泣き虫少女からのプレゼント
翌日の早朝、朝食の準備の為にリビングに立つアミナは困っていた。
昨日の夜に泣いたせいで目が腫れてしまっているのだ。
リーフやアイリスになんて言い訳しよう...。
二人が起きてくるまでにまだ時間あるし、それまでに目を冷やしていれば治るかも…。
「おはよう」
冷凍庫に手をかけていたアミナの背中にリーフがにこやかに声をかける。
予想よりも早くリビングに来たリーフにアミナは心臓が飛び出そうなほど驚いた。
「お、お、おはよう...っ」
下を向きリーフに返事をするが、短くなってしまったアミナの前髪はまったく顔を隠してくれなかった。
おや、と少し目を見開いたリーフはキッチンにいるアミナに近づき、その目元をかさついた指先で撫でた。
「昨夜はシオンと楽しい一時を過ごせていると思っておったが......。何かあったのか?」
「知ってたの...?」
アミナは昨夜の出来事は気づかれていないと思っていたので驚いた。夜遅くに子供だけで出掛けたと知られたら心配をかけてしまうと思ったので秘密にするつもりだった。
「どこかに出掛けたのは気づいていたが...シオンも一緒の様じゃったし、守ってくれるだろうとは思ったが、夜遅い時間というのはちいと心配じゃ。次からは明るい時間帯に……どうした?」
アミナが自分でも気がつかないうちにぽろぽろ涙を溢すのでリーフは心配そうに眉を寄せた。
「...シオンに、友達になりたい、って、言った、けど...っ」
「ああ」
リーフの落ち着いた優しい相槌にアミナはさらに涙を流す。
「なれない、って...。人間とは、友達に、なれないんだって...」
「ああ」
「でもね、...なんとなく、分かるの...っ。なんとなくだけどね、シオンの気持ち、.........困らせちゃったの、...、でもね、でも、あきらめられない、の...わたしは、」
「シオンじゃなきゃ嫌だから...っ」
懸命に訴えるアミナをリーフは優しい瞳で見つめていた。その瞳には喜びも混ざっているようだった。
「アミナは傷つくことが恐ろしくても自分の気持ちを伝えたいと思える相手に出会えたんじゃな...儂はそのことが嬉しい」
アミナはしゃくりあげながらリーフを見る。
リーフは優しく笑ってアミナの頭を撫でた。
窓から射し込む朝の光が二人を柔らかく包み込む。
「大丈夫。アミナとシオンはまだ始まったばかりじゃ。お主は一歩歩みを進めた。そんな自分を誉めてやりなさい。大丈夫。大丈夫じゃ。シオンにも自分の歩み方がある。シオンの歩みに寄り添ってやりなさい。そうすればきっと、また分かることもあるじゃろう」
「......ぅん...」
アミナは涙を拭き、ゆっくりと呼吸を繰り返し、リーフを見て照れたようにはにかんだ。
「...ありがとう。リーフ...」
リーフは微笑んで頷くと、「コーヒーを頼んでもええかのう?」と聞いた。
アミナは「うん」と笑って頷き、食器棚の横に掛けているエプロンに手をかけた。
シオンはリビングに続くドアの前でうつ向いていた。
「入らないの?」
「うお!」
背後からかけられた声に肩を強ばらせ、シオンが振り向くとアイリスが上品に欠伸をしていた。眼鏡の奥の瞳が欠伸のせいか少し潤んでいた。
アイリスはぽん、とシオンの肩に手を置くと彼に笑いかける。
「まずはエネルギー補給。今日も仕事頑張ってちょうだい」
アイリスはシオンにぱちりとウインクをするとおもむろにドアをガチャリと開けた。
「あ!おい…っ」
リビングでのアミナとリーフの会話が聞こえていたシオンは部屋に入りづらくなっていたのだが、アイリスに手を引っ張られなかば無理矢理リビングに入ることになってしまった。
「あ、」
アミナの声が聞こえる。さすがのシオンも昨日の今日で少し気まずさを感じていた。
けれどアミナの顔を見てほっとした。
「シオン、おはよう」
アミナの目は腫れていた。
けれど普段と同じ柔らかい笑顔でシオンを迎えていた。
「シオン、昼飯にしようぜ」
資料室で本の修理作業をしていたシオンをルカが扉から顔を覗かせて呼びかけた。
リビングでルカが作った炒飯を二人で食べている時、ルカがにやりと口を開いた。
「アミナ泣かせたって?」
「ぐっ」
シオンは飲み込もうとしていた炒飯を喉に詰まらせ、急いでお茶で流し込んだ。ドンドンと胸を叩きながら「な、なんで知って、」と動揺している。
「アミナの目があーんな腫れてんだ。原因になりそうなのお前くらいしかいないだろ」
ルカはさらっと答える。
「なんかあったのか?」
「...別に...」
「ふーん」
「まあ、さ」とルカは炒飯を食みながら話す。
「男だったら女の子泣かしちゃだめだぜ?」
「...あいつが泣き虫なんや」
シオンは気まずそうにスープを口に運ぶ。
「それでもさ。男は女の子守る使命があるのさ」
稲穂色の瞳を細めてルカはニカッとシオンに笑いかける。シオンは口を尖らせた。
「俺は、人間ちゃうからそんなん知らん!」
シオンはルカから顔を背け不機嫌に言い放つと「ごっそさん!」と席を立ち食器を流しに置いた。
「仕事戻るわ」
「おー」
さっさとリビングから出ていくシオンを片手を振って見送ったルカは片眉を下げて笑った。
スープを口に運び、よく晴れた昼下がりの窓の外を眩しそうに眺める。
「……何抱えてんだか…歳上頼ってくれてもいいのになぁ?」
その日の午後、ルカとアミナはリビングのダイニングテーブルで雪祭りのメニューを決めていた。
「クッキーとか、ブラウニーとか日持ちするデザートは前日に作っとこう。生クリームはすぐできるから、当日朝作って冷蔵庫でいいよな」
「うん。……メインはどうしよう?去年はカレーとかクラムチャウダーとパンのセットとかが人気だったような…」
「ああ。確かそうだったな」
ルカは頷き、紙にペンをはしらせる。アミナは綴られていく文字を真剣に見つめる。
「今年もカレーとクラムチャウダーは出すか。事前に大量に作っておけるしな。あと、一つ新しいの欲しいなー」
ルカは頭の後ろで両腕を組み天井を見上げて唸る。
「新しいの……うーん……あ、…」
アミナも顎に手をやり考える。何か思いついたのか、言いかける。
「何かある?言ってくれ」
ルカの微笑みに後押しされて、アミナはもじもじと口を開く。
「ほ、ホットサンドとかどうかなぁ…。今日の夜、シオンと勉強会の時に夜食で出そうと思ってたんだけど…。ホットサンドって、端っこが閉じてるから紙で包めば、何かしながら食べてもあんまり溢すことないし、雪祭りでここにくる人達は本を読みながら飲んだり食べたりしたい人が多いと思うから…」
「いいじゃん!サンドイッチじゃなくてホットサンドな所がいい!体もあったまるし、喜ばれるよ!アミナ、よく思いついたな!」
ルカはパチンと指を鳴らし、アミナに賛同する。アミナは照れたように頭を掻いた。アミナを見ながらルカは微笑む。
「シオンには感謝しなくちゃな」
「え?」
小さく呟いたルカの声はアミナにはよく聞こえなかったようだ。ルカは首を振った。
「いや、なんでも。雪祭り、頑張ろうな」
「うん」
はにかんで笑うアミナの頭をルカは優しく撫でた。
夜の勉強会はアミナがシオンに「シオン、勉強会、しよう?」とおずおずと聞いたことにより、シオンの態度がいまだぎこちないながらもそれまで通り行われた。
リーフとアイリスはさりげなく二人を見守っている。
それから数日、ぎこちなくもアミナはいつも通りふるまうように努力していた。シオンもそんな彼女を遠ざけることはしなかった。
そして、雪祭りの日がやってきた。
よく晴れた空の下、街中に国民が作った雪像が立ち並ぶ。二階建ての家の屋根と同じ高さの雪だるまや、聖の言望葉の力を人間に授けたと語り継がれている女神アストライアの像、火を下界にもたらしたといわれるプロメテウスの像などが並び、祭りに参加している国民達はそれぞれの雪像を見上げては感激の声を上げた。
ブックカフェは開店してから客足は上々で、図書館の職員達は皆忙しく動き回っていた。
片手が動かせない(という体の)リーフだけは受付カウンターに座り、客からの本についての問い合わせの対応のみを担当しており、笑みを浮かべて余裕がありそうである。
「ホットサンドとカフェオレやな。ちょっと待っとれ」
シオンはメモ帳にひらがなで注文を書き込むと図書館の奥にある調理担当のアミナとルカがいるリビングに向かう。
後ろでは六、七歳くらいの男の子が「あの仮面いいなあーどこで売ってるのかなぁ?」と母親に話している。雪祭りでは様々なお面が売られており、多くの人がそれを付けていた。
シオンの仮面も今日ばかりは浮くことなく、人前に出ても溶け込むことができていた。
じじいの言うとった通りやな。
シオンはリーフの言葉を思い出していた。
リビングで汗をかきながら動き回るアミナとルカから注文の品を受け取り、シオンはブックカフェに使っているホールに運んで行く。
先程の注文を受けた子供のテーブルにホットサンドとカフェオレを置くと、「ねえ、お兄ちゃん。その仮面どこで売ってるの?僕もほしい」と男の子が好奇心を全面に出してシオンを見上げた。
「これは呪いの仮面やからその辺には売ってへんで」
「えー!呪いだって!かっこいいー!!」
「はは!かっこええか?」
「うん!」
男の子の満面の笑みにシオンも仮面の下でつい笑顔になる。
後ろの席からコソコソと話す声が聞こえる。
「おい、あの子可愛くね?」
「可愛い。けど、あんな子この辺にいたか?」
「いや見たことねえけど、そんなことどうでもいいじゃん。声かけようぜ。注文で呼び出してさ、連絡先とか聞きたい」
「ク、クラムチャウダーと、パンのセット、お持ちしましたっ....」
アイリスから接客の人数が足りないからと引っ張り出されたアミナは緊張で手を震わせながらなんとか仕事をこなしていた。
短くなった前髪は視界を遮ることなく、まっすぐ客の目線と合う。
人と視線を合わせること、その瞳の中に映し出されるかもしれない負の感情が恐ろしかったから長年前髪を伸ばしていたというのに、アミナは少し拍子抜けしていた。
こうして接客してみると自分はなんと自意識過剰だったのかと恥ずかしくなるほど、他人は今日初めて会うであろう自分に関心がなかったのである。
注文を受けに行くと一瞬目が合うが、客はすぐにメニューに視線を下げ、注文を終えると一緒に来ている相手か、手にしている本に夢中になっていたり、窓から見える景色を眺めたり。
一人一人に自分だけが持つ世界があるようだった。
人にはみんな自分だけの世界があったんだ...。
こんなちょっとしか同じ空間にいない私がこの人達の関心の対象になるなんて、ましてや馬鹿にされると思い込んでいたなんて。
なんていうか、私って、ちょっと...ううん、かなり自意識過剰だったのね...。
アミナは顔を赤くして己を恥じた。
ふと視界の端で客が手を上げているのを捉えた。男性二人で来ているお客さんだった。
注文だ、とアミナがそちらに足を踏み出した時、肩に誰かが触れた。
紫がかった黒の髪からアミナと同じシャンプーの香りがかすかにした。
「シオン?」
シオンが正面からアミナの肩に軽く触れて、耳元で「俺が行く。あんたは裏行ってええって眼鏡のおばさんが言うとったで」と囁いた。
耳に触れる息が少しくすぐったかった。
「あ、ありがとう...」
裏方で一人働いているルカを気にしていたアミナは素直に礼を言い、やっと緊張から解放されると胸を撫で下ろし、パタパタとリビングに向かった。
シオンが接客したことで残念そうな男達から注文を聞き終えたシオンは注文を伝えにリビングに向かおうとしたところ、アイリスに声をかけられた。
「私、あなたにそんな事言ったかしら?」
「ええやろ、別に」
アイリスは面白そうなものを見るように目を細めて「ま、いいけど。アミナ裏に戻した分、きっちり働きなさい?」
「へいへい」
面倒くさそうに返事をするシオンの背中にアイリスは「今度眼鏡のおば...なんだったかしら?同じこと言ったら凍り漬けにするわよ」と低い声で冷たく言い放った。
シオンの顔は青ざめ、その後ブックカフェが閉店するまで決してアイリスの顔を見ようとしなかったという。
夕方、辺りが暗くなった頃ブックカフェは終了した。図書館の職員は毎年この後は各々好きなように過ごすことになっている。
アミナがキッチンで片付けをしていると、シオンがブックカフェで設置していたテーブルを運びながら窓の外を眺めているのに気がついた。
「......雪祭り、行ってみる?」
アミナは緊張を胸にシオンに聞いてみた。シオンはアミナを見ると「ええんか?俺を図書館から出して...逃げるかもしれへんで?」と答えた。アミナはその答えに眉を下げ笑った。
「灯台にも行ったじゃない」
「あの時は、他の図書館のやつらおらんかったやろ。俺が外出るの見つかったら普通に止めるやろ」
アミナは今さら何を言っているのだろうと不思議に思ったが、そういえばシオンはリーフの怪我が治るまで、と半ば強引にここにいることになっていたことを思い出した。
「あら、まだ雪祭り行ってなかったの?」
リビングの扉からアイリスとルカが椅子やテーブルを持ち、リーフは片手に本を持ってぞろぞろと入る。
リーフはダイニングテーブルに腰掛けアミナに言った。
「シオンは雪祭り初めてじゃろうし、アミナ、連れていっておやりなさい」
シオンは目を見開く。
「ええんか?」
リーフは頷き、「楽しんできなさい」と微笑んだ。アイリスはシオンに長方形の封筒を「はい」と見せる。
「なんや?」
「お給料よ。本当は今日お給料日じゃないけど、雪祭り行くならおこづかい必要でしょ?あなたが働き始めてからの分、計算して入れておいたから、持っていきなさい」
呆けたように封筒を見つめるシオンの手にアイリスはそれを握らせると、「毎日よく頑張ってくれてるわね。無駄遣いしないのよ?」と母親のような眼差しで笑った。
ダイニングテーブルに座り冷たいお茶で一息ついていたルカは「橋の手前に食器の出店があるんだよ。結構種類多いし、値段も手頃だからそろそろ自分のコップでも買ってこいよ」とルカは自分の手にある黄色のコップを振って見せた。
図書館の職員達は各々自分のコップを用意していたが、シオンはずっと来客用のものを使っていた。
アミナはルカの話を聞くと、そういえばシオンのをまだ用意していないことに気がつき、頷いた。
アミナはぼうっとしているシオンの手をとり、「シオン、行こう?」とおずおずと笑った。
並び立つ雪像の間を歩きながら、一緒に来てくれたシオンを見てアミナは胸を撫で下ろす。
灯台に行った日からアミナはなるべく普段通りを心がけていたが、二人の間を流れる空気はやはり以前と少し変わり、ぎこちなかった。
少し後ろを歩くシオンはじっと封筒を見つめていた。
「シオン」
「あ、ああ。なんや?」
やっぱりぎこちない二人だ。
アミナはぎゅっと拳を握り、笑顔を作る。
今日は年に一度の雪祭り。
シオンに楽しんでもらいたい。
シオンと楽しみたい。
「ね、見て!」
アミナが指差す方をシオンは顔を上げて見た。途端、息を呑んだのが分かった。
冬の空が暗くなるのは早い。
もうすっかり暗くなった街を家々の塀や地面に置かれたランプが暗闇を照らす。
道に沿って上から吊るされたランプ達は淡い光で人々を優しく包みこんでいる。それぞれの出店にも小さなランプがちょこんと置かれ、その光が雪像に反射して白く浮き上がり、なんとも夢の中にいるかのような風景だった。
シオンはしばし見惚れた。
アミナの隣を歩きながら、足元の小さなかまくらの中にも仄かな灯りが入っていることに気がついた。
普段であれば、この時間はほとんどの住人がそれぞれの家に帰っているが、今日は特別だとばかりに片手にジョッキを持ち肩を組んでいる男達や出店の先に並べられている長椅子に腰掛け話し込んでいる女達の姿が多く見られる。
ガヤガヤと賑やかな普段と違う町の音を聞きながらシオンは夢見心地に歩いていた。
「ここだ」
アミナが隣で立ち止まり、一つの出店を覗きこんでいる。その店には様々な形や色の食器が並べられていた。
「ルカが言ってたお店」
「ああ...なんや言うとったな」
店主の男はアミナ達に「気に入ったのがあったら声かけてくんな」と一声かけて手元にある雑誌に目を落とした。
アミナはマグカップが並べられている棚に近づき、眺める。
「シオンはどんなのがいい?」
「別にいらんで」
「だめ」
アミナはぷくっと片頬をふくらませた。シオンは頭を掻き、マグカップを眺める。
「好きな色は?」
「好きな色ぉ?」
好きな色なんか考えたことないで...。
そんなんあんのか?
「あんたは?」
「私?私は...」
聞かれたアミナは「白とか、ピンクとか好きかなぁ。最近は紫も好きだし...」
アミナが考えながら上を向いて答える。シオンは「ふうん」とその様子を眺める。
アミナの二つに緩く結ったくせのある細い毛がふわりと舞う。
この色は、好きかもなぁ。
シオンはマグカップに目線を移し、同じ色を探し、目当ての色を見つけるとそれを手に取った。
「この色は好きやで」
「水色が好きなんだ!」
アミナは微笑み、コップをシオンの手からそっと外し、「あの……」と、店主に声をかけた。店主と目が合うと一瞬ひるむが、目をぎゅっと閉じてマグカップをぐいっと突きだした。
「す、すみません!これください!」
「あいよ!まいど!」
「お、おい!」
止めようとするシオンに構わず、アミナは会計をすませる。両手で持ったマグカップの入った包みをシオンに差し出した。
「はい」
シオンは「...なんでや」となかなか受け取らない。困惑しているようだった。
アミナは視線を少し下げ、照れたようにはにかむ。
「シオン、図書館の仕事毎日頑張ってくれてるから...。その、シオンにとっては不本意だったかもしれないけど...、実際、すごく助かってるの」
アミナの話は本当だった。
図書館の職員は館長であるリーフ、副館長であるアイリス、それとルカとアミナの四人だけであった。
これまではなんとかやってこれていたが、真面目な職員の努力により利用者が年々増えてきていることと、それに伴い扱う本が増えてきたことで人手不足を感じるようになっていた。
職員の募集はしているが、場所が中心街から離れており、駅からは距離があり通うには不便というのと、給料が安いというのが原因でなかなか希望者が現れなかったのだ。
そんな時にシオンが現れ、文字が必要ならと勉強する意外にも真面目な性格であること、本の修理や片付けなどの雑用はこつこつこなし、重い物を運ぶ時は大活躍。
本人のやる気のおかげか仕事の覚えも早いし、体力があり余り、人の倍は動き回れるシオンにリーフを始め、職員達は本当に助かっていた。
シオンは差し出された包みとアミナを落ち着かない様子で見比べる。
「シオンが来てくれて、皆助かってるんだよ。本当にありがとう。これは、そのお礼。受け取って、くれる?」
少し不安そうに微笑むアミナにシオンは落ち着かなく手をばたつかせると、「ま、まあ、そんな言うなら?」と包みを受けとる。
「もらったるわ」
そっぽを向いて包みを片手に下げるシオンの顔は仮面で見えない。
だから、喜んでくれたのか、それとも困っているのかアミナには分からなかった。
とりあえずはシオンが受け取ってくれたことにほっと表情をゆるめた。
「次はどこ行くんや?」
「あ、行きたいところがあって...ちょっと歩くんだけど......」
二人は淡く光るかまくらのランプに足元を照らされながら、雪祭りのにぎやかな町並みを歩く。
さわさわと楽しげな声が行き交う中を黒いローブを頭からすっぽりと被った人間が縫うようにすり抜けていく。その人間はアクセサリーや雑貨などの小物が並ぶ出店の前に来ると立ち止まった。
店主の女がにこやかに話しかける。
「おや、今年も来てくれたんだね」
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