ヨトの国
ヨトの国はシン帝国に無血開城していた。
ヨトの国はシン帝国の属国となり、近衛兵団
の本城警備隊長イザミは憤りを隠せなかった。
彼女もまた、ヨナ達と同じシン帝国の騎士学校
に学び、武芸を磨いた同級生だった。
そこにシン帝国のシン帝国遠征軍司令官が
現れた。
それはかつての騎士学校での友シオだった。
かつての友の様子にイザミは動揺する。
開戦の4ヶ月前
ヨトの国本城 近衛兵団 兵団長執務室
「お父様!納得がいきません!」
「イザミ!口を慎みなさい」
「何故ですか!シン帝国に何故我が国の防衛を
任せるのですか!?何故他国の軍が我が物顔で
我が国を闊歩するのですか?」
イザミの父であり、近衛兵団長を務めるナジルは
口髭を触りながら力無く答えた。
「我が国はシン帝国の一部になった、ヨトの国は
自治領になるのだ」
「幾ら自治領と言えど、国の防衛を手放したら
自治とは言えるのですか?」
「しかも近衛兵団が解散とは納得出来ません!」
「開催では無い、式典の為の旗衛隊として縮小
するだけだ」
「それはもはや解散です!」
「イザミ…いい加減にしなさい、王の命令にお前
の納得がいるのか?」
「それは…」
「おやおや、近衛兵団の本城警備隊長は近衛兵団
の縮小にはご不満かな?」
後ろを振り向くと部屋の入り口には、ヨトの国の
宰相スヌが立っていた。
腰が曲がった老人であり、いつも杖をついていた。
イザミは焦った、興奮でいつもは杖をつく音で
分かる彼の接近に気付かなかったのだ。
父との話を聞かれていた。
「いやいやスヌ殿、娘の戯言ゆえお許し下さい、
後で言っておきます」
「ナジル兵団長、もうすぐ騎士の時代は終わるの
です、それを忘れなさるな」
「は、申し訳ありません」
「そんな事より、シン帝国遠征軍司令官が来られ
ましたぞ」
「遠征軍司令官が!?」
「司令官、どうぞ」
部屋に入って来たのは、黒いマントと白いシン帝国
の紋章が入った甲冑をつけた男がだった。
「シオ…」
ナジルの横でイザミは固まった。
自分の国を我が物顔で闊歩するシン帝国の軍司令官
が、まさか自分の同級生で友人だったのだ、その
衝撃は大きい。
「シン帝国遠征軍司令官シオ・ザレンです」
「へ、兵団長のナジルだ」
ナジルは完全に動揺していた。
「兵団長殿、早速ですが我が軍の指揮所を本城内
に置きたいのだが宜しいかな?」
「近衛兵団の場所なら好きに使って構わないが…」
「あと…九龍大陸をよく知る近衛兵団の騎士を副官
に欲しい、出来れば士官が…そうだイザミ警備隊長
などどうか?」
「イザミは本城の警備隊長だから…」
ナジルが言い終わる前にシオが発言を被せた。
「明日より、我が軍が警備を引き継ぐから問題は
ない」
ナジルとイザミは困ったように目線で会話するが、
回避する策は当然無かった。
「…分かった、連れて行くといい」
「ありがとうございますナジル兵団長、では早速、
行きましょう副官」
ナジル兵団長とスヌ宰相を執務室に残し本城の
回廊をシオとイザミは歩き出した。