新たな立場
冒険者ギルドへ着いたエティオは、前日と同じく三階にある応接室に通された。しかし今回は一人で待たされることはなく、すでに部屋で待機していたギルドのスリートップに迎えられる形で部屋へと招き入れられた。
スリートップの面々は、恐らく正装だと思われる豪華な装いであった。一張羅を張り込んできて良かったと内心安堵したエティオだったが、それでも服装の格が違いすぎることは本人が一よく番分かっている。若干の気恥ずかしさを誤魔化すように、足早に三人のもとへと向かっていった。
「エティオ様、ようこそおいでくださいまして、恐悦至極に存じます。本来は我々が赴かねばならぬところではありますが、かように卑賤なこの身なれど、卑しくもグランドマスターなどという過分な地位に置かれている手前、ギルドの体面や外聞といった大変面倒なものがございます。結果として、エティオ様におかれましては、わざわざこちらにご足労頂くことと相成りまして、心よりお詫び申し上げます。どうぞこの度の非礼は平にご容赦いただければ、幸甚に存じます」
「……」
彼が部屋に入ってきたのを見るなり、頭を垂れて堅苦しい挨拶を平然と述べてくるイケメンがいた。
(誰だ、このスマートなイケメンは?)
(エティオ、グランドマスターの顔をもう忘れてしまったのですか?)
(いや、何となくそうかな、とは思ったけど、とてもあのチャラチャラしたルドルフと同一人物とは思えなくて)
(まあ確かに雰囲気は違っていますね。エティオに完敗したことで、態度を入れ替えたのでしょう。なかなか見どころのある人間ですね)
エティオは半ば本気で訝しんでいた。しかしマアトに指摘され、それがあのルドルフだと認めざるを得なかった。
「えーと、ルドルフさん、どうかその辺でご勘弁いただけないでしょうか?さすがにやり辛いので」
「いえ、そういう訳には参りません。私の不徳の致すところにより、エティオ様には大変な不快感を与えてしまいましたこと、心の底から恥じ入っておりまして…」
「ストップ、ストーっプ! 本当にもういいですから! 気にしてないので、むしろ悪いと思っているのなら、せめて普通に話してください。そうでないなら、もうこのまま帰らせてもらいますよ」
「分かりました。エティオ様がそこまでおっしゃるのであれば。しかしエティオ様に対し、心からの敬意を払うことに関しては、どうぞご容赦ください」
「ええ、話が進まなくなりそうなので、それについてもひとまず了解しました。それで本日は私にどういったご用件がおありだったのですか?」
「はい、ご理解と議事の進行をありがとうございます。本日はエティオ様の今後のお立場についての話をさせていただきたく、お越し願った次第です」
「私の今後の立場、ですか?」
「ええ、そうです。まず初めに確認しておきたいのですが、エティオ様のステータスマークは、まだ先日拝見したとおりに変容したままですね?」
「はい、そうですね。今もこのとおり、丸の中に8が横倒しになったようなマークのままとなっています」
「なるほど、やはりそうですか。わかりました。では結論から申し上げたいと思います。
エティオ様の今後のお立場としましては、現在ふたつの選択肢がございます。ひとつは冒険者ギルドのグランドマスターになっていただく、というものです。
そもそも私如きがギルドのグランドマスターなどという大層な地位にいるのは、かつて先代のグランドマスターが各地を荒らしたドラゴンの討伐に失敗して殉職した際、たまたまそれに成功したためです。もちろんそれは一人でなしえた訳ではありませんでしたが、まぐれ当たりで最後の一撃を入れたことにより、たまたまステータスマークは00となってしまい、ドラゴンキラーなどと囃し立てられ、気付いたときにはこの立場に祭り上げられておりました。
エティオ様はそんな私など足元にも及ばぬ剛の者でいらっしゃいますので、事の成り行きから考えるに、立場を変わっていただくことに反対する者などあろうはずがないと思われます。私もそうしていただけると、肩の荷をおろすことができて大変嬉しく思います」
「いえ、それについては、この場ではっきりとお断りさせていただきます。私はグランドマスターなどというものを担っていくだけの器ではありません。なにより今はまだ、自身の成長も含めて状況の変化についていけていないというのが本音でして、ついては先日お伝えしたこととも被る部分があるかも知れませんが、師匠である先代覇王オーランドの元で今一度修行しなおすまでは、責任ある地位に付くことはしたくありませんし、できないと考えております」
「なるほど、おっしゃることは至極ごもっとも。筋の通ったお話ですので、良く理解できます。ですので、こちらとしても大変残念ではありますが、こうなることもある程度、予想はしておりました。
しかしそうなりますと、エティオ様の今後のお立場としてこちらから提示できるものは、ひとつしかございません。それはランク外冒険者と呼ばれる、その肩書の保持者が絶えて久しい、特殊なものとなります」




