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かつての友は

シン帝国の騎士学校には、九龍大陸からも

留学生がいた。


卒業した同級生達は母国に帰り、それぞれ

の生活を送っていたが、戦乱の影は平等に

彼等に迫りつつあった。


かつての友が敵となるのか、一抹の不安を

ヨナは感じていた。

見送りに、屋敷を出るとリキとライが

心配そうに言った。

「イザミの奴、どうしてるんだろうな」


イザミは騎士学校の同級生だった。

ヨトの国の近衛兵団長の娘で、ショート

カットの茶髪であったため、よく後ろから

男に間違われていた。

お飾り扱いの女騎士の立場を変えると

言い、真剣に武道も戦術も取り組み、

男女の違いに関係なく、よく一緒に行動

していた。


「シン帝国と同盟なら、生きてはいるよな」


「ライ、イザミは敵になったのかな?」


「リキ、滅多な事言うな、そんな筈はない」


「…」


沈黙を破るようにヨナが声を出した。


「ああ!そうだエアはどうしたんだろう

な!アイツはゴクチの魔導局本部にいるん

だろ?」


「エアか…ああ」


「俺達の仲間が聖女様ねぇ…」


エアは騎士学校を中退した同級生だった。

入学して2年目魔法を使う授業で、突然

尋常ではない。力を発揮し、身体に聖痕

が浮かび上がった。


ヨナ達が学校の近くの山で訓練を受けて

いた際に、遠くから学校が光り輝くのが

見えた程である。


彼女は九龍大陸で唯一魔法を取り扱う

専門機関である魔導局に引き抜かれ、

そのまま退学となった。


彼女を何処かの国が抱え込むと、九龍大陸

の中でパワーバランスを維持する為の大陸

条例に抵触する恐れがあることから、中立

の機関である魔導局の保護下に入ったのだ。


人に魔法の力を与える力を持つ聖女は、

百年に一度しか生まれないと言われ血筋

も身分も関係無く突如発生する。


魔法の力は個人差があり、持つ者と持たざる

者、持っていてもその力の大小は様々で、

その数の大小が国力の差になる貴重な人的

資源であった。


特に戦争においては戦局に決定的な一打を

与える要因にもなる事から、戦略的に重要

な部分なのである。


ヨナはエアが魔導局の人達に連れられ、

学校を去る時に自分に見せた、寂しげな

顔を思い出した。

また彼女も大切な友人であり仲間の一人

だった。


魔導局は大陸の宗教である、エゾナ教の

組織の一部にあり、宗教が各国のパワー

バランスを調整する緩衝役でもあった。

総本山はゴクチ国、各宗教施設を守る

守護隊は各国に駐留し、コビ国には

魔法を研究する魔導館があった。


「仮にゴクチ国とシン帝国が戦争に

なったとしても、大丈夫だ、魔導局は

中立だからな」


そう言ったリキは不安そうに下を向いた。

ライもヨナもリキがエアに心寄せている

事を知っていた。

学生時代、仲間達は皆、心の何処かでエア

に心を寄せていた事をお互いに察していた

からである。


リキは今すぐゴクチ国に行って彼女を

助けに行きたいのだろう。

彼等は何も言う事なくそれを察した。


金の透き通る絹のような髪に赤い瞳、

美しい顔立ちと、母のような優しい性格

の彼女に心惹かれる者は少なくなかった。


彼女はヨナ達の中でいつも笑っていた。

今となっては遠い昔のように懐かしいと

ヨナは感じていた。


「シン帝国だけど、やはりシオが関わって

いるのかな?」


ライの言葉に3人は固まった。


シン帝国第2皇子シオ、皇帝の継承権を

持つ皇子、母は平民の出であり、城に仕え

る下女であった。

第2皇子なのに偉ぶらず、平民の気持ちが

分かる苦労人であった彼は、常に笑顔で、

ヨナやリキ、ライ達の良き友人であり

仲間だった。


「まだ戦争になると決まった訳ではない、

アイツならきっとそんな事はやらないさ」


「ヨナ…そうだよな、悪いな変な事言って

リキ帰ろう!」


「おお、そうだな、じゃあなヨナ、また

会おう」


「おうよ、帰り道気を付けろよ」


リキとライは龍に跨り帰って行った。


一抹の不安がヨナの胸をよぎった。


しかしその不安は、翌月、ヨトの国を

シン帝国の自治領とする宣言の発布と、

ゴクチ国に対する統治権委譲及び聖女エア

の引渡し要求によって的中する事になった。

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