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君への手紙

君は2度寝をしますか? -2日目-

作者: まさかす

 君が読んでいるこの手紙は誰かに向けて書いたものでは無く、単に私の想いを書き留めた物である。そしてその手紙が読まれているという事は、既に私はこの世にはいないという事なのだろう。かといってこれは「遺書」と言う訳では無い。故に仰々しく構えず、出来れば最期まで読んでくれると嬉しい。


 私は休日になると2度寝、3度寝をする。寝溜めという意味ではなく2度寝、3度寝をする。その行為は何もかもを差し置いて至福の時である。余りに寝すぎると、二日酔いにも似た頭痛を覚えるという難点もあるが、それは至福の時である。布団の中は自分の体温とほぼ同じ。どんなに良い温泉でもこの絶妙な温度にはならないし、この至福を提供してはくれない。そしてこの手紙も書いている今も、私は布団の中にいる。


 ああ、瞼が重い。ペンすら重い。


 最初は2度寝だった。それが3度寝、4度寝と増えて、最近は100度寝と言っても大袈裟では無い程に寝る事も珍しくは無い。それは24時間以上眠るような物であり、起きている時間より布団の中にいる時間が殆どである。お陰で平日も布団に入っている事が多くなっていった。その結果会社を度々無断欠勤してしまい解雇された。だがそんな事はどうでもいいと思えるほどに、布団の中には至福が存在する。


 次に目を閉じれば2度と目を覚ます事が出来ない気がする。いや、予感といった方が正解だろうか。だが至福の中で永遠の眠りに就けるというなら大歓迎だ。


 現実世界からの完全逃避。布団の中こそが私の世界、私だけの世界。もう睡眠以外、私は何も要らない。





 200年程前に書かれた手紙にはそんな事が書いてあった。それを書いた人は布団の中で衰弱死した状態で発見され、その枕元に手紙が置いてあったという。手紙に書かれているように睡眠こそが至福だったのか、その最期の顔には笑みが浮かんでいたという。


 その人が亡くなった後、その人が使っていた枕は幾人もの人手に渡った。一見すると何処にでも売っていそうな何の変哲もない枕。だがその枕を使うと2度寝、3度寝、4度寝してしまう程の睡眠を誘発し、睡眠障害の人も直ぐに眠りに就くと同時に2度寝、3度寝をするという不思議な力を擁していた。それだけなら睡眠障害者に対し有効な物であるというだけであるが、幾人もの人手に渡り、眠りへと誘ったその枕は睡眠を誘発する枕であると同時に、実は人の生気を奪っていた。


 元の持ち主は2度寝、3度寝と繰り返すうちに寝る回数が増えていき、最後は眠る様にして永遠の眠りに就いたという。その枕が幾人もの人手に渡り生気を奪う事で、その枕自体の力が増していったという。そして今では使ったその時点で永遠の眠りに就いてしまう程に、その枕は力を持っているという。手紙に書かれていないそんな事を知っているのは、それがその枕に纏わる話であるからである。


 その枕は死の枕、『DeathPillowデスピロー』と呼ばれていた。


 私はその枕をようやく手に入れた。妻へのプレゼントとしてようやく手に入れた。さあ妻よ、永遠の眠りに就くがいい。




 夫は永遠の眠りに就いた。夫が私に枕をプレゼントしてくれた時には驚いた。私が闇オークションで落とせなかったその枕。まさか夫が落札していたとは本当に驚いた。あの時競っていたのが夫だとは夢にも思わなかった。


 枕をプレゼントされた私は急いで同じ様な形の枕を用意しすり替えた。そして夫からプレゼントされた枕を夫が使っていた枕とすり替えた。枕カバーを同じにしていたとはいえ直ぐに気付かれてしまうのではないかとヒヤヒヤしていたが、夫は一切気付く事無く、呆気ないと思える程にあっさり眠りに就いた。


『あなた、永遠の眠りの中で良い夢見てね』

2020年07月11日 3版 ちょっと改稿

2020年05月04日 2版 ちょっと改稿

2019年12月09日 初版

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