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第8話:ルークの日常

 9歳……もう9歳。

 まだ9歳。 

 されど9歳。

 子供だ……


 俺に自由はない。

 外に出るのにも、護衛がついてくる。

 正直、護衛より俺の方が強いのにと思っている。

 傲慢?

 事実だから仕方ない。


 まず身体強化魔法が使える。

 なんちゃってだけど、本家よりもすごい。

 魔力を直接操作して物を動かす力を利用。

 さらに薄く伸ばすのではなく、薄く圧縮して身にまとうことで強度ももたせられる。

 ようはサイコキネシス的な力を、身体にはわせた魔力を使って自身の身体の動きに連動させて使っている。

 その魔力の感覚も肌にダイレクトで伝わるようにしているので、自分の身体と同様に使える。

 物が触れればわかるし、熱も感じる。

 感じるだけで、火傷や凍傷を負うことはないけど。

 そのうえ、触れたものに対して鑑定まで使えるオマケつき。

 もちろん、温度だって測れるすぐれもの。

 

 むろん、常にそんなものを使っていたら身体がなまるので、万が一に備えての練習時間は用意している。


 次に敏捷強化だが、これは時の女神のアリスにもらった加護で使えるようになった時空魔方で代用。

 自身の時間を加速させるクイック、そして使い終わったら使った時間分だけ身体を過去に戻している。

 じゃないと、すごい速度で歳をとるからね。


 あとは、相手に対してスロウを掛ければ完璧。

 正直、アルトにも楽勝で勝てると思っていたが……時の女神と破壊神の兄がアルトに与えた加護は、耐性も半端なかった。

 たぶん、本気でやっても辛勝くらいだろう。

 負けるとはいわない。

 相性の問題だ。


「外に出る」

「はっ、お供します」


 俺が屋敷の外に出ることを告げると、うちの領軍の副団長であるランスロットがついてきた。

 40過ぎのナイスミドル。

 剣の腕は領内一で、俺とアルトの剣の師匠でもある。

 剣の技術だけなら、圧倒的に負けている。

 技術だけ。

 まともに戦えば、剣の勝負でも俺もアルトも勝ってしまう。

 勝ってしまった。

 

 そして、屋敷から出てってしまった。

 2か月後に戻ってきたときにリベンジマッチを挑まれ、兄も俺も負けたけど。

 剣の勝負なら。

 剣を斬ることに特化した剣士とか。

 そりゃ剣斬られたら負けを認めるしかないけど、それでいいのか?

 勝負なら負けるけど、やはり殺し合いなら俺とアルトの方が強いんだろうなと思いつつ黙っている。

 ランスロットも薄々そのことには、気付いているだろうし。


 ちなみに団長は風と火の精霊の加護をもっている、凄腕の剣闘士。

 といっても使う武器はハルバートにランス、剣と多岐にわたる。

 素手でも戦える。

 剣闘奴隷だったが勝利を重ねお金を稼ぎ、大一番のトーナメントでそのお金を全て自分に賭けたうえで見事優勝。

 自由の身になって流浪の旅をしているところを、祖父が拾ってきた。

 うちの祖父の何がよかったのか。

 いまだに、祖父とは交流があるとか。

 ちなみに祖父母は、ジャストール領にある避暑地的な観光地で隠居生活を楽しんでいる。

 年に3回は遊びにいってるし、その逆もしかり。


「今日も例の魔道具屋ですか?」

「ああ、ついに完成したからな」


 尊大な態度だと思われるかもしれないが、主人の息子と従者の関係。

 あまりへりくだってはいけないと言われた。

 個人的には俺の方が精神的に年上ではあるしと、納得しているが。

 子供が大人に対して使う言葉遣いとしては、いかがなものかと思っていた。

 慣れたけど。


「完成してしまったのですね」

「そんな残念そうにするな。そんな無茶はしないさ」


 2人で話しながら、領都の目抜き通りを歩くとお目当ての店に。


「お、坊ちゃん待ってましたよ」

「ああ、今朝お前のとこの若いのが伝えにきてくれたからな、急いで用事を済ませてきた」


 丁稚というか、小僧というか……

 出稼ぎの子供が領主邸まで息を切らせて、報告にきてくれた。

 もちろんチップは弾んでおいたから、ホクホク顔で帰っていった。


「しかし、変なものを頼むもんですな」

「まあ、これだけ見たらそうかもしれないが……使っているところを見たら、驚くぞ?」


 俺は親方から細長い木の箱を受け取る。

 中を開けると、スノーボードのような形をした金属の板が。

 魔法を通す金属を液化して基盤のように線を引いた板。

 その先は、板の底面に着けられた風属性の魔石。


 魔石ってのは、魔力を通しやすい石だな。

 各属性にあったものがあり、その属性の魔法や事象の発動を手助けしてくれる。

 今回、風の魔石の役割は地面に向けて風を送り板を浮かせる補助。

 こんなの使わなくても、直接板と地面の間に空気の膜を作ることはできるが。

 高さを出すためと、誰でも使えるようにするための工夫を施してみたが。

 無駄に金がかかったが、小遣いの範囲。


「ちょっと、裏の実験場を借りるぞ」

「見学しても?」

「もちろんだとも」


 親方と一緒にランスロットが緊張した面持ちでついてきている。

 もちろん、ランスロットにはこの板の使い方は教えてある。

 こう見えて、スケボーもスノボーもそれなりの腕だからな。

 サーフィンもかじっていたから、自信はある。


「おお、浮いた」

「浮いただと?」

「浮いてしまった」


 三者三様の反応。


「!」


 あっ、物陰でこっそり覗き見ていた、丁稚の子も無言で目を見開いているから四者四様か?

 

「よし、問題はないな。よっと」


 俺はとりあえず板をまた地面に降ろして上にのる。

 上面には滑り止めがついており、踵をひっかける段差もある。

 完全に固定すると、暴走したときに危険な気がしたのである程度安定した形で乗るだけにした。


「だ……大丈夫ですか?」

「……」

 

 親方は俺がやろうとしていることを理解して、不安そうにしている。

 そしてランスロットは心底嫌そうな顔をしている。


「ケガだけはしないでくださいね」

「ははは、心配性だな。治癒魔法もそれなりのものだぞ」

「そういう意味ではないのですが。ケガを前提に話されても」

「危険なくして、発見はない」

「そんなこともないでしょう」


 保護者がうるさい。

 まあ、とりあえず浮かせてみる。

 うーん、少し出力のバランスが悪いな。

 いや、重心の移動でどうにかできそうか。

 

「浮きましたよ! さあ、おりましょう! もう満足でしょう?」

「成功ですか?」


 ランスロットがハラハラした様子だし、親方も不安そうだ。

 さっさと、動かしてみるか。

 エッジと、前後にも魔石が設置してある。

 ちなみにエッジ部分は下方向に向けての、風の魔石。

 前後には、前と後ろに向けて同じように風の魔石がついている。

 そしてそ板の前方には4っつの起点となる円形の模様と、そこから延びるように魔石に向かって線が引かれている。

 一応俺はこの状態で使えるが、他の人の場合はそれぞれの起点に合わせた指輪を装着して、そこに魔力を流す形で操作するようになるだろう。

 とりあえず、円形の模様に向かって魔力を伸ばしていく。


 まずは、後ろの魔石に魔力がいくように力を込めてと……


 おお、進んだ。


「ひい!」

「うおおおお!」


 ランスロットが悲鳴をあげている横では、親方が雄たけびをあげていた。


***

「ほう、ランスロットも手慣れたものだな」

「確かに、慣れれば便利なものですね」


 いま、俺とランスロットは庭を例のボードで疾走している。

 魔力を増幅する装置もつけて、少ない魔力でも自由自在に動かせるようにしてみた。

 後ろの魔石は推進力、左右のエッジに魔力を送ることで方向転換。

 前の魔石はブレーキ用だが。


「このエッジを地面に付けての滑るような方向転換がいいですね」

「そのうち、エアー系の技も……まあ、これ自体が浮いてるからエアーというのも変な話だけど」

「例の、空中で横や縦に回ったりするあれですか?」

「ああ、こんな感じだな」

「ひいっ」


 俺が左のエッジの前方を手でつかんで塞ぎつつ、エッジ後方から空気を送り出すと横にクルクルと板が回転する。

 ランスロットにとってはどうも、見てるだけでも心臓に悪いらしい。

 そんな、危険な技じゃないんだけどな。

 落ちても、ケガしたところで魔法もあるし。


 その後、ランスロットがこれをある程度の数をそろえて、ジャストール家で一大ブームが巻き起こった。

 祭りの際には、ハーフパイプなんかを用意してショーをしたところ町の人の反響もよかった。

 よすぎた。

 祭りとなれば、他の領地からも人が来ているわけで……


 基本的にはまだ完成品とはいえず、安全性が確保できないため領軍への配備のみにとどめる予定だと説明して誤魔化した。

 軍需品かと勘繰られたが、改良して安全性が確保できたらとごり押しで。


「第2王子からのおねだりって、断ってもいいと思うか?」

「断ってはまずいでしょう。完成品の第二号は、殿下にお送りするという形で時間稼ぎしてはいかがでしょうか?」


 父上から相談を受けたので、無難な回答。

 俺の発案だから、俺にお伺いを……もしかして、俺を前面に出して弾除けにしようとか思ってないよな?


「その際は、現在考えうる危険性や改良予定の詳細の説明に同行してくれるんだろうな?」


 ……父上?


「そして、第3王子と、第1王女からのおねだりはどうしたらいいと思う?」

「王族の方は、腕白でお転婆な方ばかりなのですね」

「誤魔化すな、おい! 逃げるな! 待てルーク!」


 流石に、手に負えそうにないのでゆっくりと後ずさる。


「開発当初からランスロットが手伝ってくれておりますので、彼でも代役は可能かと」


 俺の言葉に、横に立っていたランスロットがこっちを二度見する。

 顔にえって書いてあるぞ?

 そんなにダイレクトに感情を表に出すとか、護衛失格だな。


「では、勉強のお時間なので、失礼いたします」

「あっ、ルーク様!」


 急いで回れ右して逃げる。

 ランスロットが俺を追いかけようとして、父上に肩を掴まれていた。


「頼めるよ……な?」

「えぇ……」

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