山の民
無事に出発したヨナとフミは、
山の民しか知らない、裏街道を目的地
に向けて進んでいた。
途中、フミの叔父ムクに会うが、
彼等の様子は何処かおかしかった。
山の中をフミの先導で進んだ。
龍に乗って来てよかった、傾斜のきつい
斜面や、地盤が悪い所は徒歩なら速度も
出ないし体力も削がれる。
夕闇になり、野宿をする事にした。
川の近くで龍を休ませて、火を起こした。
「フミは狩りも出来るんだな、驚いたよ
鹿を獲ってくるなんて」
「戦士とは言っても、半分は狩人だし
弓矢も使えるからね、獲るのは鹿だけだよ」
「なんで?」
「村長も言ってたけれど、魔獣がいない
し天敵が少ないから、鹿が繁殖して山の
緑を沢山食べちゃうんだよ」
「なぜ魔獣が少ないの?」
「さあ…?この辺りの山は元々魔素って
言う魔法の鉱物が採れていたんだけれど
最近はめっきり見なくなったらしくてさ、
魔素は自然と人や動物の身体に取り込まれ
て、動物は稀に魔獣になるんだけど、今は
そもそも魔素が無いらしいよ」
「へぇー」
「明日、ゴクチ国に入るから早く寝よう」
「ああ、ちなみに今更だけど密入国だから
気を付けような」
「大丈夫よ、国の境を気にするのは平地
の人達だけだから」
そうフミは言うと眠りについた。
焚き火に照らされた彼女の顔はやはり
美しかった。
自分も眠ろうとしたその時フミが話しかけて
きた。
「ヨナ、Hな事は禁止だから」
「…いやいや、昨日や一昨日会ったばかりの
女の子にそんな事するかよ…」
返事をする前にフミは大きな鼾をかいて
寝ていた。
「Hな事とか、それ以前の問題だな」
翌日、2人はゴクチ国に入った。
街道を避けて山あいの、細い山の民しか
知らない道を通って行った。
「驚いたな、街道以外に道があるんだ」
「気を付けた方がいい、この道は一見
一本に見えるけど東西南北に繋がる道が
あって、山の民は子供の頃から近い場所
から遠い場所まで、数年かけて身につけて
いくんだ、それに山の道にはルールがある
不用意に平地の民が使うと遭難するし
トラブルになる」
「トラブル?」
「私達みたいな山の民は、大体が狩猟や
農耕で暮らしてるから基本平和的だけど、
中には武闘派もいる、山には山の勢力
争いがあって戦いが絶えない時代も
あったみたい」
「なるほどな、その領域を通る時は通る
なりの礼儀がある訳か」
「そう、ちなみに父上は元々武闘派の
一族で、会った事は無いがお祖父様は
相当な武闘派らしいよ」
ああ…娘を見れば何となくその血を引いて
いるのが分かるよ、…とヨナは心の中で
留めた。
「待って」
フミが乗った龍が止まった。
何かがいる、その気配にヨナも剣の切羽を
抜いた。
「大丈夫…」
「私はヤマガシ族のフミ!!通行願いたい!」
離れた所の草むらが揺れるとモロと同じ
ような髪を後ろに結んだ屈強な男が現れた
、やはり身体に刺青を入れ、顔まで模様が
入っている。
「フミ!!しばらくだな!面が無いって事
は戦士の儀を行ったのか!ワハハハハ!」
「大丈夫!私の叔父さんだよ!」
ヨナにそう言うと、フミは男に駆け寄って
いった。
「母親ソックリに育ったなぁ!モロは
やっと諦めて戦士として認めたか!」
フミを抱え上げて嬉しそうに笑っている。
「コビ国の東の領主イナの息子、ヨナです
、父の命によりゴクチに来ました。通行の
許可をお願いします」
ヨナは深々と頭を下げて男に挨拶をした。
「俺の名はムク、なるほどコビ国で力を
持つ領主イナの息子か、目が違うな」
「叔父さんは何をしてたの?ヤマガシの
村に行く所だったの?」
「いや、違う」
「叔父さん…どうしたの?」
「…残念だがフミ、お前達を通す訳には
いかない」
周りの草むらから、ムクの仲間達が剣を
片手に出てきた。
平和的とは言えない雰囲気である。
(やっぱりなんかあると思ったよ…)
ヨナは心のどこかで悪い予感を感じていた。
ヨナとフミは捕まった。