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ランク外冒険者がゆく  作者: 小馬鳥
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再訪のライラ

「エティオさん、こんにちは。と言っても、もう大分日も落ちてしまいましたが。午前中に一度お邪魔したんですけど、そのときはまだお休みのご様子でしたので出直してきました。このあとは何かご予定がありますか?」


 ライラにとっては再訪だそうだが、嫌な顔ひとつせず、むしろエティオの顔を見て満面の笑みを浮かべる。エティオは話を聞いて一瞬恐縮してしまったが、彼女の笑みはそうした懸念を吹き飛ばすのに十分な破壊力を持っていた。エティオは安心するとともになぜか嬉しくなり、人差し指で頬を掻きつつ謝罪ではなく感謝を告げる。


「ありがとう、ライラ。今日はこのあとの予定は何もないから、用事があるなら対応できるよ。」


 エティオにとっては何気ない感謝の一言のつもりだったが、ライラは目を見開く。


「はぅ! エティオさんが、エティオさんが、遂にデレた!!」


 その想定外の反応に、マアトに次いでライラまで奇行に走ったか、とエティオに思われてしまい、彼が先ほどまで感じていた嬉しさはどこかに飛んでいってしまうという残念な結果であったが、ライラはそれに気付く余裕を持っていなかった。彼女はしばし悶たあとで、エティオに取り乱したことを侘び、再訪した用件を告げる。


「グランドマスターから直々に、エティオさんをギルドまで丁重にお迎えするように、と言付かって参りました。もしお時間が許すのであれば、このままギルドまでご一緒にいらして頂けませんか? グランドマスターを含むお三方は、エティオさんのご都合にすべて合わせてくださるそうですので、今日お忙しいようであれば後日でも構わない、とのことでしたが」


「いや、さっきも言ったとおり問題ないよ。このまま一緒に向かおうか。少しだけ待っててもらえるかな?」


「はい、分かりました! 私のことはお気になさらず、どうぞごゆっくりとお支度なさってください」


 壊れたものも含めて武器をしまい、その足で浴場に向かって、鍛錬でかいた汗をさっと手桶に汲み置いたお湯で洗い流す。ライラを待たせては悪いと急ぎタオル代わりの大きな手拭いで大雑把に拭き、クローゼットから一張羅を取り出してくる。ひととおり身支度を終えたエティオは、ふと起き抜けの一幕を思い出し、何を思ったか乾ききらぬ前髪を無造作に右から左へとかき上げて、いつもは隠すようにしていた目元をあらわにした。エティオにしてみれば当然違和感はあったが、マアトから褒められたのが印象に残っていたので、別に自分が思うほどに変なことではないだろうと考えて、そのまま玄関へと足早に向かっていった。


(エティオ、ダメです! ものすごく格好良くてとにかく最高ですが、でもダメです! 今そのまま出ていってしまったら…)


 マアトが何か言いかけたタイミングで、ちょうどライラが開きっぱなしにしていた玄関から中を覗き込んできた。


「エティオさん、いかがですか…って、きゃ~! エティオさん、その、その髪型は!! あぅぅ、死ねる……」


 そう言い残し、ライラは遠くへと旅立って行ってしまった。


(やはり不幸な犠牲を出してしまいましたね…エティオも重い十字架を背負って生きていくことになってしまいましたが、今後はこの教訓を活かして、くれぐれも自重という言葉の意味を理解してくださるといいのですが)


(いや、ライラは死んでないから! え、そうだよね? 死んでないよね? そもそもたかが前髪ひとつで大げさな!!)


(は~、エティオ。無知は罪なり、ですよ。あなたはまず、自分の魅力を知らなければなりませんね。)


「はっっ、危うく萌え死ぬところでした! いつも受付で必ずセクハラしてくるキコーノさんに似た人が向こう岸で手招きしていなかったら、渡ってしまっていたかも知れません。

 エティオさん、そのお姿から溢れる魅力は限界突破しすぎて周囲を危険地帯にしてしまっています! 現に今、一人の美少女がその破壊力の前になすすべもなくやられてしまい、傷ものになってしまいました。その美少女は犯人さんに責任を取ってもらうので仕方ありませんが、もしそのままギルドにいらっしゃっては、街道沿いを含めた広範囲に被害を及ぼしかねません。犯人さんは大人だから、きちんと犯した罪を認めて、その責任を負わなければらならいんです。でもこのままでは責任が大きくなりすぎて、すべてに対して誠実な対応ができなくなってしまうので、早急に対処する必要があります。具体的に申し上げれば、大変、誠に、心の底から残念ではありますが、地域住民と私の将来のためにも、今ここで前髪をいつもどおり下ろしてください。」


「ライラ、近い、近いよ! そして突っ込みどころが多すぎて、今のオレの鈍った突っ込み力では対処しきれない! オーケー、少し落ち着こう。一息であんなにしゃべったから、酸欠気味になってしまってる。

 はい、息を吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。って、オレの近くで息を吸い続けない! 息を吐かないと、これ以上吸えないから! ほら、吐いて!!

 ああ、今度は過呼吸になりかけてる!!」


(この小娘、やりますね…一気呵成にまくし立てた会話の中に、さりげなくエティオの責任能力の判断と追求を混ぜ込んでくるとは。しかしエティオは騙せても、このワタシは騙せませんよ。よろしいでしょう。貴方を小娘と侮るのはやめ、好敵手(どらねこ)と認めましょう。そうやすやすとお魚を咥えて逃げられるとは思わないことです)


 あっという間のカオスであった。


 エティオは相応の時間をかけてライラの呼吸を落ち着かせ、ライラは強引にエティオの前髪を下ろさせ、そしてマアトは気持ちのうえで自らに靴を履かせ、すべてが落ち着いたところでようやくギルドへ向けて出発するのだった。

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