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ランク外冒険者がゆく  作者: 小馬鳥
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均衡干渉のレベルアップ

「ここは少し特殊な場所じゃし、仮に儂らが今、お主の元居た世界にいるとしよう。そして儂とお主が同じ部屋におるとするじゃろ。そうした場合、儂とお主の間に気温の差はないと言えよう。これは儂とお主の間の温度が均衡した状態と言える。ここまではよいか?」


 細かいことを挙げればきりがないが、物理の授業によく出てきた単語と一緒だった。”なお、〇〇はないものとする。”便利な言葉だが、物事を単純に考えるのは悪くないと思われた。


「そしてお主の均衡干渉じゃが、この均衡を少しだけ変えることができるようじゃ。例えばお主の周りを暖かくするのであれば、儂の周りを寒くすることで、部屋全体としてのエネルギー総量を、元々の均衡状態のときと等しくすることで釣り合いを取るというわけじゃ。ただしその変異させられる量は、そう大きくはない。概ねそんなところじゃろう。重ねて言うが、詳しいことは分からんが、な」


 さらっとすごく重要な情報が飛び出したように思われた。天秤の近くに居た人が、寒気がすると言っていたのは、もしかしてこれが原因だったのではないか。そのせいで彼は風邪をひくことなく、生きてこられたのではないか。そうして周りを寒くし、結果虐められ、身体ではなく心が風邪をひいて寒くなってしまったのではないか。

 そんな天秤の心境を知ってか知らずか、神様は説明しつつ、ひとつの問題を提起する。


「しかし、このままではいかん。次元魔法と均衡干渉とでは、格が違うため釣り合いが取れん。このまま次元魔法をお主に授けても、お主の中で均衡干渉が足を引っ張ってしまい、次元魔法の行使が不可能になってしまう可能性が高い。しかも均衡干渉はお主の魂に刻み込まれておるので、消し去ることもできなさそうじゃな」


 これは非常に不味いと、誰にでも分かる。折角神様からもらえるはずであった異能(チート)が、最初から機能不全を起こすというのは、あまりにも切ないと言えた。


「神様、そんなこれまで知りもしなかった異能が僕の中にあったのはよく分かりましたが、何とかして次元魔法を頂くことはできませんか?まさか神様ともあろうお方が、こんな簡単な問題に対する解決策も持っていらっしゃらない訳がない、と分かってはおりますが。だって神様ですもんね」


 天秤は神様にすがるようにまくし立てる。それはとてもつたない交渉のようにも見えたが、何もせずに異能(チート)がもらえなくなった場合、彼はこれから得られる新たな人生が、またこれまでと同じような惨めなものになってしまうかも知れないという恐怖を感じていた。


「うん? 心配するでない。この程度のことはどうとでもなる。こんなことでお主に約束をした異能を引っ込めるわけがなかろう。なに、元々の異能の格が低いのであれば、それを次元魔法と同等に引き上げてやればよかろう。そうすれば足を引っ張るようなことはなくなり、上手く使えば両立できて願ったり叶ったりじゃろうて。特別サービスじゃぞ。

 そうさな、格の上がった異能が同じ名前では困るし、次元魔法に均衡干渉ではどうにも字面の雰囲気が硬すぎてよろしくないの~。そうじゃ、では均衡干渉を次元魔法と同程度の性能に引き上げ、Zero-Sum(ゼロサム)と呼称しようぞ。略してZS(ずぃーえす)などと言えば格好も良いか。ではほれ、均衡干渉改めZSの再付与は完了じゃ。次元魔法も、今授けてやる」


 さすがは神様だった。まさか異能(チート)の格上げが、こんなにあっさりと成されてしまうとは考えもしていなかった。ひとつもらえる予定だった異能(チート)が、いきなりふたつになった気分だ。


「さて、これでお主がここにおる理由もなくなった。そろそろ転生させるとしようぞ。最後に何か聞いておきたいことはあるかな?」


「では神様のお名前を教えて頂けますか? 今回のことを忘れずに感謝し、祈りを捧げる際に、お名前を聞いておいたほうが良いかと思いまして」


「ふむ、殊勝な心がけじゃな。嬉しいことよ。

 儂の名はエルじゃ。エルようなどと呼ばれるのは好かんぞい。エル爺と呼んでもらえれば祈りも届きやすいかも知れぬな」


 エル爺は嬉しそうに目を細めつつ、そして少し悪戯っぽく笑いながらそう天秤に告げた。


「それでは、転生させるぞい。今度は良い人生を歩めるように励むのじゃぞ。間違っても、また隕石に打たれるでないぞい」


 最後に不吉なフラグを立てられた気がしたが、そんな偶然があってたまるかと、力技でそれを圧し折るように祈りを捧げる。それはもう、天秤にとっての全力で。神が立てたフラグの耐久力が、お子様ランチの旗レベルである可能性はどの程度なのだろう、と絶望に打ちひしがれながら彼が考えていると、徐々にその意識は遠ざかっていった。


 そして次に目が覚めたとき、その意識は赤ん坊に宿っていた。

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