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ヨナの怒り

ムク達に捕まったヨナとフミは、ヤマ一族

の村に連行される。


既にヤマ一族はシン帝国の影響下にあった。


貧困から皆を救おうと野心を抱くムク


捕まったフミを助けだそうとした時、

ヨナの怒りが爆発した。

ムク達の村も、山から一見見えない谷の

ような部分に作られていたが、フミ達の

村と違い、汚くそして貧相だった。


木を組み合わせた牢屋に入れられたヨナは、

寝転がり思案をしていた。


どうやって出るか?


そもそもなんで捕まったか?


ゴクチの山の民は平地の領主の家来に

なったのか?


山の民は自治をしているから平地の領主

のルールには従う義務がない、だから

例え密入国でも関係ない筈


剣も武器も取り上げられてしまった。

いや"魔法"の力を使えば恐らく突破が

出来るが、帰りに邪魔されると困る。


それに捕まったとは言え、フミの親族だし

手荒な事はしたくなかった。


思案をしていると、中年の女性が食事を

持って来た。

「ごめんなさいね、こんな所に閉じ込め

ちゃって」


「失礼ですが、どなたでしょうか?」


「ムクの妻コガネです、フミの叔母です」


「フミの叔母さん…お聞きしたいのですが

何故我々を捕まえたのですか?」


「…私が話そう」

声のする方を見るとムクが立っていた。


「ちょうど1年前に平民の格好をした

シン帝国の使者を名乗る者達が現れ、

書状を置いて行った」


「シン帝国がゴクチ国を取った暁には、

山の民の領域を我々ヤメの一族に渡す

と書いてある、皇帝の名でな」


「その代わりに国境を密入国する者を

捕らえよと、戦いに際しては協力しろ

とも書いてある」


「それに彼等は、貧しく魔法使いもいない

我々に薬をくれた、"イシャ"と名乗る

魔法を使わないで病気を治す者を連れて

来た、この村には救われた者達が沢山

いるのだ、その恩義がある、だから通す訳

にはいかん」


"少なくとも1年前からシン帝国は工作を

していた訳か、つまりゴクチ国の山の民は

シン帝国の影響下にある…"


ヨナの思案は固まった。


"つまり、彼等は味方には絶対ならないし、

帰りも絶対に邪魔をしてくるだろう"


「分かりました…」

とりあえず素直に食事を受け取り、腹ごし

らえをすると、ヨナは魔法を身体に漲らせ

た。


木の牢屋を掴むと徐々に煙が出始めた。

(とりあえず小さく火事を起こして、混乱して

いる内に脱走するのが一番無難か)


「ムク殿!コビ国の者が脱走しました!」


「何!?まさか?」


ムクが広場に出ると、既に村の一部から火

の手が上がり、気絶して倒れている戦士達

がいた。


「どうした!?」


「コビ国の者が、火を放ちました、奴は

魔法を使います…」


「クソ!こんな時にシン帝国の者はいない

のか!すぐ女子供を避難させろ!」


ムクは剣を抜くと声がする方向へ走った。


「フミ!何処だ!フミ!!」


ヨナはフミを探していた。

「待て!止まれぇ!!」

ヤメ一族の戦士が剣を振りかざした瞬間に

ヨナは懐に入って掌底を腹に当てた。

戦士は、すぐ側の小屋を突き破るように

吹き飛ばされた。


戦士が呻いているのを見るとヨナは安心

した、さすがに殺すのはやりすぎだ。

素直に通してくれればそれでいい。


その時、他の小屋とは違う、高床式になった

、色彩が施された大きな小屋から、内側を

叩く音が聞こえた。


ヨナが扉を蹴破ると、中には裸体を大きな

布で隠したフミがいた。


「…フミ…、…何をされた?」


「ヨナ…」


「…なんてことだ」


国は違うとは言え山の民を、しかも同じ親族

の娘を、この者達は陵辱したのだ。

ヨナは怒りで自分の毛が逆立つのが分かった。


「ヨナ!待って!」


フミがヨナを止める間もなく、ヨナは外に

飛び出した。


「待て!止まれ!」

ムク達が駆け付けた声を聞き、フミが身体

に布を巻き付けて外に飛び出すと、既に

遅かった。


「この外道共め!!絶対に許さん!」


ヨナの背中からは龍騎士の紋様が浮かび

上がり、背中と両腕からは燃え盛る勢い

で炎が湧き上がっていた。

ヨナに施された魔法の封印が、怒りにより

抑えきれなくなったのだ。


ムクが剣を振り下ろした瞬間、ヨナは

それよりも速く回し蹴りを放った。

剣はまるで板のように折れ、その隙に

ヨナは思い切りムクを殴り飛ばした。

ムクは、拳を構える時間すらなかった。


「ヨナ!やめて!ヨナ!」


縋り付くフミに、ヨナは気が付いた。


「フミ!大丈夫か!?すまなかった…

助けに来れなくて」


「違うのヨナ!戦士の装束を取り上げられて

女装束に着替えさせられただけなの!」


「…じゃあ、何もされてないのか?」


「…うん、だけど…」


「…!!」


ヨナはムクが死んでいる事に気付いた、

ムクだけではない。

周りには自分達を捕まえた村の戦士達も

皆死んでいた。

何度も殴打されたのか、皆顔が醜く変形し

中には首が曲がらない方向に曲がっている

者もいた。


「こ、これは…」


「ヨナがやったんだよ…ヨナが皆殴り殺した

んだよ…」

「なんで皆殺しちゃったんだよ!!」


呆然としていると、遠巻きに見ていた女子供

の中から老人が歩いて来た。

刀傷と入れ墨が身体の至る所に入り、かつて

は戦士だったのであろう、老戦士と言う方が

正しい風貌の老人が歩いて来た。


「ヨナ殿、気が済みましたかな?」


「あ、貴方は…?」


「ヤメ一族の村の村長、ムクとモロの父

、そしてフミの祖父です」


「あ、あ、あの…」


「シン帝国の者が来た時に、強く反対してれ

ば良かったのです、貴方のせいではない」


フミは涙を流していた、声も出なかった。


「フミすまなかったね、初めて会うが、私が

お爺ちゃんだ」

「よく覚えておきなさい、山の民が自主独立

をして山に暮らしていたのはこのような事

にならない為だ、野心は身を滅ぼす、平和に

慎ましく、身を守る力を大切にして、調和の

中に生きていくのが1番なんだよ」


「ムクには野心があった、村は貧乏だったし

皆苦しい生活に嫌気がさし、平地に消えて

いった。その現状を変えたかったのだ」

「だからシン帝国の誘いに乗ったのだ、ムクを

止められなかった私の責任だ」


「ヨナ殿は何故、そこまで怒りを露わに

されたのかな?」


「フミが…犯されていたと思って…」


「…なるほど…誤解された訳か…」

「いきなり貴方達を捕縛した我々に非が

ある事は間違いない、本来ならば山の民は

他の山の民の一族や、山を征服する野心など

抱いてはならないからだ」


「しかし…父として村長として貴方を許す事

は出来ない、すまないが出て行ってくれぬか

?私達は貴方達を今もこれからも関わら

ない事にする、それで手を打ってくれんか?」


ヨナとフミは荷物を返して貰い、すぐに

出発する事にした。

村を出る時、コガネとまだ小さい子供達

がヨナ達を見ていた。


怒りとも悲しみともつかない顔で見つめる

姿に、フミはずっと泣いていた。


「フミ…」


「今は話しかけないで」


フミはずっと顔を伏せていた。

仕方ない、彼女の叔父を殺したのは自分

なのだ。

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