転生する世界
「神様、僕が転生する世界はどんなところでしょうか?」
「うむ、その世界はオルビスと呼ばれておる。お主たちの言葉で分かりやすく言うなれば、いわゆるテンプレ異世界じゃな。冒険者と呼ばれる者たちが活躍し、冒険者ギルドからのクエストを受けて生計を立てておる。街の外やダンジョンにおる魔物を倒しつつ、じゃ。
その世界を守護する神である、クタルムを崇める神殿や神像が建立されており、そこで暮らす者共に彼奴が守護を与えておるから、人であっても魔物を倒すことができるのじゃ。もちろん異種族も存在し、お主の憧れるエルフやケモ耳娘もおるぞい。科学は発達しておらぬ代わりに魔法があり、世界にはいたるところに絶えず魔力が漂っておる。種族同士の諍いなどがないとは言わんが、魔族という共通の敵を前に人類全体としては結束しておる。人類と魔族は勢力が均衡し、そのどちらも今のところはバランスの取れた国家運営がなされておる」
言うに事欠いてテンプレ異世界とは、と天秤は思ったが、その方が分かりやすいであろう。優しい配慮であったのだと、好意的に受け止める。
「お話を伺った限り、魔王や魔神の台頭による世界の危機といった方面でのテンプレはないんですね」
「そうじゃな、今のところそういった危機的な状況にはない。魔王は過去に勇者によって討伐されておる。儂は鬼ではなく、神じゃからな。転生させるにあたり、お主のような人生を歩んできた者をそのような場所に放り込むような所業はせんよ。残念じゃったかな?」
「いえ、すごく安心しました。無理せずできることをしっかり頑張るというのが、僕の人生のテーマでして」
また罵られたような気がするが、天秤は華麗にスルースキルを発動させ致命打を避けていく。
「それよりも気になっている、先ほどおっしゃっていた異能ですが、どういったものがもらえるんですか?」
「ちーと?ちーとはち~と分からぬが……ううむ、手強い。
さて、ちーととは異能のことじゃな?
うむ、どんな異能が与えられるかは神のみぞ知る、訳ではない。そうしたら儂の楽しみが減ってしまうではないか。平等をモットーとする儂は苦心して、儂にも結果が分からない仕組みを作ったのじゃ。この仕組みを異能くじと呼んでおるが、見た目は商店街の福引と言えば分かりやすいか。
ほれ、これじゃ。この中にいくつもの異能が込められており、出てきた異能をお主に授けてやろう。決して儂の楽しみのためにこうした仕組みを作ったわけではないということは、念を押しておくぞい」
そう言って、神様は異能くじと呼ぶ福引を出してきた。しかもいつの間にか福引を回す人に付き物の、係の人が着るような赤い法被を着ている。絶対に楽しみのために作っただろう、と天秤は突っ込みたくなったが、ぐっと堪えた。後付の理由がむしろそれを確たるもの感じさせている辺り、神様も隠すつもりはないと考えたのだ。
「異能って、当たり外れとかあるんですか?」
「異能と言うほどじゃ、すべて当たりに決まっておろう。何が出てくるかは分からぬが、いずれにせよお主にとって途轍もない力となるものじゃろうよ」
「そうですか。分かりました。ではサクッとお願いします」
「サクッと異能をくれと言われたのは、これまでではじめての経験じゃ。まあよい。ではサクッといくぞい」