ギルドスリートップとの出会い
てっきり二階の個室での事情聴取を想定していたエティオだったが、それと比べて格段に広く、ソファーの座り心地も良い応接室に文句などあろうはずもなく、待っている間に出された紅茶とクッキーに自身の空腹を認識させられ、下座で待たされている身分にも関わらず散々おかわりをお願いし、緊張どころかむしろ寛いでいるような感覚で待機できた。
エティオにとってのちょっとした食事時間は、ノックに続いて部屋に入ってきた三人組によって、後ろ髪を引かれつつ終了させられたのだった。
「しっつれ〜い、こちらエティオっちの待ってる応接室であってっかな〜?」
三人組の内、一番下っ端そうに見えるチャラチャラした男がかなり緩い空気で聞いてきた。しかしチャラ男っぽい割には、口調がかなり古いそれであるのはどうしてなのだろうか。
「はい、オレがエティオです。ええと、あなた方は?」
「こちらから名乗らん内に訪ねてしまい、失礼したの。申し訳ないの。我々は冒険者ギルドの責任者のようなものをやっておるの。さっきお主に失礼を働いたのが、遺憾ながら冒険者ギルドのグランドマスターであるルドルフ。ドラゴンキラーや風神などと呼ばれておるの。そしてワシがキースじゃの。鷹の目と呼ばれることもあるの。小人族なので子供のように見えるかもしれんが、成人しておるのでこのような喋り方でも気にせんでくれの」
こちらは自分でも言っていたとおり、見た目だけなら十歳くらいの男の子に見える、しかし喋り方はやたらと古めかしいのか、語尾の口癖が変なのか、とにかく優しそうな雰囲気を持った人が自己紹介をしてきた。
それにしても、あのチャラ男、まさかのグランドマスターだった! とエティオの衝撃が冷めやらぬ内に、最後の女性が自己紹介してくる。
「はじめまして、エティオさん。私はジョセフィーヌ、と申します。私などには不釣り合いな呼び名ですが、賢者、と呼ばれることもあります。ですが個人的にはこちらの呼び方はあまり好きではありませんので、どうぞジョセフィーヌ、とお呼び頂ければと思います。
ギルドにおいてはグランドマスターであるルドルフがその責を放り投げることが多く、その尻拭いばかりしていて雑務に追われる日々を送っておりますが、そろそろ家庭に入って引退を、と考えておりますのでもし良縁がありましたらぜひにもご紹介ください。
あ、もちろんエティオさんご自身でも大丈夫ですよ。私、エティオさんのような方は大変タイプであり、もしよろしければまずはお友達からでも……」
「ジョセフィーヌ、気持ちは分からんでもないが、落ち着いたらどうじゃの?今日はそういう話をしに来たんではなかろうの」
「はっ、そうでした。私ともあろうものが、つい取り乱しまして。大変失礼致しました」
一見美人で仕事ができそうな外見のジョセフィーヌも、これまでの流れを踏襲した見事なポンコツっぷり。ギルドのスリートップはものの見事にちぐはぐな印象を与え、これでギルドは大丈夫なのか、と密かにエティオは心配していた。
また彼は、マアトがジョセフィーヌに対し何やらブツブツと物騒なことを言い始めたのは、もはや当然のことのように受け流すことを決めていたのだった。
そんな疑念を表に出さないよう気を付けながら、エティオはキースの取りなしの一部を的確に捉え、話を前に進めるために自分からその火中の栗を拾いに行こうとする。
「えーと、キースさん、それでは今日のお三方のご来訪は、どういったご用件なんですか?」
「おお、そうじゃそうじゃ。すまんの、話が進まんで。
今日はお前さんのステータスマークについて、いくつか確認したいことがあってやって来たんじゃの。
まあ立ち話もなんじゃの。ひとまず全員、席について、腰を落ち着けて話し合おうかの」
「あ、それオレっちも聞きたかったんよ〜。だってオレっちのステータスマーク、00から9に変わっちってさ〜。
別に00に未練なんてないけど、オレより強いヤツがいるんなら、見てみたいって思うのは仕方ないっしょ〜」
「ええ、そうですね。ルドルフの最上位陥落は、ギルドとしても無視できない事案です。早急に事態の確認を、と思っていた矢先、変容したステータスマークを持つ冒険者の帰還と聞いて、スタンピードの後始末をひとまず棚上げし、こちらに参上した次第です」
キースへの質問に三者それぞれが答えてきたが、方向性は全員同じという点において少し安心したエティオは、ひとまずスタンピードの発生から南門での激戦、そしてバルザックによる拉致までを一息に話していった。
しかし牢の中でのマアトとの出会いから帰還までの間のでき事をつぶさに話してよいものか、と悩み、一旦間を取るように紅茶を口に運びつつ、マアトと相談してみた。
(マアト、正直に話すと面倒なことになりそうだと思うけど、どうだろう?)
(ええ、ワタシもエティオに同意します。荒唐無稽な話だと疑われるのはまだマシな方として、最悪エティオの次元魔法などの個人的に秘するべき内容まで踏み込まれてしまうのは得策ではありません。
ですので、ここは一部秘密の情報を暴露すると見せかけて、被害を最小化するのがいいのではないかと思います)
(具体的には、何をどこまで話す?)
(恐らくエティオがオーランドの弟子だという事実には、この三人ならば遠からず辿り着くでしょう。
であるならば、事前にこちらからそのカードをオープンし、ワタシや次元魔法の部分は触れないまま、長年の修行の成果として肉体活性の完全発動に至ったという事実までを開示するのが最上かと考えます。
拉致されたタイミングでたまたま完全発動に至ったのかという問いかけがあれば、危機的な状況でどうにか事態の打開を、と強く思い悩んだ末に殻を破れたでも伝えておけば、怪しまれても話の整合性に矛盾は見られないと思われます。
実際それに近いような状況ではありましたし、嘘は伝えていないので、ライラの持つ”看破”のようなスキルがあったとしても問題ないかと)
(なるほど、納得した。そうしよう)
マアトをすっかり信頼してきているエティオは、マアトの提案をそのまま採用した。マアトはその事実にとても気分を良くし、さらにエティオへの忠誠心を高めていたが、エティオはそのことにはまるで気付くことはなかった。
こうして密かに紅茶を口に含みながら方針を決め終えたエティオは、紅茶を下ろすと先ほど決めた内容に沿って三人に事の次第を伝え、三人はエティオがオーランドの弟子であったことに驚き、そして肉体活性の完全発動に成功したということに更に強く驚いていた。
そんな都合の良いタイミングで、とジョセフィーヌが引っかかるような素振りを見せたものの、そうでなければルドルフの首位陥落の説明がつかないとキースが助け舟を出し、エティオがバルザックの死体の提示と肉体活性の実演という譲歩を見せることで話し合いは円満に終わった。
なお肉体活性の完全発動成功という事件については、エティオの要請によりしばらくの間、秘匿されることになった。あまり目立ちたくないというのが本音だったが、諸々の事が済んだらまずはアルフレッドの領地に頭を下げに戻り、師匠にもしっかりと絞られたうえで再度覇王術の修練を願い出て、誰に憚ることなくしっかりとオーランドの弟子だという認可をもらったうえで、真の覇王術の使い手であることを認められたかったのだ。
またバルザックの死体は、その研究室から発見した魔法の収納袋(中)に入れてきたということにした。ダンジョンなどでの拾得物はその発見者に権利が認められる慣習であり、次元魔法などという大それたものを公表することに比べれば、希少とは言えまだいくらか現物のある魔法の収納袋(中)というものの方が、そのインパクトが少ないとマアトにアドバイスされたからだった。しかし異次元ポケットが使用できるエティオには宝の持ち腐れだったので、恩を売る意味でも有効かと考え、魔物の死体とあわせてギルドに払い下げることにしたのだった。




