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ランク外冒険者がゆく  作者: 小馬鳥
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アルフレッドとの出会い

 やがてときは経ち、彼は八歳となった。現在の魔力総量は、宮廷魔術師と呼ばれるエリート魔術師たち以上となっている。魔力総量は才能に依るとされていることから考えれば、努力でそれを勝ち取ったことは非常に大きな自信となった。しかしそれでも次元魔法の必要魔力量にはまだ遠く及ばないことを考えると、いくら努力してもし過ぎることはないと思っている。

 そんな訳で魔力消費の訓練は、彼にとってもはや完全に習慣となり、呼吸をするような自然さで続けている。倦怠感や体調不良はもう通常状態と化してしまっているので気にならなくなっていたが、以前よりもそれらが強くなってきているのは気の所為だろうと考えていた。倦怠感や体調不良(若い内の苦労)よりも、大事なことは将来の安定した強さ(年金収入)であると自分に言い聞かせつつ。しかも払った額の分は、必ず取り戻せると分かっている。そう考えれば、彼は頑張ろうと自然に思えた。


 ただ魔力消費に用いる魔法は、光源(ライト)から魔力による肉体活性へと変わっていた。それを始めたのは二年まえ。彼が六歳のときに、アルフレッドの領地と魔物が跋扈する森との境界辺りに、意外な有名人が移り住んできたのだ。その男はオーランドという。元覇王にして、覇王術の創始者というとんでもない経歴の持ち主だ。

 覇王とは、オーランドのために創造された肩書である。武を極め、魔族との戦いにおいて度重なる戦績を収め、王をして余人に代え難いと言わしめた彼に贈られた称号だ。簡単に言えば、最強の代名詞と言って差し支えないだろう。しかしいくら覇王とはいえ、寄る年波には勝てぬもの。彼が五十歳を過ぎまでその称号を持ち続けていたことこそが異常であったのだが、近年ようやく後輩にその任を託し、彼は隠居して市井の人となることを選んだのだった。

 そんな元有名人の現一般人がなぜこんな土地にやって来たのか、という真相は知らされていない。どうやらアルフレッドの出自に関係がありそうだ、という噂話はちらほら聞こえてきた。


 エティオからすればアルフレッドの出自はまったく気にならないというスタンスは変わっていなかったものの、元覇王に師事する機会を失うという選択肢などありはしない。それは真理(テンプレ)なのだから。

 当然のように彼はアルフレッドに顔を繋いでもらう。領主の三男という気楽な立場と、六歳の男の子という強さに純粋に憧れるお年頃のあわせ技をもって、隠居した老人の余生の暇潰しとして手解きしてもらうことはできるだろうと考えていた。実際にはその打算は大きな間違いであったが、結果としては師事することができた。


「お前がエティオか。うん、良い面構えだな。俺に覇王術を教えてもらいたいのか? お前のオヤジだって剣術の腕は相当のものだろうに。

 おい、アルフレッド、なんでお前が教えていないんだ?」


 そう言って隠居した老人とは思えない迫力のある面構えで問いかけられたアルフレッドは、苦笑しつつ、それでも圧を正面から受け止めて答えた。


「ええ、もちろん私が剣を教えようと思っていたのですが、どうやらエティオは常に倦怠感のようなものを感じているようで、動きに精彩がないのです。虚弱な体質に生んでしまった私たちが悪いのですが、これでは通常の剣術や魔法を教えても余り強くは慣れないでしょう。しかし先ぱ、、オーランドさんの覇王術ならばそれを克服できるのではないかと思いまして」


 アルフレッドが先輩と言いかけたことにエティオは気付いていたが、詮索するつもりはなかった。きちんと教えてもらえるのならば、何も問題はないと思っていた。


「ああ? そうなのか? まあ態々こんな片田舎に引っ込んだんだ。暇潰しに小僧を一人育ててみるのは面白そうだから、俺としちゃ別にそこら辺はどうでも構わないんだがな。

 おい、エティオ、ちょっとこっちに来てみろ」


 口調はぶっきらぼうに聞こえるものの、オーランドという人物は、実は子供好きで優しいのではないかと思われた。エティオに向けられた顔は、先ほどアルフレッドに向けたものよりもずっと柔らかいものだった。


 言われたとおりエティオがオーランドのもとに行くと、オーランドは彼の頭の上にそっと右の掌を置き、目を瞑ったのちに言った。


「うん、これは?

……

 ほう、なるほどな。随分と面白いことになってるじゃないか、この坊主は。よかろう、俺が直々に教えてやろう。最強へと至る道を、な」


 ニヤリと笑ったオーランドは、先ほどの柔らかい顔とはうってかわって、獲物を見つけた獰猛な野獣のような顔でアルフレッドにそう告げた。

 アルフレッドのほうは反対に、ホッとしたような、不安なような、なんとも複雑な表情を器用に作りつつ、「よろしくお願いします」と答えていたのが印象的だった。


 それからエティオはオーランドに、彼が創始したという覇王術を教わり始めた。覇王術とは、端的に言えばあらゆる武器の使用を前提とした総合武術の体系であり、きちんとした理論と技術を確立したうえで、魔力を内部消費して肉体を活性化させて通常の人間には実現不可能な挙動を実現せしめ、さらには武器にも魔力を纏わせることで切れ味や耐久力の劇的な向上を図ることにより、あらゆる戦闘において最良の結果をもたらすように考案されたものである。


「いいか、坊主。ただ早く動くだけでは、それは早いとは言えない。最短で最適な場所に身体を動かすこと。これこそが早く動くということだ。つまり頭を使えってことだ。どんなに力が弱くても、武器があれば相手を倒すことができる。相手の弱いところに武器を当てさえすれば、それでいいんだ。武器というものはそのように作られているし、だから武器は武器でさえあれば、それが何でも構わない。そういう考えのもとに覇王術は作られている」


 あの一見すれば間違いなく脳筋のようなイメージを他人に与える外見に似合わず、オーランドはとても理論的かつ合理的に彼を指導してくれた。てっきり走り込みや筋トレで体を鍛えてから、ガチガチの実践で気合や根性をベースに肉体言語で指導されるものだとばかり思っていたのだが、彼にとっては良い意味であてが外れたのだ。オーランドは座学や型の繰り返しといった、理論偏重で指導を開始した。


 そして彼を鼓舞するために多少言葉が少ない部分はあったものの、オーランドの考えは理にかなっていた。相手が一般的な人であるならば、武器が当たれば、例え自分に力がなくても倒すことができる。それは間違いない。しかし、ならばなぜ、オーランドは覇王術に肉体活性や武器の性能向上を組み込んだのか。それは言わずもがな、強者と相対するため。もっと突き詰めて言えば、この世界に跋扈する魔物や魔族に対するためだ。


 オーランドが先ほどの説明で省略したのは、硬い毛皮を持ち、強靭な肉体と高い運動性能をほこる強い魔物や魔族と対するとき、最短で最適に動いてもなお相手に武器を当てることはできないし、おまけに武器はそのままでは役に立たない、という事実だ。それらの毛皮に刃は逃され、毛皮がなくとも強靭な肉体はただの金属でできた武器を跳ね返し、そもそも元々の運動性能が恐ろしく高いため相手に一撃を加えることも不可能。常識的に考えれば、最初から詰んでいるのだ。

 もちろん一般的な魔物はこの限りではない。多くの魔物には通用するよう、鍛冶師が丹精込めて武器や防具を作っているし、そこまで早く強い魔物がそこかしこにいるならば、すでに人間は滅んでいるだろう。そういった意味では、人間は決して弱くはなかった。だがいかんせん上位の魔物や魔族には常識の埒外のものもままあり、残念ながらそれらに対しては通常の武器や戦闘技術が通用しないのは周知の事実だった。


 こうした問題の打開策として、先達は鍛錬による肉体強化や、魔法による非物理的な攻撃・支援・回復方法の開発に勤しんできた。そんな並々ならぬ努力は一定程度の効果を発揮し、強い魔のものたちの中でも中位であれば対抗できるようにはなった。しかしどうしても上位以上に位置する魔物や魔族には対抗することが能わず、そうしたものが出てきた場合、なんとか被害を最小限にするよう努めることで全滅を避けてきたという過去があった。

 そんな絶望的な戦いに終止符を打とうと、オーランドは考えた。肉体の性能を同等にし、武器がその設計思想どおり相手に通用するようになれば、そこから先は培った技術の勝負となり、才能に胡座を欠き努力をしない相手に負ける道理はない、と。

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