授かったチート
サクッと、と言いつつ、やはり神様は楽しみなのか、何やら気合を入れつつ二礼二拍手一礼したのち、ゆっくりと福引を回した。参拝の作法に則ってはいるが、果たしてそれはなにに対する礼拝なのだろうか。
「ダララララララ~、ダン! 出たぞい!!」
効果音が神様の口から聞こえてきたときに、天秤は危うく突っ込みそうになる自分をグッと堪えて、まずは異能の確認を優先した。
「次元魔法、ですか。なにやらすごそうですが、これはどういうものでしょうか?」
「おお、次元魔法とな。お主、良いものを引き当ておったな」
神様はニヤリと口元を歪めた。どうやら良いものを当てられたらしい、と安堵する天秤に向かって神様は続ける。
「次元魔法は時空間魔法の上位に位置する、文字どおり次元を操る魔法じゃ。使いこなせれば、なかなかの能力を発揮するぞい。さすがに簡単に自由自在、とまではいかんじゃろうが、まあこれくらいなら大丈夫じゃろうて。あとはお主の今後の努力とちょっとした才能次第と言ったところじゃな」
どうやら素晴らしいものではあるようだが、使いこなすまでにはそれなりに努力が必要なようであった。その点に関して、天秤は抵抗感をまったく持っていなかった。それどころか、そんな簡単なことで力が手に入る保証をしてもらえるのならば、むしろ申し訳ないと思っていたほどだ。努力は成功を得るための必要経費だ考え、彼は生前できることをしっかり頑張ってきた。しかし前世において、その試みはことごとく失敗に終わった。来世こそは、とひそかに心に誓いを立てる。
「よし、それじゃあお主に時空魔法をくれてやろう。ん~。
……
おっと?」
神様が変な声を出して唸り始めてから五秒ほどして、さらに変な声を出した。天秤は医者があれ? と言い出すときと同じく、何か危険な気配を察知する。
「お主、均衡干渉という言葉はしっておるか?」
「いえ、むしろこちらが聞きたいくらいで。何か不味いことがありましたか?」
「いや、お主はすでに異能をひとつ持っておるようじゃ。それの名が均衡干渉、となっておる」
天秤はまったく思い当たる節がなく、頭を抱える。二十二年間の人生において、均衡干渉という異能が彼に何か良いことをもたらしてくれたのであれば、間違いなくそれは彼の記憶に残ったことだろう。何せ目覚ましが鳴ったら喜ぶような、そういう人生を歩んできたのだから。
「え~、我がことながら心苦しいですが、その存在を今知りました。むしろどういうものなのでしょうか、と質問させていただきたいくらいで」
「これはどうやらお主が、生来持っていた異能のようでな。儂が授けたものではないから、儂にもその内容が詳しくは分からん。だが大雑把でよいのなら、そうさな、お主のいた世界には、エネルギー保存の法則というものがあったはずじゃな。それに近いと言えば、当たらずとも遠からずと言ったところか」
「エネルギー保存の法則、ですか?」
「うむ、そうじゃ。え~、任意の異なるふたつの状態について、それらのエネルギー総量の差がゼロであることをいう、というものじゃったな、うん」
どこかのペディアから引用したような文章だと天秤には思われたが、涼しい顔で説明を続けようとする神様を止めることはできなかった。