領主イナ
コビ国の防衛上の要所を守る領主イナ
は、コビ国でも有力者であった。
領主として、父として、息子と第3、第4
王子を子供の頃よりよく知るイナは彼等
に、戦いで命を粗末にするなと教える。
イナは、地の利と数で国を守れると言うが
その真意は?
コビ国は幾つかの領に分かれており、
ヨナの父、イナの治める領は耕作や稲作
に適した地域は少ないが、山地が多く
コビ国とゴクチの国との境界を含む防衛上
の要所であった。
そのためまず第一線で戦う領主イナは
人口や経済的にも他の領より規模は
小さいが、国内での発言力も強く、王家
との結び付きも強かった。
イナの領を守る御親兵隊が破れれば、
コビ国の本城までは約40キロ程度
である。
実際にヨナの母親は王家の出であり、
ライがカヨを嫁に欲しいと求婚する事も
可能性が無い話ではなかった。
イナの屋敷では客間で3人とイナが話を
していた。
「ヨトの国が…まさかな…」
「王はゴクチの国が戦時編成になった事
を聞き、我が国も戦時編成の準備を指示
されました。」
「父上、御親兵を鎮台にするしか…」
「そうだな、杞憂に終わればいいがそうは
いかんだろうな」
「兄上、あの事も…」
ライが鞄の中から出した巻いた紙をリキ
に手渡した。
リキがテーブルの上に紙を広げると、イナ
とヨナは紙を覗き込んだ。
「草が報告に挙げて来たシン帝国の兵の
様相を絵にしたものです」
「魔道兵は随伴せずに、徒歩兵は筒のよう
な物を持ち、龍が大きな金属製の筒を牽引
していたそうです、騎兵は槍に、背中には
やはり例の筒を…」
「父上、何か分かりますか?」
「判らぬ…しかしシン帝国には科学とやら
で、魔法に頼らず石礫を放ち、山を破壊する
道具があると聞く、もしかしたらその類の
道具かもしれぬな」
「とは言え、地の利はこちらにある。奴らが
5万近い兵で来ようとも、こちらは2万
、王の直轄兵団も加えれば7万、防御すれば
充分に勝てる」
「は!我々は準備のため、一旦帰ります」
「うむ、第三王子、第四王子、宜しく
頼む…と」
イナが周りを見回し、部屋に自分達以外
誰もいない事、メイドも入ってこない事
を確認すると3人を近くに呼んだ。
「もう良い我々しかおらぬ、リキ、ライ
、久しぶりだな!大きくなったな!」
リキもライも笑顔になるとイナの周りに
寄った。
「イナ様もお元気そうで何よりです!」
「じっちゃん、会いたかった!」
「ライはまだ女遊びしてるのか!?」
「あ、やべ」
「お前は全く…」
リキ、ライとヨナは同い年であり、領主
イナは王の直轄兵団の演習や視察で宰相
が来る際に同行してくるリキとライを
小さい頃から可愛がっていた。
「リキ、ちゃんとライを見てやらないと
いかんぞ!」
「はい、私が責任を持って…」
「そうだぞ!カヨは嫁にやらん…」
「ヨナ!お前もだ!全く小川で昼寝し
よって…」
「う、すいません…」
イナを三人を抱き寄せると言った。
「いいか、決して戦で武功を挙げようと
思うな、最後まで生き残った者が1番
偉いんだ、命の使い方を見誤るなよ…」
3人は無言で頷いた。