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ランク外冒険者がゆく  作者: 小馬鳥
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馬子にも衣装

 エティオがランク外冒険者に任命されてから数日して、彼の家にライラが訪ねてきた。というか、彼女はあれから毎日、彼の家を訪ねてきていた。彼女によれば、これも立派な仕事だそうだが、エティオからすれば遊びに来ているように見えなくもない。ただライラがいつもエティオの鍛錬を見ながら声援や感嘆の声を上げてくれるのは、エティオにとって気持ちの良いものだった。そのため彼もあまり深く気にせず、毎日彼女を迎え入れていた。

 そうしてその日も気分良く昼の鍛錬を終えたエティオは、ライラから先日依頼していた服ができ上がったとの報告を受けた。そしてギルドと王城の間で調整がつき、エティオの登城が三日後に予定されているとの報告もあわせて受け取った。

 ランク外冒険者の話を聞かされたときに話が出ていたため慌てることはなかったが、それでも三日後に王城へ行くことになると知ったエティオは緊張を隠せなかった。ルドルフとライラが付き添ってくれるということを知っていくらか心持ちは軽くなったが、それでも不安を感じるエティオに対して、ライラは服を取りに行くことを提案する。エティオが仕立て上がった服を着た自分の姿を見れば、気分も多少楽になるはずだというライラの意見には同意しかねたが、それでもなにもしないで待つという選択肢はなかったため、また二人で仕立て屋へと向かうことにした。

 先日のデートと同じく、道中はライラが次から次へと話題を提供してくれたため、間が持たないということはなかった。ややナーバスになっていたエティオも笑顔を取り戻し、やはりライラと一緒にいると楽しいと再認識する。そうこうしていると、マアトが黙っていられなくなる。ライラとの会話の流れに乗り、自分の存在をアピールしてくるマアトが可愛らしく思えてきたエティオは、邪険にすることなくマアトにもきちんと対応する。

 そうして仕立て屋へと着いたエティオは、仕立て上がった三着の服を確認する。それらはどれもこれもみな、素晴らしいできばえだった。仕立て屋の店員はその場でサイズの最終確認をしてから渡したがっていたが、ライラがそれを断って受け取っていた。職人の腕を信頼しているし、万が一にもサイズ調整が必要になったら、再度持ってくるのは大した手間にならないと言っていたが、それに対してエティオは疑問を持っていた。

 服を受け取ってマイ収納袋に入れたエティオは、店を出てからライラにそのことを質問した。


「ライラ、どうしてさっきはサイズ調整をしてもらわかなったのか、正直なところを教えてもらえる? さっきの理由はそれっぽく聞こえはしたけど、やっぱりちょっと無理があると思うよ。それともああした対応が一般的なの?」


「うう、さすがにわかっちゃいましたか。エティオさんのおっしゃるとおり、あの対応は一般的とは言えませんね」


「やっぱりね。それで、どうして?」


「だって、せっかくだったら、エティオさんがあの服を着るのを最初に見るのは、私ひとりがいいなって思ったから…」


 鈍感ではあったが耳は悪くなかったエティオは、話が進むにしたがって徐々に小さくなっていくライラの声も、すべて聞こえていた。恥ずかしそうに俯きながら、もじもじしているライラが可愛くてまた悶そうになったエティオだったが、往来のまん中でそれは憚られる。


「…まあ仕立て上がった服を見る限り、職人の腕は確かだろうし、サイズもそう問題無さそうかな。ただもし登城する当日にサイズが合わなかったりしたら大変だから、今日このあと家に帰ってから、ライラの目でサイズ確認してもらえるかな?ライラの審美眼は信頼してるから、見てもらっておかしくないか教えてよ」


「はい、その点はどうぞ安心して任せてください!

 ただ審美眼は、ってどういうことですか? 審美眼も、じゃないんですか? …ちょっとエティオさん、こっちを見ながら答えてください!」


(ふふ、甘いですね、ライラ。一番最初に見るのは、エティオとともにあるワタシです!)


 帰り道もまた楽しみながら進み、あっという間に家に戻ってくる。エティオは喉を潤すなりして、少し休憩してから試着をしようかと考えていたが、ライラとマアトがこぞってそれを急かすので、致し方ないと諦めて自室で着替えをする。華美な服ではあったが、着るのに人の手を借りなければならないほどの変わった作りにはなっていなかった。

 ひとまず服は着られたものの、マアトが手鏡でその姿を早く見せろと主張する。それならばと、手鏡を取るために右手を伸ばしつつ、同時に左手で前髪をかき上げながら右から左へ流してみる。いつもはやるにしても無造作にかき上げるだけのエティオだったが、服装がいつもよりも豪勢なので、多少は色気を出したのだろう。そうしてから手鏡を覗き込むと、自分でもまんざらでもないと思えた。ライラが言っていたことは嘘ではなかったと思いつつ、マアトに感想を聞きたかったが、返答はない。仕方なくマアトにはあとでじっくりと話を聞こうと考え、エティオは部屋を出て居間へ向かった。


「きゃ~~!!!」


 居間に入った途端、ライラが大絶叫しつつ駆け寄ってくる。いきなりエティオの手を取ったかと思うと、両手でそれをぶんぶんと上下に振りながら続ける。


「エティオさん、イイ! すごくイイですよ!! これは、ヤバい…おっと、鼻血が」


 エティオは冗談かと思ったが、どうやら本当に鼻血が出てしまったようだ。もう何度も訪れていたので、ライラは洗面所の場所を知っており、興奮冷めやらぬままいそいそとそちらのほうに向かっていった。

 しばらくしてから彼女は戻ってきたが、落ち着いた鼻血とは裏腹に、その興奮はまだ冷めてはいなかった。

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