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ランク外冒険者がゆく  作者: 小馬鳥
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エティオの成長記録

 さてここで、エティオ(十七歳と十一ヶ月)のこれまで成長記録について、簡単に触れておきたいと思う。ちなみに彼はこの時点で、一人称を僕からオレへと改めていた。僕という呼び方は冒険者らしくないので、オーランド師匠に倣ってオレに変更したのだ。こちらの方が舐められないし、モテそうな気もする、という思惑があったのは本人だけの秘密となっている。


 六歳のときから覇王術を習い始め、肉体活性の訓練を始めたのはまえに触れたとおり。

 八歳の頃には肉体活性もどきを発動できるようになったが、瞬間的に強くなるもののすぐに行動不能になる、欠陥魔法に限りなく近いものだった。

 魔力をすごい勢いで消費し、そのほぼすべてを肉体強化に費やし、残った僅かな魔力で微々たる回復を行うという残念かつ危険なものだった。実際に何度か死を覚悟するほどの激痛に苛まれたが、将来の安定した強さ(年金収入)のために歯を食いしばって頑張っていた。

 彼がMという訳ではない。大事なことなので繰り返すが、Mという訳ではない。


 十歳頃になると、総魔力量はオーランド師匠に近付いていた。オーランドは宮廷魔術師長と同等の総魔力量保持者だった。天才はズルいとエティオが愚痴をこぼしたが、お前はそれに後天的に並んだ反則野郎じゃないか、と何故かオーランドにキレられた。覇王術を創始する際の根本的な見落としの可能性に思い至り荒れていた、とエティオは後日オーランドから謝られたが。

 しかし謝られると同時に、オーランドから空気漏れの魔力を感じないのが不思議だと頭を捻られた。空気漏れがないのであれば、なぜ魔力暴走が起きていないのか? そもそも空気漏れがない人間などいるはずがないのではないか?と。

 エティオとしてはこれまで意識していなかったことなので答えようがない。そもそもオーランドが分からないことがエティオに分かるはずもなく、結局有耶無耶なままになってしまった。


 一二歳になった年には領地の破術大会に出場し、並み居る大人たちを押しのけて優勝した。相変わらず肉体活性が上手くいかないので、本家本元に師事しているくせに覇王術の修行に移れないでいたが、理論をより深く掘り下げて研究するようになり、結果として破術の技倆がより向上することになったのも一因だろう。しかし実際はもっと根本的な理由があったのだが、当時のエティオはまだそのことに気付いていなかった。

 大会には主催者だったアルフレッドは出場していなかったが、イーサンやアーロウは出場しており、そこそこレベルの高い大会だったことは間違いない。ちなみに二人とも破術は領地の道場で学んでおり、師匠から直接教わっているのはエティオだけだった。どうした理由かは分からなかったが、オーランドが二人を教えることを拒否したようだ。

 エティオとしては将来の安定した強さ(年金収入)のために只々必死で修行していただけだったが、師匠であるオーランドの面目を守るために必死になって励んだ結果だと邪推され、また破術の道場主との直接対決だった決勝戦が白熱した結果、辛勝して優勝した当時は神童と呼ばれ持て囃された。そう、持て囃された、のだ。


 一四歳頃には徐々に、それまでの着実な成長に陰りが見え始めていた。破術の技術は完成され、それだけであればどこの道場主にも負けない実力を備えている自信は持っていたし、実際に破術の試合ではこれまで対戦したすべての道場主に勝つことができていた。

 一般の参加者を含めた、観客へも公開された破術の試合では。


 エティオは観客に非公開の覇王術の模擬戦において、それらすべての道場主に負けていた。理由は単純明快。破術の試合においては大怪我を防止するために、また破術の技術の向上を目的としているために肉体活性の使用は禁止されているが、覇王術の模擬戦では肉体活性の使用を前提とした戦闘力の競い合いが目的であり、その点において道場主たちに歯が立たなかったからだ。

 道場主は、不完全ながらも肉体活性の発動に至った者たちにその資格が渡される。すなわち道場主であることは、イコール肉体活性がいくらかは使えるということだ。そしてエティオは、肉体活性がまったくもって、これっぽっちも、うんともすんとも、磯○波○の髪の毛の先ほども、使えなかったのだ。

 どれだけ技術があろうとも、肉体活性を行っている人間に、それを行っていない人間が勝つことはできない。それがすべてだった。


 一六歳頃のエティオは、それまでで一番精神的に参っていた。いわゆる思春期という多感な時期に、自身の至らなさを痛感させられる日々。実年齢で考えれば思春期なんて関係ない、と言えなくもないが、肉体年齢に精神年齢も引っ張られるのか、彼がしっかりと思春期の不安定な精神状態を辿っていたのが紛れもない事実。

 イーサンとアーロウは肉体活性をある程度使いこなせるようになっており、模擬戦ではまったく勝てなくなっていた。破術の技術に関してだけは、オーランドから「俺以上」という免許皆伝を言い渡されていた。しかし大会に出場してお山の大将になる気分ではなく、ひたすら肉体活性を含めた覇王術の訓練に勤しんでいたが、ちっとも成功する気配が見えない。


 また総魔力量は、オーランドからもはや全人類最大だろうと言われていた。言われていたのだが、それがまるで有効に活用できないのだ。肉体活性をしようとすると、その有り余る魔力がほぼすべて肉体強化へ割り振られ、残りのほんの少しの魔力が回復へと回される。

 ほんの少しとは言え、それでも普通からすればとんでもない量の魔力でもって回復をしているが、それを完全に上回る肉体強化が術式を破綻させる。肉体強化と言うよりも肉体自己破壊とも言えそうな魔法は、行使されれば瞬間的に生命に関わる状況となる。

 それを無意識下で認識しての結果なのか、発動される直前に魔法は自動的にキャンセルされ、しかし総魔力量のほとんどすべてを消費されてしまう。瞬間的にでも肉体活性を発動できていた八歳頃よりも、状況は悪化していた。

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