3話 異世界からの…
「さてと、新しい仲間も増えたし、後はゴコが私の荷物を持ってくるだけなのだが…ゴコはいつになったら来るんだ?」
『……馬鹿』
「ん?ルルー、どうしたんだ?」
『智恵の馬鹿ぁ!!!』
ゴ ン ! !
「ぶっ!?」
私はルルーの輪っかで頬を思い切り殴られてしまった。
『クラスメイトを見捨てるとか言うなんて!!智恵の馬鹿!!まぬけ!!意気地なし!!見損なったぁ!!』
「ちょ、ちょっと待て!!」
私は暴れるルルーを優しく掴み、白黒から距離を置く為に教室の隅に移動した。
「(あれは演技だ!あの自称神を仲間に引き入れる為の演技をしていたんだ!!)」
『(ホント〜?)』
「(ああ!本当だ!クラスメイトは全員無事に助ける!!)」
『あの…主、少し宜しいでしょうか…』
教室の隅でヒソヒソ話をしていると、ガルドがそっと私達に近付いて声を掛けて来た。
「ん?ガルド、どうしたんだ?」
『もしかしてこの部屋、大穴ごとルーナ様に隠してもらっているのですか?』
「そうだ。教室に1人しか居ないとか恥ずかし過ぎるだろう、だから教室ごと隠してもらっ……あっ」
しまった。今外側からはこの教室は見えないんだった。
恐らく精霊であるゴコはこの教室の存在を覚えてはいるだろうが、教室自体が隠されている為、いつまで経ってもゴコは帰って来れないだろう。
「ルーナの隠す力は強力だからなぁ…」
『主、何やら物凄く嫌な予感がします。早くゴコ様を連れ戻さないと…』
『ガルド、そんなに心配しなくても大丈夫だよ!ゴコって結構頭良いから悪い事は起きないと思うよ!』
『いえ、ゴコ様は確かに頭は良いのですが…少々行動が荒く……
ボ ォ ン ! !
バキッ!!ガタガタガタン!!パラパラ……
爆音と共に割れた床が、机や椅子と共に落下していく。
「ゆ、床に大きな穴が空いた…」
1年2組の教室の床に大きな穴が現れた。床の大穴から下の教室を覗くと…
下の教室には、鞄を背負ったゴコが笑顔で私達を見つめながら両手をブンブンと振っていた。
『ただいまローチャン!冒険用の鞄持って来た!!』
「 なんて事してくれたんだ貴様ーーーっ!!! 」
『えっ?何って…消えた1年2組に入る為に2年2組の教室の天井を開けたんだ!今2年2組の生徒は居ないから被害はゼロだ!』
「被害はゼロだ!じゃない!!」
爆音は響くし、教室に新しく穴は開くし、机や椅子は下の階に落ちた。もう散々だ。
「くそっ!そもそもゴコにこの用事を頼まなければこんな事にはならなかったのに!私のさりげない気遣いが仇になるとは……!」
『主…気遣いも何も、私達には運動不足なんて概念は無いと思いますよ…』
「くっ…ルーナ!!ルーナ!!!」
私が天井に向かってルーナを呼ぶと、ルーナが私の目の前にスッと現れた。
『智恵様、どうなさい……この穴はどうしたのですか?』
「ルーナ頼む!2年2組の生徒を全員消してくれ!!」
『智恵様、一体何があったのですか…?』
数十分後……
「よし、爆音についてはルーナの力で誤魔化し、床の穴は『修復』で直し、下の階に落ちてしまった机や椅子は『瞬間移動』で戻した。これで教室はほぼ元通りだ…」
私は魔法が使えて良かったと、トラブルが起こる度につくづく思う。
【こんな事で無駄に時間使うとか…アンタ同級生救う気あるの?】
「……確かに、さっきは私の指示が原因で無駄に時間を消費してしまったな…白黒、本当にすまない」
【そこは素直に謝るのかよ……まあいいけど】
「さてと、気を取り直して…冒険に出る準備をしよう。まずは装備を身につけるとするか」
私はゴコから受け取った冒険用の鞄の中からカードの束を取り出し、束の中から『魔術師のローブ』のカードを取り出した。
ボン!
カードが茶色のフード付きローブに変化した。
『あっ、全ての攻撃(呪文含む)を無効にする超強い防具だ!』
「そうだ!本来、このカードを場に召喚する為には数多くの魔物…つまり魔力の元が犠牲になる…だが!私の手に掛かれば簡単にこのチート防具を取り出せるのだ!!」
簡単にローブについての説明をしながら、私は最強のローブをしっかりと羽織った。
『おぉー!!流石智恵!天才だね!!』
【茶色一色かよ…ダサっ】
「やはり白黒もそう思うか…一般のアルカナプレイヤーからも「コスト高過ぎるしデザインが地味」とか言われているからなぁ……だがな、この防具さえあればナイフ相手だろうがライフル相手だろうが無傷で生還出来る!!この防具が無かったら今頃私はこの世に存在しなかった……!」
【この世界で銃を撃たれるとか…アンタ一体裏で何してたんだよ…】
「まぁ、今に至るまで色々あったのだ…」
我々は昔から小規模の事件にしょっちゅう首を突っ込んでいたからな…アルカナカード絡みの大きな事件は一切無かったが…
『(ねぇ、智恵…この杖やたら突っかかってくるし、何か嫌なんだけど……)』
白黒とのやり取りを見ていたルルーが、私の耳元に寄ってこっそりと耳打ちをする。
「(何を言っているんだ、どれも正論だっただろう。もし白黒が出過ぎた発言をするのであれば黙らせるから安心してくれ)」
『(えー…あいつ、既に出過ぎた発言してたじゃん…)』
「まあまあ、そう言うな。私は特に気にしていないから大丈夫だ。ルルー、サポートは頼んだぞ!!』
私はルルーを宥めながら、冒険用に纏められたカードの束を腰に巻いたカードホルダーにセットした。
『うん、分かった!私の魔法で智恵を全力でサポートするからね!』
「期待しているぞ!」
ルルーは私を通して魔力を消費すれば、私が求めるカードを山札から私の手元に一瞬で引き寄せてくれる。
つまり、ルルーのお陰でこれから先どんな場面が来ようが、その場にぴったりなカードが直ぐに引ける為、臨機応変に対応出来るようになる訳だ。
「さてと…皆んな、準備はいいか?」
私は冒険用鞄をローブの下に背負うと、周りにいる仲間達に向かって言葉を掛けた。
『うん!いつでもオッケーだよ!』
『ローチャンが大丈夫なら大丈夫だ!!』
『右に同じです』
「よし!我々は準備万端だ!白黒、まずは最優先で救助するべき生徒の元へ送ってくれ」
【えっ……】
「えっ……とは何だ。何か不都合な事でもあるのか?」
【……いや、君達なら大丈夫か。分かった、そっちが合図してくれたらすぐ異世界に転移するから。言葉については、僕が周りの言葉全部通訳するから】
「分かった。……ルルー、こう言ったら不謹慎なのはよく分かっているのだが……今私は物凄くわくわくしているのだ……」
『うふふ…私もだよ!』
私が夢に見ていた大冒険が今、この場で始まろうとしている。期待で私の胸が高鳴るのを感じた。
「……準備は出来た。では、出発!!」
【はいよ】
私が合図を出すと、ガルドが持つ白黒の杖が怪しい光が溢れ出し、教室全体を包み込んだ。
シュン!!
周りの景色や空気が一瞬で変わった。温度が低く、薄暗くて重い空気で物凄く薄気味悪い……
周りの景色から察するに、どうやら此処は室内のようだ。
そして、目の前には……
禍々しい装飾を身に纏った大きな化け物が仁王立ちしていた
『グフフ……また哀れな人間共が我に殺されに来たか……』
「白黒、一旦戻ってくれ」
【はいよ】
シュン!!
再び周りの景色が変わった。どうやら、我々が元いた教室内へと戻れたようだ。
「白黒、先程我々の前に現れた奴は……ひょっとして魔王か?」
【……いや、普通の王様じゃない?】
「普通の王様が初対面の人を相手に『愚かな人間』とか言うのか?」
【……向こうの世界ではあれが普通なんじゃないの?】
『向こうの世界にある普通の城では武装した人間も常に転がっているものなのですか?』
『血塗れだ』
ガルドとゴコがいる方向に目を向けると、いかにもファンタジーゲームに出てきそうな衣装を身に着けた人間3人を雑に抱えた2人の姿が目に飛び込んで来た。
軽そうな鎧に、見事な刺繍が施された衣装を着た少年。
重そうな鎧で身を固めた堅いの良い高身長の男。
純白の綺麗な法衣のようなものを身に纏った少女。
いずれも異国風の顔立ちをしていた。
この3人を一瞬の間に回収して来れたガルドとゴコには本当に感心するばかりだ。
『うわっ!?この人達息してないよ!?』
「うーむ、酷い傷だな…この世界では見た事の無い謎の跡まであるぞ」
【お前…遺体を見ても何も思わないのか?】
「まあ、前に色々と……じゃ無い。白黒、先程見た景色について本当の事を正直に言え。さもないと……」
私はガルドが持つ白黒の杖の先端を鷲掴みし、手に思い切り力を込めた。
『そうだそうだ!本当の事言わないと痛い目見るよ!!』
ルルーは、その辺で拾った安全ピンの針で白黒の杖をツンツンしている。
【痛っ!痛いっつーの!!分かった分かった!あんたのクラスメイトは今、魔王城に囚われてるんだよ!!最初は魔王討伐の為の勇者候補として人間の国の城に全員保護されてたけど、時空を超えて勇者がやって来たって噂を聞いた魔王が人間の国を襲うついでに城内に居たクラスメイトを全員拐ってったんだよ!!その時に一部のクラスメイトが逃げたみたいだけど……今は19名の生徒が魔王に囚われたままなんだよ!!】
クラスメイトは私を入れたら27名、つまり残り7名は魔王から逃げ出せたのか……
『成る程、白黒様がクラスメイト全員に与えた『力』が原因であちこちから狙われるようになってしまったのですね』
【まあ、そう言う事だよ……魔王は拐った人間を洗脳して自分の軍に加えるみたいだよ……】
『お前のいた世界では人間と魔王は争い合っているのか?』
【そうだよ…その人間の中に更に差別はあるし…特に、エルフによる差別は特に酷いよ】
「………白黒は私の指示通りに異世界に飛ばしたに過ぎない。だが、魔王の前に飛ばしたのは流石に看過し切れんから…ルルー、白黒を少し削ってやれ」
『はいよ!』
ガリッ!
【あだだだだっ!!】
「さてと……しっかりと準備を整えてから魔王城に戻りたい所だが、とりあえず先にこの3人を何とかしなくてはな…」
【何とかする?もしかしてこいつらから道具や装備奪うとか?】
「まあ見ていろ」
私は腰につけているカードホルダーの表面を右手で軽く叩いた。
すると、私の右手に目的のカードがパッと現れた。まるでマジックのようだ。
「よし!流石ルルーだ!」
『さっき安田先生が来た時もこの力使えば良かったのに〜』
あっ……
(日常ではあまり使用しない能力だったから、今の今までルルーの能力の事をすっかり忘れていた……申し訳無い……)
「では気を取り直して早速……『蘇生』!!」
【えっ?】
私が呪文を唱えた途端、教室の中央に置かれた3人の遺体の周りが輝き始めた。
私が気になっていた謎の跡も消え、見るに耐えない酷い傷も綺麗に塞がっていった。
やがて光は収まり……
「あ……あれ?此処は……?」
「俺達……生きてるのか?」
「う、ううん……あれ?周りが明るい……?」
ファンタジーな3人組はゆっくりと目を覚ました。半身を起こして、辺りをキョロキョロと見回している。
【あ……あ……ありえない……あんなカードで人を……生き返らせた……のか?】
「ん?そっちでは蘇生の魔法は無いのか?」
【いや、あるにはあるけど……今、僕らの世界で蘇生を使える奴は殆ど居ない!それにあんな簡単に扱える魔法じゃない!お前!一体何をしたんだ!!】
「ルルー、白黒を落ち
『はいよ!』
ガリッ!!
【あだだだだだっ!!今何で引っ掻いたんだよ!?】
「ルルー…落ち着かせろと言ったのに……何故安全ピンで引っ掻いたのだ……」
『ごめん!手が滑った!』
【絶対嘘だろ!?おいお前!!この虫を何とかしてくれ!?】
『私虫じゃないもん!!!!』
「白黒……私の事は智恵と呼んでもいいからな」
【名前で呼ぶのが恥ずかしいからお前の事を『お前』って呼んでるわけじゃねぇよ!?!?】
「あの……すいません」
白黒と話をしていると、先程生き返らせた3人組の内の1人、軽そうな鎧を身に付けたリーダーと思しき少年が私達に声をかけて来た。
「あっ、話に夢中で君達3人組の事をすっかり忘れていた……すまない。どうしたんだ?」
「あの、さっき貴方が僕達を生き返らせたって……聞いて……後、色々と聞きたい事があって……」
少年は先程からフラフラしており、会話もままならないようだ。
「……少年、先程から元気が無いようだが……大丈夫か?」
「すいません……先程まで全力で戦っていたから……お腹が空いていて………元気が……」
『ローチャン、この3人は空腹のエネルギー不足で頭が回っていないみたいだ』
「………よし、まずは腹ごしらえでもするか!」




