意外な落とし穴
エティオは気付いていなかったが、ずっと心にのしかかっていた重しのような支えが取れ、さらにこれまで付き纏ってきた肉体不調が払拭されたからか、心身ともに伸び伸びとしており、いつのまにか冒険者エティオの仮面は外れてしまっていたのだった。マアトはその変化をとても好意的に捉えており、あえてエティオに伝えることはしなかった。
そうして長い道のりも和気藹々と越えて行き、エティオは拐われてしまった南門の前まで戻ってきたのだった。
「ふ〜、ようやく帰ってこられた。そして王都も無事だったようで安心したよ」
エティオは誰に言うともなく呟くと、南門から見える王都の景色がこれまでと変わりないことを認め、安堵の溜息をついた。そこには傷の目立つ、しかし未だ堅牢に王都をぐるっと取り囲むようにしてそびえ立つ防壁と、王都への不審者の出入りを阻まんとする南門が健在していた。
また門の前には二人一組の兵士が、往来の人々を検分するためにそれぞれ槍を携えて立っており、エティオはそのどちらともなく声をかけ、自身の帰還を知らせようとした。
「任務お疲れ様です。冒険者ギルド所属、レベル2のエティオ、魔族によって拉致されましたがその討伐に成功し、帰還しました」
そう言いつつ身分証として左手のステータスマークを兵士に見えるようにかざしたが、兵士の目が訝しんでいるように見える。
どうしたことかと思い、自分でも左手のマークを確認すると、そこには見覚えのある2という文様ではなく、丸の中に数字の8を横倒しにしたような見たことがないマークがありありと浮かんでいた。
「なんじゃこりゃ〜?!」
彼は素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
即座にマアトから補足が入る。
(エティオのステータスマークは、牢の中で目覚めたときからそうなっていましたよ。気付いていなかったようですが)
(え、そうなの? 全然気付いていなかった…
でもこれ、どういう意味? まったく見たことないんだけど。最上位を目指す00とも違うっぽいし、何なんだ?)
(さあ、それはワタシも分かりませんが、いずれにせよエティオが冒険者の中で最上位だということは、ほぼ間違いないかと。
隠れた実力者とかもいるとは思いますが、それでも今のエティオを超える存在がいるとは思えません)
「おい、貴様、怪しいな! マークも何やらおかしなものであるし、身元を改めるため詰め所まで来てもらおう!」
そんなやり取りをエティオが内心でしているなどとは露も考えず、兵士たちは怪しい存在であるエティオを詰め所へと連行しようとする。
エティオもステータスマーク改変の事情は飲み込めぬまま、しかし置かれている状況の不味さは理解したため、言われるがまま詰め所へと連れて行かれるのだった。
「は〜、帰ってすぐにまた捕まるのか。とことん高待遇だわ」
そう自身への皮肉を吐き捨てて。




