あー、悪魔のパターンか。

 それは想定してなかった。

 邪神が竜だから、眷族も竜ばかりだと思っていたけど。


「な……なんて、魔力だ」

「この圧力、これは悪魔どころではないです。魔人……もしくは、神獣クラス」

「くっ、お前らなんとしてもルーク様をお守りせよ!」

「はっ」


 父が顔を腕で庇いながら、闇の方を睨みつける。

 相当な圧が襲い掛かっているのだろう。

 ベックは膝をついて、恐怖にかられたような表情になっている。

 ランスロットが部下たちに指示を出しながら、武器に手をかけて俺の方へと向かってくる。

 とりあえず、それを手で制して人型に声をかける。


 ええと、確か……


「我が手足となって、働けることを感謝せよ」

「ルーク様!」

「ルーク! いたずらに、刺激するな! あれは人がどうこうできるもんじゃない」


 ベックと父上が焦っている。

 でも、邪神が教えてくれた通りにしてるし。

 こと魔法に関しては、あいつの言うとおりにするのがいまのところ最効率なんだよな。


「小僧……貴様、いたずらに我を呼び出したことを後悔させてやろう」

『小僧……貴様、わが弟にかような口を利くとは……いつから、そんなに偉くなったのだ? ああ?』

「ア……えっ? あれっ? あー……えっ?」


 なんだかうまくいきそうにない空気を感じたら、後ろから邪神がどすの利いた声で召喚した人型を脅し始めたよ。


「えっ? えっと……えっ?」


 召喚された人、すごく混乱してるなー。

 急にオドオドとし始めて、周囲をキョロキョロと見回している。

 昔、アマラに何かされたのかな?

 

「ルーク、こっちに! 父の陰に隠れよ!」

「ベック、ふぬけてる場合か! お前も、手伝え」


 ぼーっと眺めてたら父が俺の手を引いて、身体で隠す。

 そして、ランスロットがベックを立たせて、臨戦態勢を整える。

 おっと、母上まで屋敷から飛び出してきた。

 大事になってしまった。


「おい、騒ぎになってるんだけどさ? どうしてくれんの?」

「だから、お前はこれ以上やつに話しかけるな! というか、言葉遣い! うちの子の言葉遣いが……」

 

 アマラに話しかけたら、凄い勢いで父に怒られた。

 というか、父上がうるさい。

 いや心配してくれてるのはわかるけど。


「我に言ったの「お前じゃない! アマラに言ってるんだ」」


 召喚した人型の何かがこっちに話しかけようとしたのを遮って、声を荒げる。

 思ったより大事になって、俺も焦っているのだろう。

 我ながら心の余裕がないと思いつつも、とりあえずアマラにどうにかしてもらうよう文句を言おうとしただけなのに。


「アマラ? アマラとは誰だ? この召喚獣か?」

「アマラ……どこかで聞いた覚えが」


 父上とベックが、おたおたしている。

 こうなったら、収集が付かない。

 俺も含めて、全員が絶賛混乱中か……

 どうにかして、場を納めないと。

 ただ、いま何かいっても片方が落ち着いたところで、反対が騒ぎそうだし。


「あなた何をしてるの! ルークを早くこちらに」

 

 急に母上の声がしたと思ったら、間髪入れずに父上を怒鳴りつけている。

 ああ、母上まで来てしまった。

 これは、非常にまずい。

 うまくまとめても、あとで絶対に説教されるパターンだ。


「ア……アマラ様を呼び捨てだと」

『お主のせいで、弟に叱られてしまったではないか』


 アマラが俺の言葉に焦って、目の前の男性に話しかけた途端時が止まる。

 どうやら、幸いにも父上達には聞こえていないようだが。

 ただ、今度は召喚された人型の顔色がひどく悪くなっている。


「えっ? 弟? はっ? 本当に?」

『はやく、なんとかせい』


 目の前の男性の独り言を聞かされているような状況に、周囲がザワザワとし始める。

 町の方も相変わらず、騒がしい。

 

「お前ら、こそこそ話してないでこっちを見ろ! 俺はいま、この場をどうするか聞いてんだけど?」

「ルーク!」

「くそ、もういい! 行くぞお前ら! なんとしても、やつを追い返せ!」

「はっ」


 とうとう収集が着かないとみたランスロットが、決死の表情で男性に攻撃を仕掛けた。

 もう、どうにでもなれ。


***

「私はルーク様の、忠実なしもべです」

「そうですか、ルークの従魔になってくださるんですね」

「し……しかし、人に仕えるような存在には、見えぬのだが」


 どうにかこうにか、落ち着いてもらって屋敷の応接間で話し合い。

 落ち着いてもらってというか、目の前のフォルスと名乗った男が威圧で全員を押さえつけた。

 俺と母上以外の。

 母は、その威圧に耐えきって俺を庇って、フォルスに殴りかかっていた。

 リアル混乱状態か恐慌状態に陥ったのかもしれないが、その条件反射で俺を守ろうとしたのか。

 不謹慎だが、少し嬉しくもある。

 上手に息子ができているみたいで、一安心だ。

 ただ父がその姿を見て、唖然としてたのは思い出しても笑える。


「何を笑っている?」


 父に睨まれた。

 真面目に話に参加しないと。


「まあ、本来であれば人が我に仕えるべきなのだが……そこな子は特別だ。はい、すみません。はい、気を付けます」

「フォルス殿?」

「あっ、すまん。ちょっと上の者に叱られてな。そちらのお方を、ぜひ手伝わせていただければと」

「急に丁寧になりましたね」


 ちょいちょい、アマラが脅しているようだ。

 母が突っ込んでいるが、顔色が悪い。

 あまり、いじめないように言わないと。

 

 ちなみに、現れたのは黒のマントを纏った貴族服の男性。

 立派な角が3本生えていて、それなりに整った顔の30代くらいのイケメン。

 艶のある流れるような黒髪と、吸い込まれそうな黒い瞳が親近感を湧かせる。

 ただ、八重歯と呼ぶにはでかすぎる牙が目立つけど。


 正体は暗黒神フォルス。

 人間には闇神として、信仰されている。

 名前までは広まっていないらしいが、中級神の一柱か。

 この世界の人は属性神が下の方の中間管理職だということは、思ってもみないことなんだろうけど。

 俺の今の認識だと、まあ少しだけお気楽な中間管理職。

 上級神の方が大変そうだからな。


「まあ、吸血鬼ではあるが……主とは完全に主従契約を結んだから、害することはない。攻撃すらできんよ」

「なるほど、それを証明する手立ては?」

「我を疑うと?」


 父の言葉に、フォルスが剣呑な雰囲気を醸し出す。

 人ごときに、言葉を疑われたことがよほど腹が立ったのだろう。


「フォルス?」

「あっ、はい……父君にはこればっかりは、信じてもらうほかないかと」

「は……はあ、こちらこそ無礼を申したみたいだ。まあ、愚息のいうことを……」

「愚息? 貴様、我が主を愚かだと……」

「フォルス?」


 父の言葉に食い気味に怒りをぶつけかけたフォルスの言葉を、食い気味に名前を呼んで黙らせる。


「話が進まん、父上、安心してください。フォルスが私のためにならないことをすることは、絶対にありえません」

「だが……その方からは計り知れない力を感じるのだが」

「私の方が将来的には確実に強くなりますので」

「ええ、それは間違いないですね」

「は……はあ」


 父が納得しかねているが、まあ今後の頑張りで信用を得るしかないな。

 とりあえず、フォルスを使役することは認めてもらえたが。

 あとで、フォルスとの関係性をはっきりとさせないとな。

 主従関係でいいのか。

 はたまた、上司の弟として手助けしてくれる関係なのか。

 

「フォルス様?」

「なんだ?」

「我が息子に何かしたら……この命と引きかえてでも、消しますから」

「あっ……うっ、あい分かった女よ。誓って、ルーク様には手を出さん」

「約束ですよ?」

「う……うむ」


 とりあえず、母上に対してはそんなに強く出られないことは分かった。

 俺も、ちょっと怖かったし。

 うん、父上がドン引きだ。

 女は弱い……されど、母は強しとはこのことか。

 

 しかし、闇神を独り占めしていいのかな?


「あー、闇の神ってあまり人気ないというか……そんなに、信仰してくれる人もいないので、数十年くらい問題ないですよ。お気になさらないでください」


 本人は特に思うところもなく、あっけらかんとそんなことを言っていたけど。

 なんか、フォルスが少し可哀想に思えた。

 

「人みたいな塵芥のような存在に、崇められてもねぇ……100万人の信者を得るよりは、上司である上級神様や最高神様に褒めて頂けた方がよっぽど嬉しいですし」


 負け惜しみじゃなくて、本心なんだろうけど。

 そういうのって、そこそこ信仰を集めた神がいってからこそだと思う。

 仲良くしようぜ。

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