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第10話:ルークの日常2(後編)

「だいぶ、よくなった」

「ええ、そうですね」


 孤児たちの現状を何とかしようと考えて、2年。

 ようやく、それなりに効果が見えていた。


 父上はともかく、母上とアルトは割と簡単に協力をしてくれた。

 あの子は、私だったかもしれない理論で。

 よかったよ、アルトが選民思想的なものに傾いてなくて。

 まあ、真面目に家庭教師の話も聞いているみたいだしね。

 その家庭教師も、平民からの叩きあげと聞いた。

 そんなわけないだろうと思ったが、嘘は言ってなかった。

 祖父にあたる方が、王都の中規模の商会の商会長とのこと。

 大商人だろうが、身分は平民。

 両親の教育がよかったのだろう。

 祖父は苦労していまの商会をここまでの規模にしたと。

 彼の母親が幼いころは、生活もままならないほどだったとのこと。

 祖父の仕事が軌道にのって、彼女が人よりも少し恵まれた暮らしができるようになったのはもうずいぶんと大きくなってかららしい。

 その苦労を知っているから、いまの先生があるのだろう。

 先生からすれば、生まれた時から裕福で周囲が気を遣う祖父。

 その祖父もまた、周りに気を配り……特に、孤児たちに優しかったと。


 いやらしい話、それを聞いた俺は使えると思ったね。

 情に訴えれば、先生の祖父から資金を引っ張り出せないかと。

 王都まではかなりの距離があるが、途中の町にある支店を経由して手紙を届けてもらった。

 町に孤児が溢れそうになっていること。

 雇用が足りずに、浮浪者が増えていること。

 浮浪者は放っておいていいと手紙には書いてある。 

 自分で行動もできないものは、手を差し出す必要もない。

 むろん、疾病等で働けないものに関する支援は考えている。

 が、まずは子供たちが先だ。

 彼らをなんとかすることが、この町の将来につながる。

 なんといっても、俺と同世代。

 俺が大人になったときに、彼らがまっとうに育っていれば治安もよくなっているはずだ。


「しかし驚いたな。ビレッジ商会の支店をまさか辺境にあるジャストールに出してくれるとは」

「ルーク様の考えること、なされようとしていることに痛く感銘を受けたとのことですよ」


 人の優しさに付け入るようで、少しもやっとしたものは残るが。

 俺も多少はビレッジ商会を手伝っている。

 かの商会は、もとからあるうちの町の商店を相手に仲卸をしている。

 彼らが本気で商売をして、他の店を経営不振に追い込んで潰すのは拙いと考えてのこと。

 

 目的が雇用促進もあったので、働き口を減らすような真似は本末転倒だ。

 一応、小さなお店も出しているが、この町で取り扱われないようなニッチな品を扱っている。

 あとは、魔物素材とかか。


 俺が提供している。

 夜中にこっそりと屋敷を抜け出して。

 侵入者を感知する魔力結界とうも張られているが、魔力同調を使える俺からすればなにも問題ない。

 そもそも、時空魔法の中には転移魔法もある。

 アリスの許可がないので、視界の範囲にしか転移できないけど。

 特殊な属性は、それを司る神からの加護でしか扱えない。

 故に、神の裁量でどの程度まで使えるかが決まる。


 これが、聖属性の回復魔法の使い手が少ない理由だな。

 信徒にしか与えないっていうのも意地が悪い。

 けど、多くの人に与えすぎると管理が大変というのも分かる。


 ここでいう聖属性を司る神は、光の女神とは別だ。

 愛と希望と勇気と正義と優しさを司る最高神の一柱。

 お前はどこのヒーローだと言いたい。

 そして、本当に唯一無二の最高神である主神の嫁。

 その主神の特性は全知全能。

 でしょうね。

 で邪神たち上級神からすれば、おじいちゃんみたいな存在とのこと。

 でこの愛と希望~の神様は主神の嫁だから唯一無二の存在。

 すべての世界を管理している。

 むろん分身体を作るくらいはできるらしいが、最終的に処理するのは彼女だから加護を与える審査が厳しめと。

 

 話が大きく脱線したが、そういうわけで時空魔法は属性魔法と違って簡単に覚えられるものでもないということだ。


「お姉さま、できれば森まで跳びたいのですが」

『仕方ないわね。可愛い弟の頼みだし、2時間だけ転移範囲の制限を解除してあげるわ』


 決して上目遣いで、胸の前で手を組んだくらいでどうにかなるものではないのだ。

 普通は。


『100超えたじじいの、上目遣いとか』

「お前が死ぬまで寝続けた時間の100分の1にも満たないのだが?」

『ぐ、弟が兄に冷たい』


 邪神のくせに。

 まあ、なし崩し的に彼らの弟として振る舞わされているが……振り回されているともいうか。

 2人ともなんだかんだで、協力的なのだ。

 ちなみに、回復魔法は火、水、風、地、光、闇、すべての属性に存在する。

 火は持続回復系が多いかな。

 地は回復量、風は広範囲回復、水は状態異常回復に特化している。

 

 というわけで、夜中に外に出て適当に魔物を狩っては素材をビレッジ商会に届けていたのだ。

 孤児たちに届けさせ、商会から小銅貨1枚を払わせる。

 残りの代金は孤児たちの集合施設の建設費に充ててもらっている。

 誰からかは秘密にしているが、ビレッジ商会会長の志に感銘を受けた者とだけ書いた手紙を添えていた。

 途中で紙代がもったいないと思い、いまでは孤児たちにいつものと言わせるようにしているが。


 小銅貨1枚で買えるものなんて、たかがしれている。

 だが、それでも孤児たちにとっては大事な収入源だ。

 同情だけで施してはいけない。

 助けられることが当たり前と思われてもいけない。

 少し安く使うことで、お金を稼ぐ大変さを身に持って知ってもらわないと。

 

「しかし、最初は喧嘩を売っているのかと思いましたよ」

「まさか、いくらそこそこの規模の商会といっても、冒険者ギルドに喧嘩を売るような真似はせんだろう」


 俺が子供たちに届けさせる意図を理解したのか、ビレッジ商会はその小さなお店で何でも屋もはじめた。

 冒険者ギルドの仕事に、町の住人の困ったことを手伝う雑用みたいなのもある。

 戦闘が得意じゃない新人たちの、飯の種でもあるわけだが。

 冒険者ギルドのこれは、すごく評判が悪い。

 料金をちょっと多めに設定したうえで、こいつらに直接チップを渡さないとまともにやらないのだ。

 結果として金より手間を惜しむ金持ちくらいしか、利用者はいなかった。


 そこで商会は孤児たちを使って、本当に簡単な仕事を受けるようにした。

 庭の草抜きや、部屋の掃除。

 家庭菜園の手伝い、ペットの散歩とうとう。

 仕事を受けた孤児は、一度商会の裏で身体を奇麗に洗ってから、服を貸し出してもらう。

 仕事をするなら、いくら孤児でもそれなりの見た目は大事だと。

 もちろん、先方には孤児であることは伝えたうえでの契約。


 子供たちもいくら古着でも状態がいい服が高価なものだと知っているため、一生懸命身体を洗っている。

 もちろん、外での仕事が多いから汚れるのは仕方ない。

 働いて汚れた分には、誉めてもらえたり労ってもらえるので途中から気にしなくなったが。

 自分が汚すのは、非常にまずいことだと考えているらしい。


 いいことだ。

 それに常連もついてきた。

 おもに、年配の方たちだ。

 小奇麗になった孤児をみて、こんな可愛い子が苦労してるなんてと。

 子供たちの手が離れた夫婦が、養子にと願うこともあった。

 もちろん、無料でこき使うためかもしれないので、ある程度の調査と最初の3年間は定期的な訪問をお願いしたうえで、孤児本人が望めば送り出している。

 養子に出す前に、1カ月ほどいろいろと常識やら知識、礼儀をたたき込まれるが。

 そんな格式ばったものではない。

 普通の家庭の子として暮らせるために必要なもの程度だ。

 

 冒険者ギルドの方には、13歳以上の孤児を送り込んでいる。

 流石にいろいろと教育が大変だったが、犯罪まがいのことをしていた彼らを片っ端から説き伏せていた。


「たたき伏せていったの間違いでは?」

「はっはっは、9歳児にそんなことができるとでも?」

「私の見間違いとでも?」

「ふむ、老眼がすすんでいるのではないか?」

「まだ、そんな歳ではありませんよ」


 軽口をたたきながら、冒険者ギルドに目をやる。

 ふふ……思わず笑みがこぼれてしまう。

 革のエプロン姿の冒険者がギルドから出てくると、俺に気付いて笑顔で駆けつけてくる。


「ルーク! 今日は散歩?」

「ああ、それにしても似合ってるじゃないかレモン。今日は清掃の仕事か?」

「うん、ミックさんちの池の清掃。水を抜いて一気に終わらせるらしいからそのお手伝いだよ」

「そうか、それじゃあ急がないとな」

「うん、頑張るね! ランスロットさんもご苦労様です。それじゃあ、失礼します」


 レモンが俺に手を振って、ランスロットに頭を下げて、また俺に手を振って走り去っていく。

 その後ろ姿をみながら、感傷にふけっていたら横から咳払いが聞こえた。

 見上げると、ランスロットの機嫌が悪い。


「今は家に住んで、まっとうに働いているとはいえ元は孤児……というかそもそも領民にあのようになれなれしく、しかもあろうことが呼び捨てを許可するのはどうにかなりませんか?」

「彼女は俺にとっては、年上の友だ……まあ、当然じゃないか? なあに、彼女も分かっているさ。俺が領主の息子であるときは、きちんとルーク様と呼んでいる」

「ですが、周りのものに見られたら「もう、何度も見られている気にするな」」


 俺の言葉に、ランスロットが大きくため息を吐く。

 

「それにそれをいったら、私の方がよっぽど無礼で失礼だったと思わんか? だから、彼女にはなんも言えんのだ」

「あれは……ルーク様が軽率だっただけでは「お前も、私に注意しなかったよな?」」 

「……」

「お前も、私と一緒でレモンを男の子だと思っていたんだろう?」

「……私はそんなこと「ん?」」


 そうなのだ、最初に声をかけた孤児……女の子だった。

 まあ女らしい恰好をするといろいろと問題があるのだろう、だからあえて中性的な恰好をしていたらしいが。

 それを全然気づかずに、長いこと男扱いをしてベタベタと触ったり。

 そういえば、汚れを落とすといって上を脱がして頭から水をかけて洗ってやったことも。

 妙に抵抗すると思ったし、下は下着までは脱がさなかったからな。

 野郎の股間を凝視する趣味もないので、下着姿に男だったらあるはずのふくらみが無いことにも気づかなかった。


 結構な回数。

 なぜか、途中から抵抗しなくなって、すごく虚ろな表情や切なそうな表情を浮かべていたな。

 そのころには、自分で服を脱いで洗うようになって、俺は背中と頭だけ洗ってやってたから余計に気付かなかったわ。

 健康状態がよくなって、胸に膨らみが出てきたことなんか。

 道理で、やたらと胸を張ってアピールするようになったわけだ。


「だいぶ栄養が足りてきたな。肉付きもよくなってきたし、鍛えたら力仕事もできそうだな」


 と言ったら、頬を膨らませてたたかれそうになった。

 流石に領主の息子をたたくのはまずいと思ったのか、自分の太ももをたたいて悔しそうにしていた。

 気付いたのは、買い出しにいくメイドを、俺の私用で出かけるついでにランスロットと護衛代わりについていったときだ。

 レモンがいたので、挨拶をして別れたのだが。


「可愛らしい娘ですね。あんな子が孤児だなんて、心配です」

「ん? 大丈夫だろう、彼も男なんだ。そうそう酷い目にはあうまい」

「えっ?」

「えっ?」

「彼女……ですよね? 女の子ですよ?」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」


 メイドの言葉に、俺だけじゃなくランスロットも「えっ?」といった。

 言ってたな。

 思い出した! やっぱりこいつも、男だと思っていたじゃないか。

 そして、数々のやらかしを……


「ランスロット……本来であれば、責任取って嫁にでも迎え入れねばならぬところだったのだぞ? 気の置けない友となるだけで許してもらえことに感謝しよう」

「……そうですね」


 うん、彼女には頭が上がらない。

 しかし、彼女も家……まあビレッジ商会の建てた、長屋のような集合住宅だがそこの一軒を借りている。

 基本は家賃制だが30年一度も家賃を延滞しなければ、そのまま所有権を移すという契約。

 まあ、そのくらいたてば老後の不安もあるだろうしと、先を見越しての計画だ。

 少しずつ、町が変わっていっている。

 いい方向に。

 明日が来るのが、楽しみでならない。


「楽しそうですな」

「まあな」

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