ヤマガシ族のフミ
ゴクチ国まで密かに入国する為、山の民に
助けを求めたヨナはヤマガシ族の村に
行った。
そこで、戦士を志す少女フミに戦いを挑まれ
る。
フミの父モロは自分の娘を戦士と認めるか
悩み、フミに相通じる所を感じたヨナは夜
1人で剣の稽古をするフミを見つけた。
1週間程でヤマガシ族の村の集落付近に
到着したヨナは困惑していた。
「集落がない…」
地図上の場所に到着した筈なのに、付近に
村落はおろか人が暮らしているような痕跡
すら見えない。
移動に使っている※小型の龍ですらその匂い
を発見出来ないでいた。
※ 彼等は馬を知らない。また小型の龍は空を
飛ばず地表を走る。
「…困ったな、とりあえず夕暮れ時だから明日
探すか」
龍から降りたヨナは何かの気配を感じた。
何処からか分からないが確かに何かがいる。
剣に手を掛けると、切羽を徐々に抜き始めた。
龍も低く唸り、風が吹き周りの木々の落ち葉
が擦れる音がうるさい程に感じた。
その時ヨナは落ち葉が目の前を通り過ぎる
一瞬、飛び掛かる影に剣を鞘から勢い良く抜
き、流れるように斬った。
思いきり木を殴るような音がすると、目の
前には髪の毛を後ろに結った色黒の筋骨隆々
な男が膝をつき木の大楯を構えていた。
大楯には麻袋がいくつも括りつけてあり、剣
がめり込んだ麻袋からは土が溢れていた。
「ヨナ殿、突然の無礼すまなかった、どうか
剣を収めて頂けぬか、我々は敵では無い」
「…誰か?」
「私はヤマガシ族のモロ、後ろに転がっている
のは私の娘、フミ」
剣を収めると、モロは安堵していた。
「よかった間に合って、ウチの娘が領主の息
子が来ると聞いて、力試しがしたいと言い
だして我々の言う事を聞かなかったんだ、
目を離した隙にいなくなったと思ったら…」
「父上!何故邪魔を!?」
後ろから背の低い、枝葉で編んだ蓑のよう
な物を被った者が声を張り上げた。
「馬鹿者!私がいなかったらお前は死んで
いたぞ!これを見ろ!剣が土袋を突き破り
大楯で刃を止めたんだぞ!魔法をかけた大盾
がなければ今頃胴が真っ二つだぞ」
「う…」
「改めてすまなかった、ヨナ殿、領主様より
話は聞いている、フミ!御挨拶して無礼を
働いた事を謝りなさい!」
背の低い者が蓑のような物を脱ぐと、片手に
短剣を持った線が細い色黒の娘であった。
「…ヤマガシ族のフミ…、すまなかった」
仮面を被っている為表情は分からないが、
恐らくむくれているのは伝わった。
モロは村までヨナを案内をした。
村は一見では分からないように、山の影に
なる崖を切り抜いた一部に作られていた。
自然を利用した一部人工の要塞のようで
ある。
「ヨナ殿は一体何処で剣術を?」
「元々親父殿から直接習いましたが、後は
シン帝国の国立騎士学校で…」
「留学とは凄い」
「領主の息子には不相応でした、騎士団長
の娘やら王子やらクラスにはいて、領主
の息子など一平民と変わりません」
村に入ると、村長の所に通された。
「領主イナの息子、ヨナです」
村長と言ってもまだ若く、中年の男がヨナ
を出迎えた。
モロと同じく筋骨隆々であり、身体の
いたる所に刺青が彫っている。
「イナ殿から事情は手紙で聞いているよ
、ゴクチまで密かに行くのだって?」
「はい、父の命によりシン帝国の戦いの様相
を見て参ります」
「ふむ…そうか…」
村長は少し考え事をすると、モロと共に
困った表情をしていた。
「実はな、このような案内には村で一番若い
戦士を修行がてら出すのだけど…」
「な、何か問題があったのですか?」
モロは村長に仕方ないといった顔で頷いた。
「村の戦士は"魔法を使う力"がある健康な
男子がなるとされている…しかしここ15年
魔法の力を持った者は産まれていないのだ」
「そして最後に産まれた魔法の力を持った者
が、フミなのだ」
モロは力無く言うと、困った様子であった。
「しかしフミは女の子だ、戦士にはなれない
今まで村で魔法の力を持った女は産まれて
きたが、大体は占い師か村の魔法使い、
若しくは戦士を産み繋げていく為誰かの妻に
するのだが…」
「フミが頑なにそれを拒み戦士になろうと
しているのだ…」
「…」
ヨナは複雑であった。
ヨナ個人の考え方としては、何かに将来や未来
に縛りのある生き方は納得出来ないのだ。
「…何故フミは戦士になる事に拘っているの
でしょうか?」
「ああ…それは…」
日も落ちた頃、村の中を探索していたヨナ
は、広場の端でフミが木の短剣を両手に、
剣の鍛錬をしている事に気付いた。
辺りは月明かりだけであり、白く冷たい光
の中、フミだけが身体から湯気を出しなが
ら立っていた。